カード学園サヴァイヴ ~カードで全てが決まるゲーム世界の学園で狂人で軍人のゲーム廃人は天使のために最強になる~   作:哀原正十

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第20話 しるけん

「……玄咲。私、何か、聞き間違えたかな? 今、死者って言葉が」

 

「間違えてないよ。この学校はこういう場所なんだ」

 

「……うん。知ってた」

 

 シャルナが俯く。他の生徒も暗い表情をしているものが多い。そんな中。

 

「し、死者ってどういうことですか? 答えてください! 僕たちには知る権利がある!」

 

 G組の最前列中央に坐する眼鏡をかけた男子生徒が半開きの本を机にうつ伏せに置いて挙手し、眼鏡をくいっ、と光らせながらクロウに叫び問いかけた。十代の叫び。

 

「今説明する。えっと……さっきも質問してきたお前、名前は」

 

独書薫(どくしょかおる)です。理由をお聞かせ願いたい。だって、僕たちには知る権利があるから」

 

 その内退学しそうだから名前は覚えなくていいかと思いながらクロウは答えた。

 

「バトルセンター外で1000人以上の魔符士が一所に集まってカードバトルをするんだ。そりゃ死者の一人や二人出るだろ。まぁ、このイベント一桁で死者収まったことないけど」

 

「ッ! 狂ってる! 僕たちには……生きる権利がある!」

 

「安心しろ。死にはしない」

 

「なんだ。それならいいんです」

 

 何だこいつ。クラス中からそんな視線を受けて薫が椅子に座り直す。そしてまた立ち上がり叫んだ。

 

「どういうことですか! 死ぬのか生きるのかはっきりしてください! 僕たちには……知る権利があるッ!!」

 

「黙れ知権」

 

「し、しるけんですと? くっ、僕たちには理不尽に抗う権利が」

 

「黙れ」

 

 クロウの本気の威圧。しるけんは黙った。そして二度と喋らなかった。

 

「ちゃんと説明する。俺にもお前たちの気持ちはわかる。何せ俺は在学中同年代で一番多く死んだ人間だからな。もはや慣れっ子だが初心(恨み)を忘れた日は一度もない。だから納得できるようにちゃんと言葉を尽くして説明する。安心してくれ」

 

 さらっと衝撃的な過去を告白しつつ、クロウは珍しく物凄く真面目な顔で生徒に向き合う。初心(恨み)を忘れないクロウの、かつての真面目な姿が一瞬垣間見える。女子生徒が何人も顔を赤くして、コクン、と頷いた。シャルナが玄咲に耳打ち。

 

「なんか、いつもと雰囲気違うね」

 

「クロウ教官は元々凄くバカ真面目な好青年だったんだよ。信じられないだろうがな」

 

「うん。信じられない」

 

「学園長にその性格に付け込まれたスパルタ指導を他の誰よりも強制的に受けさせられてから人が変わったんだ。強さと引き換えに人間性を失った。悪魔(学園長)の取引さ」

 

「なるほど、なー……」

 

「それでは説明する。はぁ、憂鬱だ……」

 

 クロウは常と異なり本当に憂鬱そうに語る。面倒、ではなく憂鬱、と表現する辺りに、本気の感情が感じられた。

 

「この前の決闘を見た奴は知っているだろう。婆さん、というか婆さんにしか召喚できない時戒神クロノスには死者を蘇らせる力がある。最大24時間まで時を巻き戻して、壊れたADやカード、そして人間までも復元してしまう。1睡眠につき一度しか使えない。だが、その効果範囲は広大で、死体さえ一ヵ所に集めれば1000人以上の生徒を纏めて蘇生することすらできる。その力を使って試験中に生じた死者を蘇らせるというだけの話だ」

 

「し、死体が見つからなかったらどうするのよ! 100%大丈夫だって言い切れるんですか!? もし、私に何かあったら、私のパパが黙ってないんだから!」

 

 一人の生徒がクロウに尋ねる。腰がでかい女だ。多くの生徒の疑問を代弁する質問だった。クロウは眉間を抑えて言った。

 

「えっと、残念満子」

 

「!? 財源蜜子(ざいげんみつこ)です!? セクハラで訴えますよ!?」

 

「す、すまん。それだけは勘弁してくれ」

 

「全く……それより、どうするんですか!? もし私の身に何かあったら金持ちのパパが黙ってませんよ! パパは私が密に頼めば何でも聞いてくれるんだから!」

 

「あ、ああ。今説明するから待ってろ」

 

 ゴホン。

 

「生徒の位置情報と生体情報はSDから中枢集積情報媒体STに常に送られている。死者が発生次第すぐに教師が死体を回収しに行く。今のところ、このイベントでの本当の意味での死傷者は0だ。だから安心してくれ」

 

 クロウは断言する。

 

「お前らは絶対に死なない」

 

 その言葉には生徒への確かな思いやりが詰まっていた。玄咲は思わず目頭を押さえた。思いやりに食らった。何人かの生徒が同じように目を拭ったり、ジーン……と頬を熱くしてクロウを見つめている。財源蜜子など「パパ……」と呟いてさえいる。

 

「ただな」

 

 そんな生徒の前でクロウは深々とうな垂れ、はぁー……とやたらと重々しいため息を吐いて、

 

「死ぬのは、すごく痛いです……」

 

 かつてない実感の籠った死ぬほど重い言葉を吐いた。生徒に敬語まで使っている。その異常が生徒を不安がらせる。さらにクロウは眼を手で覆って続ける。トラウマ発動。

 

「本当に、すごく痛かったのに、婆さんは何度も何度も俺を、俺を……! だから俺は現実逃避のためにパチンコ&スロットに打ち込んで気付けばこんな人間になってたんだ! よくも、よくも、全てはあの糞婆のせいなんだよ! クソ、糞、くそぉ……!」

 

「……」

 

 クロウはやっぱりクロウだなと、その場にいた全員が改めて思い直した。クロウがゴホンと咳払いをし、話を仕切り直す。

 

「……ま、でも本当に死ぬことはない。それ自体は凄く恵まれたことだ。安全に死線を潜れる。強さを求めるうえでこの上ない経験なのは間違いない。2度と経験したくないのも間違いないけどな――言葉を尽くしても不安を完全に拭うことはできないだろうがな。これだけは言わせてくれ」

 

 クロウはその顔に笑みを浮かべて、断言する。

 

「このイベントが終わったとき、お前たちは絶対に強くなっている」

 

 その言葉が、表情が、生徒たちの不安を完全に払拭しきることはなかった。しかし確かに、心を前向かせた。生徒たちの表情はいつの間にか大分明るいものになっていた。

 

(……意外といい先生だよな)

 

 しるけんの表情もまた、いつの間にか大分明るいものになっていた。

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