カード学園サヴァイヴ ~カードで全てが決まるゲーム世界の学園で狂人で軍人のゲーム廃人は天使のために最強になる~ 作:哀原正十
見たことのない表情だった。
あの女といる時――つまり学園にいるときは決して見せなかった表情。学園にいる時は、どこか平和な色を宿していた。甘さがあった。弱さがあった。いつも少し腑抜けていた。怖さはあったが、狂気で塗り潰せた。ジョーさんが本気で怒ったときの方が余程怖かったから。でも、今は。
(別人だ。誰だよ、お前は――いや、それが本当の、お前なのか。ジョーさんを半殺しにした時の、お前なのか――!)
瞬時に怒りが燃え上がる。カミナの最大の仇。それはやはりシャルナ・エルフィンではなく、もっともサンダージョーに恥辱を味わわせたこいつに他ならない。改めて認識した。シャルナ・エルフィンではない。本当に復讐すべきは――――!
「手早く済ませるぞ。時間がない」
こいつ、なのだと。拳を、握る。怒りが、爆発する。カミナは身に着けた全ての体術を駆使して男に猛然と襲い掛かる。立ち上がる勢いと怒りを全て拳に乗せてアッパーカットを顎目掛けて放つ。
「天之玄咲! 死ねぶげら!」
――いつの間にか、手首を握り壊されて、地面に鷲掴みにされた顔面を叩きつけられていた。意味が分からなかった。人間の身体能力じゃなかった。男が、語る。
「バエルに、聞いたんだ。この世界でのこの眼は魂に根差した魔力現象なんだって。この眼になっている間は、魔力が増大しているらしい。そして身体能力の強化幅が大きくなるらしい。理由は単純。魂の力が増大するからだ。想いを力にって奴だよ。大空ライト君がしょっちゅうやってた奴だ。ご都合主義だと思っていたが、いざ身に宿すとしっくりくるとしか言いようがない。魂が沸騰しそうなくらい熱いんだ。これで魂から出ずる魔力に何の影響もないって言ったら、嘘だろ」
「な、何の話を」
「おっと。無駄話をしている場合じゃないな。サイレンス・フィールド」
男とカミナを丁度包む程度の半透明の防音結界が発生した。カミナは懇願した。
「――や、やめて」
「今から拷問を始める」
返答は即座だった。多分返答ですらなく規定事項をただ口にしただけなのだろうと容易に想像できた。
こえがふるえないようにするのにひっしだった。
おかしかった。こんなはずじゃなかった。もっとさらっとやってのけれるはずだった。じぶんはそういうことができるにんげんのはずだった。なのに、なのに、なのに、なんで、なんで、なんで、なんで、こんなにからだがふるえそうになってるんだ。こころがさむいんだ。たましいがじごくにおちるよかんにおびえてるんだ。じごくをおそれてるんだ。おれはしゃるのためならむてきになれるはずなのに――。
「――? はっ! に、にげっ!」
ズドン!!!!!!!!!!!!!!!!
「――カハッ!」
「――逃げるなよ。逃げられるはずないんだよ。俺も、お前も。逃げ場所なんてないんだ。逃げるためには目の前の相手を壊すしかないんだ。目に映るすべての敵を殺すんだ。そして必要とあらば拷問して情報を抜き出すんだ。生きるためだ。神は、死んだ。無法が法になった。そんな世界で生きるためにはどうすればいいと思う? 悪魔になるんだ。神のいない世界は悪魔的行為が裁かれない世界なんだ。だから皆狂う。正義の不在を悟って。だから皆平気で殺す。目の前の相手を。だが、そんな世界にあってもクララ先生は勇敢で優しくて、正義を信じていたんだ。だから俺も狂わずにいられた。正義をこの胸に宿していられた。分かるな? 今から俺がお前に行うことはそういうことだ。正義だ。正義を行うんだ。正義を、正義を――!」
「はっ、はっ、狂人め! やめろ、やめて、死んで、死ね――!」
「そんな正義なんてこの世にありゃしないんだよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
――カミナの両手両足を壊した。肘と膝。砕いて、ぐにゃぐにゃ曲げて、骨と肉と血と皮膚を混ぜて、もう一度叩き潰した。カミナはずっと泣いてた。でも、俺にはそれが嘘泣きだと分かってた。拷問を受けたらまず泣く。当たり前だ。でも、心の深奥は中々折れない。折れてくれない。折れて欲しいのに折れてくれない。俺がそうだったから分かる。こんなもんじゃない。こんなもんじゃ、教信者の心は折れない。俺がそうだったから分かる。愛も正義も優しさも平和も幸せも笑顔もCMAも意味をなくす地獄はこんなものじゃない。カミナもそうだ。俺には分かる。俺はお前なんだから。拷問をする俺が俺で拷問を受けるお前が俺で、つまりカミナは俺で、つまり俺を殺すために今から拷問するんだ。俺が壊れること全部しないとこいつは壊れない。俺には分かる。「ハァ、ハァ」俺には分かる。「ハァ、ハァ」俺には「ハァ、ハァ」る。俺には分かる俺には分かる俺「ハァ、ハァ」は分かる俺には分かる俺には分かる俺には分かる俺には「ハァ、ハァ」分かる俺には分かる俺には分かる俺には分かる俺には「ハァ、ハァ」分かる俺には分かる俺には分かる俺には分かる俺には分かる俺には分かる俺には分かる俺には分かる俺には分かる俺には「ハァ、ハァ」俺には分かる俺には分かる「ハァ、ハァ」俺には分かる俺には分かる俺には分かる俺には分かる俺には分かる俺には分かる俺には分かる俺に「ハァ、ハァ」俺には分かる俺には分かる俺には分かる俺には分かる俺には「ハァ、ハァ」分かる俺には分かる俺には分かる俺に「ハァ、ハァ」分かる俺には「ハァ、ハァ」かる俺には分かる「ハァ、ハァ」は分かる俺には分かる俺には分かる俺には分かる俺には分かる俺には分かる俺には分か「ハァ、ハァ」には分かる俺には分かる俺には分か「ハァ、ハァ」る俺には分かる「ハァ、ハァ」る俺には分かる俺には分かる俺には分かる俺には分かる俺には分かる俺には分かる俺には分か「ハァ、ハァ」俺には分かる俺には分かる「ハァ、ハァ」俺には分かる「ハァ、ハァ」「ハァ、ハァ」「ハァ、ハァ」「ハァ、ハァ」「ハァ、ハァ」「ハァ、ハァ」「ハァ、ハァ」「ハァ、ハァ」「ハァ、ハァ」「ハァ、ハァ」「ハァ、ハァ」「ハァ、ハァ」「ハァ、ハァ」「ハァ、ハァ」「ハァ、ハァ」「ハァ、ハァ」「ハァ、ハァ」「ハァ、ハァ」「ハァ、ハァ」「ハァ、ハァ」「ハァ、ハァ」「ハァ、ハァ」「ハァ、ハァ」「ハァ、ハァ」「ハァ、ハァ」「ハァ、ハァ」「ハァ、ハァ」「ハァ、ハァ」「ハァ、ハァ」「ハァ、ハァ」「ハァ、ハァ」「ハァ、ハァ」「ハァ、ハァ」「ハァ、ハァ」「ハァ、ハァ」「ハァ、ハァ」「ハァ、ハァ」「ハァ、ハァ」「ハァ、ハァ」「ハァ、ハァ」「ハァ、ハァ」「ハァ、ハァ」「ハァ、ハァ」「ハァ、ハァ」「ハァ、ハァ」「ハァ、ハァ」「ハァ、ハァ」「ハァ、ハァ」「ハァ、ハァ」「ハァ、ハァ」「ハァ、ハァ」「ハァ、ハァ」「ハァ、ハァ」「ハァ、ハァ」「ハァ、ハァ」「ハァ、ハァ」「ハァ、ハァ」「ハァ、ハァ」「ハァ、ハァ」「ハァ、ハァ」「ハァ、ハァ」「ハァ、ハァ」「ハァ、ハァ」「ハァ、ハァ」「ハァ、ハァ」「ハァ、ハァ」「ハァ、ハァ」「ハァ、ハァ」「ハァ、ハァ」「ハァ、ハァ」「ハァ、ハァ」「ハァ、ハァ」「ハァ、ハァ」「ハァ、ハァ」「ハァ、ハァ」「ハァ、ハァ」「ハァ、ハァ」「ハァ、ハァ」「ハァ、ハァ」「ハァ、ハァ」「ハァ、ハァ」「ハァ、ハァ」「ハァ、ハァ」「ハァ、ハァ」「ハァ、ハァ」「ハァ、ハァ」「ハァ、ハァ」「ハァ、ハァ」「ハァ、ハァ」「ハァ、ハァ」「ハァ、ハァ」「ハァ、ハァ――」
「ハァ、ハァ」
「ぎゃぁああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
「愛してる」
「やめてぇえええええええええええええええええええええええええええええええ!」
「やめて、くれなかった」
「もういやぁああああああああああああああああああああああああああああああ!」
「嫌だったのに」
「ぎょぶえっ! お、おごがあっ! ぼ、ぼぎんっ! お、おぼぼぼぼぼぼ……!」
「だから一緒に壊れよう」
「死ぬまで一緒だ」
「――やっと、終わった」
カミナが、笑顔で言う。
「――終わったのか?」
壊さないといけないと思った。だから頷く。
「ああ。終わった」
カミナがさらに笑顔を浮かべる。玄咲もまた泣きながら笑顔を浮かべた。
「準備完了だ。もう逃げられない。さぁ、拷問を始めようか」