カード学園サヴァイヴ ~カードで全てが決まるゲーム世界の学園で狂人で軍人のゲーム廃人は天使のために最強になる~   作:哀原正十

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6日目 模擬戦

 朝、G組の教室。HR時。巨大地図を張り付けた黒板の前、隣に立つキララがキラキラの笑顔で意図して声に弾みをつける。

 

「という訳で、リーダーの熱い要望により作戦変更です! と言っても大枠は変わらないので、そこまで長い説明にはなりません。皆、少しだけ説明に付き合ってネ?」

「……(ジロ、ジロ)」

 

 キララに言われた通り、玄咲は教室中に睨みを効かせている。ちょっとピリピリしているので自然籠る迫力。反論や異論など出るはずもなく、変更した作戦は無事クラスメイトに受け入れられた。

 

「あと、今日はクラス全員でバトルセンター0号館集団訓練用バトルルームで模擬線を行います。異論は許しません」

「僕たちには拒否する権利が」

「悪いが拒否権は認めない。昨日狂夜とさとしも交えて決めた決定だ。やはり必要だろうと。クロウ教官にも既に許可は取ってある。他に何か言いたいことがある奴はいるか?」

 

 いなかった。

 

 

 

 

 バトルセンター0号館集団訓練用バトルルーム。

 模擬線後の小休憩時間。

 

(有意義な戦いだった)

 

 模擬線はクラスメイトが半数ずつに分かれて戦う形式でまず行われた。玄咲とシャルナが属するチームA。狂夜とキララとさとしが属するチームBの戦いだ。玄咲が属するチームAが圧勝した。バトルセンター0号館集団訓練用バトルルーム――ただただバカっ広いバトルルームの隅で、自ずと反省会会場と化したバトルルーム内で会話し合うクラスメイト達を眺めながら、玄咲は思う。

 

(思ったより、個人戦闘能力が重要な戦いになるか。俺も並の生徒なら数十人単位でかかってこられても蹴散らせたし、名のある生徒は一人で数十人分の働きをしていた。現実の戦争と違うな。俺の前世の末期が要人暗殺や警護が主な仕事だったのは、一人強い駒を戦場に配置したところで戦況は変わらないからだ。だが、この世界ではその常識が覆る。単騎が戦局を覆す。この発見だけでも模擬線を行った価値はあったな。1人で多数を相手取る。その選択肢に気付けた。そしてその選択肢を採択する状況がイベントではきっと訪れるだろう。俺も、シャルナも。狂夜くんもだな。特に彼は性格的にも、戦闘スタイル的にも、ロンリーウルフだから)

 

 バトルルームの端で腕組み不貞腐れた姿を見せる狂夜を見ながらの思考。長期戦になる程強くなるし、暴れさせたら一番厄介な駒なので、魔力消費度外視の短期戦を仕掛けたが、それでも巻き添えで結構な被害が出た。間違いなく次のイベントでは主力となるだろうと思う。その後はさとしを最大出力のフュージョン・マジックで倒し、キララもシャルナに速攻で潰させた。あとは烏合の衆と化した相手陣営を自陣営の生徒に任せて見守っていた。損耗率は8・2。司令塔の不在と士気の違い。そして突出した単騎戦力。その差が後半はもろに出た。その結果の圧勝だった。

 

「ぶいっ、ぶいっ」

 

 ニコニコピースサイン。シャルナは上機嫌だ。活躍できたからだろう。玄咲も笑って、シャルナの頭を撫でた。シャルナは喜んで撫でられるがままになった。

 

 

 

 さらに数回、模擬線を行った。そして時計の針が12時を指した頃、

 

「昼になったし一旦昼食挟もうか」

 

 キララのその号令で、昼食休憩を取ることになった。

 

 

 

 

 今日はバトルルームの隅っこでシャルナと並んでお弁当。いつものようにシャルナが作ってきたお弁当を二人で突っつく。

 

「美味しいね」

「うん。美味しいな」

 

 シャルナのお弁当は今日はなんとクラッシュヌードル。少しふやかしてから砕いたカップ麺に粉末に謎の調味ソースを掛け合わせた餡がかかっている。パリパリ焼きそば(皿うどん)みたいな食べ応え。チャレンジャブルな料理。味は正直イマイチ。悪くはないが、いつもの焼きラーメンの方が美味しい。だが、飽きさせまいという思いやりだけでもお弁当評価120点。もちろん100点満点中の120点満点だ。思いやりを抜いた点数はあえて考えない。バリボリ嚙み砕きながら会話を交わす。

 

「でもちょっと失敗」

「でも美味しいよ」

「素材がいいからね」

「シャルが作ってくれたからだよ」

「……ありがとう」

「世界一美味しい」

「……」

 

 ぷしゅー。

 

 そんな会話を交わしながら弁当を食べていると、キララが後ろ手を組んで近づいてきた。そして、シャルナをじーっと見た後、こう言った。

 

「あんた、あんなに強かったんだね。びっくりした。正直。ただの天之くんの犬だと思ってた。意外」

 

 シャルナが心底嬉しそうに頷く。

 

「犬も、間違いじゃ、ない」

「げふっげふっ!」

「あ、玄咲! はい、水!」

「あ、ありがとう」

「あっ」

 

 せき込む玄咲にシャルナが水筒の蓋に注いだ水を渡す。キララはしばらくその様子を惜しむように見ていたが、やがてふっと笑って、後ろ手に隠していたものを玄咲たちに晒した。黒い水筒だった。

 

「スポーツドリンク。差し入れに持ってきたんだけど、必要なさそうだね。じゃね、キララちゃん、やることがあるから」

「あ、ああ……」

 

 キララが去っていく。そして最後に、

 

「ちょっと、見る目変わった。イベント、頼りにしてるね。シャルナちゃん」

 

 そう言い残した。

 

「……うん!」

 

 シャルナは笑顔で頷いた。そしてその手に持つ水筒を見ながら、玄咲に言う。

 

「……意外と、優しいね」

「……ああ。ちょっと、誤解していたかもしれない。キララは、俺が思っていたよりもずっと優しい奴なのかも――」

 

 玄咲の眼が捉える。キララが玄咲に渡そうとした水筒と全く同じデザインの水筒を何人もの生徒が持っている光景を。美味しそうに呷っている。やたらと頻度が高い。そして、少しテンションが高い。玄咲の眼が、泳ぐ。

 

「どうしたの?」

「……いや、なんでもない。なんでもないんだ……」

 

 シャルナには、何も言わない。

 

 

 

 

 

「へへっ! なんか、痛みが鈍化して、むしろキモティー……」

「昼飯を補充した影響かァー? やる気満々! 集中力三倍ドンだぜぇええええええ!」

「俺の漆黒に興味があるのか? ならば鮮やかに見せてやろう。これが俺の黒光りするゲハァッ!」

「僕たちにはスポーツドリンクを飲む権利があるんだぁああああああああああああああああああああああああ!」

「遅ぇな。止まって見える。そして、体が走る! なんだこの感覚。覚醒? これが、そうなのか……?」

「僕たちのエデン、ここにあったね。姉さん。なんて、幸せな気持ちなんだろう……」

「ええ。もう何も怖くない。体が、軽い。死ぬまで戦える。そんな気分よ」

「あたい。体が燃えてきたよ。ああ熱い。この滾りは骨砕き肉割ける闘争の中でしか発散させられないねぇええええええええええええええええええ……! あぁ、本番が今から楽しみになってきたァ……!」

「……キヒヒ。空腹時の吸飲。そして吸飲直後の運動はよく回るよねぇ。それに特化させてるから尚更だよねぇ。キマッってるキマってる……」

 

(……やっぱり。ケミカル兵が大量に生まれてしまった……)

 

 ケミカル兵。ゲームでは一部の生徒が陥る特殊状態。全能力値が上がる代わりにターン毎に弱化するデメリット持ち。しかし雑魚戦は長期戦になることがほぼないので、敵モブがこの状態で出てきた場合殆ど純粋な強化メリットとなる。敵にケミカル兵が混じっていると思わず「うげっ」と言いたくなるくらいには厄介な存在。現実でも、面倒くさい相手だった。ひるまず、殺意マシマシで、超集中力状態で襲ってくる。こんな奴らがこの世界でも敵だなんてと玄咲は思いかけて――

 

(ん? よく考えたら今は味方なのか。……じゃ、いいや)

 

 それで済ませた。ケミカル兵の混じった相手チームは手強く、味方の損耗率が上がった。イベントではこいつらが味方になる。頼もしいと思った。玄咲は結構戦闘に関してはドライな割り切りをするタイプだった。

 

 

 

「ハァ、ハァ、キララァ、脳が疼いて仕方ねぇよ。どうしてくれんだよ……!」

 

 戦闘後、キララにケミカル兵が詰め寄る一幕があったが、

 

「よく考えて。あなたたち、今の自分で本当に満足? 本当にこの学園で生き残れると思う? いざという時、使える力、欲しくない? 無理強いはしない。けど、明日のイベントだけでいいからさ、使ってみない? 大丈夫。ケミカルは安心安全なくすり。意思の力があればね、すぐ断てるよ。後遺症なんて残らないよ。この学園に入学するくらいだもん。みんなさ、少しは自分に自信あるでしょ。ケミカルになんて負けないっていう、一番大事な、心の自信。だって今、既に正気取り戻してるじゃん。結構エグいの使ったのに。明日はこれより依存性が弱くて、でも効果は強いケミカル渡すからさ、せめて、明日のイベントだけでも、使ってみようよ。みんななら、絶対負けない。大丈夫。最初に行ったけど無理強いはしない。懐に忍ばせておく。それだけでいいから、サ……」

 

「……まぁ、一日、だけなら」

 

 全生徒が潜在的に抱く不安を刺激し、同時に解放の甘露をチラつかせるキララの巧みな説得で、「まぁ、明日だけでも……」というなし崩し的な空気を作られ、結局はみんな許した。内心、結構みんな不安を抱えているのだ。ケミカルだろうと何だろうと使って勝つ。そんな覚悟が、ケミカル兵たちの間に、いつの間にか生まれていた。

 

(……)

 

 玄咲はケミカルには一生手を出すまいと心に誓った。説得の巧みさが恐ろしかったからだ。

 

 

 

 

 

 模擬戦はその後もメンバー、チーム人数を入れ替えて数回行った。一番目立っていたのは狂夜だった。爆音がずっとなり続けていたし、戦闘スタイルが集団戦闘向きだった。単純に強かった。

 

 とても有意義な時間だった。レベルが上がったものも大勢いた。大成功と言えた。優勝できる。ポイントが手に入る。そんな予感に満ちた空気が最後には出来上がっていた。

 

 そして夕方、解散した。各々それぞれが必要だと思うことをする時間もまた必要だったから。

 

「まずはカードショップに行こうか。シャル」

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