カード学園サヴァイヴ ~カードで全てが決まるゲーム世界の学園で狂人で軍人のゲーム廃人は天使のために最強になる~ 作:哀原正十
「――す、ごい、威力……」
「……そうだな」
凄い威力――それだけではないだろう。眼下の惨状に対して心に抱いた感想は。だが、言葉には出さない。戦闘中に、ノイズとなる感想はなるべく挟まない。玄咲が強く教えたことでもある。シャルナはそれを実践しているのだろう。手が震えていることには何も突っ込まない。情動は本当の意味では抑えきれるものではない。
「下ろすね」
「ああ」
シャルナが玄咲を下ろす。そして、予定通りに行動する。
「玄咲が、あいつを、追う。私が、その間に、撃ち漏らした敵を、一人でも多く倒して、ポイントを稼ぐ。だっけ?」
「ああ。すぐに追う」
玄咲はシャルナに背を向けた。シャルナがその背に問う。
「ねぇ、少量のポイントに、そこまで拘る意味、あるかな? 2人で、追った方が、確実じゃない?」
「――ある」
多分ない。
「もしかしたら1ポイントを争う展開になるかもしれない。念には念をだ。そもそもカミナは俺一人で十分な相手だ。分かれて行動した方が勝利に繋がる」
嘘ばかりだ。多分シャルナの言う通りだ。だが、エゴを通さないといけない。シャルナの未来を守るために。シャルナの幸せを守るために。シャルナの笑顔を守るために。シャルナの楽園を守るために――。
シャルナに嫌われないために。
シャルナは頷いてくれた。そう信じる。
「分かった」
同意してくれたから。振り返る勇気はない。その表情を見るのが怖いから。背を向けたまま走り出す。
(カミナ。全て貴様のせいだ。カミナ。絶対殺す。カミナ。カミナ。カミナ――地獄に堕としてやる。楽園から追放してやる。二度と歯向かえないように――)
カミナの背をひたすら見つめる。森の中に逃走する。もう少し逃げてくれ。誰の眼も届かない奥まで。思いながら逃がし続ける。丁度いい場所に辿り着くまで。心を壊してもいい場所にたどり着くまで。
「はっ、はっ、はっ、はっ……!」
逃げる。逃げる。逃げる。逃げる。よくもこんなスピードで。自分でもそう驚くくらいの速度で逃げる。ただ、それだけ怖いという証である。なにせ、後ろのどれだけ急いでもつかず離れず追ってくる男は、その形相と言ったら――。
「ひっ! う、うわぁああああああああああ! このクソカスがぁああああああああああ!」
カミナは振り返ったことを後悔した。あんな恐ろしい顔見たことない。殺意なんてもんじゃない。害意がつまってる。一度つかまったらあの悪魔のような形相の男に、殺すなんて生ぬるい所業じゃ終わらないことをされるに違いなかった。だから、足が止まらない。まるで自走機械のように肉体の悲鳴を無視して走り続ける。怖い、怖い、怖い、怖い! 自分が今までしてきたようなことを自分がされると思ったら恐怖で足が震える。それでも信仰があれば、信仰さえあれば何だって耐えられたはずなのに。そのはずなのに――。
裁きの光が信仰の土台を壊してしまった。カミナは迷っている。揺らいでいる。とてもじゃないが心を頑なに保つなんてことできやしない。なのに、それなのに、
「うわあぁあああああっぁぁぁぁっぁぁああああああ! 追ってくるなよこのキチガイィイイイイイイイイイイ!」
化け物は追ってくる。今、一番追ってほしくないこの時に、見計らったように、悪魔的なタイミングでカミナを追跡してくる。怖い、怖い、怖い、怖い、怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い――!
ケツ穴を差し出したら許してくれるだろうか――。
「あっ!」
そんなノイズを思考に挟んだのがよくなかったのだろう。つまづいてしまう。速度をつけていたので相当な速度で転び、丁度斜面だったので勢いは止まらずゴロゴロと岩や石や砂利や木の枝で全神に擦り傷を負いながら転がり、大木に丁度表を向いた背中をぶつけた。それでようやく止まった。痛みを堪えながら立ち上がろうとする。
ザっ、ザっ。
「――あ、あ……」
――顔を、上げられない。それでも、敵を認識しないことには抵抗も逃走も図れない。ゆっくりと、面を上げ――。
「――丁度いい。この辺で始めようか」
赤い瞳から地獄のような色のオーラを漂わせて悪魔の形相で近づいてくる男と目が合った。
「――」
じょろろ……。
カミナは失禁した。