カード学園サヴァイヴ ~カードで全てが決まるゲーム世界の学園で狂人で軍人のゲーム廃人は天使のために最強になる~   作:哀原正十

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第14話 ランクアップ

 天之玄咲

 魂格 60

 

「レベルが5も上がってる……」

 

 玄咲は己のSDを見て呟いた。山の中を頂上目指して並走するシャルナがSDをのぞき込んでくる。

 

「んー? あ、ほんとだ! 凄い! ランクアップだね!」

 

 レベルは10上がるごとに魔力の質が大きく上昇する。魔法の威力が大きく上昇し、高ランクカードのMP消費が軽減される。10の桁を更新するレベルアップはランクアップと名付けられ特別視されている。カミナとの戦闘後、シャルナとの会話で自分の精神的な殻を一つ破った玄咲は大幅レベルアップを果たしランクアップを果たした。手をグーパーする。

 

「前より体がよく動く。ここまでくると、元の世界からすれば立派な超人だ。高レベルの存在はよぼよぼの老人だろうとオリンピック選手並みのアクロバティックをこなす。絶妙なしょぼさだと思っていたが、いざ身に着けるととんでもない。なんでもできそう。そんな気分だ」

 

「なにができそう?」

 

 シャルナが尋ねる。

 

「えっ……いや、具体的には思い浮かばないけどさ……」

「そう」

「でも、強くなったよ。もう2年でもやっていけなくはないはずだ。ゲームでは2年生の最低レベルが60だった。戦闘技能やステータスを考慮すれば2年生とのカードバトルがもう成立するだろう。1年生もいずれ2,3年生と普通に混ざってカードバトルするようになるんだ。教師ともな」

「なんか、うきうきしてるね」

「そりゃ、な。強くなるって嬉しいよ。シャルもこんな気持ちだったんだな。もっと、強くなりたいな」

「……」

 

 シャルナが口元に笑みを浮かべる。

 

「うん。そうだね。玄咲、玄咲。私のレベルも、見て」

「――これは」

 

 シャルナ・エルフィン

 魂格 53

 

 シャルナもランクアップしていた。

 

「……シャル、いつの間にランクアップを」

「さっき。多分、玄咲と、一緒にかな? 4レベル、上がった。私も、これからは、もっと、強くなるよ!」

 

 シャルナは眉を勇ませ、右拳をグッと握って見せる。玄咲は可愛いなと思った。思った次の瞬間には抱き寄せていた。

 

「ふぇっ!?」

「ありがとうシャル。君がいなかったら俺はどうなっていたか分からない。いつも、今でもすでに、俺の心は君に守られている。君がいるから、前向きになれる。君の存在が俺の支えで、全てだ。傍にいてくれてありがとう」

「う、うん? どう、いたしまして? でも、玄咲、なんで、いきなり? ら、らしくないよ? い、いや、嫌じゃ、ないけどさ」

「君と抱擁すると弱くなると思って今まで遠慮してた。勘違いだった、強さを履き違えてた。レベルにもそれが現れてる。だから、これからは躊躇いなくシャルを抱き締められる。もう大丈夫だ」

「……その、ね? だとしてもね? 躊躇いなく、は、少し、おかしく、ないかな……」

「え? なにがおかし――」

 

 玄咲は気付いた。シャルナの胸が当たっていることに。細い腰の、しかししっかりとある肉の感触を掌で包んでいることに。細い肩を抱き寄せ胸板を密着させていることに。それは体の奥の蟲が疼かなくなったからって気軽に行っていい行為では全くないことに。何が大丈夫なのか。シャルナとの抱擁はシンプルに劇薬のような快感で、シャルナはどこまでも女の子で、なのに全身が密着していて、よくよく意識してみれば下腹部さえも――。

 

 つん。

 

「ひぅっ!?」

「!? ご、ごめんなさいっ!!!!!! 調子に乗りました!!!!!!!」

 

 玄咲は土下座した。謝罪以上に隠す意味合いの方が大きい。シャルナは指の甲を唇にあてがって、顔を赤くしてしばらく悩んだ後、ぽつりと、

 

「……人のいない、とこならね。少しならね、いいよ」

「!?」

 

 玄咲は天使かと思った。

 

「で、でもね。私の心がね、まだ弱いからね、あんまりしたら駄目だよ。依存しちゃいそう……」

「う……すまない。でもさ、本当にありがとう。君がいなかったら俺はどうなっていたことか――」

「……でもさ、私がいなかったら、そもそも、あの状況に、なってなかった、よね……」

「……」

「……」

 

 否定が出来ないので話を逸らす。

 

「そ、そうだ! まだMPポーションを飲んでいなかった! ゾディアック・サンダー一発で魔力がほぼすっからかんになったからな」

「う、うん! そうだね! やっぱ、ランク9のカードは、重いね!」

「ああ。ちゃんと補充しとかないと」

 

 クルクル。

 キュポン。

 ゴクゴク。

 

「うっ、まずっ」

「MPポーション、だもん。美味しくは、ないよ」

「……形容しがたい。元の世界には存在しない味だ。飲めるが、もうちょっと味をなんとかして欲しい。だが」

 

 青透明のMPポーションの空き瓶を眺めながら、体の深奥にたちまちの内に充填された未だ謎多き不思議なエネルギー――魔力の蠢きを以前よりもしっかりと感じ取る。

 

「効果は抜群だ。一瞬で魔力が全快した。……MPポーションは残り1本。これからはMP管理もしっかりしないとな」

「うん。カードの取捨選択が、大事になってくるね。最低限の魔法で、的確に、敵を倒さないと」

「ああ。あとは戦闘機会の取捨選択もだな。なるべくリーダー相手に魔力は取っておきたい。そしてもちろん仲間との連携も大事になってくる。ゲームと同じだ――さぁ」

 

 玄咲はMPポーションの空き瓶を捨て、魔力、そして活力も満ちた足を山頂へ向けた。

 

「次の戦いが待ってる。気を切り替えて事前に決めてた集合場所に向かおうか!」

「う、うん! そだね! イベントはまだ、続くもんね!」

「ああ。F組は、カミナは倒した。けど、他のクラスは、級長は、全クラス、全員、カミナより強い。そして一度切りの切り札のゾディアック・サンダーももう切ってしまった。本当の戦いはこれからだ」

「うん。2人で、全員倒そうね」

「それは無理だ」

「うん。そうだね」

「G組で全員倒すんだ。さぁ、急ごう。集合場所に」

「うん! あ、玄咲、最後に」

「ん? なに――」

 

 シャルナが軽やかに玄咲に飛びつき、頭を抱き締めキスをする。一瞬の触れ合いの後、飛びついた勢いのままくるりと身を翻し回転して背を向けて、元気よくF組の山頂を指さして、何事もなかったかのように笑顔を見せる。だけど、その頬はしっかり赤く、行為の残熱をしっかり残していて、

 

「さ! 集合場所! F組の山頂、向かお!」

 

 シャルナは、どこまでも、悪戯好きな、愛嬌のある性格の、天使で、堕天使で、その心が生み出す行動も台詞も誰にも出来ないシャルナだけの色に溢れていて、だからこそ、なんて得難い宝物なのだろうと、改めて玄咲は感じ入った。こみ上げる涙を拭って、笑顔で駆け出す。

 

「ああ! 一緒に!」

 

 シャルナを追いかけて、追い抜いて、犬のようについてくるシャルナと一緒に、山を駆ける。

 

 2人でいれば何も心配いらない。心の底からそう思えた。

 

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