カード学園サヴァイヴ ~カードで全てが決まるゲーム世界の学園で狂人で軍人のゲーム廃人は天使のために最強になる~ 作:哀原正十
「今度はリーダー決めだ」
クロウが教壇に手をつき言い放つ。
「とはいっても、実はフラッグリーダーはもう決まっている。今年は特待生が務めることになった。こいつらが各クラスのフラッグリーダーだ」
クロウが黒板に特待生――学園長が直々に声をかけて集めた各クラスの最有力者の名前を書き込んでいく。
カキカキ。
A組 炎条司
B組 アルル・プレイアズ
C組 光ヶ崎リュート
D組 クゥ・クロルウィン
E組 コスモ・ミストレイン
F組 射弦義カミナ
黒板に名前が書きこまれるたび大小差異あるどよめきが生まれた。B・A・C・F・E・Dの順に騒がしかった。実力以上に、知名度がA~C、そしてF組の特待生はずば抜けていた。王女に七霊王家の2人、そしてあの雷丈家の系譜に名を連ねていた、新聞にも描かれた昨今の
(あんなに可愛い――じゃなかった。あんなに強いのに)
「ねぇねぇ、玄咲、みんな、この4日で、顔合わせたこと、ある人だね」
「ん? ああ、そう言えば。妙に縁あるな」
「みんな、個性が凄かった。やっぱり、強い魔符士って、変人が多いね。魂が、強烈な自我を、持ってるってことだもんね」
「そうだな。強い魔符士は変人が多い。学園長とか」
ついでに玄咲はクロウを顎で指す。
「クロウ教官とかな」
「それでこのクラスのリーダーだが」
クロウが重要な話をし始めたので黒板に視線を向ける。
G組 サンダージョー
「最初はこうなる予定だったんだ。けどほら、その、色々あったから……」
G組の生徒がチラチラと玄咲に視線を向ける。玄咲とサンダージョーの確執はこの教室のみならず学校の誰もが知るところ。その反応もごく自然なものと言えた。それはそれとして玄咲は滅茶苦茶気まずかった。クロウが咳払いして話を進める。
「だからこのクラスだけ特待生以外の生徒がリーダーを務めることになる。このクラスのリーダーは」
「俺しかいねぇな」
一人の男がガタっと立ち上がった。いかつい体躯。いかつい顔。その上に乗った黄土色のドリルリーゼント。昭和のヤンキー漫画に出てきそうな、濃ゆい画風の番長じみた男だった。グッと親指を立てて自分を指さし、肩目を瞑って自信満々のウィンクを見せて歯をキラリと光らせる。
「へっ、任せてくださいよセンセー。この横山中の鉄腕ドリルこと土竜さとしがばっちり務め上げて見せますよ。この髪型と同じようにリーダーを」
「おいお前。何で立ち上がった」
「え?」
「お前はお呼びじゃない。座ってろ」
「……はい」
土竜さとしがドリルリーゼントをしゅん……と萎れさせて着席する。ゲーム通りの馬鹿で玄咲は安心した。
「さて、改めて発表しよう。このクラスのリーダーは」
「はーい! 天之くんがいいと思いまーす!」
キララがにこにこと手を挙げて言う。玄咲は戸惑いつつもちょっと嬉しくなる。
「……キララ、あのな。いいと思うじゃなくて既に決まってるんだ。今発表しようとしていただろう。話の腰を折るんじゃない」
「ご、ごめんなさい~。つい、口から本音が出ちゃったんです。ごめんね天之くん。急に名前出してビックリしたよね? 許してくれる?」
「もちろんだよ」
玄咲は即答した。キララが嬉しそうに指を合わせて笑う。多くの男子生徒たちが癒される。玄咲も癒される。一部の女子生徒たちがキララを睨む。シャルナが玄咲を睨む。クロウは3者を交互に見て最後に玄咲を哀れな目で見た後、突っ込んだら面倒臭そうなので全てを無視して話を戻した。
「さて、今度こそ本当に発表しよう。このクラスのリーダーは」
G組 天之玄咲
「天之玄咲。お前だ」
クロウが黒板に名前を書き終えると同時、教室中の視線が玄咲に集中する。シャルナが机の下で玄咲にだけ見えるようにぱちぱち拍手するのを視界の端でしかと認識しながら、やっぱり、と思った。
(……まぁ、薄々こうなる気はしてた。流石に俺もこの状況で驚くほど鈍感じゃない。もしもゲーム通りならあいつがリーダだろうが――)
視線をチラッとある生徒に。ただ腕を組んでクールに沈黙している。悩む人のようにも見える。
(……噛みついてくるかと思ったら、何も言ってこないな)
「という訳でこのクラスの級長も天之玄咲に自動的に決定した。みんな拍手」
パン、ぱち、ぱち……。
(……酷い)
死ぬほどやる気のない拍手が玄咲を傷つけた。
「リーダーの指揮はこのイベント中は絶対となる。違反を繰り返すと個人に減点がつくからそのつもりでいてくれ。また、リーダーにはサブリーダーを選ぶ権利がある。サブリーダーには、リーダーに逆らえない以外はリーダーと同じ指揮権が付与される。また、自動的にこのクラスの副級長に就任する。さぁ天之玄咲。選べ。一つアドバイスしておくと自分に足りないものを補ってくれる相手を選ぶのがいいかな」
「……はい。分かりました」
少し予想外の展開だが、悪くはないと玄咲は思いなおす。信頼できない人間の指揮下に入るよりは自分が指揮する側に回った方がいい。特にこのG組は信頼できない人間だらけだから。玄咲は真剣にサブリーダーを考える。
(ゲームでは火撥狂夜が2番目に強いという適当な理由で土竜さとしを選んだ。もちろん俺にあんな馬鹿を選ぶつもりはない。となると――)
チラリ、とシャルナを見る。シャルナは超光速で手と首を横にブンブン振った。まぁガラじゃないよなとシャルナを候補から外し、クラス中を見渡し、玄咲はそれ程迷わずサブリーダーを決めた。
「じゃあ、死水綺羅々で」
「はぁ!?」
ガタン!
キララの席と、玄咲の隣から、同時に席を立つ音が聞こえた。玄咲はシャルナと顔を見合わせる。
(なぜ)
「……ぷいっ」
シャルナはわざわざ口で擬音を添えて顔を背けて着席する。可愛いなと玄咲は思った。キララがずかずかと頭の緩んだ玄咲に何個かの席にぶつかりながら肩を怒らせ近づいてくる。
「なんでキララちゃんを選ぶのよ! んな面倒くさい役割押し付けないでくれる!?」
「え、だって君、頭いいだろ? 俺は頭が悪いから、頭脳派の人間がサブリーダーに欲しいなと思ったんだ。それに魔符士としての実力も確かだし」
「絶対、それだけじゃない」
シャルナがボソッと呟く。
「そりゃキララちゃんは天才だけど!? このクラスで間違いなく一番頭いいけど!? ついでに言えば強いけど!? 加えてこのクラスで一番かわいいから選びたくなるのも無理ないけど!?」
「う、うん。だから君を選んだ」
「でも、私にメリットが――はっ!」
キララは教室を振り向く。あ、これがこいつの本性なんだ。そんな視線がキララに突き刺さっている。キララは焦る。
(ま、まずい。つい衝動的に素の口調で話してしまった。これじゃこのクラスの獣どもに悪印象を持たれてしまう。まだケミカルを使った懐柔が完璧じゃないってのに――あっ! そうだわ!)
「ねぇ、天之くん」
「な、なにかな」
キララは玄咲にすり寄る。そして耳元に口を近づけて、
「私をこのクラスの獣どもから守ってくれるなら、サブリーダーになってあげてもいいよ。私さ、このクラスの男の人、本当は怖いの。だからさ、天之くんに、守って欲しいな……」
「!」
キララの台詞に玄咲は胸を揺り動かされる。キララはケミカル作成の闇に呑まれてちょっとヤバいキャラになってしまっただけで、根はいい子。そもそもケミカルに手を出した切欠が人助け。そこからものすごい勢いで脱線したのはともかくとして、もともとは優しいけれど気弱な普通の女の子だった。もしかしたら今も強がってるだけで、その弱さが残っているのかもしれない。一瞬でそこまで妄想ブレンドの思考を深めた玄咲は、キララに絶対の意思を籠めて告げた。
「分かった。俺が守る。絶対にだ」
「――」
キララはその眼の純真さに呆気にとられる。それから、くすりと笑った。
「そう、それでいいの。ちゃんとキララちゃんを守ってね。天之くん。あとね」
「?」
「ありがと」
キララが笑う。それは、気のせいかもしれないが、玄咲には心の底から浮かべた笑みに見えた。キララに、見惚れた。
(よ、よし! 俺はキララを守るぞ! そうと決まれば早速だ! まずは一発、今俺にできる限りのことをしてキララを安心させるんだ!)
「その、級長として、リーダーとして、最初に言っておきたいことがある」
「え、天之くん?」
玄咲はゆらりと立ち上がり、そして。
殺意を籠めた眼光で360度を威嚇し、言い放った。
「絶対にキララに手を出すな。分かったな」
――数瞬の沈黙。それから、示し合わせたかのような首振りの連打。これでいい。玄咲は満足して席に座った。
「よし。一先ずこんなもんでいいだろう。キララ、これで……キララ?」
キララはまるで虚無の波動か何か受けたかのように真っ白になって口を半開きにして固まっていた。その異常な様子に戸惑う玄咲の耳に、
――あいつ、二人目に手を出したのか。
――やっぱあいつの女だったのか。
――前から仲良さげだったもんな、まぁ驚かねぇけどよ。
――ふーん、へーん、ほーん……はぁ……。
――キララは天之玄咲の女だった。あぁ、ショックだ……
「……」
声を抑えても漏れ聞こえてくる生徒たちのひそひそ話。玄咲は色々察した。色を取り戻したキララが涙目で玄咲に笑いかける。睨みつけたいところを必死に笑みの形に表情を固定しているため、潤んだ瞳を大きく見開いて口元を強く引き結んだ、今にも泣きだしそうなそんな表情になる。
「私、一つ、分かったことがある」
「……なんだ」
「あんた、すっげー馬鹿だ……」
「うん。知ってる……だから、君が欲し」
「馬鹿。馬鹿。馬鹿。馬鹿。馬鹿。馬鹿。すっげー馬鹿」
「!?」
背後から馬鹿のマシンガン。取り乱す玄咲の肩を掴んでシャルナが耳元に口を近づけ――。
「――私の、100倍、馬鹿。これは、ずっと、私がついて、これ以上、馬鹿しない、ように、監視しないと、ダメだね。私が、ずっとついててあげる。だから、玄咲も」
息を吹きかける。
「私から、絶対、離れちゃ、ダメだよ」
亡霊のように両肩をひしっと掴みながら。玄咲はなぜだか寒気を感じながらも、
「……うん」
こみ上げる嬉しさのままに頷いた。教室の誰もがどんなやり取りがあったのか察する。やっぱり、そんな視線がキララにまで注がれる。とうとうキララは虚ろな笑みから涙を一粒零した。
そんなこんなでキララがサブリーダーになった。