小鳥遊ホシノの先輩   作:燐檎あめ

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後日談①

 カイザーコーポレーション、そのトップである"プレジデント"は今、目の前で再生されている映像に頭を悩ませていた。

 

 

 その映像というのは──先日繰り広げられた、系列企業であるPMCとアビドス廃校対策委員会たちの戦闘時のLIVE映像であった。

 

 

 動画配信アプリによってキヴォトス全土に配信されたそれは、今もなお再生数を増やし続け……既に、十万再生を超えていた。

 

 動画に対するコメントを見てもカイザーに批判的なものばかり……削除依頼を出そうとしても、モモチューブの経営陣は此方の要望を全て無視しており取り付く島もなかった。

 

 それ故、本来であればアビドスの占領に失敗したとしても理事だけを切り捨てて火消しを図るつもりであったのだが……これだけ多くの人の目に止まってしまっては火消しどころか余計に不利益を被りかねない。

 

 

『……こうなってしまっては、理事の首だけでは足りないな……PMCそのものの独断専行として処理する他ないか』

 

 

 ……其れだけで丸く収まるとも思えないが、こうする他ない。思わぬ形での戦力の減衰に、プレジデントはその手に持っていたグラスを無意識のうちに砕いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──其れは困りますね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『──ッ!?』

 

 

 自分しかいないはずの一室……背後から響いた他者の声に、プレジデントは振り返りながら銃口を突き付ける。

 

 

「クックック……随分な驚きようですね」

 

『……貴様、何処から入った?』

 

 

 出入口は自分の座る目の前の扉しかない。後ろはキヴォトスを見渡せるように全面ガラス張りとなっているが……今いる場所は優に100階を超える高層ビルの最上階。

 

 窓からの侵入など到底不可能な場所に音もなく現れたゲマトリア──協力者であるはずの黒服に対して、彼は警戒心を抱いていた。

 

 対する黒服は銃口を突き付けられいながらも平然としており、それがプレジデントの神経を逆撫でる。

 

 

『答えないのならそれでも構わん。──今この場で、裏切り者であるお前を処分するだけだ』

 

「はて……裏切り者、ですか?」

 

 

 まるで"何を言っているのか理解が出来ない"とでも言いたげな様子を見せる黒服に向け、プレジデントは無言で引き金を引く。

 

 己の頬を掠める銃弾……しかし、当の黒服は意に介していなかった。

 

 

「ククッ……どうやら貴方方は、契約内容を履き違えているようですね」

 

『なに……?』

 

「まぁ、それなりに長い付き合いにもなりますし……忘れてしまっているのも無理はありません。……改めて、契約内容をおさらいしましょうか」

 

 

 黒服は一枚の書類を取り出すと、淡々と読み上げていく。

 

 

 

1.ゲマトリア所属、黒服(以後:乙)は、カイザーコーポレーション及びその系列企業(以後:甲)に対し、独自の技術及び情報の提供を行う。

 

2.甲は、乙が行う実験や研究、及びその準備に必要な資材等の提供を行う。

 

 

 

「内容としては至極単純なものです。……もうお分かりでしょう?」

 

「──私は貴方方に対して技術の提供を行うのみ。情報についても望まれぬ限り、態々こちらから懇切丁寧にお教えする義理など無いのです」

 

 

 いけしゃあしゃあと答える黒服に対して、プレジデントは苛立ちを覚える……が、反論することは出来ない。──何故ならばカイザーもまた、普段から同じような手法を取っているが故に。

 

 

『……』

 

「ご理解頂けたようで何よりです。……そういえば先程から裏切り者と仰られていましたが……一体なぜそう判断されたので?」

 

『……貴様の所に赴いたはずの小鳥遊ホシノがあの戦場に現れたからだ』

 

「……ふむ、おかしいですね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──小鳥遊ホシノさんは私の研究室には来ていませんよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──思案げに顎を擦りながら告げられた言葉に、プレジデントの脳裏に疑問符が生まれた。

 

 

『……嘘をつくな、PMCの職員が間違いなく送り届けたはずだ』

 

「嘘ではありません。……PMCの職員は護送の途中でそちらの理事殿に呼ばれ、踵を返したはずです」

 

 

 問い質そうとする度に、間髪入れずに返答が返ってくる。会話を続ければ続けるほど、こちら側の、と言うより理事とPMCの落ち度が目立ち始めたことにより……プレジデントはこれ以上墓穴を掘るまいと、話を強制的に切りあげた。

 

 

『はぁ……話は戻るが、PMCを切り捨てることを否とする理由はなんだ』

 

「理由は以前お伝えしたものと変わりません、貴方方にはそのままアビドスの砂漠で採掘作業を続けて欲しいのです」

 

『それはPMCである必要があるのか?』

 

「いいえ、有りません。……ですが、このような形で戦力が減るのは不本意なのでは?」

 

『……ならどうやって火消しをするつもりだ』

 

 

 迂遠な言い回しをする黒服に対して、再び苛立ちを覚え始めたプレジデントは問う。……こうしている間も、動画は再生され続けカイザーの信頼は落ちているのだから。

 

 

「そう難しいことではありません。──和解金とでも言って、アビドスに掛けられた借金を減額すれば良いのです」

 

「そうですね……一億ほどもあれば此度の保証としては十分でしょうか?彼女たちにとっては大金ですが、それでも未だ六億の借金が残りますし」

 

「後は……復興に協力するというのはアビドスの生徒が許諾しないでしょうから、代わりに資材を送っておけば良いでしょう」

 

『ふむ…………悪くない案だ。六億もあれば奴らはまだ完済することもないだろうからな』

 

 

 高々一億円、PMCの解体に比べれば何十、何百分の一の損失でしかなく、また資材を送ることでPMCの行動はカイザーの望む所ではなかったと世間にアピールすることも出来る。……そう判断したプレジデントは黒服の案を受け入れた。

 

 話は終わり、この場に居座る理由もなくなった黒服は……訪れた時同様に、音もなく姿を消した。

 

 

 ……備え付けられたセンサーを確認するが、自分以外の反応はない。

 

 

『……相変わらず、不気味な奴だ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 所変わって、カイザーコーポレーション本社から離れた路地裏。

 

 

「……終わったのか?」

 

「えぇ……助かりましたよ、リンさん。義手の調子も問題なさそうで何よりです」

 

 

 呼ばれて仕方なく来てみれば、いきなりプレジデントに会いに行くから転移させて欲しいなどと頼まれたリン。

 

 初めは転移先に入れ替え対象となる神秘を纏った何かがなければ無理だと断ろうとしたのだが……何時仕込んだのか、既に転移先に配置済みと言われた彼は、"……まぁ、義手の礼もあるしこの位はいいか"と黒服に協力していた──

 

 

 

「……で?どうだった?」

 

 

 

 ──というのは、表向きの理由であった。

 

 実際には、今回の事件を元に借金額を減らさせようと人知れずプレジデントを脅h……お願いしようとしていたリンを黒服が引止め、"自分が言った方が反感も買いづらいだろう"と実験に協力してもらう代わりに引き受けたというのが、ことの真相であった。

 

 

「正直、問答無用で撃たれた時は肝が冷えましたが……いえ、其れについては別にいいですね」

 

「借金については一億円ほど減額してきました。あまり下げすぎるとPMCの解体だけで終わってしまい、別の傘下企業を宛てがうだけに終わってしまいかねないと思ったので」

 

「その辺の裁量はお前に任せてたからな……十分だ、残り六億なら何とかなる」

 

 

 事前の計画通りにことが運んだことに対して、リンはにやりとほくそ笑む。一体彼を含むアビドス対策委員会が何を企んでいたのか……それは、数日前に遡る。

 

 

 

 

 

【まず、今回のカイザーとの戦闘についてはモモチューブを使ってキヴォトス中に配信する】

 

【理由は単純明快──キヴォトスの住人を味方につけるためだ】

 

【ホシノたちも理解していると思うが、カイザーは悪どい手口を使って他者を蹴落とし、搾取し、利益を上げ続けている。……アビドスだけじゃなく、その他大勢がこれまでの長い年月で被害を受けてきた】

 

【カイザーを憎む奴らは多いが、そういった声が聞こえてこないのは……奴らの手口が巧妙で、被害者たちは泣き寝入りする他なかったからだ】

 

【だが……もしも、カイザーの悪事が明るみに出るようなことがあれば?言い訳のしようも無いほど、誰の目から見ても明らかなほど明確な悪意と暴挙が晒されるような事になれば──】

 

 

【──声を上げることすら出来なかった人達は、カイザーの悪事を他者へと広めようと、自分も被害を受けたんだと声高々に叫ぶだろう】

 

 

【……分かってる。だけどカイザーをただ下すだけじゃ、理事を切り捨てるだけで終わる可能性が高い……最低でも、PMCそのものを切り捨てなくちゃいけないと判断してもらう必要がある】

 

【まぁ、PMCにはあえて残って貰うんだけどな。……理由?アビドスの負債を減らす為だけど】

 

【あと配信する理由としては──たとえ悪い奴らが攻めてくるようなことがあったとしても守ってくれる人達がいる場所ってことをアピールした方が、住民も安心して住めるだろ?カイザーっていう悪徳企業を退けることが出来る生徒たちがいるってのは、安全に生活したり、商いを行ったりする上で強力なアドバンテージになりうる】

 

【もしかしたら……配信を見て、アビドスに移住したいって人が現れるかもしれないしな】

 

 

 

 

 リンは当日のLIVE配信の際に送られてきたコメントに目を通していく。内容としては、予想通りと言うべきか初めの方のものは自分も過去にカイザーから被害を受けたと言うものが多い。

 

 そこから徐々に動画が拡散されていき……獣人や生徒たちからのカイザーに対する非難のコメントと、対策委員会に対する応援コメントが多数書き込まれる様になっていた。

 

 ……また中には、"不良に襲われそうになった時、この子に助けてもらった"等の、実際に過去ユメ達が手を差し伸べてきた人達の声もあった。

 

 

「……!」

 

 

 その最中、通知音とともに仕事用の端末に一通のメッセージが届いた。差出人は過去にカオナシとして仕事を請け負ったことのある相手であり……その内容に目を通した彼は、思わずと言った様子で口角を上げる。

 

 ただし……おかしくて笑ってしまうようなものという訳では無い。

 

 

「随分と機嫌が良さそうですね、何か良いことでも有りました?」

 

「あぁ……最っ高に嬉しくて有難いのがな」

 

「……皆にも教えてやりたいし、俺は帰るわ。実験の日取りはまた改めて連絡してくれ」

 

「えぇ、それではまた」

 

 

 黒服の言葉に対して無言で手を振りながら、リンはアビドスへと帰って行く。彼の握るスマホの画面には──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 "アビドスの生徒って凄いですね、自治区に住む人たちを守る為に大企業相手にも怯まず立ち向かって……生徒数少ないみたいだし、復興のお手伝いとか出来ないですかね?"

 

 

 ──というメッセージが、表示されていた。




>こうしている間も、動画は再生され続けカイザーの信頼は落ちているのだから

……元々信頼なんか無いだろとか言っちゃいけない



【カイザー戦協力者】
 名も無きカイザーの被害者たち

 リンが便利屋カオナシとして行動している際に縁を結んだ者たち。「カイザーの悪事を世間に晒すから協力して欲しい」と頼まれた彼らは、カオナシへの恩とカイザーに対するこれ迄の恨みもあり承諾。
 初めは動画を拡散しながら自分たちの被害も書き込んでいたのだが……気付けば、純粋にアビドスの生徒たちを応援していた。

 ……カイザーの被害を受けてもなお諦めぬ彼女らの姿に惹かれ、全員もれなく対策委員会のファンとなったと、後日カオナシ宛に連絡があったらしい。

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