カード学園サヴァイヴ ~カードで全てが決まるゲーム世界の学園で狂人で軍人のゲーム廃人は天使のために最強になる~ 作:哀原正十
第1話 クラス対抗ストラテジーウォー ―開会宣言―
裏山。
小さな山が7つ。その狭間に木々に囲まれながらも戦闘スペースとして最適な多くの開けた陸地を持つ人工山脈。主に魔物の生息地帯に生える、発火しない性質の特殊な魔木を植えているため、炎魔法や雷魔法で山火事になる心配はない。
その裏山の麓の開けたスペースに1学年全校生徒が集まっている。A組~G組の生徒が一所に集っている。その表情は数名の例外はあれど一様に引き締まっている。なんとなしに人込みの中を生徒たちの様子を眺めながら歩いていると、
「あ、いた」
突然背後から声を掛けられた。玄咲は気まずさを覚えながら振り返る。
「……なんだ。神楽坂アカネ」
赤髪ツインテール、活発、超巨乳のCMAメインヒロイン。神楽坂アカネ。今日は隣にリュートを伴っておらず単独行動。転生後の玄咲の人生を初日から大きく変えた――シャルナと隣の席にしてくれたある意味大恩人。ではあるものの、未だに初日のおっぱい事件を引き摺ってアカネと会う度気まずくなってしまう。それとなく目を逸らす玄咲にアカネは、
「いつまで初日の事意識してんのよ……私、もう気にしてないから、あなたももう気にしないで」
「――え?」
アカネはため息をついて、でも笑った。シャルナはちらっと見て、
「あんた、見た目ほど悪い奴じゃなさそうだしね。それに、会う度意識されたらそっちの方が逆に気疲れするわ。過去はこの場限り清算して、これからはフラットに付き合っていきましょう。学友としてね」
「い、いいのか?」
「いいっていいって。やっぱり人生、いつだって明るく、楽しく、ワクワクしていたいじゃない? 嫌なこと引き摺ってうじうじじめじめなんて、今日日流行んないしね」
「え? まぁ、そうだな。生きてる限り決して叶いはしない理想論だが」
「う……」
玄咲のネガティブな返答が予想外だったのか呻いたあと、アカネはため息をついた。
「……はぁ、やっぱあなたとは根本的に合わない感じがするわね。とにかく、イベントが始まる前にそれだけ伝えときたかった」
「あ、ありがとう。でも、何で急に」
「清算しときたかったのよ。ぶつかるかもしれないから、変な感情挟みこんでほしくなくてね」
戦意に満ちた言葉。アカネも魔符士であると、その言葉で玄咲は再認識した。
「じゃね。戦うことがあれば、全力で」
アカネが手を振って去っていく。その背を見ながら玄咲は思う。
(いい子、だな。やっぱり。ワクワクすることが大好きな、少し気の強い、だけどカラッと明るい性格の女の子。あっさりと許してくれたのも、うん、実に彼女らしい)
「――いい子、だよね。凄く」
玄咲と同じ感想を抱いたらしいシャルナが放しかけてくる。
「ああ。アカネはいい子だよ。しばらく忘れていたが、ああいう子なんだ。ヒロユキと同じで本質的に善人なんだよ。どうしようもなくな」
「……うん。知ってる」
「そうか」
シャルナも玄咲の知らないところで、アカネと友情を育んでいたらしい。嬉しく思った。シャルナに友好的に接してくれる人間が、友達が増えることを。もっと増えたらいいなと思った。
「それにしても、皆、真剣な表情だね」
シャルナが周囲を見渡して、言う。
「そりゃそうだ。ラグナロク学園に入学するだけあって、基本的にみな意識が高い。卒業を目指している。そりゃ」
「べんとらー! べんとらー!」
「みんな真剣な表情にもなるさ」
「ねぇ、今何で、コスモちゃん、無視したの?」
「……シリアスな空気が壊れるかなって」
「あ、うん」
人混みの外れで宇宙に交信を試みているコスモをちらりと見て、スペース級に可愛いなと胸をときめかせてから、玄咲はSDに視線をやる。
「……そういえばもう開催時刻30分前だな」
「うん。17・00から。23・00だったね」
「ゲーム通りならそろそろ開催宣言が――っと、始まるようだ」
ずっと時計で時刻を確認していたマギサが、時計をポケットに締まって生徒たちに宣言した。
「時間ぴったしだ。それではこれから開会宣言を始める」
一瞬で、空気が引き締まる。
全校生徒の前に置かれた壇上にマギサがカツ、カツと登壇する。それだけで、空気が引き締まる。その身に纏う威厳が、その顔に刻まれた皴が、衰えて尚世界最強という生きる伝説の貫禄に、生徒たちの表情が引き締まる。
「――かつて、戦争があった」
生徒たちの視線を一身に集めてマギサ・オロロージオが話し始める。
「ラグナロク大戦と呼ばれる何百万人もの死者を出した戦争だ。カード魔法は発展しすぎたのさ。AD、そしてカード作成の技術双方ともにね。本当に、誇張でなく、人類は一度滅びかけた。そこから急速に文明を再建したのもカード魔法の力だけどね。とにかく、何が言いたいかって、カード魔法は強力で、危険な力だ。だからカード法はガッチガチに整備されている」
(……ゲームと同じ説明。何一つ面白くないからいつもスキップしてた。だけど、今は全く別印象だ。身に染みる。まじめに、聞こう)
玄咲の隣のシャルナも、真剣な表情で話を聞いている。メモ帳すら、出していない。
「いいかい。カード魔法はね、危険な力なんだ。そしてAD制作の技術もカード制作の技術も当時より跳ね上がっている。今第二次ラグナロク大戦が起きたら間違いなく人類が滅ぶだろう。だが、それでも国家間の諍いは絶えない。だから代理戦争である天下壱符闘会が存在する。だが、符闘会は設立時に一つ大きな失敗を犯した」
マギサが人差し指を立てる。
「優勝国――覇国に権力を持たせ過ぎた。そのせいで、どんな国家でも優勝すれば世界を左右できる力を持ててしまう。今はエルロード聖国とかいうキチガイ国家が浄滅法を敷いてアマルティアン差別を行っているね。自分には関係ないと思ってるやつもいるだろうけど、大間違いだよ。断言する。次は全ての亜人が迫害される番だ」
ピリッと、空気がひりつく。亜人。まだ数は少ないながら、既に人権を経て、愛すべき隣人として、人類の一員として暮らしている存在。亜人の中に、大事なものがいる生徒も一人や二人ではない。そして異様に多くの亜人が集まったこの学校で、亜人と友人になった生徒も一人や二人ではない。
それが、迫害される。だから、リアルな想像を掻き立てられる。特にG組の生徒は、尚更強く掻き立てられた。国内におけるエルロード勢力の象徴のような男の暴虐を、見せつけられてきたから。
「大マジな話だよ。あそこの現教皇はね、戦争で狂った。恨みだけで生きてる。だから正気じゃない判断を大マジにする。勿論、既に人類の中で結構な分母を締める亜人がそんな法を受け入れる訳はない。だが、アマルティアン法で慣らされた人間は、エルロード聖国の脅迫あるいは後盾の下、嫌でも迫害を行うことになるだろう。誰もがとは言わないが、大多数がね。そしたら何が起こるか、想像に難くない。戦争が起こる。世界が滅ぶ……かもしれない」
(……バッドエンドルートだな。特殊条件を満たした場合のみ分岐する特殊END。だが、この世界では条件なんて関係なくエルロード聖国が優勝してしまうかもしれない。一番確実なのは、やはり――)
玄咲の思考の先を、マギサが少し変形させて代弁する。
「だから、あんたらが優勝しろ。無茶をと思うな。1年で魂成期の生徒を符闘会に通用するレベルにまで引き上げる。もうそれだけのことができるレベルにまでこの学園は至った。もちろん。誰もかれもとは言わない。素質の差はあるからね。けど、隣にいる奴が強くなれば、素質のあるやつも奮起する。全員が強くなっていくことに意味があるんだ。そこにレベル上げの鍵があるんだ。符闘会はチーム戦なんだよ。その本当の意味を教えるために、このイベントを行う。私も戦争で色々学んだ。あんたたちもそれを模したこの模擬せ――イベントで色々学んで欲しい」
「――」
言葉、内容もそうだが、何よりその身から発する、威厳、圧力。それに、圧倒されずにいられない。引き締まった。誰もの、心が。学園長が学園長を務めている意味を、理屈でなく心で理解させられた。イベントを模擬戦と言いかけたことなど誰も気にしなかった。薄々察していたからだ。
「以上で、私の開会挨拶を終える。以後各クラス、担任に従って開始位置につくように。以上、解散!」
イベントが、始まる。