カード学園サヴァイヴ ~カードで全てが決まるゲーム世界の学園で狂人で軍人のゲーム廃人は天使のために最強になる~   作:哀原正十

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第23話 むにゅむにゅ大喧嘩

(……や、やっちまった。いつも心の中でうんこドリルって呼んでたから、つい口でもうんこドリルって言っちまった。やっちまった。やっちまったなぁって思わずキャラに反していいたくなるぐらいやっちまったなぁ……!)

 

 冷や汗をだらだら流して玄咲はシャルナを見る。何言ってるの玄咲!? シャルナもまた冷や汗をだらだら流して視線でそう語っていた。以心伝心のユーフォリア。本当にその通りだなと玄咲も思った。慌ててフォローに走る。玄咲が言葉を発した途端さっきまでの流暢がどこへやら便器の楕円みたいに大きく目を見開いて黙っている土竜さとしのドリルリーゼントを指さして、

 

「――みたいだよな。お前の髪型」

 

 あくまで冗談だったという体を装って、ちょっと笑って言う。本質的なコミュ障をここぞとばかりに発揮。最悪中の最悪を真っすぐ突き進む。添えた笑みが最悪の加虐(最後の一押し)並み居る障害物(平和的解決への可能性)を軒並み蹴散らす程の違法速度(フルスロットル)Dis。奈落の底へ逆走するかのような(バッドエンドに一直線の)神懸かりハンドリング。シャルナが顔を両手で覆う。もうだめだこりゃ。

 

「――」

 

 プッツ~~~ン。

 

 土竜さとしがキレた。

 

「てめっ、よくも俺の自慢のドリッ――」

 

 真っ赤に茹で上がった顔で玄咲に怒鳴り上げかけ、

 

「ぷっ」

 

 隣に立つ男――火鉢狂夜の笑い声を聞いて、ゆっくりと隣を振り向く。火鉢狂夜と顔を見合わせる。

 

「……」

 

「……」

 

「なんだ」

 

「お前今笑ったか?」

 

「ふん。そんな突っ込み待ちみたいな髪型と髪色と言動をしているのが悪い。正直初対面の時から笑いをこらえるのに必死だったぞ。俺が言った訳じゃないが言い得て妙だと思ったぞ。本当はこのクラスの全員が思っていたんじゃないのか? こいつの髪型が――」

 

 火鉢狂夜が土竜さとしのドリルリーゼントをビシィッ! と指さして、鋭い犬歯が尖り立つ口角を醜悪に歪める。

 

 

「うんこドリルみたいだってなぁ!」

 

 

「ぷっ――」

 

 

 教室中の視線が玄咲のいる方向へと集まる。

 

 正確にはその隣へと集まる。

 

 思わず意に反して動いてしまった口元を抑え、羞恥の余り身を丸くして涙目で机の陰に顔を隠すシャルナへと集まる。玄咲も絶望的な気持ちでその後頭部を見る。シャルナにそんな屁みたいな笑い声を漏らさせてしまった自分への絶望だ。

 

「……シャル」

 

「言わないでっ!」

 

「――ごめん」

 

「う、ううぅ……!」

 

 シャルナがひっくひっくと泣く。玄咲は放心して真っ白になって机によれもたれかかる。そして首を傾けて死んだように動かなくなった。クラスどころか学年全員が知る仲の2人のあまりにも浅く、そして深い絶望。その何と言ったらいいか分からない有様に、火撥狂夜は牙を抜かれた。

 

「……ふん。馬鹿々々しい。なんて無様さだ。席に座って正気に戻るのを待つと――」

 

「隙アリィッ!」

 

「ごげふぅっ!?」

 

 火撥狂夜の頬を鋭く野太いパンチが殴り抜ける。椅子を薙ぎ倒し百年の恋も冷める無様さで足をおっぴろげて床に倒れる狂夜。さとしが野太い腕から伸びる拳と平手をパンパン打ち鳴らして「へへっ」と笑う。

 

「へへっ、燃えたろ? 俺の拳はあちぃーぜ? “バイブス百点満点”だからよぉ!? オラァ! 喧嘩中に余所見してんじゃねぇぞこの産毛もケツ毛も赤いキャンキャンドッグがよォ!」

 

 キャンキャンドッグ――この世界でバナナモンキーよりちょっとだけ上等な、しかし雑魚なペットとして飼われることまである雑魚モンスターの名前を出して狂夜を、その種族を揶揄しつつ煽るさとし。近くにあった椅子を手に取り、その脚部を頭に打ち付ける形で追撃を加えようとする。いや、加えようとした。

 

 全身のばねを使って二の腕で体を跳ね上げ、片手一本地につけて体を駒のように回し足の付け根に巻き込むような角度で狂夜が延髄蹴りを叩き込み、そのまま丸太のような首に足を引っかけて、さとしの巨岩のようにいかつい巨体を軽々と教室の廊下側の壁まで吹っ飛ばす。机や椅子が何個も薙ぎ倒されて、人も吹っ飛ばされて悲鳴が上がり、教室をその巨体で無茶苦茶に荒らしながら壁にさとしが人間大のボールとして激突する。「げふっ」と悲鳴を上げて大開脚。そのドでかすぎる逸物を大サービスとばかりにズボンの前面にもっこりさせて全面を曝け出す。「うわ……」と驚愕と尊敬と嫌悪と羞恥と好奇がないまぜになった視線がその股間に注がれる。まるで大笠のキノコが人体から生えているかのような光景。さとしはすぐに起き上がりファイティングポーズ。中途半端に習ったボクシングの知識を活かして半身でリズミカルに跳ねながら拳を構えて狂夜に近づいていく。その背から、

 

「てめぇ、俺の“鉄腕ドリル”で“ミンチ”に――」

 

「ミンチになるのはてめーもだぁさとしぃ!!!」

 

「ぐ……うおお……!?」

 

 さとしに巻き込まれてケガを負った男子生徒が椅子の角で後頭部を強打する。ガギィン、と人体を打ったとは思えぬ音が響いた。殴った男子生徒の方が椅子を取り落として腕を抑える。

 

「な、何だこいつの体!? 岩みてぇに硬ぇぞ!? に、人間じゃねぇ……!」

 

「俺様が横山中の鉄腕ドリルだァ! 陳腐な攻撃は効かねぇゾォ! 野太いの一発持ってこォォイ!」

 

 ゴシャァッ。さとしの右ラリアットが男子生徒を吹き飛ばす。

 

「今度は貴様が隙アリだッ!」

 

 メメタァ! さとしが吹き飛ぶ。生徒が巻き込まれる。狂夜が不意打ちを交わして襲ってきた生徒を蹴り飛ばす。また生徒が巻き込まれる。G組の生徒が基本的に喧嘩っ早く血気盛んなこともありその内生徒同士の乱闘の輪は男女問わず広がっていき、あっという間に教室中が喧嘩の坩堝となった。それでも玄咲の傍だけ無風状態なのはサンダージョーの蹂躙の記憶が恐怖と共に殆どのG組の生徒の頭蓋に刻み込まれていたからだ。あいつだけはアンタッチャブル。互いの喧嘩に夢中になっている狂夜とさとしを除いて全ての生徒がその認識を共有して、飛び道具一つ飛ばさないように気を付けていた。

 

 クロウはあっという間に広がった大喧嘩を前に力なくうな垂れる。

 

「……どうしてこうなった。ああ、また糞婆に怒られるぅ……」

 

「キャー、先生可哀そー。ねぇ先生。可哀そうだね」

 

「ああ、俺は可哀そうなんだよ。糞婆に人生最大の大勝ち中にカードの回収もしないまま誘拐され、気付いたらこのクラスの教師に。そして毎年トラブルに巻き込まれている。ああ、パチンコ&スロット漬けの死体のような日々に戻りた――いや、死水綺羅々。お前は何でおれの後ろに隠れているんだ」

 

「安全地帯だから。だってぇ、怖いんだもんっ! さっきのいかつい大男も、血肉だけ食って育った狂犬みたいなあの歯の鋭い男の人も、怖いっ! このクラスで怖くない男子生徒天之くんだけだよぉ。なんで天之くん、意外とチョロ――温厚で優しくて()()()のにあんなに怖がられてるんだろうね?」

 

(……そういえばこいつ、あの日勉強に忙しかったとか言って遅刻してきたし、決闘も見に来てなかったな。そりゃ、普段のあいつだけ見てればそんな感想も抱くかな)

 

 今まで何人もの生徒のグロテスクな死体を見てきたクロウさえ血の気の引いた、あの日の天之玄咲の地獄を引き連れた悪魔のようなオーラと、かつて担任したこともあるパチンコ好きのヤンキー岩上若芽の死体と、サンダージョーの酸鼻で凄惨な生々しく脈動する赤白黒い血肉骨を久しぶりに思い出しながら、今更ちょっと引きながら、クロウは更に思考を進める。

 

(まぁ、優しいのはこいつが美少女だからってのが大きいだろうな。あいつ美少女大好きだから。でも天之玄咲。お前、チョロいって思われてるぞ。それでいいのか)

 

「ところでさぁ。クロウせんせ」

 

「なんだ」

 

「喧嘩、止めないの?」

 

「――そうだな。そろそろ止めるか。毎年恒例みたいなものだが、今年はいつもより酷い。血気盛ん過ぎる……」

 

「キャー! せんせー格好いいー! あのさ、あのさ、もし喧嘩止めてくれたらね」

 

 ケミカル。

 

「――なんだ」

 

 クロウの脳裏に過る。

 

「私特性のね――」

 

 ケミカルの味。

 

「ケミカルスターピンク味を売ってあげる」

 

 ピカピカと頭が弾ける、魔法を使わない魔法の液体。

 

「――」

 

 クロウの喉がゴクリとなる。

 

「キララ、それは」

 

 そしてキララに手を伸ばして――。

 

「教師を舐め過ぎだ」

 

 デコピン。

 

「あいたっ! なんで~?」

 

 うるうると星の入った瞳をわざとらしく潤ませてクロウを見上げるキララにため息とともに、

 

「くだらない工作ばっか考えてないでせっかくラグナロク学園に入学したんだから真っ当に魔符士として強くなれ。お前には才能があるんだから」

 

 そう告げる。

 

「――」

 

 キララは眼をパチクリさせたのち、ちょっと頬を膨らませて、

 

「……ちぇっ、はーい」

 

 しかし、素直に言葉を受け取る。クロウは少し笑んで頷いた。

 

「でも、ただならもらってやっても」

 

「あ、いいです」

 

「そうか、残念だ。さて、それじゃ止めるとするか。最悪実力行使も視野に入れて」

 

 まずは言葉でけん制。

 

「お前ら、やめ――」

 

「オラァ! 人間サッカーだぜ! ギャハハハハハ!」

 

「はぁ!? ワイの殺人釘バット打法で打ち返したるわ。猛虎魂見せたるわぁあああああああああああああああ!」

 

「なら俺は人間ギロチンだァ! プライア印の地獄の断頭台じゃいっ!」

 

「おいお前らやめろ。それはマジで死ぬ奴だからやめろ」

 

「ならこっちは人間飛行機(漫画で描かれる乗り物)だぜ! メーデー! メーデー! キィイイイイイイイイイイン!」」

 

「なら俺はお前を飛ばす人間発電所だ! 見晒せやオラァ! シコッシコッシコッシコッ!」

 

「……おいお前ら。やめろ。という何遊んでる。みっともないからやめろ」

 

「このアバズレがぁ! あたいあんたのこと前から髪引きずり回して裸で校内一周させたかったんだよ!」

 

「上等だァ! こっちこそお前を体育倉庫にG組の男子生徒1ダースセットで閉じ込めてやらァ!」

 

「へっ、加勢するぜ。体育倉庫でパーリナイだッ!」

 

「おいお前冷静に考えろ。満子とのパーリナイとジュンコの裸散歩、どっちが価値あると思う?」

 

「……」

 

「な、なによその眼は。3人は卑怯よ。やめて、やめてー!」

 

「やめろ、やめろって――」

 

「さとしィ! もうやめてくれェ!」

 

「はぁ、はぁ、熱いからズボン脱いだだけで騒ぐなよ……」

 

「お、おぉオエエエエエエエエぇエエエエエエエエええええええええ!」

 

「デカ過ぎんだろ……」

 

「……ポロリ、ポッ」

 

「おい、お前ら、本気で洒落にならなくなってきたからもうやめ――」

 

「ギャーッハッハッハァ! 俺はMCムーンライト・セレナーデ! 月光蝶伝説の体現者だァ! 月を見たら俺を思い出せェ! フフフ、フハハ、ハーッハッハッハァ! そのまま死ねェ!」

 

「な、なんだァあいつ!? クール系かと思いきや楽器ケースからギター取り出した途端テンションモンスターになったぞ!?」

 

「やめ、殴るなって、お前、それ楽器の使い方間違ってるって。ぶべっ!」

 

「キャー! MCムーンライト・セレナーデー! またライブ行くからねー! また絶対ライブ行くからねー! キャー!」

 

「センキュゥ!」

 

「――駄目だこりゃ。いつもの奴で手早く終わらせるか」

 

 クロウは色々と諦めてポケットに手を突っ込み、クロウだけに扱える専用カードを取り出した。

 

 パチンコ&スロット専門店 玉王

 会員名 クロウ・ニート

 ゴールド・カード

 

「おっと間違えた」

 

 キララのジト目を浴びながらクロウは2枚のカードを取り出し直す。そしてADを顕現して、カードをインサートした。

 

 

 ランク9 スリーピー・ホロウ

 

「――え? それって禁止カードじゃ」

 

 

「スリーピー・ホロウ」

 

 

 教室内に闇色の光が満ちる。G組の生徒がほぼ全員昏倒した。

 

 

 

 

 

 目が覚めるとむにりとした安らぎをまず感じた。

 

「……?」

 

 側頭部が何かに埋もれている。夢のようにふわふわして、気持ちよくて、暖かくて、そして何より()()。玄咲の大好きな色。シャルナの色。玄咲は本能で手を伸ばす。むにゅん。掌が粟立つ。いつぞや夢と勘違いして揉んだ神楽坂アカネの胸。それよりも100倍は幸せな感覚。玄咲がこの世で味わったことのない感覚。つまりこの世のものでない感覚。

 

(ああ、これ夢だ)

 

 そうと分かれば話は早い。玄咲はひたすら頭をうずめているそれを揉み続ける。恐ろしい程愛おしいそれを大切に大切に、しかし激しく大胆に、むにゅんむにゅんむにゅんむにゅんむにゅんむにゅんむにゅん――。

 

「げ、玄咲……」

 

(ああ、シャルの声だ。落ち着くなぁ……シャルの、声……)

 

 ……。

 

 玄咲の手がピタッと止まる。まさか、ありえない。幾重にも自己否定を重ねて心を守ろうとする玄咲の耳が、

 

 

「そ、それ、私の太もも、だよぉ……」

 

 

 シャルナの、聞いたことがないくらい恥ずかしそうな声を聴く。聞いたことがない。つまり脳に蓄積がない。そして玄咲の耳に天使のようなシャルナのボイスを新規作成する機能はない。つまり、これは現実で、

 

「――」

 

 玄咲の意識が再び飛んだ。むにゅん。

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