カード学園サヴァイヴ ~カードで全てが決まるゲーム世界の学園で狂人で軍人のゲーム廃人は天使のために最強になる~   作:哀原正十

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第26話 カードバトル3連戦 VSさとし

 土竜さとし。

 

 魔力の大部分が身体能力へと変換されるフィジカル型の魔符士。高すぎる身長とチン長、いかつ過ぎるガタイ、そして硬すぎる体、その全てがフィジカル型の魔力の恩恵だ。純魔力型や、バランス型など、魔符士には魔力の強化幅に応じた色々な型がある。その中でもさとしはフィジカル型に特化した、そしてその才能が並外れた魔符士だった。ゲームでは岩下若芽に匹敵する才能の持ち主だった。

 

 だが、さとしには大きすぎる欠点がある。能力面もだがそれ以上に性格的な――馬鹿という欠点が。そのせいで自分のポテンシャルを発揮できていない。ついでだから矯正してやる。玄咲はそう考えている。そのために挑発もした。カードも買った。戦闘前の準備は万全だった。赤黒黄の斑模様の盾を構えて玄咲はさとしを迎え撃つ。

 

(さぁ、出してこい。お前の自慢のドリルを――!)

 

「オラァ! 行くぜェ! 最初からクライマックスだ! これが俺の魂のカードを束ねた(ドリル・ハイドリル・メガドリル)必殺技! フュージョン・マジック――!」

 

 さとしがADを大振りに振りかぶる。そして振り下ろしながら詠唱した。

 

螺旋捻天握撃破(ギガ・ドリル・ブレイク)ァアアアアアアアアアアアアアアアア!」

 

 さとしのADが巨大な黄土色の光の渦を纏う。さとしのドリルリーゼントとそっくりの形状をしたさとしの魔力()の宿ったドリルだ。色も当然そっくり。絶対に触れられない。玄咲はそう思った。威力を想像したからだ。視界の先、巨大な円周から伸びる尖った穿端がギュィイイイイインと回転している。それが玄咲へと襲い掛かる。玄咲は盾を構えた。

 

「死ねやオラァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」

 

 怒声が迫力を増す。だが実態は何も変わらない。玄咲はただ冷静に魔法を見つめる。そして、盾を突き出し、触れる。

 

 触れた瞬間、伝わった感覚から一瞬で最善を感覚で計算。盾を動かす。

 

 魔法のように、ドリルが盾に導かれて、あっさりと軌道を逸らされる。ギガドリルブレイクの推進力に引きずられて、さとしが床に思いっきり突っ込む。ドリルがギャリギャリと派手な音を立て、しかし仮想魔法のため実際に傷をつけることなくリングの上で暴れ軋む。さとしは己の魔法に無様に翻弄されて最終的に大股開きでリングの上に股間をおっ広げた体勢で停止した。逆さになった視界の中、玄咲を便器のように見開いた瞳で阿呆みたいに見つめる。

 

「お? お?」

 

「――土竜さとし。君には巨大な欠点がある。このままではお前には未来はない。痛みでもって教えてやる。感謝するように――俺がお前を強くしてやるよ。蹂躙するついでにな。何度でも向かってこい。頭じゃなくて体でないとお前は覚えないだろうからな。だから、徹底的にやる。お前の心が折れるるまで。さぁ」

 

 玄咲は手招きをする。さとしを冷徹に見下ろしながら。

 

「立て。そしてかかってこい」

 

「――上等だ」

 

 さとしは体を起こし、即座に玄咲に突進した。

 

「メガ・ドリルゥ!」

 

 さとしのADから魔力のドリルが生える。大きい、しかしフュージョン・マジックのあとでは物足りないドリル。魔力消費を考えたらフュージョン・マジックは連発できない。だから節約のために普通のスペルカードで攻撃を仕掛ける。

 

「要は一歩でも円から出せばいいんだ! なら低燃費の魔法で何度もしかけて一発当てるだけで十分だァ! オラァ!」

 

 ごく自然に、HPを0にするという選択肢を脳内から排除して。

 

 

 

 

 カードバトル開始直後。

 

 観客席。

 

 生徒たちは玄咲のフュージョン・マジックを見てにぎやかに談笑し合う。

 

「あいつ初っ端からフュージョン・マジックだぜ。飛ばしてんなぁ」

 

「盾を召喚する魔法か? あー……フュージョンマジックは種類が多すぎて全部は把握してないんだよなぁ」

 

「やっぱり受けに使える魔法を選びましたか。まぁ妥当なチョイスですね。加点1といったところでしょうか? くいっ」

 

 生徒たちはすっかり観戦モード。この世界の人物は基本的にカードバトルの鑑賞が大好きだ。

 

「にしても混沌魔晶(ドミネイト・オーラ)なんて魔法聞いたことないよ……チェーン魔法には存在しないし、ノーチェックだっただけかな?」

 

「私も初耳。センセは知ってますか? ――センセ?」

 

 クロウの両隣に座る女子生徒の内、男っぽい容姿の女子生徒ではない方の青髪のギリ美少女がクロウに尋ねる。クロウは返答しない。訝しみ、青髪のギリ美少女は少し距離を詰めてクロウの袖を引く。

 

「センセ、センセ、ねぇってば」

 

「ん? ああ、すまない――俺も知らない魔法だったんでな。驚いた」

 

「え? センセも知らないの?」

 

「ああ。それに――あの3色の魔法陣、3重属性だ。信じられん。何万人に一人の確立だ。あいつ、ただものじゃないのは分かってたが、まさか人類の限界とされる3重属性だとは思わなかった」

 

「え!? 3重属性!?」

 

「それって激レアじゃねぇかよ! 羨ましいぜ!」

 

「単一属性の方が出力が勝る場合も多いからメリットばかりでもないがな。しかし、基本的には膨大なメリットだ。なにせ多属性のフュージョン・マジックは劇的な魔法反応を起こして出力が上がる。属性が多いほどフュージョン・マジックは強力。それに単純に使える魔法の種類が倍加する。貴重な才能だ。しかし、驚いたな」

 

「ああ、3重属性なんて驚いたぜ」

 

「違う。未知のフュージョン・マジックを使用したことにだ」

 

「え?」

 

「混沌魔晶なんてフュージョン・マジックはデータベースに存在しない。聞き覚えのない魔法だからSDのフュージョン・マジック検索機能で調べてみたが該当しなかった。フュージョン・マジックは複数属性魔符士の協力の元研究者が毎日新たな組み合わせを試している。その蓄積は膨大。そうそう新たなフュージョン・マジックは見つからない。いくら3重属性は非検体の貴重さから中々研究が進まないとはいえ、個人で試せる範囲で見つかるようなものじゃないんだよ。それをあいつは平然と披露して見せた。その呆気なさこそに俺は驚いているんだ。まだ隠し玉があると見ていいだろう。あの平然さは、そういう類の態度だ」

 

「……そんなことってあるんですか?」

 

「普通はない。だから驚いている。いったい何者なんだあいつは。それに、知識だけじゃなく戦闘技能の方も」

 

 さとしの猛攻を一切崩れることなく捌き続ける玄咲を見てクロウは慄く。

 

「相変わらずずば抜けている。あれくらいは俺でもできるとはいえ、あの年の生徒の練度じゃない。まるで100戦錬磨の魔符軍人の雰囲気だ。いったい何者なんだあいつは。精霊神といい、とにかく得体が知れん……」

 

 

 

 

 戦闘開始から10分。

 

 生徒たちの表情は開始時と一変している。浮ついた雰囲気は、既に霧散し、シリアスなものになっている。それでも、楽しんでいることに変わりはないが。

 

「はぁ、はぁ。何でだよ。攻撃が1発も当たらねぇ。いや、当たってるのに、いなされる。まるで魔法みたいに。柔らかい布でも殴ってるみてぇだ。一瞬で手ごたえが霧散する。何でだ。何でなんだよォ!」

 

「技術だ。そもそもお前は全ての動きが単調。腕力任せ。魔法の威力というよりは恵まれた生来の腕力で攻撃を放っている。それじゃ合格点は上げられない(攻撃は食らわない)。低レベルなステージならそれでも通用しただろう。だが、これからはそうはいかない。薄々、自分でも察しているんじゃないか?」

 

「ッ!」

 

 さとしは地元では最強のヤンキー。同年代に敵はいなかった。ラグナロク学園の入学試験も実技試験でかまして楽々受かった。だから自信満々でラグナロク学園に入学した。その腕っぷしと自慢の“ドリル”でこの学園でもテッペンに立とうと思っていた。その自信があった。今もその自信がある。

 

 けど、減っている。さとしはギリっと歯を噛み締める。そして、吠えた。

 

「舐めんなァ! 俺は最強無敵の横山中の鉄腕ドリル土竜さとしさまだァ! 実は大したことないかもなんて思った時一度もねェ! この学校でも、必ず、絶対テッペンに立つんだよォ! ウォオラアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」

 

 さとしがラッシュをかける。玄咲は冷静にラッシュを捌く。攻めない。だが、崩れない。こんな戦い方もできたのかと、リング上に驚きの視線が集まる。シャルナは無表情。しかし、瞳孔がしっかりハートの形に歪んでいる。必死に騒ぎ立てそうな自分を律している。玄咲の前で見栄を張ってクールビューティーを装っている。シャルナは未だにそこそこ自分の本性を玄咲の前では誤魔化せていると思っている。

 

「はぁ、はぁ、俺は最強なんだ。こんなの夢だ。悪夢だ。これじゃまるで俺が雑魚みたいじゃねぇか。だから、死ねよ。死ねよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 

「認めろ。お前はお前が思ってるほど強くないんだ。自分の実力を過大評価するな。いつか死に繋がる」

 

「うるせーーーーーーー――――――――――ッ! 俺様は鉄腕ドリルだァ――――――――――――――ッ! ギガ・ドリルッ!」

 

 さとしがギアを上げる。ランク2のメガ・ドリルからランク3のギガ・ドリルへ魔法を切り替える。襲い掛かるさとしの右腕とさらに巨大なドリル。玄咲はより深く盾を構えて――。

 

「インパクト・バンカー」

 

 その動作をフェイントにさとしの腹に銃口を突き付けて、銃口から数十センチの射程距離しかないが威力の高い、そしてサウンド・バーストのように吹っ飛ばす力のある魔法を放った。さとしがぶっ飛ぶ。ガッ、ゴッ、とリングを転々として、魔法壁にぶつかってようやく止まるさとし。だが、大したダメージはないのかすぐ起き上がる。流石。玄咲はそう思った。

 

「隙だらけだ。俺が攻撃に転じようと思えばいつでもこの程度のことはできる。分かるな? 手加減されて尚これだけの差があるんだ。吹っ飛ばされてる間に銃魔法で追撃することもできた。認めるんだ。お前は弱い。そこがスタート地点だ。いつだって自己否定が自分のスタート地点だ。俺も死ぬほど自分を否定してきた。自殺を試みたことは数知れない。その度天使が――」

 

 やばい奴を見る目が玄咲を襲う。玄咲は咳払いで脱線しかけた話を方向転換。

 

「ゴ、ゴホン。とにかく――自己否定をスタート地点として強くなればいい。いつだってスタート地点は自己否定だ。否定し続けた先に道は見つかる。そういう話だ。さぁ立て、まだ、折れてないんだろ?」

 

「……当たり前だ」

 

 さとしは立ち上がる。そして不屈のメンタルで再び玄咲に挑みかかる。

 

「俺のドリルは絶対に折れねぇえええええええええええええええええええええええええええええええええええ! 巻いて巻いて巻いて巻いて、そして上を目指すんだァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア! 前に進み続けるんだァあアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」

 

「――フッ」

 

 玄咲は笑みを浮かべてさとしを迎え撃つ。メガ・ドリルを先ほどのハイ・ドリルと何ら変わらず捌き続ける。

 

 

 

「……センセ。これって対戦ですか?」

 

 ギリ青髪の美少女が戦慄を張り詰めた表情で隣のクロウに尋ねる。距離は意図的に詰めてあるのでかなり近い。慣れたことなので特に突っ込まずクロウは少し考えて返答する。

 

「形式的にはな。だが、実態としては殆どの奴が想像している通り、模擬線ですらない教師が生徒に行うような教練に近い。というかほぼそのままだ。ただ実力差がある以上に、天之が最初からそういう意識でやっている。的確に土竜さとしの問題点を潰して、体で教えているな。まぁ、さとしはそういう形でないと覚えないだろうからな。強化方法としては最善だろう。俺でも体に叩き込むかな」

 

「……生徒同士ですよね?」

 

「それだけ実力差があるってことだ。この学園の最上位層は世界トップクラスの魔符士が集まる符闘会で本気で優勝を目指せる逸材しかいないんだぞ。あいつはその中の一人だ。全くノーマークだったがな。そして俺が見てきた生徒の中でもい一際異端な生徒だ。その極端な在り方も、所持するカードも、何より才能がな。100年に一度の大天才と言われたサンダージョーの代わりの特待生として申し分のない生徒だよ」

 

「あのサンダージョーの代わりですもんね。そうですよね」

 

「ああ。昔の俺を彷彿とさせるスタイル。そして才能だ。いや、俺以上だな。うん」

 

「え……センセより上なの?」

 

「ああ。まぁ、魔符士としてはまだ粗削りだがな。入学当初と比べたら雲泥の成長ぶりだ。ま、とにかく」

 

 クロウは実に楽しそうに、そしてまぶしそうに、リング上での戦いを一人の魔符士として見つめる。

 

「先が楽しみな生徒だよ」

 

 

 

 

「ハァ、ハァ……」

 

 さとしがメガ・ドリルを解除した手で膝に手をついて玄咲の前で頭を垂れて息を吐いている。玄咲は息の一つも上がっていない。玄咲は時に攻撃を空ぶらせたり、大きく姿勢を崩す様に攻撃をいなして、少しでも疲労が蓄積するように立ち回っていた。そのせいも少しはあるが、さとしが膝をついているのそれが理由ではなかった。さとしのスタミナはまだ余っている。さとしのスタミナは1時間全力疾走しても尚尽きない。だから、削られたのはスタミナではない。

 

 心の消耗が、そうさせている。

 

(……でも、心が強い。何度蹴散らしても折れずに向かってくる。心の強さ、か。バカだけど、その一点は尊敬に値するな。いや)

 

 玄咲は俯いたドリル・リーゼントの脇から覗く、ちょっと膨らんだちんこドリルを見て思い直す。

 

(ここも、凄いよな。羨ましくはないが。いや、何を考えている俺は。デカすぎて、どうしても目に入って、無駄な思考をしてしまうんだよな……っと、そろそろ、いいかな)

 

 玄作は淡々と告げる。そろそろ心が折れただろうと思って。

 

「まだ、やるか?」

 

「……」

 

 さとしは答えない。震えている。ドリルリーゼントに隠れてその表情は見えないが、そこそこ堪えているようだった。返答を待つ間に、玄咲は己の盾に目を向ける。

 

 その手に持つ盾は当初より面積が削れている。攻撃を受けて、削られたからだ。

 

 混沌魔晶(ドミネイト・オーラ)は魔力の結晶体を産み出すフュージョン・マジック。その一番の特徴は発動するためのカードの組み合わせが複数あること。その組み合わせに応じて様々な形態に変化する。ゲームでは混沌魔晶(ドミネイト・オーラ)(ソード)混沌魔晶(ドミネイト・オーラ)(シルド)混沌魔晶(ドミネイト・オーラ)(カード)など差別化のために名称を異にして表記されていたがこの世界では設定どおり一律して混沌魔晶(ドミネイト・オーラ)のようだった。フュージョン・マジックの無限の可能性を示唆するフュージョン・マジックで、虹色の魔力を持つ大空ライト君のストーリー序盤の十八番。相手に応じて混沌魔晶(ドミネイト・オーラ)を使い分けていた。各属性の魔力が弱い代わりに強力なフュージョン・マジックを使い分けられるという虹色の魔力持ちの戦い方を分かりやすく象徴する魔法だ。盾を見ながら、さらに玄咲はCMAの知識に思考を飛ばす。

 

(ゲームでは混沌魔晶(ドミネイト・オーラ)(ソード)は3回に分けて使用できる威力300の強力な単体攻撃。戦闘状況を継続したまま連続戦となるWAVE戦闘で特に有効なフュージョン・マジック。混沌魔晶(ドミネイト・オーラ)(シルド)は3回ダメージを80%軽減してくれる強力な防御魔法。ストーリーではアルル相手に使用した形態。混沌魔晶(ドミネイト・オーラ)(カード)は様々な効果をランダムで発動する博打形態。時々威力2000みたいな凄い威力の魔法に化ける一方で自爆効果に化けることもある。ストーリー中でも屈指の変わり者のフュージョン・マジックで、混沌の名の通り不定形で無限の可能性を秘めた、まさにフュージョン・マジックの特性を象徴する魔法だ。だからゲームでは主人公にあてがわれたんだろうがな。

 

 しかし、混沌魔晶(ドミネイト・オーラ)の中でも特に強力な盾形態……ゲーム程ではないな。普通に強力な盾って感じだ。まぁ、どんな攻撃でも80%軽減とかこの世界で再現される訳ないよな。でも、威力をいなして逸らすことで長時間維持できる。そこは明確にゲームとは異なるメリットだな――っと。まだ、戦いは終わりじゃなかったか)

 

 

 

 

 

 

(へ、へへ。まだ、俺には切り札がある。残存魔力はフュージョン・マジック1回分。もう、これしかない。だが、これがあれば十分だ。最初から行使ときゃ良かった)

 

 ――土竜さとしが顔を上げる。そして、自分では余裕を装っているつもりの、逼迫したもの特有のどこか卑屈な笑みを玄咲に向けて、

 

「へ、へへ、お前、そこから動くなよ。ああ、動けないんだったな。へ、へへ。自分でその魔法陣から出ないって言ったんだぜ。ハンデとか舐めたこと言ってな。その言葉、今から後悔させてやるぜ」

 

 さとしが玄咲と少し距離を取る。遠距離魔法しか届かない距離。

 

「行くぜ。実戦で使うのは初めてだァ」

 

 右拳を、引き絞る。この学園に来て新たに得た力を――。

 

「パワーチャージ」

 

 ギミックを、解き放つ。さらに、呪文を重ね掛けする。

 

「フュージョン・マジック――」

 

 

 

 

 

 さとしのADが光って唸る。ギミックの準備現象。それに応じるため、玄咲もまたカードを入れ替え、

 

「パワー・チャージ」

 

 ギミックを起動する。続けて詠唱。

 

「フラッシュ・インパクト・ガード」

 

 ランク4・無属性・銃魔法・フラッシュ・インパクト・ガード。かつてアルルに使用したフラッシュ・ガードの上位カード。さとしが僅かな怒気を表情に滲ませる。

 

「フュージョン・マジックに対してシングル・スペルだとォ? 俺を舐めてんのかッ! その盾の魔法でもパワー・チャージで強化して使えばいいだろうがッ!」

 

「意味がない。そんなことをしたら当たり前のように正面から受け止めても防げてしまえるだろう。それに」

 

「――それに、何だよ」

 

 

「これで十分なんだよ。お前相手ならな」

 

 

「――――」

 

 さとしが怒っているような、泣きたいのを堪えているような、なんとも神妙な表情をする。対戦開始当初のさとしなら絶対浮かべなかった表情。対戦を通して玄咲に与えられた感情がさとしにそんな表情を取らしめた。その拳がぶるぶると震える。複雑な感情が、ただの怒り以上の激情を与えたのだろうか。グローブ超しにもその握りの強さが見るものに伝わるほどに、拳が握り締められる。そして――。

 

「殺してやる」

 

 とてもシンプルな、しかし濃密な感情の籠った、怒声よりも余程迫力のあるドスの効いた声。何人かの女子生徒が怯える。クロウの隣の青髪のギリ美少女も「ひっ!」とクロウの腕に縋り付く。クロウは煩わし気にその手を振りほどいた。そんな。そんな、表情をしているギリ美少女に目もくれない。真剣に、リング上のカードバトルを見ている。

 

(天之。お前はさとしの欠陥に気付いているんだな。いいぞ、やってくれ。俺じゃさとしは納得しない。それは同じ生徒にしか本当の意味では伝えられない……!)

 

 ギィイン。

 

 さとしのADからフルチャージを告げる音。ほぼ同刻、玄咲のADも同じ音を上げた。戦況が、動く。

 

「いくぜ」

 

 さとしがADを天井に掲げ、呪文を詠唱した。

 

螺旋捻天握撃破(ギガ・ドリル・ブレイク)

 

 さとしのADから黄土色の天を突くような超巨大ドリルが螺旋を巻きながら一瞬で立ち上る。ギュィイイイイイインンと、唸りを上げて回転する。シャルナが思わず呟く。

 

「か、格好いいドリルだ……」

 

 あくまでドリルを見て。

 

「これが俺のドリルだァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」

 

 さとしが螺旋捻天握撃破(ギガ・ドリル・ブレイク)を玄咲に向けて突進する。玄咲は玄咲は慌てずその先端にADを向けて詠唱した。

 

「フラッシュ・インパクト・ガード」

 

 マズル・フラッシュの強烈な閃光がそのまま強烈に輝くバリアとなる。半球状の閃光のバリアの内側で玄咲は螺旋捻天握撃破(ギガ・ドリル・ブレイク)の先端を冷淡にただじっと見る。混沌魔晶(ドミネイト・オーラ)・盾を握り締めて、激突の瞬間を、その眼に焼き付ける。

 

「死に晒せェ!」

 

 閃光の爆発が、視界を埋め尽くす。その眼が、ドリルの先端の螺旋と、バリアに罅が入った瞬間を捉える。そして――。

 

 ドリルが割れ砕け散る瞬間をも、その眼に焼き付けた。

 

 そしてさとしの絶望の表情をも。

 

(――お、俺の、ドリルが、ドリ、る――)

 

 

 

 

「君はな、魔力が弱いんだ」

 

 地に膝をついてうな垂れるさとしに玄咲は淡々と解説をする。

 

「……どういう意味だよ」

 

 さとしがドリル・リーゼントのカーテンの内側から声を発する。不貞腐れたような響き。

 

「なんで、フュージョン・マジックがシングル・スペルで防がれたんだって思っているだろう」

 

「……ああ。何でだよ」

 

「だから、魔力が弱いからだ。君はガタイに恵まれている。天性の才能だ。だが、その一方で攻撃に用いる通常の魔力――攻性魔力が人より少し弱い。今までのカードバトルでは腕力も魔法の威力に影響したから気付かなかったんだろう。だが、レベルが上がるにつれて魔法の出力はほぼ純粋な魔力に依存するようになる。そうなるとどうなるか――その結果が先ほどの光景だ。フュージョン・マジックで、シングル・スペルさえ打ち貫けたなかった。これからの戦いでは、戦い方を変えないと段々通用しなくなってくるだろう」

 

「……じゃあ、どうすりゃいいんだよ」

 

「知りたいか」

 

 ピク。

 

 さとしの耳が反応する。肯定。そう判断して、玄咲はゲームの知識を思い出しつつ語る。

 

(土竜さとしは防御の素質値が12と異様に高い化け物だ。ただその一方で攻撃の素質値は3とモブ以下。ならば防御魔法に徹すれば相当苦戦する者の、その血の気の多い性格から、しかも何のこだわりがあるのか特に優秀な訳でもないドリル系統の攻撃魔法をやたらと多用したがる。昔好きだったアニメがドリルをテーマにしていたという理由でな。ゲームでの敵キャラとしてのAI行動もそれに準じたもの。ゴミみたいな威力のドリルを多用する硬いだけの雑魚。だが、時々ランダムで使ってくる防御魔法を使うとカチカチになり、思わぬ苦戦を強いられ、時に魔力切れで敗北することさえある強敵となる。まぁバエルでイチコロだが。だからこそ)

 

「防御魔法を極めればいい」

 

「……んなもん男のやることじゃねぇ。男なら攻めて、攻めて、攻めて、攻めて、圧倒するのよ。俺の大好きな魔符士のシモンさんもそんなスタイルだったぜ」

 

「攻撃を捨てろとは言ってないだろう。攻撃を活かすためには防御は不可欠だと言っているんだ」

 

 ピクッ。

 

 さとしが顔を上げる。その瞳が少し輝いている。

 

「攻撃を、活かす……?」

 

「ああ。俺が時々攻撃しただろう。それは悉く君にクリーンヒットしたはずだ。痛かったろう」

 

「いや、全然」

 

「……そうか」

 

 流石。屈辱と共に思いながら続ける。

 

「それは的確に防御して君の隙をついたからだ。防御技術がなければああはいかなかった。君の攻撃だって相手の隙をついてクリーンヒットさせれば十分な威力になる。基本、魔法は攻撃有利なバランスだからな。多少攻撃力が不足しても、十分に相手を倒せる。相手の攻撃魔法を防御魔法で絶えながら隙を見つけて重い一撃を加える。そんな魔符士になるんだ。攻撃のために、防御を鍛えるんだ」

 

「……それで、強くなれるのか」

 

「ああ」

 

 玄咲はコクンと頷く。

 

「強くなれる」

 

「――そうか」

 

 さとしは立ち上がり、へっと笑った。

 

「ちったぁ聞いてやるよ。お前のこと、ちったぁ認めたかんな。確かにお前は強ェ。よく分かったぜ。あーあ、もう魔力がすっからかんだぜ。ドリル一発分しか残ってねぇよ。まだ負けちゃいねぇが……これで負けを認めなかったら逆に男が廃るぜ。まだ素手で戦うって手もあるが……そんなの魔符士の誇りに反する。降参だ」

 

 さとしがSDのリタイアボタンを押す。玄咲のSDにWINNERと表示される。さとしがへっと笑って床に尻をつき、玄咲を見上げて笑った。

 

「認めるぜ。お前がリーダーだ」

 

「――ありがとう」

 

 玄咲もまた微笑み返した。玄咲さんと呼ばせるような展開にはならなくてほっとした。

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