カード学園サヴァイヴ ~カードで全てが決まるゲーム世界の学園で狂人で軍人のゲーム廃人は天使のために最強になる~   作:哀原正十

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第22話 うんこドリル

「ぷいっ」

 

 キララが自席で玄咲から顔を背けて頬を膨らましている。相当な不興を買ったらしい。だが、その容姿の可愛さが微笑ましさしか生んでいない。だから、痴話喧嘩の一種程度にしか受け取られていない。キララも玄咲の威嚇の効果を見込んであえて誤解を解こうとはしない。

 

 ただ、実のところ、内心そこまで嫌がっていない。。

 

「よし。こんなもんだろう」

 

 クロウが黒板に巨大な地図を張り終えて生徒たちに向き直る。玄咲もシャルナも地図に目を向ける。シャルナはばっちりメモ帳まで開いている。そんなことをしている生徒は他にいない。

 

「次は舞台についての説明と作戦会議だ。黒板に張ったこの巨大な地図を使って、まず俺が地形の特徴と各クラスの初期位置の説明。それからリーダーとサブリーダー主導の下生徒同士で作戦会議。質問があるなら答えられることなら何でも答える。これが今日最後の議題だ。終わり次第解散して各自帰宅。ではこれから作戦会議を――」

 

 スッ……。

 

「……」

 

 一人の生徒が挙手した。クロウは嫌そうな顔をした。同時、玄咲も憂鬱そうな顔をした。今後の展開を予想したからだ。

 

「なんだ。質問があるなら答えられることなら何でも――」

 

 

「天之玄咲とカードバトルがしたい」

 

 

 クロウと玄咲が同時にうな垂れた。予想と1ミリも違わないプライドの高い狂夜らしい台詞。クロウは予め用意しておいた台詞を吐く。

 

「火撥狂夜。カードバトルで勝った方がリーダーにとか言うつもりなんだろうが、これは既に職員会議で決まって――」

 

「――ふん」

 

 狂夜が、クールに言い放つ。

 

「勘違いするな」

 

「!」

 

 玄咲は興奮した。勘違いするな。狂夜がちょっと主人公にデレるときのお決まりの台詞。そしてこの場合、デレる対象は――。

 

(……? 俺に、デレる? ……いや、ノーセンキューだ。男に好かれても何も嬉しくない)

 

 だが、すぐ冷静になった。男でなく美少女だったら興奮は持続していた。男なのですぐどうでもよくなった。突然冷静になった玄咲を訝しみつつ狂夜が口を開き、発しかけた言葉を、

 

 

 

「俺はただ――」

 

 

 ガタリ。

 

 

「リーダーを賭けたカードバトルか! 面白そうじゃねぇか! その話、俺も乗ったぜ!」

 

 

 新たに立ち上がった一人の男がナチュラルにドでかい声で遮る。教室中の視線、が狂夜の台詞をそのドでかい声で完全にかき消し立ち上がった一人の男へと集まる。いかつい体躯。いかつい顔。その上に乗った黄土色のドリルリーゼント。昭和のヤンキー漫画に出てきそうな、濃ゆい画風の番長じみた男だった。グッと親指を立てて自分を指さし、肩目を瞑って自信満々のウィンクを見せて歯をキラリと光らせる。

 

「へっ、俺もよぉ、戦いもせずあいつより格下だって決めつけられるのが癪だったんだよ。なにせ実際に戦ったら俺の方が強いに決まってるからなぁ! クロウセンセに義理立てて黙っておいてやったけどよ。他にも不満持ってるやつがいるってんなら話は別だぜ! あいつに番格張るカリスマが足りねぇってことだからなぁ。そんな奴にリーダーの資格なんてねぇよなぁ!」

 

「おい。お前。何を勘違いしている。俺はただ純粋に」

 

「分かってるって」

 

 さとしが親指を立ててウィンク。

 

「リーダーになりてぇんだろ? 俺と同じだァ」

 

 ピキ。

 

「……誰と、同じだと」

 

 すぅ。

 

 さとしが狂夜の言葉を聞きもせず息を吸い込み、玄咲を指さして廊下に響く程の大声で宣言した。

 

「天之玄咲ゥ! 俺とカードバトルしろやァ! チンコついてんならふにゃちんじゃねぇって証明してぇだろうが!? 男なら前も後ろも一本糞よォオオオオオオオオオオオ!!!」

 

 

 

 

 C組教室。

 

「男なら前も後ろも一本糞よォオオオオオオオオオオオ!!!」

 

「……」

 

 クララ、そしてリュート、アカネ、ユキ含むC組の生徒全員が廊下へ視線を向けた。滞りなくリュートがリーダーに、アカネがサブリーダーになった直後の出来事だった。

 

「……クロウくんは相変わらず苦労してるわね。あ、今の駄洒落じゃないわよ」

 

 ちょっと慌てて釈明するクララの姿に教室に笑いが満ちる。どこまでも朗らかで平和な日常のワンピースがそこには広がっていた。今の玄咲が見たら血の涙を流しそうな、かつて玄咲が切望した日常のワンピースが。

 

 

 

 

 

「一本糞よォオオオオオオオオオオオ!!!」

 

(うっ)

 

 玄咲は鼻をつまみたくなった。視界からさとしを消したくなった。シャルナの引きつって尚美しい顔を一瞬見て、気分を立て直す。

 

(糞下品で面倒臭い。そして俺が一番嫌いなタイプの漢と書いてオトコと呼ばせるノリの男だ。ちっ、最下位はサンダージョーで固定の人気投票ブービー賞争い常連は伊達じゃない。ゲーム中で牛のうんこと同じ色でドット画面ではうんこ状になる自慢のドリルリーゼントが着色されていることからうんこドリルの蔑称を戴いた男。ゴロゴロコミックのPTA中指系漫画【うんカスくん】にも客演出来そうなお下品さだ。ちっ、面倒臭いが相手してやるか。平和的に、平和的に解決するんだ。クララ先生みたいに……!)

 

 本当は殴って視界から今すぐ消したいところだが努めて玄咲は平和的な解決を試みる。その第一声が、

 

「その、うんこドリル」

 

 教室の空気を一瞬で今日最低温まで冷やした。

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