カード学園サヴァイヴ ~カードで全てが決まるゲーム世界の学園で狂人で軍人のゲーム廃人は天使のために最強になる~   作:哀原正十

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第30話 カードバトル3連戦 VS狂夜

 魔法陣の上に立って向かい合う。ADはもう展開している。玄咲の手中にはシュヴァルツ・ブリンガー。そして狂夜の手中には地獄遊戯(ヘルズシェイカー)ラヴィー・ロック。流線より直線重視の禍々しいデザインの赤黒のギザギザギター。それを髪を振り乱してかき鳴らして歓声を浴びている。

 

「ふぅ、いい汗を掻いた。さぁ、やろうか!」

 

 演奏を終えた狂夜がSDを操作し、勢いよくタッチする。

 

 

 

 

 

 

【対戦が申請されています。受諾しますか】

 

 YES    NO

 

「YES」

 

 

 

 カウントダウンが開始する。10,9,8,7――。

 

(彼は俺の全てをぶつけて欲しいと言った。ならば、ぶつけよう。混じり気なしの全力全開の本気を)

 

 6,5,4――瞑目。ルーティーン。自分を地獄に突き落とす。

 

 脳のリミッターを外す。

 

(――よし、これで)

 

 ――目を、見開く。そして、

 

(殺しに行ける)

 

「――その眼、あの時の……」

 

 

 赤い瞳で、睨む。

 

 

「――手加減も遠慮もしない。これが、今の俺の100%だ」

 

 3,2,1――。

 

「殺してやる。腑抜けたお前を、望み通り」

 

「――ハハ! 来い! 俺はお前のことが大好きだぞ天之玄咲ゥ!」

 

「――」

 

 玄咲は、フッと笑って、

 

 ――0。

 

「すまん。少し気持ち悪い」

 

 カードをインサートすることもなく、駆け出した。

 

 

 

 

 

 今ならアルルのバリアも素手で壊せるかもしれないと思った。

 

 サンダージョーとの戦闘後、玄咲の身体能力は数倍に跳ね上がった。筋力が最終的に出力するパワーは単純に身体能力が2倍になったから後者も=で2倍になった、というほど単純なものでもない。連動し、反発し、交互作用し、それを繰り返し、累乗計算のように大本の身体能力が上がるほどに最終的に出力されるパワーも等倍どころではなく跳ね上がる。身体能力が数倍に跳ね上がった結果、玄咲は以前の数倍どころではない運動能力を手に入れた。

 

 レベルアップによる体の変化に意識がついていけていないことに、シャルナとのトレーニング中に気付いた。アジャストもそのトレーニング中に済ませた。シャルナとのトレーニングは玄咲にとってもしっかり力になっている。今では完璧に体を制御できる。

 

 そしてそのアジャスト中に色々試行錯誤する中で見出した、実質バトルルーム限定で使える裏技的な力があった。外でも使えると言えば使えるが、デメリットが大きすぎる。だが、バトルルーム内ではデメリットを踏み倒せてしまう。だからこそ、非実践的だと判断し、互いに封じた力だ。

 

 その力を、玄咲は狂夜相手に解き放った。

 狂夜の言葉通り、体が壊れるくらいの本気を。

 脳のリミッターを解除して。

 バトルルームの外なら100%反動で体が壊れているような混じり気なし100%の全力を、デメリットを踏み倒して最大出力で駆使する。

 

 そして――。

 

 

 

「あ、が……」

 

 対戦開始から2秒後。

 

「……悪いな」

 

 彼我の距離を一瞬で0にし、ADを殴り飛ばし、首を持ち片手一本で狂夜を持ち上げた玄咲は、疾走中に驚異的な集中力で3枚のカードをインサートしたADの銃口を口に突き入れて、謝る。

 

「少々卑怯だが、これが今の俺の全力だ。悪いな。カードを使わなくて。けど、これが俺だ。君も良く知ってる、な……」

 

「あ、あが、あがふぁはは……」

 

 狂夜が首を絞められ銃口を口に突き入れられながらも、笑う。まるで、それこそを望んでいたとでもいうように。玄咲もまた、笑みを浮かべて、今己の持てるカードの中で、ちょっと背伸びして買った高ランクのカードを用いた、単純火力なら最大出力のフュージョン・マジックを狂夜の口に解き放った。好意200%の全力弾。

 

「フュージョン・マジック――黒死火淵山影弾(ディアボロス・インフェルノ)

 

 狂夜の顔中の穴から闇色の炎が噴き出した。白く染まった頭で減衰されて尚狂おしき顔の中身を脳まで焼かれる心が壊れる程の痛みを味わい続け何もかもぐちゃぐちゃになりながら狂夜は狂える一匹の獣となって咆哮し続けた。激しい痙攣が玄咲の手を揺らし続ける。

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 シュー……。

 

 そんな擬音が聞こえてきそうな感じで狂夜がリング上に横向きに倒れている。そんな狂夜にまるで凄惨な犯行現場でも目撃したかのような視線が集まっている。やり過ぎたかもしれない。玄咲は恐る恐る狂夜に声かける。

 

「す、すまん。大丈夫か」

 

「だ、大丈夫、だ。ふ、ふふ、色々すっきりしたぞ。腑抜けていた子犬の自分が焼き殺された気分だ。天之、お前の炎でな。ハァ、ハァ、これが、お前の本気か。ハァ、ハァ、確かに、響いた。俺の心を、殺してくれた。ふ、ふふ、ふっふっふっ……ハーッハッハッハッハッハァ! この痛みこそが俺に欠けていたもの! 俺は! お前の熱で生まれ変わった! 本当に昇天するかと思ったぞォ! お前の本気は最高だァ!  ハァーッハッハッハッハッハァ!」

 

「……」

 

 本当に大丈夫か? 玄咲は訝しんだ。あとこいつちょっと気持ち悪いなと思った。それはそれとして、狂夜を助け起こそうと手を伸ばす。尻と両手を地についているので、丁度いい高さにあった顔の前へ。

 

「立てるか」

 

「ん、ああ――」

 

 ビクッ。

 

 狂夜が子犬のように震えた。反射的なものだったのか、狂夜は自分でも驚いている。釈迦が垂らす糸のように差し出された玄咲の手を見つめる狂夜の異常を心配してさらに玄咲は声かける。

 

「大丈夫か? 奮えているが――」

 

「っ! だ、大丈夫、だ!」

 

 玄咲の手をバチンと強めに払いのける狂夜。ショックを受けて立ち尽くす玄咲の前で膝に手を突き体を持ち上げ立ち上がろうとする狂夜。そのアクションが、

 

「玄咲、さん――」 

 

 ピタリ。

 

 狂夜の動きが止まる。

 

 ピシリ。

 

 観客席の空気が凍る。

 

 バクン。

 

 玄咲の胸が震える。ドキドキする。絶対に見たらいけない姿、聞いたらいけない台詞、その類のものに直面した気まずさに。一応、幻聴の可能性もあるので、玄咲は狂夜に確かめてみる。

 

「狂夜くん。今玄咲さんって言ったように聞こえたんだが、気のせいだよな? だって、君がそんな萎縮した子犬みたいな台詞、吐くはずないもんな? だから、嘘だよな? 嘘だと言ってくれよ。君の口から、玄咲さんなんて言葉が出るはずないもんな? だから、否定してくれよ。自分の口で。俺は玄咲さんなんて言ってないって、衆目の前で否定してくれよ……」

 

「ッ! き、貴様! 俺にこれ以上恥を掻かせようと言うのかッ!」

 

「え? いや、そんなつもりは全くないが……でも、やっぱり、聞き間違いじゃ、なかったんだな……」

 

「うぐっ!? 黙れ玄咲! 俺はそもそも玄咲さんなどと最初から言って」

 

「狂夜くん」

 

 玄咲は狂夜の肩を掴んで、言った。凄みが、意図せずして出る。

 

「俺を玄咲と呼ぶな。その呼び方はな、3人にしか許していないんだ」

 

「――」

 

 狂夜は、ちょっと蒼ざめる。幻滅の目が狂夜を襲う。衆目の中積み重ねる醜態。格付け完了。思わず、

 

「はい、玄咲、さ――」

 

「そんなっ! MCムーンライト・セレナーデ……ッ! 頑張って……ッ!」

 

「はッ! お、俺は、また、何を言いかけて……!?」

 

 ファンの声援でギリギリ正気を取り戻した狂夜。思わず、残念なものを見る目を玄咲も狂夜に向けてしまう。狂夜がこれまでで最大に狼狽える。その狂夜を――。

 

「ひゃーっはっはっはぁ! こいつ天之の野郎にビビってやがるぜェ!? 糞だっせーなァ!!」

 

 野太い嘲笑が襲う。狂夜はギンッ! と観客席の一角――土竜さとしを睨む。さとしは腕組をして顎をしゃくって、「へっ」とうんこみたいな声で屁のように笑い、下品な台詞を吐く。

 

「自分より弱そうな相手にはイキる。自分より強そうな相手にはビビる。おいおいこれってもしかしてよぉ、かませ犬(キャンキャンドッグ)って奴じゃねーかぁ!? ひゃははっ! 冗談でキャンキャンドッグって言ったが、本当に種族キャンキャンドッグ(弱いものイジメが大好きだが強いものには全力で媚び売り服従するモンスター。ペットに最適とされる。またその特徴からかませ犬の隠語として使われる)だったとはなぁ! 一度上下関係を仕込めば大人しくなるキャンキャンドッグの特徴そのまんまだぜぇ! 天之に飼われちまえよ!」

 

「「「!」」」

 

 シャルナがキッとさとしを睨む。そのポジションは自分のものだ。無言で主張する。女生徒たちが色めき立つ。その発想はなかったと。シャルナの隣でキララが思案する。仕込む。その手があったかと。さとしはそれらの反応に一切気付かず、狂夜を指さして、にぃ……と笑う。バカを発揮する。

 

「そう言えば、うんこドリルとか言い出したの、お前だったよなぁ」

 

「いや、違うが」

 

 狂夜は素で否定した。さとしは話を聞かなかった。

 

「そう言えばお前、喧嘩中に触ったちんこ中途半端なサイズだったなぁ。それに天之に褒められて嬉しそうにしてたなぁ。しかも首絞められて喜んでたなぁ。魔法撃たれてなんか目覚めてたなぁ!」

 

 さとしが言葉を発するたびに女生徒がどよめく。色めき立つ。眼が怪しい輝きを放つ。熱気を取り戻していく。それに比例して玄咲と狂夜の顔がどんどん蒼ざめていく。玄咲は狂夜のことが好きだが別にLoveではない。子供時代の思い出の詰まった等身大のヒーローとして好きなだけでホモではない。むしろ気味の悪さを感じ始めている。狂夜はシンプルにマイナスイメージの羅列に蒼ざめている。悪印象を抱かれていると危機感を抱いている。さとしがへっと笑う。

 

「よーし! てめぇにばっちりのあだ名を思いついたぜェ! 有難く受け取りなぁ! 今日からてめぇのあだ名は――」

 

 さとしが狂夜をビシィっと指さす。そして0号館特有のドでかいバトルルーム中に響き渡る大声で言い放った。

 

 

「Mサイズホモドッグだァ!!!」

 

 

 しーん……。

 

 沈黙が、生まれた。さとしが、焦って、周りを見渡す。玄咲は当然の反応だなと思った。

 

(ださい。品がない。幼稚。まるで小学生が考えたあだ名だ。そんなあだ名を人につけるなんて品性を疑うな。そりゃ、誰も共感する訳が――)

 

「――ありね」

 

(え?)

 

 気付けば、女子生徒中心に受け入れる空気ができている。むわっとした感じの熱気を上げながら会話を交わし合っている。

 

「マゾ犬。そうか。そういう捉え方をすれば――狂夜君が蘇ったわね」

 

「や、やっべ、前より全然推せる。ガン攻めクール系の見た目でドM系チョロインとか、王道だけどツボ抑えすぎでしょ。流石狂夜君だわ……」

 

「首輪はマスト。ホットドッグは――実物を描けばいいからいらないか。Mサイズね」

 

「ハァ、ハァ。見た目S本性ドMとか俺好みかよ。掘って、掘られてぇ」

 

「……」

 

 玄咲には具体的な会話までは聞こえてこない。聞きたいとも思わない。ろくでもない会話を交わしていることだけは嫌でも伝わったから。そして、一際大きな声が上がる。

 

「キャー! MC Moonlight SerenadeのMとSはSMの頭文字だったのねー! SでもMでもどっちでも行けるってアピールだったのねー! キャー流石! さりげなく名前でSMアピールするなんて天才過ぎ―! キャーーーーーーーー!」

 

「ッ!」

 

 ものすごくショックを受けた狂夜。落ち込む。そしてゆらっと立ち上がり、

 

「――上等だ。俺は貴様に負けた覚えはない。かかってこい、うんこドリル。これから俺と貴様でカードバトルだ」

 

 ビキビキビキィ! さとしは一瞬でキれた。

 

「上等だコラァ! 今からそっちいってやるから待っとけよぉおオオオオオオオオ!」

 

 狂夜が圧勝した。狂夜の強者としてのメンツだけはギリギリ保たれた。

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