カード学園サヴァイヴ ~カードで全てが決まるゲーム世界の学園で狂人で軍人のゲーム廃人は天使のために最強になる~ 作:哀原正十
――見上げる程デカい男だった。
2Mは優に超える身長。うんこ色のドリルリーゼント。制服を岩のようにカチカチに盛り上げるゴツゴツの筋肉。いかつい顔。昭和の番長みたいな顔。不良の顔。気持ち悪い。玄咲は思わず視線を下げた。その玄咲の目に。
並の人間の腕周り程はあろうかというサイズの極太ジュニアが目に入った。まるでズボンの前部が汚物でも漏らしたかのように膨らんでいる。それがニュートラル。ジュニアからアダルトに成長した姿など一生見たくない。しっかりとズボンの中に過不足なく仕舞われている玄咲のモノとは桁違いのサイズ。比べ物にならない。もしこの勝負がチン長差対決だったら玄咲は間違いなく負けていただろう。玄咲のアダルトVSさとしのジュニアでも勝負になったかは怪しい――いや、間違いなく負けていただろう。それ程のチン長差。さとしの体質がそれ程のチン長を生み出した。
だが、今から行うのはカードバトルだ。
カードバトルにチン長差など何の関係もない。むしろ長い方が急所が増える分不利。つまり自分は既に土竜さとしに優位に立っている。そこまで冷静に考えて玄咲は今までの自分の思考を全て脳内のゴミ箱に投げ捨てた。何もかも全てが急に馬鹿らしくなったからだ。一旦チンコドリルに汚染された自分のマインドをフラットな精神状態に戻すために、状況を客観視してみることにする。
ここはバトルセンター0号館バトルルーム1番室。。
そこにクロウと、G組の生徒全員が集まっている。カードバトルが決まった途端なんか盛り上がってカードバトル観戦の流れになっていい勉強になるからとクロウも同意してこうなった。丁度いい機会。そう判断して、玄咲も特には反対しなかった。他クラスのギョッとした、でも納得したような視線を横切っての集団移動。そしてバトルセンター0号館――部屋数を抑える代わりに多人数収容可能なこういう機会に使う特別なバトルセンターに色々と引き気味の受付嬢の視線をぞろぞろ100回以上横切って、この場所に辿り着いた。それからさとしと狂夜がじゃんけん。ゲーム通りグーしか出さないさとしがグーを出して勝利。そして今玄咲と向かい合っているところだ。
舞台は通常のバトルルームと異なり、四角形のリング上。決闘場と似ている。そしてその機能も決闘場を踏襲し、バトルが始まると同時、床と天井を繋げる結界が下りる。そのリングを360度取り囲むは椅子を伴った観客席。見世物状態。0号館は大会などでも使われる特別施設。大人数で行うカードバトルのイベントなどはこの0号館を使って開催される。
「へっへっへぇ……」
(くっ……頭がくらくらする……クララ先生じゃないが。段々こいつの顔に汚物が重なって見えてきたぜ……)
そのリング上で、玄咲は早速さとしからの対戦開始前先制精神攻撃を受けていた。選手外のジュニアを使っての汚らしい盤外戦術にSAN値を大幅に削られた所だ。卑劣で下劣な戦法に吐き気さえ襲っている今現在。360度を見回して、玄咲は癒しを求める。目には目を。歯には歯を。選手外には選手外を。汚物には――浄化の一輪花を。
シャルナ・エルフィンを。
(っ! いたっ――!)
玄咲の瞳がシャルナを捉える。なんと隣にキララまでいる。なんだかんだでキララはクラスではシャルナと仲のいい方。玄咲を介したなぁなぁの緩い友人関係がI・N・Gで形成中。シャルナがすぐに玄咲の視線に気づく。そして、微笑んで、口をパクパク。その動きが紡ぐ言葉を玄咲は1文字違えず読み取る。
が・ん・ば・っ・て・ね。あ・い
(! あ、あい……!?)
あ・い・さ・―。
(――――)
ビシッ。
シャルナが眉を勇ませ口元を引き結んで敬礼する。ちょっとからかいモード。隣のキララが呆れて見ていることに全く気付いていない。その白い瞳は真っすぐただ一人へと向けられている。
いつも、いつも、真っすぐ玄咲だけを見ている。
「――フッ」
「へっ。恐怖のあまり気がおかしくなったか。俺じゃなくて明日の方向を見てんじゃねぇか。ただでさえイってる目が輝き過ぎてケミカル中毒者みたいになってんじゃねぇか。ホネホネフィッシュばりに目が泳いじまってんじゃねぇかぁ!? ギャーハッハッハァ! まぁそれも仕方ねぇ。何せ相手はこの――鉄腕ドリルの土竜さとしさまだからなぁっ! 地元じゃ誰もが俺の名前を聞いたら震えあがったもんよォ! 怖がられ過ぎて無言で避けて歩いたもんよぉ! へっへっへっへっへっ!」
「フッフッフフッフ!」
「へっへっへっへっへっ!!」
「フッフッフフッフ!!!」
玄咲の微妙に拍を外した気持ち悪い笑い方にさとしがキレた。
「何がおかしいッ!!!!!!」
「いや。お前に2つ指摘をしてやろうと思ってな」
「2つ?」
「1つ」
玄咲は中指を立てる。
「明日の方向じゃなくて明後日の方向だ」
「明日の方向だぞ」
クロウの鋭い指摘。
「えっ」
「明日の方向、だよな?」
「ああ。子供でも知ってる。あいつ何言ってんだ」
「……」
シャルナは背を丸めて火の出そうな顔を両手で覆っている。キララがその横で笑いを必死にこらえている。玄咲のガラスのハートが音を立てる。亀裂の入った音だ。だが、まだ無事。
「で? 次はなんだ?」
さとしのせせら笑いながらの疑問。玄咲は起死回生をかけて怖がってるんじゃなくて関わり合いになりたくないと思われてるだけだとアンサーを返そうとして、なんとなくインパクトが足りない気がして、結局はこう言ってしまった。
「お前のちんこ、うんこみたいだな」
観客席から帰ってきた絶対零度の反応に玄咲の記憶が一瞬飛んだ。その間の記憶を思い出すことをどうしても脳が拒否する。膝の間に顔が埋まっているシャルナとキララの笑みの消えた真顔を直視することを眼が拒否する。思わず玄咲は明後日の方向――この世界では明日の方向と呼ぶべき、天井の白い照明を見上げる。どうしてあんなことを言ってしまったんだろう。後悔の涙が一粒舞い散る。白くキラキラと光りながらリングへと舞い落つる。そして――。
ピチョン――。
涙が、リングに跳ねた。水輪が花弁を散らす。
それと同時――。
「てめぇぶっ殺すぞコラァ!」
玄咲はさとしに猛烈に体を揺すられた。ガクンガクンガクンガクンガクンガクンガクン。玄咲は抵抗しない。罪悪感がその気力を奪っている。
その耳が――。
「――なんかあいつ。思ったより馬鹿だし大したことなさそうじゃね?」
ピクッ。
「俺も思ってた。前より威圧感減ったし、囲めばボコせそうだよな」
ピクッ。ピクッ。
「メッキが剝がれたな。いや、化けの皮か」
「腕っぷしの強さとカードバトルの強さはまた別だしな。決闘も精霊だよりだったらしいし」
「……もしかして案外、虚仮脅し野郎なのか? いや、弱くはねぇんだろうけど」
「ちょっと過大評価しすぎてたかもな。なんか、あんま怖くなってきた。女にだらしねぇしな」
クラスメイト達のこそこそ話を収集する。身体能力が上がったせいで嫌にも耳に入る。
(――いかん。いかんなこの状況は)
焦りが胸に広がる。
「へっ、さとしは強ぇーぞ。あいつとやりあった俺はよく知ってる。見ろよ。天之玄咲の野郎、あのガタイにびびって揺すられるままになってやがる。ダッセーよな」
「――もしかして」
青髪の、G組の中ではそこそこ見れる容姿のギリ美少女が、玄咲を決定的にDisる。
「あいつ、意外と弱いの?」
(――弱い、だと?)
その言葉で完全にスイッチが入る。メンタルが戦闘用のそれに決定的に切り替わる。一気に眼が据わる。
(今、そう思われたら困るんだよ)
「――なんだその舐めた目は」
いち早くその急変に気付いたさとしが玄咲を揺するのを止める。剣呑な光をその眼に宿し、警戒するかのように玄咲を見下ろした後、へっ、といつもの調子で笑った。まるで平静を保とうとするかのように。
「さては強がってんな? なにいきなりブリブリになってんだよ? 草生えるぜ。クソでも我慢してんのかぁー? ……ったくよー、困るぜ。いくら俺が温厚で知られた鉄ちゃんってもよー、目の前でメンチ切ってそんな
さとしは口をもぐもぐしながらにやついて玄咲の足元へ。
「イジメたくなんだろーが」
(シャルに
唾を吐いゴシャッ!
「「「「「!?」」」」」
――さとしが唾を吐いた。かと思ったらそドリルのリーゼントを吐いた唾を追っかける形で、というか空中で追いついて先端にべちゃっとくっつけながら、地面に顔を叩きつけられていた。
「てめっ、何を、へぶっ!」
玄咲はさとしの鼻っ柱を床にゴシゴシ擦りつける。痛みはない。だが、不快感は相当なもののはずだ。地面が唾でぬれているのだから。玄咲の腕を跳ねのけようと頭上に伸ばしたさとしの両手を、
「あ、なんで、動か……ッ!?」
片手で交差交錯し、筋肉の壺を効果的に押すことで動かなくする。玄咲はさとしの耳に口を近づけ、
「この先はカードバトルでやろうか。二人きりならもうちょっと優しくしてやってもいいがな」
殺意を込めた、ほんのりと赤らんだ瞳でさとしを近距離で睨む。
「この衆人監視の状況じゃ優しくしてやれそうにない。俺はあまり舐められるわけにはいかないんだ。シャルに害虫を寄せ付ける訳にはいかないからな。そのために」
最後に。
「お前には見せしめになってもらう。恨みはないが一生好きにもなれそうにもないお前が相手なら丁度いい。恥をかかされた恨みもあるから丁度いい。このカードバトルが終わる頃には玄咲さんとしか呼べない心にしてやるよ」
そう言って突き飛ばし、自陣の魔法陣の上に立った。二人の会話は誰にも聞こえない小声で行われた。だからどんな会話が交わされたのかは分からない。だが。
尋常じゃない殺気を纏った玄咲の様子と、無言で震えるさとしの様子から、穏やかでない会話が行われたことだけは誰にも察せられた。キララが息を呑む。シャルナは眼を輝かせる。
(格好いい……でも)
ポツリと、零す。
「普段の玄咲の方が、好きだな」
「武装解放――シュヴァルツ・ブリンガー」
玄咲が地獄と悪魔をイメージしたADを顕現する。あまりにも、らしい。誰もがそう思う。
「さぁ、お前も抜けよ」
玄咲の威嚇するような声。さとしは、俯き。
その口元に、笑みを浮かべた。
「――へっ、体が震えやがる。久しく感じてなかったこの感情、震え。これが武者震いって奴かぁ! やる気出てきたぜェ! 武装解放!」
そして、カードをその手に持ち、詠唱する。
「
鋼製の素材で覆われた指の甲から3つの小さなドリルが伸びたボクシンググローブが1双、さとしの拳を覆う形で顕現した。さとしがADを打ち鳴らしてへっと笑う。
「俺にドリル・トライデント――略してドリトライを抜かせたらお前はもうおしめぇよ。明日はおしめなしじゃ立てない体にしてやるぜ」
「や、やべぇ。本物のドリトライだ。未来と心を打ち切る強い拳だ」
「強い心も打ち砕いてしまうらしいぞ。恐ろしい」
一部で有名なのか一部の生徒がやたらと過剰なリアクションを示す。強いと心をやたらと連呼する。
「ああ。一つ言い忘れていた」
玄咲はさとしの言葉を完全にスルーして言い放った。強さへの疑いを払しょくするために。
「ハンデだ。俺はこのカードバトル中魔法陣の上から一歩も出ない」
「――」
ビキビキビキ!
「お前、俺を舐めてんのかてめぇ」
「舐めてなんかいない。正当に判断している――いや、すまない。これでは少し足りないな」
玄咲は割と素で言い放った。
「遠距離魔法も封じよう。それで少しはカードバトルらしくなるだろう。安心してくれ。俺は結構人の強さを見る目には自信が」
「ぶっ殺したるわわれぇえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ”ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ’ええええ!」
――天井の照明が揺れる程の怒声。玄咲は耳を抑えながら、視界の端で揃って目を回すキララとシャルナを見て少し正気に戻った。
「……すまない。少し頭に血が上り過ぎていたようだ。だが」
それでも、ギン、と黒目を尖らせて。
「判断が間違っているとは思わない。前述のハンデのもと――いや」
言い放つ。完全な合理思考の元。少し罠にかける意図を込めて。
「最後のハンデだ。HPゲージを0にするのではなく君の魔力切れを俺の勝利条件としよう。だから安心して遠慮なく俺に攻撃してくれ。うんこドリルくん」
――今回は珍しく、100%挑発する意味を込めた笑みを添えて。
「――――」
ぷっつ~~~ん。
「殺す」
さとしが対戦申請ボタンを押す。玄咲が承諾ボタンを押す。
リングの縁から天井へと薄緑色の魔力結界が一斉に立ち上る。魔力結界の完成。SDが10カウントを数える。10・9・8――。
0。
ビィー!
「ぶっ殺ァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア”アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
さとしが詠唱が遅れるだけの全く無駄な怒声を上げて玄咲へとカードをインサートしながら吠え走る。5枚のカードをインサートするに十分な時間を口八丁で稼いだ玄咲は余裕を持って詠唱した。
「フュージョン・マジック――」
この世界では未だ誰も発見していないフュージョン・マジックを。
「
今週は毎日投稿します。お見苦しい様をたくさん見せて申し訳ありませんでした。