カード学園サヴァイヴ ~カードで全てが決まるゲーム世界の学園で狂人で軍人のゲーム廃人は天使のために最強になる~ 作:哀原正十
「――風が、くる」
クゥが、無風の空を見上げて言った。
「風? 感じるのか?」
「ええ。いつも心と共にある。そして、今――私の心の中でその風が吹き始めた。呼応し脈動し始めた。だから、来る――!」
「――――」
息を呑む。クゥが来るといったら来る。他の思春期の少女が言ったらただの痛い台詞だがクゥだけは別だ。玄咲も真剣な顔で空を見上げる。クゥが口角を上げて横顔に微笑を作る。
「勝負に付き合ってくれたお礼に面白いものを見せてあげる」
エアガンを一番右の木――それよりさらに右へ。そしてクゥが。
「――久しぶりね。これを外すのは」
眼鏡を外した。
「ッ!?」
美少女オーラの乱風が吹き荒れた。煽りを受け玄咲はたじろぐ。眼鏡を外したクゥは超がつくほどの美少女だった。
(こ、これが、眼鏡を外したクゥ……ハァ、ハァ。ここまでとは……)
眼鏡を外したことで露わになったその目つきは、鋭い。鳥人族の目は平均して鋭く尖っている。だが、それ以上に纏うオーラが、クゥの顔つきが一変していた。クールな静謐さに満ちている。スナイパーの顔つきだ。眼鏡をかけたちょっとやぼったい銃オタクから緑風纏うクール系美少女に一瞬で変身を遂げていた。クゥの本質はどちらかといえばこの姿にある。眼鏡姿などギャップを生み出すための擬態だ。常時この姿だったら人気投票一桁は間違いなかった。
(何よりあのエメラルド色の瞳。眼鏡を外した途端凄まじい存在感だ。う、美しい……)
クゥのエメラルド色の瞳は少女特有の生真面目さにどこまでも澄んでいる。一吹きの風のような存在感。大空のように透明で、鳥のように鋭く気高い。どこまでもどこまでも上を見ている。その眼は遠くを見る視力がある。
何より風を見る力がある。
(か、可憐だ……や、やっぱ眼鏡外すとアルル並に可愛いなぁ……。あ、ああ、ずっと見ていたい……)
「――その」
「な、なんだ」
クゥは顔を背ける。やや頬を赤らめ、横目で、
「眼鏡を外した途端急にじろじろ見ないで欲しい。恥ずかしい……」
(っ!?)
萌えと羞恥が入り混じった複雑な感情が燃え上がる。衝動のままに玄咲はプライド・シャウト。
「み、見てないっ!!! お、俺は、そんな軟派な屑じゃないっ!!!」
「……そうかな。凄く女の子が好きそうな顔に見えるけど」
「うっ! な、なんで初対面の君まで…………? 俺はそんなに助平そうな顔をしているのか……?」
「……というか、女の子だけが生き甲斐って感じの、依存系のダメ男に見える。半分男版メンヘラ、みたいな」
「……」
思い当たるところが多いから反論できない。
「っと、それより来るよ――風が!」
「ッ!」
クゥのその言葉を気に空気が変わる。シリアスな空気に玄咲も乗っかる。不敵に笑ってエアガンを構えるクゥ。その笑みにちょっと見惚れながらも、努めて作った真剣な顔で待つこと数十秒。思ったよりも少し長い間が流れ、玄咲があれ? とクゥの能力に疑問と気まずさを覚え始めた頃――。
「――来たっ! ファイアッ!」
――クゥが、火花を散らすような閃光の集中力で弾丸を放った。ド真ん中の的、とはまるで逆方向の反対側に向けて。
「うっ!?」
それと同時。突風が吹いた。玄咲が思わず顔を腕で覆うほどの台風時見た突風。それにBB弾が吹き飛ばされる。宙でもみくちゃになり、無茶苦茶の軌道を描いて宙を走り、どこに飛ばされるのかと思いきや宙を高く飛んだあと、放物線を描いてド真ん中の的へと落ちて行き――。
「――ビンゴ」
ポスン。
ド真ん中の的の、さらにド真ん中にBB弾が着弾した。玄咲はポカン、とその地面に落ちたBB弾を見つめた。クゥがふふん、と得意気な表情をする。
「――凄い」
「ふふ、凄いでしょ。風の道を通せばね、こんなこともできる。もっとも鳥人族でもここまで風が読めるスナイパーは中々いないけどね。私の目は特別なの。私は
クゥがエメラルド色の瞳を指さし笑む。
「これが私の秘儀。鳥人でもこれだけ風を読めるスナイパーはそういないわ。ふふ、ただ負けただけじゃ悔しくて。ちょっと見せつけたくなったの」
舌を出しちょっと茶目っ気を披露してから眼鏡をつけなおすクゥ。その仕草にドキドキしたのは当然として、玄咲はクゥの台詞にも感じ入った。見せつけたくなった。それは玄咲の技に好意を抱いているからこそ出る台詞。心臓がくどい感じの恋愛感情抜きの純粋な喜びで熱くなる。
「なら。俺も」
だから、もう少しだけ技を披露することにした。いそいそとエアガンを構え、左端の木に狙いを付けて――。
クゥの真似をして、掛け声。
「――ファイア!」
パパパパパパパパパパパキュン!
――1秒にも満たぬ一瞬で10発放たれた弾の全てがそれぞれの的の中央に2回ずつ着弾。左から右に一発ずつ、そして右から左に1発ずつ。手を一瞬往復させる間に全ては終わった。悪魔的な絶技。クゥは数瞬沈黙。涙をポロリ、一粒落とす。
「……凄い。ビューティホー」
「凄いだろう。実戦で鍛えたんだ」
「ああ。銃型のAD持ってたもんね。私と同じで魔物相手に鍛えたのかな?」
「大体そんな感じだ」
さらっと玄咲は嘘をつく。
「なるほどね。それにしても――本当すごい。最初にも言ったけどさ、もう一度言うね。あなたは本当にすごいよ」
「鍛えれば誰でもできる曲芸だよ。君の方が凄い。あれは、神技だ」
「そんなことない。あなたの方こそ」
「いや、クゥ。君の方が」
――言いあってる内に段々良い雰囲気になっていく。銃撃の話題ならいくらでもできた。銃という共通項があったので案外すぐに打ち解けられた。話は弾み、段々とクゥが笑顔を浮かべる機会が多くなる。ドキドキしながら玄咲はクゥとの会話に夢中になる。そうしてある程度信頼関係が築けた頃、クゥが唐突に、
「ところでさ。ゲンサック」
「え」
「駄目? いいあだ名だと思ったんだけど」
クゥには名づけのセンスがない。飼い鳥にも発揮されるそのセンスを向けられた玄咲は即答で否定した。
「絶対嫌だ」
「そ、そう。じゃ、天之玄咲」
クゥが玄咲に下から覗き上げながら尋ねる。
「あなた、出会った時、何であんな落ち込んでたの?」