カード学園サヴァイヴ ~カードで全てが決まるゲーム世界の学園で狂人で軍人のゲーム廃人は天使のために最強になる~ 作:哀原正十
翌日。
通学路。
「なんか、久しぶりって感じの、登校だね」
「色々あり過ぎたからな。本当、濃密な一日だった。長く、というか間延びして感じるのも仕方ない」
「そだね、1日にイベント、詰め込み過ぎだよね」
「ああ。もっと穏やかに過ごしたかった。4日前の休校日開けみたいにさ。イベントが終わったら、1日だけ息抜きしようか」
「うん。1日だけ、ね。それくらいは、いいよね」
「ああ。無事に、その1日が訪れるように、頑張ろう」
「うん。頑張ろ!」
シャルナが両拳を胸の前でグッと握り、勇む。玄咲は頷き応答しながら、一人考える。
(イベントのために、今日明日で色々準備しないとな……)
「キララ、話がある」
「? なーに、天之くん――」
G組の教室。振り向いたキララは、シャルナの隣の玄咲を見て瞠目した。
「作戦の練り直しだ。まずはF組を完膚なきまでにぶっ潰すぞ」
「もしかして、昨日凄い叫び声がしてたの、天之くん?」
「多分、俺だろう」
「なーる……凄い目と雰囲気。怒ると、そうなるんだぁ」
「自分じゃ分からないが、怒って見えるのか」
「ばっちり。でも、格好いいじゃん。そっちの方がキララちゃん好みかな」
「……」
意外な言葉に今度は玄咲が目を剥く。キララは星が飛ぶようなウィンクを飛ばして、指で丸を作った。
「OKOK。キララちゃんに任せて☆」
グルグル工房。グルグルは念押し。
「お兄さん、本当に雷属性にこんなに適正振って大丈夫? ポイントそこそこ持ってかれるよ?」
「ああ。やってくれ。必要なんだ」
「……分かった。じゃ、50万ポイント頂くよ」
「頼む」
「シャルナちゃんは30万ポイントね。闇属性適正を増やす、でいいんだよね?」
「うん」
「OK。ただの改造だから二人合わせて1時間もあれば十分かな。イベント日まで2日しかないしマッハで終わらせちゃうね」
魔工学科校舎内。
「ッ!」
玄咲は廊下の角に隠れた。シャルナも隠れる。
「どうしたの?」
「あれを見ろ」
「あれ?」
シャルナが覗く先、3人の人物がいた。ミッセルと、リュートと、アカネだった。ADを指さして仲良さげに談笑している。
「……あれは、パトロンとの距離感。そうか、ミッセルのパトロンはリュートとアカネだったのか。魔工学科と他人のAD事情は容量節約のため殆ど描写されなかったからわからなかったが、そうか、ミッセルはきっとメインキャラクターになる予定のキャラクターだったんだ。なればあの特徴的な性格・容姿と美少女具合も納得できる。なるほど。こんな裏設定がまだ隠れていたとは。くっ! 誰も知らない情報を俺だけが手に入れた。胸が、熱くなる……!」
「で、何で隠れてるの?」
「気まずいから。アカネもミッセルも、俺とあんま仲良くないからさ……」
「なら、仕方ないね。このまま気付かれないうちに――あ、気付かれた」
「え? あっ」
リュートが手を振りながらこちらに向かってくる。逃げるのも躊躇われて、廊下の角から姿を現し、少しの間会話した。意外と、普通に話せた。アカネの態度がシャルナもいるせいか少し柔らかかったし、ミッセルも何故か丸くなっていた。
「改造完了。ほら、このカード付きの巨大プレパラートみたいな道具をデバイスに差し込むと、改造後の適正が十段階で表示されるでしょ? ばっちり要望通りだよ」
「ありがとうグルグル。大好きだ」
「「!!!!!!!!!?」」
グルグルとシャルナが激烈な反応を示す。玄咲は狼狽えた。
「な、なんだ」
「玄咲、グルグルも、女の子!」
「え――あっ」
またグルグル眼鏡のマジックにかけられていたらしいと、玄咲は今更気付く。そして、ゲームで何十万回と話したせいで精神的距離が一方的に近すぎて距離感の狂った発言をしたことにも。
「ご、ごめん。グルグル。距離感が狂ってた」
「き、気にしないで! それだけ、親近感を持ってくれてるんだよね!」
「! ああ、そうなんだ! 100%本音だからそこは安心して――」
「玄咲」
ドスッ。
「うっ」
シャルナがエンジェリック・ダガーの柄を玄咲の背に突き刺した。骨と骨の合間に食い込む。痛い。
「……Loveじゃなくて、Like」
「分かってるよ? 分かってて、やってるの」
「……」
もしかしたらシャルナは少しだけ嫉妬深いのかもしれないと玄咲は思った。
「とにかく、もう行こうか。次にやることが控えてるしね。グルグル、ありがとう」
「……はっ! う、うん! またね! お兄さん!」
「あ、ああ、また、必ず」
「行こ!」
「あっ」
シャルナに強く手を引かれて退室。そしてドアを開けた瞬間。
むにゅん。
「おや、大胆」
「「!!!!!!!!?」」
コスモの胸に顔が埋もれた。あまりにも魅力的な肉の渦。ついでにコスモに背中を抱きかかえられている。まるで抱きしめられているかのような体勢。総毛だったシャルナに当然の如く電光石火で引き離され、ときめきパワーを感知してきたらしいコスモにシャルナが抱き着かれて「きゅー……」っとなり、コスモが黒くなり、それからまた色々あって、平和裏の内に、二人は魔工学科の校舎を後にした。
バトルセンター6号館前の通路。
「む、天之玄咲。今日はよく会うな」
「そうだな、リュート。それと……おはよう」
「今、お昼過ぎよ」
「……」
玄咲は相変わらずアカネが苦手だった。リュートが玄咲の後ろを見て言う。
「堕天使の子以外の生徒を連れてるとは珍しいな。しかも4人も。赤髪の君は前戦って僕が勝ったな。接戦だったな。良い戦いだった」
「……ふん」
「リーゼントの君はガタイがいいな。羨ましいよ」
「へっ、あたぼうよ!」
「青髪の君は眼の隈が凄いな。もっと寝た方がいいよ」
「うん! 心配してくれてありがと! リュートくん!」
「その隣の青髪の君は……えっと。可愛いね。ワスレナグサの青い華のようだよ」
「ふん! 褒めても無駄よ。私にはもう心に決めた人がいるんだから」
「そうか。いいことだ。今から集団訓練か?」
「ああ。簡易的なものだが、ちょっと本気で勝ちに行こうと思ってな。じゃあな」
リュートの脇を通ってバトルセンターに入る。リュートはその背中を見送った後、アカネに言った。
「……予定変更だ! 僕たちも集団訓練を行おう!」
バトルルーム。
2人は向かい合って、対戦開始ボタンを押す。シャルナが、真剣な目で、玄咲に告げる。
「玄咲。今日は、本気で、勝ちに行く」
「――」
玄咲は笑って、でも真剣な光をその瞳に宿して、言った。
「やって見るといい。俺にも負ける気はさらさらない」
「うん。やる。やって、見せる」
SDがカウントダウンを刻む。3,2,1――。
0。
「行くよ、玄咲!」
「来い、シャル!」
本気の二人が激突する。昨日とは段違いの本気で。
1日を徹して行われたそのカードバトルは玄咲が全勝した。その後、
「うぅ、ひっく、うえええぇぇぇぇん!」
下校時間、玄咲はカードバトル時以上の冷や汗を掻きながら、地面に膝をついて天井を見上げて大声をあげてバトルルーム内で本気の悔し泣きをするシャルナを必死に宥めていた。
「シャ、シャル、落ち着いて、そうだ、帰り、ラグマでカップラーメン奢るから……」
「!」
コクリ。
「うん。奢って……今日はスパイシーフード味がいい……」
「う、うん。3つ奢るよ。朝、昼、晩用だ」
「うん、ありがと……ぐす」
べそを拭いながら立ち上がったシャルナと途中ラグマに寄って人通りの多い道を通って寮に帰る。互いの部屋の前で別れる頃には手にビニール袋をぶら下げたシャルナはすっかり笑顔を取り戻していた。手を振り合って、同時にドアを開けて、隣り合う自室に帰宅した。
「……負けられ、ないよな」
閉じたドアの内側で、玄咲は真剣な表情で一人ごちる。