カード学園サヴァイヴ ~カードで全てが決まるゲーム世界の学園で狂人で軍人のゲーム廃人は天使のために最強になる~   作:哀原正十

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第2話 作戦開始

 開会宣言後、ごった返す人並みの中、クロウの元へと向かいながらシャルナと会話する。

 

「……相変わらず、凄い迫力だったね」

「そうだな。凄かった」

「……」

「どうした、シャル。俺の顔をじっと見て――」

「玄咲、あのさ。気負い過ぎないでね」

「――」

 

 その言葉は。

 玄咲の内心を見透かしているようでドキッとした。

 気のせいだろうと信じながら、誤魔化す。努めて自然な表情、声でシャルナに言う。

 

「緊張が、顔に出ていたか」

「う、うん。怖――ばってた」

「気負い過ぎていたんだろう。俺だって緊張くらいする」

「そう、だね。そうだよ、ね……うん。気のせい、だよね」

「あ、ああ。気のせい、だ……」

  

 さらっと自然に言い切ればいいものを、罪悪感が言葉を濁らせる。2人、立ち止まる。気まずい沈黙が流れる。騒々しく周りを行きかう生徒たちの怪訝な目に押されるようにして、2人はまた歩き出した。

 

「クロウ教官のところに行こう」

「うん」

 

 それでも歩みは自然と揃う。

 

 

 

 

 

 

「さぁお前ら。いよいよ始まりだ。このイベント開始後、俺はもうお前たちに関われない。各自、リーダーとサブリーダーの意見をよく聞いて行動しろ。これだけの人数だ、とにかく意思統一がなされるかなされていないかで誇張でなく10倍以上の戦力差が出る。リーダー・サブリーダーによく従え」

 

 G組の開始地点。7つある山の一つの山頂。クロウはG組の生徒たちに最後のアドバイスを行っている。

 

「そして、諦めず最後まで戦え。痛いだろう。苦しいだろう。だが、それでも戦え。それが本当のカードバトルだ。その土壇場の根性がここぞで勝負を分ける。符闘会で優勝経験のある俺が断言する。死地でしか拾えないものが確かにある。それをここで拾え。まぁ、要約すると、リーダーの指揮に従え。そして――」

 

 最後にフッと笑って、

 

「最後まで全力で戦え。いつだってそれだけだ。魔符士のやることなんてな。シンプルでいいだろう?」

 

 軽く、そう纏めた。いつもと変わらないクロウが、いつもより頼もしく見えた。一人の青髪の女生徒が思わず抱き着いたのも全く無理からぬことだった。

 

「それじゃ俺はもう行く。開始時刻になったらSDのブザーがなる。検討を祈る。天之、キララ、しっかり纏めろよ。そして、他の生徒はちゃんと従えよ。じゃあな」

 

 クロウの少し頼りない、だけどやっぱり頼もしい背が遠ざかっていく。 クロウの少し頼りない、だけどやっぱり頼もしい背が遠ざかっていく。その背を隣り合って見つめるシャルナがポツリと、

 

「……本当さ、意外と、いい先生だよね。ちゃんと、生徒想いでさ」

「ああ。クララ先生の方がいい先生だけど」

「うん」

「クロウ先生でよかったとも思うよ」

「そだね」

「クララ先生にG組は纏められないからな」

「……そだね」

 

 苦笑するシャルナ。玄咲はその笑顔を眩しいものを見る目で見た後、最終確認に移ることにした。

 

 

「……最後にもう一度だけ作戦を確認しようか」

 

 玄咲はこの数日で大分顔と名前を覚えたG組の生徒たちを一望して告げる。

 

「G組を囲うように配置された3つの山。それぞれにD組。E組。F組が陣取っている。この内のF組を最初に潰してそのままF組の山に陣地を移行して包囲状態を解除する。その後の対応は他の組の動きを見てから決める。だが、まずはF組をぶっ潰す。作戦は――」

 

 

 

 

 

 F組。

 

「いいか貴様ら。とにかくリーダーを狙え。吾輩は今年就任したばかりの若輩だが、過去のデータを見るにその戦術が最も勝率が高い。そして先ほど戻ってきたリーダーの射弦義カミナ君。そしてサブリーダーの神名木イツキちゃんによく従うように。そして吾輩の成績に貢献するように。では、吾輩は職務があるのでこれで。いいか? とにかくカミナくんによく従うんだぞ? 分かったな!」

 

 マギサがカミナに合わせて取ったエルロード教徒の職員ダズモズ・ブルータスが著しくやる気の萎える演説をしてF組を離れていく。サブリーダーの神名木イツキ――カミナの家に2週間前まで仕えてカミナに忠誠を誓っていた元奴隷メイドがカミナに嬉しそうに近づく。

 

「お帰りなさい。カミナ様」

 

 黒い髪にカチューシャをつけた、カミナちゃん程ではないにしても美少女と呼べる容姿の持ち主だ。そこそこ情を持っていた記憶がある。だがカミナは無表情かつ冷淡に告げた。

 

「作戦とか、決まってますか?」

 

「大雑把にですが。まず、一番近いE組を倒そうかと」

 

「作戦変更です。僕についてきてください。まずG組をぶっ潰します。ダズモズ先生の言っていた通りリーダーを――天之玄咲を最優先してぶっ殺しましょう。ああ、ただ殺すだけじゃ意味ありませんね。一生のトラウマになるくらい惨たらしくぶち殺しましょう。白髪の堕天使のシャルナ・エルフィンも見つけ次第惨たらしくぶち殺してください。()()()()()いいですから。その2人には僕個人から懸賞金を掛けましょう。僕が満足する殺し方をしてくれた10億マニー差し上げますよ」

 

 F組の雰囲気が変わった。キチガイが何か語っている。そんな視線が、吊り下げられた人生という苦役からの脱出のチャンスに、殺しても罪にならないという特異な状況に、どうしても欲望というノイズに濁ってしまう。

 

 だが、当然強く反対する生徒もいた。

 

「――興味ないな」

 

 赤髪をオールバックにした、顔も体格も家柄もいい人格以外は模範的貴族のラズワルド・イェーガーがカミナに反対する。

 

「興味ないな。生憎金には困ってないんでね。品性下劣な奴に付き合う気はない。-この鼻つまみものの射弦義家のゴミあが」

 

 カミナは躊躇なくラズワルドの首を蹴り折った。力なくうなだれるラズワルドの腹に蹴り。ズザァーっと、自分たちの方へ滑ってくるラズワルドを見て、F組の生徒たちが悲鳴を上げた。

 

「し、死んでる! うわー! うわーーー!」

「白目剝いて、脈もない。動か……ない……ラズワルドくーーーーーーーん! ラズワルドぉおおおオオオオオオ!」

「キャーっ! 人殺しよーーーーーーーー!」

「う、嘘だろ……こいつ、仲間を殺しやがったっっっ!!!!!!!!!!!!」

「カミナッ!!!! テメー、一線超えやがったなッ!!!!!!!!!! 今度という今度は許せねーッ!!!!!!!! ブッ!!!!!!!!!!!!!!!! 殺――」

 

「黙れ背教者(クソカス)共。殺すぞ」

 

 狂気でドロドロに底濁りした苔色の瞳で放たれる殺意と狂気が充満した声。本気だと一瞬で伝わる。F組の生徒が静まりかえる。

 

「それで、他に反対意見のある人はいますか?」

 

 いなかった。作戦は強制であると、誰もがそう理解したから。

 

「よろしい。では、開始の時を待ちましょう」

「カミナ様、また、変わりましたね……」

「イツキ。君は僕と行動するんだ。僕一人であいつの相手は荷が重い。いざというときは肉壁になれ。いいな」

「……はい」

 

 イツキはただ粛々と頷いた。カミナはSDの時計を殺人鬼の眼光で睨む。

 

「あと、5分か……」

 

 

 

 

 

 

「あと、5分か……」

 

 G組の雰囲気も流石に重々しい。玄咲はあまりよくない雰囲気だなと思った。だから活を入れることにした。大きめの声で、全員に聞こえるように。

 

「いいか。まずはF組を倒す。そのことだけを考えろ。一事に集中している内にいつの間にか忘れている。緊張なんてその程度のものだ。安心しろ。最後は俺たちが勝つ。規定事項に向かって突っ走るだけだ。俺がいる。シャルナがいる。狂夜君がいる。キララがいる。さとしがいる。これだけ強力な魔符士が揃っているクラスは他にない。模擬線でも思い知ったはずだ。強力な個人は一騎当千になりうる」

 

 玄咲はずっと素質値を基準に魔符士としての能力を図ってきた。だが、それは間違いだなと前日の模擬戦で決定的に思い知った。

 

 魔力は、数値で図れるようなデジタルなものではないし、強力な魔力を持った魔符士の力は凡百とは明らかに一線を画する。素質値で計算したらタコ殴りにすれば勝てそうな状況でも、圧倒的な抗魔力の差で、攻勢魔力の差で、同じADを使っていても明確に異なる魔法の出力差で、劣勢を覆してしまう。当たり前だった。ゲームのストーリーではそういう描写をされていた。素質値なんて、ゲームバランスのとり方があまり上手ではないCMAの開発者が苦心して作り上げたステータス指針でしかない。カードの数値と同じく傾向把握程度の参考にはなる。だが、それだけだ。

 

 要は強い魔符士はスーパーマンなのだ。滅茶苦茶に強い。

 才能の差がより残酷になった世界だともいえる。

 

「だから絶対に勝つ。ただそいつらの後ろをついてこい。そしてリーダーやサブリーダーの相手はそいつらに任せろ。他の奴らはただ補助、そして雑魚の対処だけしていればいい。最初に決めた方針通りに動け。迷ったら――全員で決めた方針を信じろ。それで何もかも間違いない。最後は――俺たちが勝つ」

 

 傲慢なまでの自信を添えて、断言する。リーダーは不安がってはならない。間違っていても断じなければならない。選択と覚悟を示さなければならない。

 

 そして示せば、自然と集団はついてくる。

 

「へっ、余裕よ。雑魚はともかく俺に不安なんてありゃしねぇ」

「たまにはリーダーらしいとこ見せてくれるじゃん? ま、そうでないとね」

「ふん。いつもそうあれ。俺はそっちの方が好みだ」

 

 真っ先に信号機トリオが答えてくれる。最初から緊張なんて見えなかったが、それでもだ。そして――

 

「……しゃーねぇなぁ。ま、ポイントのためだ。このイベント中だけは真面目にやってやっか!」

「ええ。ポイントとセンセのためだものね。頑張りましょう」

「最低でも10万ポイント。つまり100万マニー。それからさらに上乗せで……1000万マニーも目指せるかも……うぇへへ」

「まぁ、それだけじゃねぇけどよ。単純にさ……全員で1位、取りてぇよな。ここまできたら」

「ふっ、時には権利よりも大事なもの()があります、か……」

 

 頷き、笑い、頬を張り、肯定を示すG組の生徒を見て、スタートダッシュは大丈夫そうだなと玄咲は判断した。

 

「シャルも、緊張していないか? 初っ端から大事な役割を任せることになるが」

 

 最後に、シャルナのコンディション確認。クラス一、いや、学年一スピードに関しては頼りになる、シャルナにしか任せられない役割をシャルナには任せている。もちろん過剰不安から心配で確認したという側面もある。何せ実戦だ。どんなイレギュラーが起こるか分からない。どうしても不安になる。少しひいき目に心配してしまう。

 

「大丈夫」

 

 シャルナは常と変わらない様子で答えた。心配なんていらない、そう伝えるように。

 

「練習は本番通りに。本番は練習通りに、だよね?」

「ああ。その通りだ。イレギュラーな事態は、動揺以上に単純に対処方法がインプットされていないから対処に困る。こうなればこうする。確固たる指針を自分の中に持っていれば、さほど混乱はしない」

「うん。それに何よりね」

 

 シャルナが頼もし気に、玄咲を見上げる。

 

「玄咲が、隣にいるから」

 

「……そうか。でも、多分、別行動をすることもあると思う。その時は」

「大丈夫」

 

 シャルナが胸に手を当てて微笑む。

 

「いつもここに、玄咲がいるから」

 

「――そうか」

 

 絶対守る。改めて、決意した。

 

 何を、してでも。

 

【18・00】

 

 SDのブザーが鳴る。イベント開始の合図。玄咲はシャルナと駆け出しつつ、G組全員へと吠えた。迷いのない足音が玄咲に続く。

 

「行くぞ! 作戦開始だ!」

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