カード学園サヴァイヴ ~カードで全てが決まるゲーム世界の学園で狂人で軍人のゲーム廃人は天使のために最強になる~   作:哀原正十

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第14話 ギミック

 ギミック。

 

 グルグルに言わせればAD固有のAD強化魔法。ADの個性の最たるもの。その試し打ちに、否が応でも玄咲のテンションは上がる。

 

「いくぞ! シャル!」

 

「きて! 玄咲!」

 

 遠くで手を振るシャルナにシュヴァルツ・ブリンガーを構える。ゲームでのパワーチャージの効果を思い出す。

 

(1ターンのチャージのあとに、次に使う魔法の威力を3倍にするゲームではシンプルながら強力だった、大空ライト君のお気に入りでもある王道のギミック。ゲームだと特定条件下で無限ループを起こせたが、まぁ、ゲームならではのバグだからこの世界では無理か。さて、この世界のパワーチャージはどんなものか……)

 

 そして引き金を引き、呪文を詠唱した。

 

「パワーチャージ」

 

 ADがスリットから光を放って唸りを上げる。さらに玄咲はスペルカードを詠唱。

 

「ダーク・アサルト・バレット」

 

 魔法が、発動しない。

 

 パワーチャージは呪文を詠唱後に初めて詠唱したスペル・カードの発動を、スペル・カードを再度詠唱するまで遅らせ、その時間に応じて威力を上昇させる呪文。要するにチャージショットだ。ADによってはその機構は差異があり、銃型ADの場合はチャージしている間引き金を引いていなければならない。威力の強化は無限ではなく、ADが内蔵している特殊なバッテリーカード――ギミックカードに充填された魔力が尽きるまで。ギミック・カードの魔力が尽きるとギン! と音が鳴る。また、残量はADの横についた小さなパーセンテージメーターで確認できる。メーターに100%満ちた魔力光が、0%まで減っていく。

 

 玄咲のADがギン! と音を立てた。

 

 玄咲が合図をする。

 

「撃つぞ」

 

 シャルナが答える。

 

「うん。きて」

 

 いくら疑似的かつ減衰化された痛みとはいえ、痛みは痛み。受けるにも心の準備があった方がいい。

 

(――躊躇うな。痛みには慣れた方がいい。俺も、シャルも。シャルが痛みを感じると俺も心が痛む。けど、戦闘指導に妥協はしない。最善だと思えば何だってする。シャルだって覚悟は決めている。だから)

 

 躊躇うことなく、玄咲は引き金にかけた指に力を籠める。

 

「ダーク・アサルト・バレット」

 

 トリガーを離すと同時、魔法を再詠唱。

 

 シュヴァルツ・ブリンガーが激しい闇色の光をスリットから放ち、その赤い目までも光らせる。

 

 銃口から、極太の黒い光条が解き放たれ、一直線にシャルナの心臓へと突き立った。

 

 シャルナは激しい痛みの中で、避ける間もなかったなと思った。

 

 

 

 

 

 HP 15%。

 

 SDを覗き込む二人の表情が強張る。

 

「殆どHP、消し飛んじゃった」

 

「う、うむ。見た目にも、凄い破壊力だったな」

 

「……いよいよ、魔法が、兵器って感じがしてきたね」

 

「そうだな。カード魔法は危ないんだ。普通に人を殺せる。さっきのだって幼子に当てれば即死だろう。だから国際法でADやカードは大きく機能・使用制限を受けているんだ。いや、俺も結構遊び感覚だったから今更実感が湧いてきてるんだが」

 

「う、うん。私も、ちょっと遊び感覚だった。そうか。兵器、でもあるんだよね……」

 

 シャルナがエンジェリック・ダガーをギュッと握り締めて、動かない。その先端を見つめている。玄咲にADを向けるのを、躊躇っている。シャルナの内心を珍しく正確に把握し、その優しさに愛おしさを覚えながら、しかし断固たる意志で玄咲は告げる。

 

「シャル、次は君の番だ」

 

「その、玄咲、大丈夫? 多分、かなり、痛いよ?」

 

「俺は拷問の訓練を受けている。この施設で受けたダメージで痛みだと認識したものは今のところ一度もない」

 

「よ、よかった。そう言ってもらえると、ちょっと罪悪感減る」

 

「罪悪感なんて感じなくていい。それに、嫌だと言っても俺はやらせる。シャルナのクリティカル・インパクトは取り扱いの難しいギミックだからな」

 

「そうなの」

 

「ああ」

 

 玄咲は脳裏にゲームでのクリティカル・インパクトの知識を展開する。

 

 クリティカル・インパクト――クリティカル発生時にのみダメージ倍率を5倍するピーキーな効果。クリティカル率の補正は一切かからない、どころかマイナス補正がかかる。プレイヤーが使う場合はセーブ&ロード必須のギミック。だが、ゲームでのシャルナ――アムネスの亡霊はその生い立ちに反して高すぎる幸運値で当たり前のようにクリティカルを連発しこのギミックを使いこなしていた。確定先制2回行動ほぼ確定クリティカル攻撃にクリティカル・インパクトを添えて、数多のプレイヤーを初撃で葬り去ってきた。ストーリー中での扱いは極めて取り扱いが難しく、中々使い手がいないというもの。だが、シャルナなら使いこなせるはずだ。知識以上にシャルナを信じる玄咲の直感がそう告げていた。さっきも当たり前のようにクリティカルを出してその片鱗を見せてくれた。だが、ゲームと現実は違う。いくら適性があるからといっていきなりは使いこなせないだろう。だからこそ。

 

「練習は絶対不可欠だ」

 

 断固たる意志で告げる。

 

「練習の内に完全に習熟して使いこなせるようになるんだ。前も言った通り、このバトルルーム内に変な遠慮はなしだ。強くなる。その一念だけあればいい。俺も完全に躊躇いを捨てされているわけではないが、少なくともそのつもりでいる」

 

「うん。そうだね。本当、戦闘に関しては玄咲、頼りになるね。その強さもだけど、何より心構えがさ、平時とは別人。格好いいよ。好――っごく」

 

「……そ、そうか。格好いいか。すっごく。ふ、ふふふ……」

 

 玄咲はちょっと嬉しくなった。少し張り切った。

 

「よし! こい! シャルナの攻撃を顔色一つ変えずに受けきってやろう! 安心して攻撃してこい!」

 

「うん! いくよ!」

 

 腕を広げてシャルナに告げる玄咲の前で、シャルナがエンジェリック・ダガーにカードをインサートする。

 

 そして呪文を詠唱する。

 

「クリティカル・インパクト」

 

 クリティカル・インパクト――呪文詠唱後、最初の魔法のクリティカル威力を激増させる呪文。ただしさらにクリティカルが出にくくなるというデメリット付きの、ハイリスクハイリターンな呪文。だが、シャルナなら使いこなせる。たまに感じる問答無用の確信の下、玄咲が選んだ呪文。そしてシャルナは玄咲のここぞの判断を疑わない。だから自分なら使いこなせると100%信じて。

 

「フュージョン・マジック――」

 

 さらに呪文を、重ね掛けする。

 

 

 

 

 

 

 SDにでかでかと文字が表示されている。

 

 WIN。

 

 LOSE。

 

 シャルナのSDが前者、玄咲のSDが後者。その文字が指し示す事実は一つ。

 

「――すごい、威力」

 

 シャルナの攻撃は一撃で玄咲のHPを刈り取ったということ。

 

(――一発目で、完全に使いこなしてた。あれ? シャルって、俺の想像以上の天才なんじゃ――うっ)

 

 ズキっと、胸に走った痛みから必死に意識を逸らす。ポーカーフェイス。されど、クリティカル・インパクトの性質上、一瞬に集約された痛みは、減衰されてなお玄咲に痛いと感じさせるだけのダメージを確かに与えていた。けど、ポーカーフェイス。拷問に比べたら生卵並に淡やかな痛み。シャルナの前で、玄咲は努めてポーカーフェイスを維持する。

 

「凄いな。よく分からないが、とにかく凄いってことだけは分かる。うん、凄い」

 

「ご、ごめんね。玄咲。痛かったよね?」

 

(ッ!?)

 

 ポーカーフェイス。

 

「全然痛くない。何でそんなことを聞くんだ」

 

「だって異常に、ポーカーフェイスを、保とうとしているんだもん。逆に不自然だよ……」

 

「……うん。ちょっと痛かった。ちょっとだけ」

 

 玄咲はポーカーフェイスを崩して萎れた。シャルナが玄咲の胸を手の平で擦る。甘やかな感触に玄咲のハートが一瞬で潤う。顔が熱くなる。

 

「な、ななな、なにをっ……!」

 

「え? だって、胸に当てたから、胸が痛いかなって。男だから、胸擦られても、何も感じないでしょ?」

 

「あ、当たり前だ。何も感じてなど――」

 

 バクン、バクン!

 

 玄咲の心臓はいつも正直だ。

 

「ご、ごめんなさい……」

 

 シャルナが顔を赤くしてさっと手を離す。気まずい空気が流れる。二人の間では割とよくあること。

 

「と、取り合えず訓練再開しようか?」

 

 シャルナのその言葉で、今日は汗で気まずい空気を洗い流すことにした。

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