カード学園サヴァイヴ ~カードで全てが決まるゲーム世界の学園で狂人で軍人のゲーム廃人は天使のために最強になる~ 作:哀原正十
スラム街。路地裏。
「……これでいい」
狂夜――子供である、以外の理由で細く、痩せている――は目の前の大人の死体から金目のものものを全て剥いだ。最近縄張りを荒らしていた粗暴な大人だ。収穫があった直後だったのか、中々の稼ぎになった。それから路上を出て、臭いもの、汚いものを見る視線を浴びながら、公共のゴミ箱の元へ向かう。そこから、たった今、金持ちに連れられた娘が「まずーい」と傲慢な戯言を抜かして捨てたパンを拾い、反射的に握りつぶしてから、ぐちゃぐちゃになったパンを口に入れた。周囲にいる人間たちが狂夜からすれば過剰な反応を示した。陰口の罵詈雑言が飛ぶ。少女の保護者が血相を変えて少女を連れて逃げ出す。
「このドブネズミが! よくもうちの高貴な娘に汚い性根を見せたな! 死ね!」
そう言い捨てて。少女が、とても幸せな境遇を享受している少女が、狂夜にあっかんべーをした。殺そうかと思った。しかしこの地区で人を殺したら酷い目に合うことを仲間の死にざまからよく学んでいる狂夜はただ背を翻した。
「……お前らが死ね」
狂夜は吐き捨てた。滲みかけた涙を拭う。ささくれた心が、生涯何度目かも分からない人生への絶望を訴える。暗澹の海に沈みこむ狂夜の耳に。
「? なんだ。この、魂を揺さぶられる音は」
音が、届く。
「ヘヴンアンヘル! ディスワールドイズシッアンクレイジー!」
(なんだ、これは)
「アイアムスーパーマン! ハングリージョーカーモンスターストロンガー! 超superstar! オンリーザワールドディストラクター! ユニークスキルナンバーワンオンリーワンギタースキルアンドソウルシャウト!」
(なんなんだ、これは……!)
「この腐った世界はスラム出身の俺が破壊する! 見とけお前らラヴィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!」
「「「「ラヴィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!」」」」
「アアーオ! (甲高い声)」
「「「「アアーオ!(真似しきれない甲高い声)」」」」
当時まだ無名だったエルヴィス・ジャクソンの野外ライブ会場。完全無料で開かれたチャリティーイベント。狭くも既に満員だったその観客席の端っ子で、少年時代の狂夜は、カード魔法スポットライトを浴びるエルヴィスに目と心を奪われる。
(お、俺も、エルヴィスになりたい――!)
夢を、見る――。
一夜にして、人生観が破壊される――!
ライブ後、夢の冷めた狂夜はとぼとぼライブ会場の帰り道を歩く。
「でも、俺には楽器を買う金もない。俺なんかが、エルヴィスになれる訳ないんだ……」
「おい、そこの君」
「っ! なん――」
また府警の職質か。そう思い、野犬の眼で背後を振り返った狂夜の眼に。
「――あ、あああ……」
――憧れの、超superstarがそこにいた。
エルヴィス・ジャクソンが。
「――思った通り、いい眼だ。きっと、君はいつか、でっかい男になる。俺みたいにな。ライブ、一番キラキラした目で見てくれたな。ありがとう」
「あ、あの、エルヴィスさん。俺、あなたみたいになりたくて、でも、俺金がないから、ギター買えなくて……」
「だと思ったよ。俺も昔、そうだった。でも、ある人が俺を救ってくれた。その人の真似がしたくなった。だから。これをやる」
「え? あ、ああ! これは……!」
――
「俺が子供のころ使ってたADだ。楽器としても一級品だ。それで練習しな。ギターも、カードバトルもな。これもやる」
「! ヴァ・ヴァイオレット・ビート!? ランク4!? 4ビート・8ビート・16ビート……!」
「演奏に応じてADと自分を強化する魔法だ。バトルの腕と演奏の腕、一度にどっちも鍛えられる。それで鍛えな」
「あ、あの! なんでここまでしてくれるんですか!」
エルヴィス・ジャクソン――黒髪で、ちょっと悪っぽい、でも底なしの優しさを秘めた、大きな男に、狂夜は尋ねる。エルヴィスはニヒルに笑って。
「――お前は昔の俺だ」
狂夜の頭を優しく撫でた。
「それだけだ」
「――」
狂夜の胸を初めて味わう感情が熱くする。ずっと飢えていたものを与えられた狂夜の頬を伝う涙をエルヴィスが指で拭う――。