「なるほどな……ゲーム開発部、か。知らねぇ部活……あぁいや、そういえばカオナシの奴が最近顔を出してるって聞いた覚えがあんな」
「……んで、今回はそいつらにしてやられたって事だな?」
「はい……申し訳ありません」
部長であるネルの問い掛けに対し、此度の依頼を受諾したアカネは謝罪でもって返答とする。
これまで、如何な形であれ依頼を完遂してきたメイド部の名に傷を付けてしまった事を悔いる彼女であったが……当のネルはさして気にした様子を見せず、それどころか"んなこたぁどうでもいい"とすら言ってのけた。
思わぬ返事に疑問符を浮かべるアカネたちは……続け様にネルの口から告げられた言葉に、更なる疑問符を浮かべる。
曰く──彼女が用事を終えてここに戻ってきた時に、ミレニアムの生徒会長"調月リオ"からこのような連絡があったのだという。
「──"依頼は撤回、無かったことに"だとよ」
「それは、いったいなぜ……?」
「あたしの知ったことかよ……けど多分、リオもヒマリも確かめてみたかったんじゃねぇのか?……あの、アリスとかいう奴の力をな」
「ま、その辺の事情は知ったこっちゃねえが……アカネ、ゲーム開発部と……そうだな、そいつらの関係者もまとめて調べておいてくれ」
「……?いきなり何故……リベンジ、ですか?」
「その表現はなんか癪だが……あいつの関わってるって奴らに、ちっとばかし興味があってな」
「……!ふふ、承知いたしました」
「……ああ?んだよその目は」
何処驚いたような表情を浮かべたあと、微笑ましいものを見るような目を向けて来る後輩に怪訝な顔をするネル。……そんな彼女へと、同じく3年生のコールサイン・
「えー?だって噂になってるよ?──"リーダーとカオナシがミレニアムの外郭にデートしに行ってた"って!……ヤキモチ妬いてるから調べようとしてるんじゃないの?」
「ちょっとアスナ先輩、その話は……!」
「……」
「………はぁ???」
◇◇◇◇◇
事実無根の噂話を聞かされたネルの脳内が疑問符に埋めつくされている頃……セミナーから奪取した鏡を用いて遂に念願の"G.Bible"を手に入れ、中身を確認したモモイたちの間には……
「「「………」」」
……まるでお通夜のような、どんよりと暗くじめっとした空気が漂っていた。
この中で唯一状況を把握しきれていないアリスは只々困惑するばかりであり……話し掛けても、返ってくるのは絶望に打ちひしがれた呪詛の言葉や嘆き声のみ。
……その時、ミレニアムの外郭から戻り、報告を終えたリンが部室へと訪れた。
「"G.Bible"のパスワードロックが解除できたって聞いたぞ。結果はどうだ、った……?……え、何この空気」
「あ、お兄様……それが、アリスにも理由がわからず……」
「G.Bibleが実は偽物だった……っていう訳じゃないんだよな?」
「はい、間違いなく本物です。アリスも一緒に確認しました。……G.Bibleも、決して
「そういう問題じゃないっ!!」
「「!?」」
急に声を荒らげるモモイに驚く二人を他所に、モモイは嘆き悲しみ叫び散らかす。
「いっその事嘘って言ってくれた方がまだマシ!」
「うああああんっ!終わった!私たちはもう廃部なんだぁ!!」
先日までの威勢は何処へやら……絶望に打ちひしがれているゲーム開発部に何があったのか、彼女たちは何を見たのか……時は、今から約二時間ほど前に遡る。
◇◇◇◇◇
「ハーイ!ゲーム開発部のちびっ子たち!マキちゃんからプレゼントのお届けだよ!」
"ジャジャーン!"と、モモイたちの目に映るようにマキが前へと差し出したゲームガールズアドバンスSPの画面には──"G.Bible.exe…実行準備完了"と、ハッキリと表示されていた。
これでようやく、かの伝説の神ゲーマニュアル"G.Bible"の中身を拝むことが出来る……ようやく、自分達も多くの人の心を突き動かす様な素晴らしいゲームが作れるのだと、モモイたちはキラキラと期待の籠った目を向ける。
「あ、それでね?G.Bibleのセキュリティソフトを取り除いてた時に、この──」
──"Key"
「……ってフォルダを見つけたの」
「何これ……ケイ、って読むのかな?」
「………ケイ?」
「"キー"でしょ!お姉ちゃんは本当に高校受験合格したの!?」
「……し、知ってたけどね!?わざと間違えただけだしっ!」
"わーぎゃー"と騒ぐ、双子のじゃれあいを微笑ましげに見るマキは……特に止めることもなく、"アリスちゃんと(ロッカーに隠れてる)ユズちゃんが聞いてるしいっか!"と、謎のファイルの説明を始めた。
「あははっ、モモとミドは仲良しだね!……それで話は戻るんだけど、実はこっちのファイルについては何一つ分からなくってさ。……私たちの知ってる機械語じゃ解読できない、信じられないような構成をしてる」
「「そうなの?」」
「お、戻ってきた。……G.Bibleの方はきちんと開けたけど、悔しいことにこっちはちょっと見ただけじゃ何も分からなかったの。この"Key"の事、何か知ってたりする?」
"Key"というファイルについて心当たりがあるかと問われるが、当然ながらあるはずもない。なにせ自分たちが廃墟でダウンロードをしたのは"G.Bible"だけで……そこまで考えたミドリの脳裏に過るのは──
──あなたはAL-1Sですか?
……廃墟で出会った、謎のコンピュータの存在。
「まさか、あの時の……?」
「その反応、なにか心当たりでもある感じかな?……ま、でもとりあえず今はG.Bibleの方でしょ。Keyについてはまた今度、時間があったら頑張って分析してみるよ」
「マキちゃん、ありがとね!」
「今度会う時は、秘書を通して連絡してね!なにせ私たちは、"TSC2"で大ヒットする予定だから!」
「あははっ、楽しみにしてるよ!」
"またね!"と、元気に手を振りながら帰っていくマキを見送ったモモイたちは、彼女の姿が見えなくなると改めてG.Bibleへと視線を集中させる。
……ついに、待ちに待った瞬間が訪れたのだ。
◇◇◇◇◇
殆どの人がその中身を知らない、伝説の神ゲーマニュアル──"G.Bible"。……最後に見たと噂される、とあるカリスマ開発者はこのような言葉を残している。
──ゲーム開発における秘技。みんなが知っているようで、誰も知らなかった奇跡
「私は、それが知りたい。──最高のゲームを作るために」
「そうだね。……それさえできれば、これからもみんなでこの場所にいられる。逆に言えば、それが出来なければユズちゃんは寮に戻らなくちゃいけなくなるし、アリスちゃんは……」
「……もしものことは考えたくないけど、その時はきっと、先生やカオナシが助けてくれるよ」
「……?先生やお兄様と一緒なのは、とっても嬉しいのですが……アリスはもうここに……みんなと一緒には、いられないのですか?」
「……っ!」
アリスの不安げに揺れる瞳を目にしたモモイは──"パァン!"と、思い切り自分の両頬を叩く。
……やる前からもしものことを考えてどうする、私たちはこれからもみんなで一緒にいるんだ、そのために苦労して"G.Bible"を手に入れたんだ!……と、胸のうちに渦巻く不安を振り払った。
「……大丈夫、"TSC2"もアリスにとっての神ゲーになるよ。……絶対に、神ゲーにしてみせる」
「さて、それじゃあ……始めよう、アリス!」
「はい。G.Bible……起動します!」
◇◇◇
G.Bibleの世界へようこそ。
最高のゲームとは何か……この質問に対して、世界中で様々な答えが検索され続けてきました。
作品性、人気、売上、素晴らしいストーリーや爽快感、鳥肌の立つ演出など。
そういったものが最高のゲームの"条件"として挙げられることは多いですが、それらは全て、あくまで"真理"の枝葉に過ぎません。
最高のゲームを作る秘訣、それはたった一つです。そしてこのG.Bibleには、その真理が秘められています。
最高のゲームを作るたった一つの真理、秘密の方法……それを、今こそ教えましょう。
──ゲームを愛しなさい
◇◇◇
「……ん???」
「……まさか、これで終わり……じゃ、ないよね?」
いやいや、まさかそんな……きっと、この後にゲーム開発における重要な秘技などを教えてくれるに違いないと、モモイたちは次に進めようとボタンを押した。
◇◇◇
あなたがこのボタンを押したということは、ファイルが壊れた、もしくは何か問題があったのか、何らかのエラーが生じたのでは……と、疑っている状況なのでしょう。
しかし、エラーではありません。
残念ですが、これが結論です。
◇◇◇
『──ゲームを愛しなさい!』
……と最後に表示された後、G.Bibleはうんともすんとも言わなくなってしまった。
……正真正銘、これで終わり。ゲーム開発部存続の最後の希望に記されていたのは、誰でも知っているような、ありきたりな一文のみ。
悪い夢でもなんでもない、これが現実……ゲーム開発部の最後の希望が絶たれた瞬間であった。
……その後、リンが部室に足を踏み入れたという訳である。
◇◇◇◇◇
「……なるほど、な」
唯一正気を保っていたアリスから事情を聞いたリンは……最早どうしようもない、ゲーム開発部はもう終わり、廃部なんだと嘆くモモイたちを横目に、ただ一言そう呟くだけであった。
「お兄様……アリスは、アリスたちはどうすれば良いのでしょう……」
「……どうすれば、か。……そうだなぁ──」
胸中に渦巻く、目を覚まし、初めて出来た仲間と……友と離れ離れになってしまうことに対する不安を包み隠さず問うてきたアリスに対する返答は、至極単純な、ともすれば答えにすらなっていないようなものであった。
「──アリスの思っていることを、そのまま真っ直ぐに伝えてやれば良いんじゃないか?」
「アリスの、思っていることを……?」
「ああ、そうだ。……隠したって良いことなんて何一つ無い、これは俺が過去の失敗から学んだことでな……アリスの抱いてる思いが邪なものじゃないんなら、真っ直ぐに伝えてやりな。……案外それだけで、事態は好転したりするもんだ」
「真っ直ぐに………ありがとうございます、お兄様。……アリスがなすべきことが今、はっきりと分かりました」
礼を言うと、今もなお嘆きと呪詛を吐き出すモモイたちの下へと真っ直ぐに向かっていく。……ため息を吐いていたミドリがアリスに気がついた。
「……ごめんね、アリスちゃん……私たちは、G.Bibleなしじゃ良いゲームは作れ「いいえ、否定します」な……え?」
食い気味に否定したアリスは、ぽかんとした表情を浮かべるモモイとミドリにお構いなしに……自分が目を覚ましてから初めて遊んだゲーム……"テイルズ・サガ・クロニクル"に抱いた思いを、包み隠すことなく伝えていく。
「アリスは、"テイルズ・サガ・クロニクル"をやるたびに思います。あのゲームは──」
──"面白いです"
「……っ」
「……感じられるのです」
モモイが、ミドリが、ユズが……このゲームをどれだけ愛しているのかが伝わってくる。たった三人、されど数え切れないほどのたくさんの想いが込められたあの世界で旅をすると、胸が高鳴るのだと……アリスは
「仲間と一緒に新しい世界を旅する、あの感覚は……夢を見るというのが、どういうことなのか……その感覚を、アリスに教えてくれました」
「だから、待望のエンディングに近づくほどに、あんなに苦しんだのに、思ってしまうのです」
──"この夢が、覚めなければいいのに"
「……と、アリスは、そう思うのです」
「「「
「……ってうわっ、ユズちゃん!?いつからそこに!?」
「えっと、"テイルズ・サガ・クロニクル"の話がはじまった時から……」
「最初からいたの!?」
気落ちしすぎていたのと、アリスの言葉に集中していたのとで全然気づかなかったと驚く双子に"ごめん……"と謝りながらも、すぐさまユズはアリスに向き直ると、言葉を返す。
──"作ろう"
……そうただ一言伝えた彼女の瞳からは先程までの陰鬱とした色はなりを潜め、真っ直ぐな決意だけが宿っていた。
「わたしの夢は……わたしが作ったゲームを、みんなに面白いって言ってもらうこと。……でも、わたしが初めて作った"テイルズ・サガ・クロニクル"のプロトタイプは、四桁以上の低評価コメントと、冷やかしだけで終わっちゃって……」
「それが辛くて、ゲーム開発部に引きこもってた時……モモイとミドリが来てくれた」
「……批判だらけだったのに、二人は面白かったって……一緒に作りたいって、言ってくれた。……完成させた"テイルズ・サガ・クロニクル"は、今年のクソゲーランキング一位を取っちゃったけど……」
「……その後、訪ねてきてくれたアリスちゃんが……三人で完成させた初めてのゲームを、面白かったって言ってくれた」
「心の通じ合う仲間たちと一緒にゲームを作って、それを面白いって言ってもらう……ずっと一人で思い描いているだけだった、そのまま消えて無くなってしまっていたかもしれない夢は、モモイ、ミドリ、アリスちゃん……三人のおかげで、叶ったの」
「……これ以上は欲張りかもしれない、だけどわたしは、叶うことならこの先も──」
──"この夢が終わること無く、ずっと、ずっと続いて欲しい"
「ユズちゃん……」
「……それに、まだアリスちゃんとはゲームを作れてないから……今度は四人で、もっと、もっといいものを作りたい。……だめ、かな?」
「「「
「アリス、ミレニアムプライスまでの残り時間は!?」
「後、6日と4時間38分です!」
「十分!よーし、ゲーム開発部一同!──"テイルズ・サガ・クロニクル2"の開発、始めよう!!!」
「「「
"G.Bibleなんか無くたって、私たちなら絶対に最高のゲームが作れる、否、作ってみせる!"……そう意気込む彼女たちの姿に、部屋の片隅で見守っていたリンは仮面の下で小さく笑みを浮かべ……"差し入れでも買ってきてやるか"……と、一人静かに部室を後にするのであった。
↓以下おまけ↓
「あのなぁ、あたしとカオナシはそういう浮ついた関係じゃねぇってことはお前らが一番良くわかってんだろ?」
「ふふっ……あまりネル先輩のそういった話は聞かないので、つい♪」
「でも、二人って結構仲いいよね!……リーダーはカオナシのことどう思ってるの?」
「私がC&Cに入ったときには知り合いみたいだったし……実は、私も少し気になってた」
後輩から向けられる、女子高生らしい好奇心に満ちた瞳にネルは辟易としながら……なんなら"めんどくせぇ"と実際に言葉にしながら頭をかく。
別に無視してこの場を立ち去っても良いが、それであることないこと噂されるのも鬱陶しい。……別にやましいことなどなにもないのだからと、彼女たちの問い掛けに仕方なくではあるが答えることに。
「あたしとあいつは、お前らも知っての通り……同僚、もしくは仕事仲間みてぇなもんだ。……後は、そうだな……」
少し悩んだ素振りを見せた後、ネルは獰猛な笑みを浮かべながら
「──あたしと接近戦でまともにやり合える、中々に骨のあるやつ。……いつか、本気のあいつと戦ってみてぇもんだ」
……そう告げる彼女の瞳は、まるで獲物を見定めた肉食獣のように、ギラギラとした輝きを放っていたのであった。
オリ主の容姿情報
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いる
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いるけど、活動報告とかでいいかな?
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いらない