また今後の予定等を後書きに記載していますので、お読みいただければと思います。
それでは本編へどうぞ。
ボランティアの方々の協力もあり、順調に復興作業が進んでいるある日のこと。
いつもの様に学校へと歩みを進めていたホシノは、向かう先に立つ人影──先輩である赤飛リンの存在に気がついた。
彼女は先行く先輩へと挨拶をしようとして……はたと気づく。──彼が、大きなキャリーバッグを引いていることに。
……キャリーバッグと言えば、主に何処かへ遠出する時によく使われるもののはず……しかし、先輩が何処かへ行くなんて一言も聞かされていないし、痛みを感じる頬が、目の前の光景は夢ではないと訴えてくる。
一体どこに行こうとしているのか……なぜ、一言も何も言わないのか。
──まさか、またアビドスから出ていこうとしているのか
……気づけば彼女は、リンに向けて駆け出していた。
「……ん?あぁ、ホシノか。おはy…………何で走ってきてるんだ?」
何か言っているようだが関係ない──もう二度と、その手を離さないと誓ったのだから。
ホシノはそのまま、彼との距離を詰めて行き──
「おいちょっと待っ──」
◇◇◇◇◇
ガララッ……
「おはよ……う?……???……どういう状況??」
部室の扉が開く音で、リンもしくはホシノが来たのだろうとユメたちは視線を向け……皆揃って頭の中が疑問符で埋め尽くされた。
扉を開けたのは予想通りの赤飛リンその人であった。ホシノも一緒に来たようでこれで全員揃った……のだが……
「……どうしてホシノ先輩はリン先輩にしがみついてるんですか?」
そう、アヤネの言葉の示すとおり……リンはホシノにしがみつかれた状態で登校してきたのだ。それもホシノは──真正面から、両手両足でしがみつくという徹底ぶりである。
幾ら小柄とはいえ、人一人分の体重を支えたままここまで来たのだろうか……もしかして、その状態で市街地を横切ってきたのか……?
……いや、最早語るまでもない。実際どうだったかは、彼の表情がありありと物語っていた。
「…………」
──完全なる無の表情。何も言うまい、何も考えまいと言わんばかりの無表情を貫く彼は………その実、耳が赤く染め上げられていた。
故に、彼女らは察する──"あ、そのままの状態でここまで来たんだな……"と
正直このまま放置しておいても良いのだが……やはりホシノがしがみついている理由は気になる彼女たちは、改めて問う。対するリンの返答はと言うと──
「……わからん」
(((いやか細っ)))
「んん゙っ…………すまん、俺にも心当たりがないんだ」
……彼が言うには、学校に向かっている途中でホシノが走ってきたかと思えば、急にしがみついてきたという。理由を問えども彼女はしがみつく力を強くするだけであり……無理に引き剥がすこともはばかられた為、止むを得ず見るからに絵面の酷い状態でここまで来たとの事であった。
嘘を言っているようにも見えないし、本当に心当たりがないのだろう。……ならば後は、もう一人の当事者であるホシノに訊ねるしかない。
「ホシノ、学校についたぞ」
「…………」
「おはよう、ホシノちゃん。……どうしてリンくんに抱きついてるの?」
「…………」
……無言の時間が続く。訊ねてもホシノはリンにしがみつきながら顔を埋めて口を開かず、もう今日一日はこのままで良いんじゃないかと──"パシャリ"……しれっと写真を撮りながらも諦めようとしたその時、ホシノが小さく呟いた。
──"キャリーバッグ"……と
ユメたちは一斉にリンを……厳密には、彼のすぐ側に置かれたモノへと目を向ける。視線の先にあるのは──銀色の大きなキャリーバッグ。
何故ホシノがこのような行動を取ったのかを即座に察したユメは、後輩へと問いかける。
「ねぇホシノちゃん……もしかして、リンくんがまた居なくなっちゃうと思ったの?」
「…………」
再びの無言。……しかし彼女らは、ホシノが小さく頷いたのを見逃さなかった。
つまり……つまりだ、彼女はキャリーバッグを引くリンの姿を目にし、"二年前と同じように、居なくなってしまうのでは"と考えてしまった結果、先輩が何処にも行ってしまわないようにと引き留めようとして今もなおしがみついているという事になる。
……理由はわかった。なら、今自分がすべき事は──
「ホシノ」
リンは後輩の頭を優しく、なだめるように撫でながら言葉を紡いでいく。
「……二年前、俺は"俺が居なくなっても二人なら大丈夫"だって考えてた」
「黒服との契約で借金を減らして、ビナーの事もこっちで何とかする。全ては二人に幸せになって欲しかったから……真っ当な学園生活を少しでも長く送って欲しかったから──」
──その為なら、俺の全てを捧げてもいいと思ってた。
「本当に馬鹿なことをしたよ、過去に戻ることが出来るなら助走つけて顔面蹴っ飛ばしてやりたいくらいに、二年前の俺の選択は最低で無責任だった。──その行動の結果、二人がどう思うかを一切考えていなかった」
「…………」
ホシノのしがみつく力が強まる。言い訳のしようのない純然たる事実に、過去の己の軽率な行動故に二人を傷つけてしまったという事実に対してリンは最早何度目かも分からぬ罪悪感と後悔を抱くが……だからこそ、伝えねばならないことがある。
「だけど俺は、二人に辛い思いをさせたい訳じゃないんだ。……だから俺は、もう身勝手な選択で自分を犠牲にしようだなんて考えない」
「神様に……いや、二人に誓って約束する。──俺はもう、二人に黙って消えたりはしない」
伝えるべき事は伝えた。リンはホシノの答えを聞くために口を閉じ……幾度目かの無言の時間が続く。
……一体どれだけの時が経っただろうか。一分、一時間?……もしかすると、彼が話している時には既にかもしれない。
気付けば、ホシノは先程までしがみついていた足を解いていた。……それでも、両腕で先輩を抱き締める事だけは辞めなかった。
胸元に顔を埋めながら、彼女はポツリと呟くように……しかしはっきりと言の葉を紡ぐ。
「先輩……今度は、約束破らないでくださいね」
「もちろん。……ホシノも、一人で抱え込んだりするなよ?」
「先輩には言われたくない……って思いましたけど、よくよく考えたら私も人のこと言えないですね」
自分の過去の行いを思い出して、二人は苦笑する。
一人で悩みを抱えこみ、行動に移してしまった者と、行動に移そうとして止められた二人は心に誓う。
もう二度と、一人で悩みを抱え込んだりしない……困ったら皆に頼ろう、打ち明けよう──"大切な人たちを不安にさせない為に"……と。
◇◇◇◇◇
「ねぇねぇリンくん、キャリーバッグの中には結局何が入ってたの?」
誤解が解けたことで、話題はリンが学校に持ってきたキャリーバッグへと移る。
厳重に鍵の掛けられたジュラルミン製のそれは、明らかに日用品が入っているとは思えないような重みがあった。
特に隠すようなものでもない為、中身について教えようとしたその時──"ピンポーン"と、校門に備え付けられたインターホンからの呼出音が響く。
「……ん、そういえば今日はカイザーの元締企業が来るって言ってたっけ」
「はい、カイザーコーポレーションの方ですね。確か先日のPMCの不祥事による損害の補填の為に物資を届けに来るとか……」
「後は借金に関する契約内容が大幅に変更されたとかで、いつもの銀行員も来るって言ってたね〜。先輩の策が見事に嵌ったって訳だねぇ」
「良くもまぁ悪いのはあの理事だけで、自分たちは悪くないって態度取れるわよね!社員教育すらマトモに出来ないのかって言ってやりたいわよまったく!」
「あはは……気持ちは分かるけど、言っちゃダメだよセリカちゃん……」
"タイミング悪いなぁ"と悪態をつきながら、ぞろぞろと校門へと向かっていく彼女たちの後ろで一人だけ……"丁度いいタイミングだな"と呟く者が一人。
彼は──赤飛リンはキャリーバッグを引きながら、後輩たちに続いて外へと歩みを進めていった。
◇
『あ、どうも皆さんこんにちは……この度は当社の職員がご迷惑をお掛けしました』
『えっと……こ、こちら対策委員会及びアビドスの皆様へのお詫びとしてご用意させて頂きました、支援物資となります。その、復興に役立てて頂ければと思います』
終始ビクビクと怯えた様子の職員は……不幸にも、先の戦いの結末を目にしてしまっていた。故にその職員はこの場に訪れているという事実が何よりも恐ろしく……物資を下ろして更新後の契約書も渡した後、一刻も早くこの場を立ち去ろうと乗ってきた車に向けて踵を返す。
「──なんだ、プレジデントの奴は来てねぇのか」
『……ッ!?』
この場にいる誰よりも低い声音に、職員の肩が一際大きく跳ねる。恐る恐る振り返れば………そこには、一人の男が立っていた。
──言わずもがな、赤飛リンその人である。
キャリーバッグを引きながら近づく彼は、職員のあまりの怯えように思わず苦笑いを浮かべる。……しかし悲しいかな、彼らを恐れる職員にとっては鬼、もしくは悪魔の笑みにしか見えなかった。
怯えた様子に、これ以上引き止めるのも時間の無駄だなと、リンはさっさと要件を済ませる為に近づき──キャリーバッグにかけられたロックを外し、その中身を露わにする。
「「『なっ……!!?』」」
──瞬間、この場にいるリン以外の全員が驚愕のあまり目を見開いた。
その中には──金持ちでなければ思わず目が眩んでしまうような、無数の札束が所狭しと敷き詰められていた。
「締めて総額──6億1052万円」
『……ッ!?ま、まさかッ!?』
「……アビドスの借金は確か残り7億1052万円だったよな?……ただし、今回の減額一億円を踏まえると──」
「「「──残り、6億1052万円……!!」」」
「リ、リンくん!?まさか盗んだり…………は、する訳ないよね!どうやってこんな大金を用意したの!?」
「おー……今の流れってキャンセルされることあるんだ」
「感心してないで止めてくれよ先生……信頼されてるのは悪い気はしないけど……」
一体自分はアビドスに戻ってきてから何度肩を揺すられるのだろうか……ぐわんぐわんと肩をつかみ前後に揺する幼馴染を宥めると、リンは一つ一つ説明していく。
「……って言ってもそう難しいことはしてないんだけどな」
「やった事は至極単純、便利屋としての仕事とかで元手となる金を稼いで──その伝手を使って株や先物取引とかで膨らませてった」
「元手となる金を稼ぐのに一年掛かっちまったけど……幸いと言うべきか、ミレニアムにはそういうのが得意な奴がいたからな。教えて貰いながら何とか……って訳だ」
"本当に、あいつには頭が上がらん"としみじみと呟くリンから目を離し、ユメたちは再び彼が稼いだという現金の山へと目を向ける。
これを渡せば、アビドスの背負った多大な借金を完済することが出来る。それは大変に喜ばしいことであるし、先輩もまた返済に充てようとしているからこそこの場に持ってきたのだということも理解出来る。
……しかし、それでも……"本当にいいのだろうか?"と言う迷いが胸中に渦巻く。
このお金を稼いだのは彼であって、私たちじゃない。それなのに先輩に全額払ってもらうのは如何なものかと……真面目にアビドスの問題に向き合ってきた彼女たちが考えてしまうのは、仕方の無いことであった。
……思っていた反応と違ったことに対して、彼は困惑する。
「……どうした?……もしかして、また俺は何か間違えたか?」
「ん、そういう訳じゃない」
「ただ……私たちは何もしていないのに、支払いを全てリン先輩にお任せしてしまうのはどうかと思ってしまいまして……」
「…………んん?」
申し訳なさそうにする後輩たちの様子に、リンは心底"何を言っているのか分からない"と言いたげな様子で……なんなら、実際に言葉にしながら首を傾げる。
「何もしてないって、そんなわけないだろ」
「……でも、そのお金はリン先輩が全部稼いできたお金で……」
「………あぁ、そういう事を言っているのか」
彼女たちが何を理由に迷いを見せているのかを理解した彼は、困った様子で苦笑いを浮かべた後……幼馴染の、後輩の目を見ながらハッキリと告げる。
「別に負い目に感じる必要はないぞ。──俺はただ、アビドスの外に出稼ぎに行ってただけだからな」
「……いや、それh「そもそも」──」
「──みんなが毎月800万近くの利息分の支払いを絶えず続けてくれていたお陰で……アビドスを付け狙う奴らから守り続けてくれていたお陰で、俺は只管に稼ぐことに集中できたんだ」
「……逆に言えば、みんながいなければここまで貯めることはまず間違いなく出来なかった。それどころか、アビドスそのものがなくなってしまってた可能性もある」
「みんなが居たおかげで……ユメは間に合わせることは出来なかったけど、それでもホシノが卒業してしまう前には間に合わせることが出来た」
「先輩……」
「……それに、借金を完済してもまだまだ復興の為にやらなきゃいけない事はある。土地を買い戻したり、壊れた建物を直したりな」
「なら、さっさと借金なんて無くして毎月の面倒臭い利息の支払いともさっさとおさらばした方がいいだろ?……まぁ、あのおっさん達みたいに協力してくれる人がいる分、これ迄よりは大分楽になるだろうけどな」
……そこまで言われてしまっては、断ることなどできない。何よりも、断ってしまえば彼の二年間を……アビドスを離れてまで叶えようとした願いを否定することになってしまう。
「……ほんとうに、リンくんってばズルい言い方するよね〜」
「そうだねぇ……まぁリン先輩の日記読んだから、知ってはいたけどさ」
「………日記の話は出さないでくれ」
まだカオナシとして正体を隠していた時に目の前で内容を朗読された事を思い出してしまった彼は、羞恥により熱を帯び始めた顔を隠すように手で覆う。
そんな自分に対して両側からからかうようにつんつんと頬を突いてくる
「ぐっ……ぬぅ……は、話を戻すぞ!」
……程なくして耐えられなくなった彼は柏手を打ち、離脱。そのまま半ば蚊帳の外となっていたカイザーの職員へと近づくと、現金の入ったキャリーバッグごと押し付ける。
「兎に角……これで借金は完済出来るはずだ、不安なら確かめてくれ。……念の為に言っておくが──」
──誤魔化そうとしたら、どうなるかわかってるよな?
いつの間にやら肩に腕を組ませ、耳元で囁くように告げられた……然して確かな圧のある言葉に対し、職員は無言で只管にブンブンと頭を上下させる。
恐る恐る金額を確認していく職員……数えていくほど、顔色が悪くなっていく。
──どれだけ数え直しても、結果は変わらなかった。
『……ろ、6億1052万円……た、確かに頂戴致しました』
『こ、これによりお客様に掛けられておりました借金の完済を確認い、致しました。……長らくのご契約、あり、ありがとうございました……っ!』
震える足でキャリーバッグを引きながら、職員は車へ乗り込むと──猛スピードでこの場を後にする。……軈て車の影も見えなくなると──
「「「───ッ!!」」」
彼女らは、声にならない歓声をあげると共に──両腕を、天へと突き上げた。
◇◇◇◇◇
──今日この日を持って、長い年月に渡りアビドスを蝕み続けてきた多額の借金は消え失せた。
様々な感情が押し寄せ、抱きしめ合いながら思わず涙を流してしまう彼女たち。……ただし当然な事ながら、押し寄せる無数の感情の中に負の感情はほんの僅かすら混じってはいなかった。
まだまだ嘗てのアビドスを取り戻すには時間がかかるかもしれない……それでも、彼女たちの胸中には微塵の不安もありはしない。
何故ならば──
──
しがみつくホシノちゃん
⇒別名:ホシノゼミ
主な生息地はアビドス。初回発見時以降、時折彼女の先輩である赤飛リン、もしくは梔子ユメにしがみつく様が散見されるようになる。
どんな状態だったか……詳しくはウマゼミで検索
しがみつかれたリン
⇒終始心臓バックバク、ホシノちゃんにしっかりと聞かれてる。柏手を打てば拘束から脱することは出来た筈なのだが……彼はすっかり忘れていた。
借金の返済方法について
⇒何億という金額は、普通に働くだけでは到底返せるものでは無い。もちろん危険な実験に協力すればその分お金は稼げるし、金を稼ぐだけならその方法を選んでいたかもしれない。
……しかし彼には他にもう一つ、"ビナーを打破する"と言う同じくらい重要な目的があった。それ故にどうすべきかと悩んだ末に辿り着いたのが作中に書かれていた方法。
「対策…会議…?」の後書きで彼が株等を提案していたのは実際にこの方法で金を稼いでいたからという訳です。
教えてもらった相手は当然──"計算通り、完璧〜♪"なあの娘。
方法については、何れ彼女が属することになる組織の長であるリオとの関わりを過去編で持たせた時点で決定していました。
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これにて『小鳥遊ホシノの先輩』は一区切り、過去編含め全83話に及ぶアビドス編は完結となります。
初めのうちは何人かの感性に刺さればいいな〜位の気持ちで書き始めた当小説が、気付けばランキングに載ったり、3400名を超える方々がお気に入り登録をしてくださったり……始めた頃の自分は全くもって予想だにしていませんでした。
感想を貰えては喜び、評価が付いては一喜一憂し、ここすきでニヤニヤし……ここまで続けることが出来たのは、読んでくださる皆様が居てくれたからこそだと思っております。本当にありがとうございます。
改めまして読者の皆様方。ここまで読んで頂き、本当にありがとうございます。
今後とも何卒、『小鳥遊ホシノの先輩』をよろしくお願い致します。
P.S.今後の励みになりますので、感想や評価、ここすきお待ちしております。是非ここまで読んでくださった皆様方の感想を、心の声をお聞かせ頂ければと思います。
オリ主の容姿情報
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いる
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いるけど、活動報告とかでいいかな?
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いらない