カード学園サヴァイヴ ~カードで全てが決まるゲーム世界の学園で狂人で軍人のゲーム廃人は天使のために最強になる~   作:哀原正十

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6日目 決意

「わ、凄い、人だね」

「う、うん。当然予想して然るべきだったな……」

 

 カードショップは大混雑していた。1年生の客が殆どで、上級生などは人込みを見た途端、「明日にするか……」言わずとも分かる表情で去っていく。何せ、店の外からでも行列が見える。全20台のレジ。その全てに列が出来ている。

 

「どうする?」

「入るしかないよな。幸い買うカードはもう決めてある。速攻で並んで速攻で買って――」

 

 そこまで言いかけた時、少し遠くから声が聞こえた。

 

「あ、ゲンサック!」

「……クゥか」

 

 クゥ・クロルウィンが手を挙げてニコニコ近づいてくる。謎のあだ名呼びに玄咲は突っ込む。

 

「……なぜ、ゲンサック」

「あ、ごめん。いつも心の中でゲンサックって呼んでるから、つい」

「「!」」

 

 心の中であだ名呼びされてた事実にちょっと心がむずる。なので許可を出す。

 

「そ、そうか……! じゃあ、ゲンサックでいいよ」

「うん。ゲンサック」

「……」

「そういえば、G組のリーダー、ゲンサックだったんだね。びっくり、でもないか。納得した」

「ああ。明日は激突することになるかもな」

「うん。その時は」

 

 クゥが眼鏡を外して、エメラルド色の瞳を露出させて、玄咲にその瞳を近づける。

 

「この眼を使って、本気で叩き潰すね。風を読む本当の意味を、これを通して」

 

 バキュンポーズ、からの。

 

「教えてあげるよ」

 

 首を傾けながらのウィンク。玄咲はドキドキした。「う、うん。俺も頑張る……」と童貞を丸出しにして頷く。殆ど話を聞いていない。シャルナが時間を気にしてか玄咲の袖を引っ張って焦る。

 

「玄咲、急ご。早く、バトルルームに行って、2人で訓練しよ」

 

「ああ、そうだな。もうあまり時間がないものな。さっさとカードを買って、訓練に行こうか。クゥ、それじゃ」

「じゃね。ゲンサック。私、デバイス・ショップに用があるから」

「え? カードショップじゃなかったのか」

「うん。調整してもらってたAD、取りに来た。そっちの女の子も、さよなら。相変わらず、仲いいね」

「あ、うん」

 

 クゥが去っていく。シャルナが耳打ち。

 

「ちょっと、変わった雰囲気の子だよね」

「そうだな。クゥは変わってる。そして、強いよ」

「うん。なんとなく分かる。D組の、級長だっけ。仲良さげ、だね。……要警戒、だね」

「ああ。要警戒だ。それよりカードショップに入ろう。買わない訳にはいかないからな」

「だね」

 

 2人でカードショップへ。ぎゅうぎゅう詰めの店内に入店した途端、

 

「っと」

 

 シャルナが男子生徒にぶつかりかけたので、慌てて引き寄せた。そして男子生徒を睨み遠ざけてから、手を放さずに、告げる。

 

「シャル、俺の傍から離れるな。そして混んでる所には近づくな

「なんで?」

「……」

 

 情けない()()を隠すため、玄咲は勢いで押し切った。

 

「なんでもだ!」

「――うん。分かった。離れない」

 

 ギュ。

 

「ッ!? シャル、そういう、意味じゃ――」

「そういう風にしか、聞こえなかったよ。このまま、歩こうよ」

「う……ま、まぁ、そうだな。そっちの方が、合理的、だよな……」

 

 理論武装して、くっつきショップを見て回る二人。人通りの多い入口付近だけが人がだまになりやすかったのか、そこを抜けると、意外と人の循環がスムーズで、混雑してる割にパーソナルスペースをしっかり保てた。そしてあっという間にレジに辿り着き、並びかけて、

 

「あ、リーダー! へへっ! こっちこっち!」

 

 別の列に並び直してシャルナと会話する。

 

「さっきの鳥人の人と、仲、いいね」

「うん。クゥは心許した相手には人懐っこいんだ」

「なんで、心許されたの?」

「えっと、銃勝負で、互いの腕を認め合ったからかな。クゥは銃キチみたいなところあるから」

「なる、ほど。そう言えばあの人、D組の級長だったね。強いの?」

「強いよ。絶対強い」

「どれくらい?」

 

 小声でシャルナに耳打ち。

 

「多分、炎条司くんとも普通に戦える。必勝とはいかないだろうけど、互角以上にやり合えると思うよ。ゲームでもそうだったし、実際に対面した印象も変わらない」

 

 シャルナが咽ぶ。

 

「本当に?」

「ああ。特に今回のイベントは全フラッグリーダーの中で最もクゥに有利な条件だ。()()の狙撃手だからな。一番怖いまであると思ってる。魔力的にも、実力以上の力を発揮してくるだろう」

「よ、要警戒だね」

「いや、そこまで警戒はいらない。もし戦うことがあれば俺が仕留める。だから問題ない」

「……」

「どうした、シャル」

「自信満々な、玄咲の台詞が聞けて、ちょっと安心した」

「……そうか。心配させてごめん。もう心配いらない」

「うん。安心した」

 

 会話が一段落した。そのタイミングでレジのおばちゃんに呼ばれる。

 

「いらっしゃい。おや、あんた以前とんとことん饅頭買ったあんちゃんかい」

 

 おばちゃん。どうでもいい人種。玄咲は素で答えた。

 

「? 誰ですか」

「……」

「……ああ。初日のラグマの店員か。存在を忘れてた。なぜ、カードショップに」

「ヘルプだよ。人手不足のときはこっち来るんだ。こっちの方が給料がいいからね。……へぇ、その子にとんとことん饅頭をプレゼントしたのかい?」

「違います。思い出させないでください。あれは俺の黒歴史なんです」

「あはは。嫌われたのかい。やっぱりね――っと、雑談が過ぎたね。いかんいかん。注文を受け付けないと。欲しいカードの名前をこの注文書に書いてくれ」

 

 左右を仕切りで区切られたレジカウンターの中で、おばちゃんが注文書を渡してくる。真正面におばちゃんの顔を入れるのが嫌なのでずっと俯き気味だった玄咲はようやく目のやり場を見つけてほっとする。欲しいカード名を書き込む。

 

(えっと、ダークネス・チャージ・バレットと――)

 

 書き込み終わった注文書を渡し、カードを受け取り、支払い。シャルナも同様に。

 

「よし! 購入、完了! 早速、試運転しよ!」

 

「ああ!」

 

 2人は今度はバトルルームへと向かう。イベント前最後の訓練を行うために。

 

 シャルナとカードバトルするために。

 

 

 

 

 

「――」

 

 LOSE。

 己のSDに表示されたその文字を地面に尻もちを突きながら眺める。玄咲を見下ろすシャルナが、ADをカランカランと取り落して、声を震わす。

 

「げ、玄咲、私、勝ったの?」

「あ、ああ。負けて、しまったよ。はは、強く、なったな……」

「っ! うぅ、ううぅ……!」

 

 シャルナが涙ぐむ。そしてそのまま、

 

「うぇえええええええええええええええええええん!」

 

 迸る感情のままに号泣した。喜びを通り越してしまったらしい。シャルナはこの2日間、本当に鬼気迫る集中力を発揮していた。それが、ぷっつりと切れて、その勢いのままに泣き出してしまったのだろう。玄咲はそのシャルナに近づいて、

 

「――よく、頑張ったな」

 

 抱き締めた。頭を撫でた。思いっきり、優しく。

 

「うん。うん。頑張った。頑張った。頑張ったよぉ……!」

「ああ。ずっと見てた。頑張ってた、シャルは、強くなったよ」

 

 玄咲は、シャルナに負けることを恐れていた。負けたらどうなるかと心配していた。けど、実際に負けたら、シャルナの成長に喜びが止まらなかった。ただただ喜びを共有し合う。

 

 それはそれとして、悔しさがない訳でもなくて、むしろ猛烈に悔しくて。

 

「それじゃ、もう1戦しようか」

「え? ああ、うん。1回勝っただけだもんね。今度も、勝つよ!」

「――ああ、頑張れ、俺も」

 

 玄咲は笑って、言った。

 

「本気で勝ちに行く」

 

 

 

 

 

「……玄咲、手、抜いてた?」

「抜いてない」

「……でもさ、なんか、躊躇というか、遠慮がなくなったよね?」

「そうかもしれない。本当の意味で余裕がなくなったというか」

「……あーあ。結局、あれから勝ったのあの1回だけかぁ。それも、まぐれの要素が大きいし、まだ、本当の意味で勝つ日は、遠そうだなぁ」

「……そうだな。俺は、シャルにだけは絶対負けたくないんだ」

「男の子だね」

「ああ。シャルにはな、ずっと、格好いいところを見せたいんだ。だから俺もさ、もっと、もっと、強くなるよ。シャルの成長に負けないくらいのスピードで」

 

「うん。ずっと、前にいて。私、それを、追いかけるから。ずっと、ずっと」

 

 玄咲は、微笑む。シャルナも、微笑む。現実的に考えれば、きっといつかはシャルナに抜かれる。それくらい、シャルナの才能は飛びぬけてる。だとしても、それでもだ。

 

 夢を、見ようと思う。

 

 ずっと、シャルナの前を、走り続ける夢を

 

 そしてその夢が叶うように。

 

「さぁ、もっと、頑張ろうか!」

 

 

 

 

 

 

 夜。

 自室。

 

「……バエル。俺さ」

「なに、玄咲」

 

「やれるかな?」

 

「――」

 

 バエルは、微笑む。

 

「大丈夫よ。あなたの本質を発揮すれば、きっと上手く行く。だから、自分を信じて」

「……ああ」

 

 その言葉で決意を固める。

 

「ありがとうバエル。俺、やってみるよ。簡単なものだけど道具も準備したし、やるしかないよな」

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