カード学園サヴァイヴ ~カードで全てが決まるゲーム世界の学園で狂人で軍人のゲーム廃人は天使のために最強になる~   作:哀原正十

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第12話 離れていても心は

「何であんな落ち込んでたの?」

 

「……落ち込んでない」

 

 玄咲は嘘をつく。

 

「落ち込んでた。凄く自分を責めてた。何で?」

 

 クゥが心底からの心配をその瞳に宿して玄咲を見つめる。その優しさに絆されて、玄咲は胸の内の不安をクゥに吐露する。

 

「……その、これは例えばの話だ。あくまで例えば。もしも。IF。この世界とは別の世界の話。そのつもりで、聞いてくれ」

 

「分かったわ」

 

 玄咲はシャルナとの間に起こった出来事を例え話として話した。トイレのくだりは、なんとなくシャルナの名誉のために濁しておいた。クゥは玄咲が濁した部分までもしっかり把握して頷いた。

 

「分かったわ」

 

「分かってくれるか。えっと、その男の子は、その女の子がいないととても不安定になるんだ。だから、ずっと一緒にいたいと思ってる。でも、少し依存しているところもあるんじゃないかと最近思い始めているんだ。女の子と偶然の事故で生き別れになって気づいてしまったんだよ。なんとなくだけどさ、今のままじゃズブズブと一緒にいてさ、一緒に駄目になってさ、レベルも上がらないんじゃないかなって思ってる。でも、一緒にいたいんだ。あまり抑えられる気もしないんだ。元々が大分精神不安定で頭のイカれた狂人なんだよその男の子は。でもさ、一緒にいたいんだ。でも、一緒にいてばかりじゃ駄目だと思ってる。だからもう、どうしたらいいのか分からないんだ……」

 

「なんだ。簡単な答えじゃない」

 

「え?」

 

 クゥが親指と中指で作った輪を唇に含む。

 

「――ハヤブサ丸ッ!」

 

 そして、吹きならした。

 

 ピィイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!

 

 バサバサ!

 

「ガァ」

 

 どこからか飛んできた鳥がクゥの肩に止まる。大型、鋭い目つき、尖った爪先、精悍な顔つきの隼だった。

 

「この子はハヤブサ丸。私の相棒よ。常につかず離れずの距離にいて指笛一つで飛んでくるの」

 

(知ってる。たまに顔アイコンの横に乗ってる奴だ。にしても隼だからハヤブサ丸……ちょっと安直だけど、まぁ双方満足してるし、いいのか)

 

 クゥの肩を掴んで誇らしげに胸を張るハヤブサ丸を見ていると玄咲はなんだかほっこりした気持ちになってきた。玄咲は基本動物好きだ。人間の20倍は好きだ。

 

「こうやってたまに呼ぶとき以外は放し飼いにしてて一緒にいる時間の方が少ないけどね、不安になったことはない。――離れていても心は一つだから。その男の子と女の子も、そんな関係を目指したらいいんじゃないかな?」

 

「!」

 

(離れていても心は一つ――!)

 

「もういいよ。ありがとね。ハヤブサ丸」

 

 玄咲はその言葉に感銘を受けた。手を振ってハヤブサ丸を見送るクゥ。

 

「でもさ、無理して距離を取らなくてもいいと思うよ」

 

「え?」

 

「だって、一緒にいられるって、奇跡なのよ。だから今をね、もっと大事にしてもいいと思う。好きなだけ一緒にいてもいいと思うよ。その男の子と、女の子も」

 

「そう、かな」

 

「ええ。要はさ、いざという時離れられる強さがあればいいんじゃない? 私はそう思うな」

 

 そう言って、玄咲に優しく微笑んでくれる。

 

「――」

 

 その言葉は凄くしっくりきた。納得と同時、体の深奥が熱く燃える感覚が来る。その感覚に導かれて確信を得る。それでいいと。

 

「――そうだな」

 

 玄咲も、少し優しく微笑んだ。

 

「ありがとう、クゥ。少し悩みが軽くなったよ」

 

「――」

 

「な、なんだ」

 

「君って、普通にしてると物凄く格好いいね」

 

「え?」

 

「それにあの銃撃の腕前――あなたとならどこまでも飛べそう」

 

 クゥが眼鏡に手を掛けて、そして外す。美少女オーラが吹き荒れ玄咲の心臓に来襲する。ドクンドクン脈打つ。

 

(ああ――クゥ、クゥ、頭がくらくらする……くらぁ……)

 

「ねぇ、天之玄咲」

 

 クゥが玄咲の肩を掴む。美少女の顔を近づける。シャルナを欠いて情緒不安定の玄咲はただただドキドキくらくらする。

 

「もしあなたさえよければ、私と――」

 

 クゥが玄咲の頬をそのしなやかな手で挟む。そして緑風が香るようなどこまでも純朴なエメラルド色の瞳で真っすぐ玄咲の黒い瞳を覗き込んで――。

 

 瞳を大きく見開き、硬直した。頬を挟む手がぶるりと震える。

 

「――クゥ?」

 

「――えっ? あ、その、ごめんなさい……」

 

 クゥがさっと玄咲から視線を逸らす。まるで照れているかのような仕草。だが、何か違和感がある。その正体に思考が辿り着く寸前――。

 

 タッタッタ。

 

「ん?」

 

 足音に思考が中断される。玄咲、そしてクゥも足音がした方向へと視線を向ける。足音が校舎の外周を抜け、校舎裏へとたどり着く。

 

 その白い人影を露わにする。

 

「――シャル?」

 

 シャルナが具合悪そうに腹を抑えながら走ってくる。ちょと俯いたその顔が呼びかけに反応したわけでもないだろうが玄咲の方を向く。

 

 シャルナがぎょっとした表情をする。それからすぐに、

 

 シュタタタタタタタタ!

 

 と、地球の陸上短距離走に参加したら間違いなくワールドレコードを大幅に塗り替えるであろう魔符士ならではの豪速で彼我の距離を一瞬で駆け抜け、玄咲の前でズサッと土煙を上げて停止し、そして膝に手をついて息を上げながら、

 

「ハァ、ハァ――玄咲、その女の人、誰?」

 

 そう尋ねた。

 

「シャル、意外と早かったな」

 

「う、うん。本当はもう少し粘りたかったんだけど、なんか急に戻らなくちゃいけない気がして、慌ててスカート履いて戻ってきた」

 

「そ、そうか」

 

(そこまでは聞いてないんだが……)

 

 動物みたいな直感だなと思いながら具体的な想像を頭の中から締め出す玄咲。その瞳が。

 

 シャルナの背後。校舎の曲がり角の陰から一瞬顔を覗かせて舌打ちした緑色の髪の人影を捉えた。

 

「――――」

 

「で、その女の人、誰?」

 

「ん? ああ。紹介しよう」

 

 頭の隅に強く先程の人影を縫いとどめながら玄咲は答えた。

 

「クゥだよ」

 

「クゥ?」

 

「うん。私の名前はクゥ・クロルウィン。よろしくね」

 

「あ、はい」

 

 クゥがさらっと進み出てシャルナの手を握る。握手。そしてジッと見る。

 

「なるほど。あなたが女の子……」

 

「「えっ」」

 

 玄咲とシャルナはハモった。前者の反応でクゥは失言に気付いた。

 

「あ! ううん! なんでもない! 私、何も気づいてないから安心して! トイレのこととか!」

 

「!? げ、玄咲、なに話したの!?」

 

「な、何も話していない! あくまで例え話をだな、というかその部分は伏せておいたのに何で……?」

 

「え、えーっと……邪魔しちゃ悪いからまた今度誘う! 待たね、天之玄咲!」

 

 クゥは誤魔化す様に笑いながら手を振って二人に背を向けた。木に貼りつけた弾と的を回収して後者の曲がり角の向こうに去っていく。立つ鳥跡を濁す。気まずい空気が置き土産。冷や汗を流す玄咲の隣でシャルナがポツリと、

 

「……また、美少女だ。私より、可愛い子ばっかりだ……」

 

「ん? シャル、今なんて」

 

「なんでもない。それよりさ……あの人と何話してたの?」

 

 無言無表情の威圧。誤魔化しが許されない雰囲気。だから玄咲は全て白状した。 

 

「……ああ、今話すよ。少し長くなるぞ」

 

 玄咲はクゥと出会ってからのことを、出会い際の狂乱のことだけ濁して全て語り伝えた。シャルナは玄咲が濁した部分までもしっかり把握して頷いた。

 

「なるほど。それで、親し気だったんだ。なるほど、なー」

 

「ああ。相談にも乗ってくれた。可愛くていい子だよ」

 

「ふーん……」

 

「それよりもさ、シャル」

 

「なに?」

 

「俺のところに、戻ってきてくれたんだな。俺はもしかしたら二度と戻ってこないんじゃないかって、ちょっと心配してたんだ……」

 

「――」

 

 シャルナはくすりと笑って、玄咲の隣に立つ。

 

「私の居場所は、ここ。他に行くところ、ないよ」

 

「……うん。ありがとう」

 

 暖かい気持ちが一気に胸に広がる。じんわりと涙さえ滲む。さっきまでは不安混じりだった幸せ。でも、今は違う。脳裏にクゥの言葉がよみがえる。

 

 ――離れていても心は一つ。その男の子と女の子も、そんな関係を目指したらいいんじゃないかな?

 

(そうだ。離れていても心が一つ。2人でそんな関係性を目指すんだ。シャルにもそう伝えよう)

 

「ん? あれ? それで、結局、何で最後」

 

「シャル」

 

 玄咲はシャルナに向かい合って、その瞳を真っすぐ見つめて告げた。

 

「俺たちは離れていても心は一つだ。そんな関係性を目指そう」

 

「――」

 

 シャルナはポーっと玄咲を見つめ返して、コクン、と頷いた。

 

「うん」

 

「よし。じゃ、これからバトルセンターへ向かおう。新しいADの試運転だ」

 

「うん!」

 

 玄咲はシャルナとバトルセンターへ向かう。その道中。

 

 

 天之玄咲 魂格53

 

 

 SDで己のレベルを確認した玄咲はやはり、と得心する。

 

(やっぱりレベルアップしていた。人間として成長したってことか。離れていても心は一つ。それでいいんだな)

 

「玄咲、何見てるの?」

 

「ああ、これだ」

 

「わ、すごい。レベル上がってる! 私のお陰?」

 

「クゥのお陰だよ。感謝しないとな」

 

「えっ? あ、うん……」

 

「でも、シャルがいなければその機会もなかった。だからやっぱりシャルのお陰でもあるかな」

 

「! う、うん! これからもよろしくね! 離れていても一つ、だね!」

 

「ああ。でもシャル」

 

「? なに」

 

「できる限り一緒にいよう。無理して離れる必要もない」

 

「――うん」

 

 シャルナはいつものように天使の笑みで頷いた。

 

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