カード学園サヴァイヴ ~カードで全てが決まるゲーム世界の学園で狂人で軍人のゲーム廃人は天使のために最強になる~   作:哀原正十

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今日も2話投稿。少しペースアップ。悠長な序盤にするべきだったか。


第29話 ノーハンデマッチ

「むすー」

 

「……」

 

 キララが不貞腐れている。

 

「その、キララ。君は、状態異常攻撃を対策されると、あと接近されると弱い。だから、その辺の、対策を」

 

「分かってるってー。あー、でも、仲間がもっと、頼りになったら、もう少し打てる手が、あったカモナ―?」

 

 キララはちらっとしるけんを見る。

 

「……」

 

 しるけんはくいっと眼鏡を弄った後、やたらと貫禄のある背中を見せつけながらリング上から退場した。他の生徒たちもリング上にいてもどうしようもないので観客席に戻る。キララはため息をついて、膝に手を突き立ち上がった。

 

「はぁ、指揮って面倒臭いね~。そっか。当たり前だけど、思った通りに動かなかったりもするのかぁ。()()を考えなきゃなぁ」

 

「そうだな。指揮は難しい。部下をぶち殺したくなったすることなんて日常茶飯事――いや、俺のことじゃないぞ? 知り合いの話だ。うん。知り合いの話」

 

「……そだね☆」

 

 キララはこいつ意外とヤバいなと思った。だが、そういうところも、悪くないとも。

 

「おい、天之」

 

 クロウがリング上に上がってくる。そして玄咲が返事の声を上げる間もなくその肩をガッと掴んで、

 

「お前未知のフュージョン・マジックを幾つ知っている。いや、それは今はいい。お前、一体、幾つ属性を持ってるんだ!? 数えてただけで5つ属性を使ってたな!? どういうことだ! 答えろ!」

 

「えっ、全属性です。虹色の魔力って言って、学園長も知ってるはずです」

 

 玄咲はクロウのリアクションに驚きつつ答えた。ゲームでは学園長が教師には周知させている。だからてっきりクロウも知っていると思ったのだ。

 

「――全属性、だと……」

 

 玄咲の返答で、バトルルーム内の空気がその日一番凍った。予期せぬリアクション。玄咲は凄く不安になってしまった。慌ててクロウに問いかける。

 

「べ、別にちょっと変わってるけど大したことありませんよね? 個性の一つで――」

 

「――天之」

 

 クロウは玄咲の肩をポンと叩いて告げた。

 

「全然大したことある。全く、今日ほどお前に驚かされたことはない」

 

「……そうですか」

 

 そうらしかった。クラスメイト達も物凄くざわついてる。そんな中、

 

「ふん。くだらん」

 

 そう言って、一人の生徒が歩み出る。赤髪の、ワイルドな髪形の、イケメンで、悪で、クールな男子生徒。火撥狂夜がリングに上がる。そしてポケットに手を突っ込んでスタスタと玄咲の元まで歩いて、告げた。

 

「多属性だから何だ。多属性より強い単属性の魔符士の話など枚挙に暇がない。案外、相応のデメリットを抱えているんじゃないのか?」

 

「よく分かったな。俺の魔力は個々の属性の威力が弱いんだ。多属性のデメリットが極端に出ている。ぶっちゃけ特別強力という訳ではない」

 

 ゲームよりはそのデメリットが薄れているとまでは言わない。

 

「ふん。やはりか。では、さっさと始めようか。消えろキララ。雑魚に用はない」

 

「あんたあの日サンダージョーにビビッてたんだってね? よくそれでデカい口叩けるね。天之君以下の雑魚なのに」

 

 ビキビキビキィ!

 

「わ、怒った! 怖―い! 隠れちゃおーっと!」

 

 サッ。

 

 キララが玄咲の陰に隠れる。

 

「!」

 

 シュタタタタタタタッ!

 

「行こ。邪魔しちゃ、悪いよ」

 

「あ、ちょっと」

 

 リングに上がったシャルナが返事も聞かずキララを連行する。シャルナの優しさと生真面目さと二人の仲の良さに微笑ましさを覚えつつ、狂夜を振り向く。

 

(……怒っている。なのに、前から思っていたが、やはり)

 

 覇気が、まるでない。

 

 

 

 

「彼、強いねー」

 

「うん。強いよ。一度も、勝ったことない」

 

 キララはシャルナと観客席で会話する。リング上では相変わらず火撥狂夜が上がって天之玄咲と何やら話し合っている。

 

「あのフュージョン・マジック、何?」

 

「光の床を生成して、その上限定で、状態異常を反転して、メリット効果にしてしまう魔法、とか言ってた」

 

「何それ、反則じゃん」

 

「んーん。見えづらいから、分かりづらかった、だろうけど、あれ、地形干渉力は、強いけど、地形干渉範囲は、狭いの。意外と使いづらいって、言ってたよ。反転できる魔法量も、限度があるし」

 

「あ、そうなんだ……って、キララちゃんメタのカードじゃん。そっか、戦闘能力だけじゃなくて、カードチョイス能力もあるんだ」

 

「うん。いつも的確。ただ、初めて会ったときは――」

 

 シャルナは思い出し笑い。大真面目にアイスバーンを選んで、酷く後悔していたことも今では笑い話だ。キララはなんとなく天井の白い照明を見上げた。

 

「仲、いいね」

 

「うん。友達、だからね」

 

「……あっそ。そういえばあんた、なんかキララちゃんとは普通に話すよね。他のと違って。なんで?」

 

「あの時、あの場所にいなかったから」

 

「ん? あー、凄かったらしいね、例の事件。勉強のし過ぎで寝坊して後から聞いたキララちゃんも、実際に見たらドン引いただろうなって思う。でも、実際に見てないから、サンダージョーがいなくなってよかったなーって、その程度の感想を抱くのが精々かな。ちょっと、クラスメイトとの感覚のギャップについていけないときがある。たまにその時の彼が見て見たくなるかな――で、だからなの?」

 

「うん。変な感情、抜きで接せる。キララちゃんも、変な遠慮、しないし」

 

「あっそ。私はあんたのこと、好きじゃないけどね」

 

「私は、嫌いじゃない」

 

「……そ。私も別に、嫌いじゃない」

 

 ……。

 

 互いに、無言。キララが、口開く。

 

「……そーいえばさ、うん――さとしの馬鹿も開始時刻覚え間違えて遅刻してきたらしいけど」

 

 キララが無造作にリング上の狂夜を指さして言った。

 

「あいつは、あの時、あの場所にいたんだよね」

 

 

 

 

 

 

「君、あの場にいたのか」

 

 最も気になったことを最初に問いかける。狂夜は腕組瞑目。そして静々と語り始めた。

 

「まぁな。自分の程度を自覚した、この学園に来て最初の挫折だ。未だに忘れられん。……俺は、あいつにビビッて、何もできなかった臆病者だ。俺は、弱い……」

 

「……」

 

 玄咲は、何と言ったらいいか分からなかった。そんなシリアスな胸の内を明かされるなど思っていなかったのだ。ただただ言い惑い、じっと狂夜を見る。その言葉の続きを待つ。狂夜はため息をついて、

 

「そう、責めるような目で見るな。お前にそんな目をされると、少々堪える」

 

「えっ」

 

「最初に言っておこう。俺はお前のことを認めている。別にリーダーになりたいなどとは思っていない」

 

「えっ。でも。だって、そのつもりで挙手したんじゃ」

 

「勝手に周りが勘違いしただけだ。ふん。勘違いするな」

 

「!」

 

 勘違いするな。狂夜の名言。玄咲の胸が高鳴る。そして狂夜は玄咲に腕組してクールに告げる。

 

 

「俺はただお前とヤりたかっただけだ」

 

 

「――そうか」

 

 

 思ったより普通の台詞だった。まぁゲームと現実は違うよなと自分のゲーム思考を反省する玄咲の耳が、

 

 

「――が攻め」

「はぁ? 逆――」

「――×狂夜」

「イケメンで強い――」

「――嫌いじゃないわ」

「意外とあいつも――」

「――掘りてぇ」

 

 

(……? 距離があり過ぎてよく聞こえないが、まぁ、狂夜君がイケメンで堪らないって会話か。男の声が混じってるのが気になるが、まぁどうでもいいだろう。うん。どうでもいい。どうでもいいからな)

 

 玄咲はどうでもいい雑音と今しがたの会話を脳内で切り捨てた。脳内でそれ以上の傾聴に謎の警鐘が鳴るのが不思議だった。まぁとにかくどうでもいいと玄咲は狂夜に向き直り、告げた。

 

「俺も君とカードバトルしたいと思っていた」

 

「なぜ」

 

「ただ、強くなって欲しいからだ」

 

「……そうか。器が大きいな」

 

「いや、個人的な事情が100%だ。器は小さい方だと自負している」

 

「卑下がお前の癖か。くだらない。もっと堂々としてろ」

 

「っ!」

 

 その言葉は、効いた。玄咲の悪癖を、端的に言い抜いていた。狂夜にはこういうところがある。ずけずけと、本質を言い当てる。相手の反発などお構いなしに。だから嫌煙されることもある。だが玄咲は。

 

(……狂夜、好きだ)

 

 そのあけすけさに、好感を持った。

 

「ただ、変なハンデなどつけるなよ。もしつけたら貴様を殺す」

 

 作中で一度も有言実行されなかった殺す宣言。玄咲は微笑んで答えた。

 

「ああ。大丈夫。その心配はない」

 

「? どういうことだ」

 

 

「俺は最初から君とはノーハンデでやるつもりだった。対等な、条件でな」

 

 

「――――」

 

(対等な条件で真正面から叩きのめす。それが一番こいつには効く。ハンデなど、逆効果だ。だからつける必要はない。まぁ、別につけてもいいが――ん? 狂夜が動かないな)

 

 狂夜は動かない。見えてるのか見えていないのか、玄咲と視線を合わせたまま時を止めてしまっている。胸襟は動いている。バトルジャンキーらしく対戦前の高揚感からか武者震いからか、結構激しく。その眼は揺れている。どこか純真な、狂夜らしからぬ子供らしい、可愛らしい子犬の色をしている。そして、その頬が――。

 

 少し、赤らんで――。

 

「――ふん、勘違いするなよ」

 

 狂夜が突然前髪を掻き上げて、髪と手の隙間から覗かせた目で玄咲を睨む。

 

「――俺はただ、お前と血と血で語り(闘い)合いたくて、涙の海に溺れさせてやりたくて、痛みの奥の恍惚に誘ってやりたくて。昂っているだけだ。楽しみだぞ。リング上でルージュよりも尚赤き血の華を咲かせた貴様の艶姿を俺の下で見るのがな……!」

 

 ちょっとMCムーンライト・セレナーデが入った台詞回し。動揺の証。客席で一人の女生徒が歓声を上げる。その歓声を背に受けつつ、何故今動揺をと思いながら玄咲は尋ねる。

 

「何が勘違いなんだ? あと、バトルルームで血は流れないぞ。だから血の華は咲かせられ――ゴホン。恥ずかしいなこの台詞。よくこんな台詞を素面で言えるな。俺には真似できない。流石MCムーンライト・セレナーデだ。格好いいよ」

 

 真顔の狂夜と見つめ合う。正気を疑っているかのような、しかもどこか恨みがましい目つき。気圧されながら、数瞬、そうした後、狂夜が唐突に、

 

「くっ! とにかく、俺はな!」

 

 胸倉を掴み上げ顔を接近させてメンチを切る。男にしては長めの黒ずんだ赤髪が目に入る。玄咲好みのカラーリング。そして悪っぽいイケメン顔。思わぬ急接近に玄咲は目を剥く。狂夜が睨み返す。

 

「お前と戦わないと前に進めんのだ!」

 

「どういう意味だ」

 

「それも言わせるのか」

 

「言わないと伝わらないだろ」

 

「……ちっ」

 

 狂夜はそっぽを向いて、苦虫を潰したような表情で胸の内を語った。

 

「お前が上で、俺が下。分かってるんだ。その程度のことは。魂が、お前を認めてしまっている。上に立つに相応しいものだと。俺はそれが嫌で嫌で仕方がない。最近の俺は、まるで子犬だ。腑抜けてしまっている。だからこそ、お前とヤりたいんだ。そして、何もかもぶつけて、ぐちゃぐちゃになった自分の中を一度真っ白にしたいんだ。だからお前も」

 

 狂夜が胸倉を掴み顔を1センチの距離まで近づけ、ギン、と睨んだ。

 

 

 

「全て出し尽くせ。お前の全てを俺にぶつけろ。壊れるくらいの本気でな」

 

 

 

 突如として黄色い歓声が爆発。玄咲はビクッと観客席を振り向いた。眼をハートにした女生徒の群れに戸惑う。その中の一人が黄色い歓声を上げる。

 

「キャー! MCムーンライト・セレナーデ―! やっぱりあなたがいつでも最高―! 愛してるー! 愛してるー!」

 

「……」

 

 煩わし気な一瞥。

 

「キャー! 視線くれたー! いつも優しー!!!!!!!!」

 

(……なんだこれ)

 

 一瞬でシリアスな空気がぶっ壊れたバトルルーム内。玄咲は迷い子のようにその場に立ち尽くす。狂夜が闇夜の輝きと狂熱を秘めたその赤黒い瞳で玄咲を睨む。ゲームで大空ライト君にも吐いたセリフを玄咲にも吐く。

 

 

「さぁ、始めようか。天之玄咲。互いの獣を、ぶつけ合う時間だ」

 

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