カード学園サヴァイヴ ~カードで全てが決まるゲーム世界の学園で狂人で軍人のゲーム廃人は天使のために最強になる~   作:哀原正十

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第18話 楽園の追放者

「さっきの人、滅茶苦茶、強かったね」

 

「ああ。シュヴァルツ・ブリンガーじゃなければアルルの時みたいに負けていた。出力やスロット数の増加もだけど、やっぱりフュージョン・マジックの解禁は大きいな。戦いが別次元になる」

 

「そだね。やっぱり、フュージョン・マジックが、これからの戦いの、キーになるね」

 

「そうだな」

 

(……しかし)」

 

 玄咲は密かに思う。

 

(レベル差があって尚あれだけ食い下がられるか……やっぱり、大空ライトくんは魔符士としてのスペックはそこまで高い訳じゃないんだよな……)

 

 カードショップからの帰り道。2人は先ほどのバトルについて話合っていた。その最中、

 

「それにしてもさ、玄咲って、やっぱり、女好――ん?」

 

 ふと、シャルナが廊下の向こう側から現れた人物を見て玄咲に語り掛けた。

 

「わ、あの人、女の子みたいだね。男の制服着てなかったら、女の子と勘違いしてたかも」

 

「――」

 

「玄咲?」

 

「ん? あ、ああ、そうだな。女の子にしか見えないな。可愛いな」

 

 ――その生徒はエメラルド色の髪のどこか宗教染みた清廉さどの漂う美少年だった。男物の制服を着ている。にも関わらず、どう見ても女生徒にしか見えなかった。それも絶世のが付くレベルの、美少女にしか。ヒロインと見間違うほどの美貌。輝くようなエメラルド色の髪に包まれた小顔は、耽美系のそれ。乱れた制服がよく似合いそうな儚い雰囲気。男なのに、むしろその点こそが一部の男を引き付けてやまない。そんな容姿。骨格の違いでかろうじて男と分かるが、もう少し女に見せる努力をされたら、完全に女にしか見えなくなるだろう。そんな特徴的な容姿の男子生徒がまさかモブキャラであるはずがない。

 

 玄咲はその女にしか見えない男子生徒に目を奪われる。

 

「――玄咲」

 

「ん? なんだ、シャル」

 

「それは、ダメだよ。同性は、どう反応したらいいか、分かんないよ……」

 

「!? か、勘違いだ!」

 

 努めていつもの調子で、玄咲はシャルナに釈明する。横目で、チラリと、要警戒人物へと視線をやり、本当に女の子にしか見えないなと思った。

 

(射弦義カミナ。女装姿のカミナちゃんモードがカリスマ的人気を誇るキャラ。あのサンダージョーもとときめく程。違う。何思い出してるんだ俺は。さて、改めて思考をリセットして――)

 

 視界の端に不自然にならない程度に捉え続ける女顔の男。その麗しい外見の中身が作中トップクラスに得意で危険な精神構造をしていることを玄咲はよく知っている。

 

(サンダージョーの狂信者。その狂信ぶりは度を越している。たまにどこか危ない雰囲気になる程だ。サンダージョーが死んだ影響を一番受けたであろう存在。さて、何を仕掛けてくるかな……)

 

「また、見てる。やっぱ、顔が良ければ、それでいいんだ……」

 

「シャル」

 

「んー?」

 

「俺の傍に近寄って欲しい」

 

「――うん」

 

 シャルナがコクリと頷く。

 

「分かってる。私が一番、だよね」

 

「ああ。そうだ」

 

 戦闘モードが入り混じってる玄咲はちょっと生返事。

 

「……はっきり、言うね」

 

「ああ。……ん? ……事実だからな」

 

 自分の発言が結構踏み込んだものであることに遅れて気付く。だが、もう今更なのであまり気にしない方向性。シャルナが玄咲に身を寄せる。

 

「もう、本当に――」

 

 

 

 そして、射弦義カミナとシャルナがすれ違う。

 

 

 

「――攻めてくるね」

 

 轟音。首根っこを掴んで壁に叩きつけた後頭部が放射状の亀裂を産む。握り壊した手首の先に握られたものがポロリと落ちる。それを足で蹴飛ばす。シャルナが瞠目する。

 

 ナイフ。

 

 平穏な日常にあってはならないもの。楽園の異物。地獄の発端。一瞬で赤く染まった瞳で首を捩じり上げながらカミナを睨む。

 

()()シャルに手を出すな」

 

 赤い視界の中でカミナの瞳が恐怖に動いた。

 

 

 

 

 シャルナが、震える指で地面のナイフを指さす。

 

「えっ? えっ? どういう、こと? ――どういう、こと……」

 

 分かっているのに尋ねる。震える語尾が痛々しい。玄咲はギリ、と歯を噛み締め憎悪を握り込んで首をギリギリ締め上げながらカミナに尋ねる。

 

「おい、お前。何で俺たちを襲った」

 

「貴様らが、ジョーさんを、殺した背教者、だからだ……」

 

 憎悪の籠った瞳でカミナが言い返す。心が、全く折れていない。むしろ尚燃え上がっている。一番厄介な手合い。道理の通じぬ狂信者。玄咲は舌打ちをしてカミナを殴りつける。鼻は潰れるが鼻っ柱は健在。ちっ、と舌打ちする。拷問したい、が場所が悪い。シャルナの眼がある。そんな場所で拷問など――本質を曝け出すような真似などできようはずがない。どうするべきか。瞳に移る狂人を本当の意味で無力化する術を考える。

 

「おいお前ら! 何をしている!」

 

 横から、大人の声。見ると、だらしない顔つきの、しかし目だけは嫌な感じで鋭く尖った中年眼鏡の男性教師がいた。ダズモズ・ブルータス。1年F組――射弦義カミナの所属するクラスのエルロード信者の教師。クズ。玄咲は舌打ちする。ダズモズが地面に転がったナイフを見て戦き、禿げ気味の頭を赤らめプルプル震わせて怒鳴る。

 

「天之玄咲! 貴様だな! ナイフを持ち出したのは?」

 

「は、はい。そうです」

 

 カミナが苦しそうに顔をゆがめて、急に涙を頬に垂らし始める。

 

「お前、サンダージョーの縁者だろって、急に因縁漬けられて、ナイフを持ち出してぐごふっ!」

 

 あまりにも露骨な猿芝居。だが、ダズモズには効果覿面。ダズモズはカードケースからカードを取り出しながら、

 

「ちっ、その反抗的な目つき、態度、そして所業! ADで鎮圧を」

 

 

「動くな。殺すぞ」

 

 ピタっと、ダズモズが止まる。冷や汗を掻いて、玄咲に言う。

 

「な、なんの権限があって吾輩に命令するのかね? はっ、貴様、さては口八丁で時間を稼いでいるな! そうはさせん! 武装――」

 

「この距離なら俺が貴様を殺す方が早い」

 

 再度、動きが止まる。

 

「は、はったりだ! 10メートルもあるんだ! 私がカード魔法を発動する方が」

 

「試してみるか?」

 

 玄咲はいら立ち殺意を視線に混ぜる。

 

「殺されたいならそれでもいいぞ。うざいゴミが」

 

「……いや、私は教師だ。生徒に手は出さん。全く、なんて凶暴な生徒だ。付き合ってられん。だがな!」

 

 カミナをびしっと指さし、怒鳴る。大きな、大きな声で。

 

「カミナ君を解放したまえ! この、喧嘩でナイフを持ち出した卑怯者め! 魔符士の風上にも置けんクズが!」

 

 その声を聞きつけ、徐々に足音が近づいてくる。このままでは大事になる。そして、玄咲たちの肩を持つ人間はそういないだろう。その程度には基本嫌われている自覚はある。だからこそ、シャルナにはその事実に気付いてほしくなかった。玄咲だけでなくシャルナもそこそこ疎まれていると、知って欲しくなかった。だから、何も知らせないようにしてた。楽園の住人でいて欲しかったから。綺麗なものだけ見せたかった。シャルナのことが大好きだから。それなのに――。

 

 目の前の肉袋のせいで破綻した。玄咲はため息をつく。そして、やむなしとばかりにカミナを解放する。

 

 右手だけ。

 

「――やめろ」

 

 体術を齧っているだけあって察しのいいカミナが零す。玄咲は右拳を握る。左手で首を壊さんばかりの強さで握り締める。カミナがグェ、と鳴く。その腹に、殺さない程度の力を込めて――。

 

 思いっきり、右拳を突き刺した。ただの腹いせだ。それくらいしないと一度抜いた気が収まりそうになかった。

 

「ぐ、ぶ、ぶぅえ、おえ、えろ……」

 

 カミナの口から無理やり絞り出したかのような呻き。その喉をばっちり抑えられているためろくに声が出せない。

 

 そして、胃から逆流したものもまた喉で堰き止められ殆ど通らない。だが、液体は完全には堰き止められない。だからカミナの口からゲロと。

 

 噴水の縁からこぼれる水のように、血が小量零れ出る。玄咲の袖にかかりかける。その寸前で手を離す。カミナはその場に崩れ落ち血交混じりのゲロを思うさま吐いた。

 

「か、カミナくん! き、貴様なんてクズだ」

 

「黙れ」

 

 玄咲はダズモズを睨む。頭を押さえて、必死に怒りをこらえて。

 

「これでも抑えてんだよ。俺が爆発する前にさっさとそいつを連れて消えろ」

 

「――」

 

 ダズモズは生徒相手に完全にビビった。カミナを連れてそそくさと保健室の方向へ。集まりつつある生徒たちが玄咲たちを見て納得の視線を向ける。その視線を睨み跳ね返し、顔を背ける生徒たちの間を通って、シャルナの手を引きG組の教室へ向かう。今すぐ何もかも壊したかった。だが、玄咲は平和な世界で生きる平和主義者の人間なのだ。そんなことするわけにはいかなかった。

 

 人気のなくなったころ、シャルナが玄咲を唐突に抱き寄せた。頭を掴んで自分の方向へ。玄咲は慌ててその体を引き剥がそうとして、躊躇い、その隙にシャルナが、

 

「えい」

 

 玄咲の頭を抱き締め、撫でる。ばっちり当たっている。玄咲は眼を回して今度こそ離れた。

 

「しゃ、シャル!? い、いきなり、何を――」

 

 

「落ち着いた?」

 

 

 笑んで、シャルナが尋ねる。

 

「――」

 

 ばっちり落ち着いた。コクン。

 

「うん。眼、戻ったね。なら、いい」

 

「シャ、シャル、その……」

 

「私だって、気付いてるよ」

 

「――」

 

 なにに?

 

「色んな視線、向けられてること。いつも、玄咲が庇って、くれてること。さりげない、って自分では思いこんでること。――全部全部、気付いてるよ」

 

「えっ――?」

 

 嘘だ。

 

「本当。玄咲がね、私に、幸せな世界だけ見せたいって、思ってくれるのが、凄く嬉しいから、気付かないふり、してた。けど、もう限界だね。あんなこと、されちゃね……」

 

「っ! シャル、俺は、絶対君のことを守るから、何も怖がることなんか――っ!」

 

 

「怖がってなんかないよ」

 

 

「――」

 

 えっ。

 

「だって、玄咲がいつも、傍にいてくれるんだもん。それだけでね」

 

 シャルナが天使の笑みを浮かべる。

 

 

「私の心は、無敵になるの」

 

 

「――うん」

 

 玄咲はその笑みにただただ見惚れた。壊れた人形のように、頷く。

 

「だからね、平気。だけどね」

 

 シャルナが玄咲の手をギュッと握る。

 

「ずっと傍にいてね。あくまで、玄咲と一緒にいる間、だけだからね。それ以外の時は正直」

 

 ギュ。

 

「あっ!」

 

「なら、ずっと一緒にいる。ずっとずっと一緒に。俺からは絶対離れない」

 

「……うん」

 

 シャルナが玄咲の手を嬉しそうに握り返す。大事な宝物を扱うように、優しく、暖かく、ギュッと。腕まで手繰り寄せて。そしてすぐに、気恥ずかさからさっと離れて。手は、離さない。

 

「それで、心の問題は解決」

 

「心の問題は、か」

 

「うん。心の問題は」

 

「……まぁ、そうだな」

 

 シャルナも、薄々察しているようだった。これからの学園生活は今まで程平和にはならないと。

 

「でも、何が来ても乗り越えようね。一緒に」

 

「ああ。まずはカミナだ。あいつは絶対また仕掛けてくる。あいつの問題が解決するまでずっと一緒にいよう」

 

「うん。でもさ、この学校って、細かいこと気にしない、優しい人多いし、ここを乗り切ればまた平和に過ごせるよね」

 

「ああ。アルルとか、クゥとか、グルグルとか、コスモとか、クララ先生とかな」

 

「……」

 

「なんだ」

 

「いや、異論はないけど、見事に女の人の名前ばっかりだなーって。さっき、男の人とも友達になったのにさ」

 

「いや、それは、年季が違うからっていうか、なんというか」

 

「……まぁ、いいよ。一緒に、いてくれるならね。ところでさ」

 

「なんだ」

 

 

「私、玄咲のものだったんだね」

 

 

 冷や汗がぶわっと出る。あくせく言う。

 

「いや、その、勢いで」

 

「いいよ。それでも」

 

「――えっ!」

 

 シャルナが顔をぶわっと赤らめて、玄咲の手を引く。

 

「な、なんてね! 冗談、冗談! さ、急ごっか!」

 

 冗談ではない。玄咲ももうその程度の察しはつけられる。でも、あえてその言葉に乗って、

 

「冗、冗談だよな! そうだよな。うん。急ごうか!」

 

 いつもの調子にすっかり戻ってカードショップへと向かう2人。その道中。

 

 2人のSDが震える。ポケベル機能による生徒一斉配信の通知だ。何事かと視線をやると20文字以内でそこにはこう書かれていた。

 

 

 

 

【イベントケッテイキョウシツシュウゴウ】

 

 

 

 

「――玄咲。これって」

 

「ああ。ようやく始まるみたいだな。教室に向かおう。イベントがゲーム通りならありがたいんだが……」

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