カード学園サヴァイヴ ~カードで全てが決まるゲーム世界の学園で狂人で軍人のゲーム廃人は天使のために最強になる~ 作:哀原正十
カードショップにて。
「
「ゲームでは未実装の、データだけ残っているフュージョン・マジックらしい。シーマから聞いた。名前を聞いてピンときた。これはシャルのために用意されたフュージョン・マジックだと。性能もまさにだった。高速戦闘に最適な常時発動型の魔法だ。黒翼の性能を強化し、ADを特殊強化状態にする。威力が強化される他、モーションに応じた魔力波を飛ばせるようになる。おっ、あった。これが素材の1枚だ」
隣を歩く、カードショップに入るとやたらと饒舌になる玄咲が語る。その視線の先には、ガラスケースに収まった1枚のカード。
「ランク6、黒翼魔法、闇属性、エンジェル・フォール――う、うん。カードが、私に、露骨に合わせにきてる……一応、エルフィンって、意味の通った、言葉だから、偶然被った、だけなんだろうけどね……」
「そうなのか?」
「うん。光り輝く翼とか、そんな感じの、意味だったと思う」
「なるほど。シャルにぴったりだ。どうする、買うか?」
「うん。買う。玄咲を、信じる」
玄咲は凄く嬉しそうな顔で、照れて視線を外す。その間に、シャルナはさりげなく身を寄せる。
「そ、そうか! じゃ、残り2枚の素材も一緒に買おうか。ルスト・エッジとダークネス・エナジーってカードなんだが――」
「
シャルナのADから白い妖炎のような魔力が絶えず揺らめいている。黒翼は鳥の大翼のような形状から、より抽象的な魔力の塊になって、無数に枝分かれした先端から魔力のスパークを常時迸らせている。アルルは油断なくシャルナの状態を見分する。
(未知のフュージョン・マジック……ADと翼を強化する魔法か。高機動戦闘を可能にする魔法かな。……つーか名前被ってる。こんな偶然あるんだな。どう、対応すべきか――)
「この魔法さ、5分しか持たないの。だからさ」
アルルの思考を遮り、シャルナが飛ぶ。
「5分で、終わらせるね」
夜空と三日月を背負って、猛襲する。
「――糞! 私じゃなくて、まず生徒の方を! ポイント稼ぎ!?」
――シャルナが暴れる。人と人の間を闇の風となり駆け巡る。誰の目にも止まらない。捉えられない。早すぎる。移動速度も、攻撃速度も。常に先手を取られる。一合の手数が多すぎる。並の生徒が一撃繰り出す間にシャルナは三撃は繰り出す。そのADが振るわれるたび、闇色の衝撃波が吹き荒れて、生徒が纏めて2,3人吹き飛ばされる。HPを0にされる。尋常でない威力と鋭さ。間違いなくクリティカル。滅多に出せない致命の一撃。のはずなのに、常に、その調子。あの速度域で、狙ってクリティカルを出している。意味が分からなかった。クリティカルは、狙って出せるものではない。F組の射弦義カミナはクリティカルの名手だったらしいが、その比ではない。呼吸のようにクリティカルを出している。明らかに異才だった。シャルナ・エルフィンには才能があった。異常な、才能があった。
(――なんなのこの子! 滅茶苦茶強いじゃん!? 天之玄咲のおまけじゃなかったの!?)
(大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫。私には玄咲がついてる。だから、平気。だから、へっちゃら。何でも、できる)
シャルナは人見知りだ。人間嫌いだ。見知らぬ多勢の中に飛び込むのは勇気が必要だった。けど、問題なかった。
なぜなら、玄咲がついているから。耳をすませば、聞こえてくる。玄咲の声が。
――シャル、右だ。
(うん)
ズシャッ。
「がはぁああああああああああああああ!」
――身を翻して、背後纏めて二人。
(うん)
シュパパ!
「うわぁああああああああああああああ!」
「血、血がぁああああああああああああ!」
――一旦空に離脱し、さっきとは違う場所に着地。
(うん)
スタ。
「あ、味方の魔法が!」
「ぐはっ!」
――フュージョン・マジックを発動しようとしている敵がいるだろ。潰せ。
(うん)
ズチュ。
「うぉぼぼぼっぼぼぼぼぼぼぼぼ!」
右から1人。斬撃を飛ばして対処。背後から2人。相手の魔法より先にエンジェリック・ダガーを突き込む。前後左右から魔法が飛ぶ。シャルナも飛ぶ。躱した魔法がB組の生徒の間で同士討ちを発生させる。動揺した敵の密集地に降り立ち一回転。白い斬撃波が360度の敵を吹き飛ばす。さらに遠方でフュージョン・マジックを発動しようとした生徒へと一瞬で飛翔し、HPを0にする。
全員、一撃で。
シャルナは全ての攻撃でクリティカルを発生させていた。シャルナがエンジェリック・ダガーを振るう度、B組の生徒たちの悲鳴が飛び交う。一人で集団を圧倒する。冷静に、玄咲から教わった通りに戦う。しかし、絶大な威力の攻撃は、レベル差のあるモブ生徒には威力が高すぎた。だから、
「あっ――ごめん、マサカズ……」
「タカキーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」
時に人を殺してしまうこともある。だが、シャルナは怯まない。激昂したマサカズを一撃で倒し、戦闘を継続する。その眼には玄咲譲りの冷徹な光が宿っている。また、
「サンダー・メガショック!」
時に魔法が被弾することもある。まぐれ当りだ。集団の中で戦う以上そういうこともある。雷魔法特有のいかつい痛みが白い肌を痺れ焦がす。だが、シャルナは怯まない。機械のように冷静に最適な行動を取り続ける。玄咲から教わった戦い方だ。そして、殺人への抵抗も、痛みへの耐性も、玄咲が与えてくれたものだった。シャルナは思い出す。
(あの日、サンダージョーを殺すために抱いた覚悟と抵抗に比べたら、全然へっちゃら! 玄咲がくれたあの引き金の重みは、一生忘れない! それにこんな痛み、あの地獄に比べたら痛みでも何でもない! 怖くもない! 玄咲が救ってくれたから、あの地獄さえも、力になった! そして、玄咲が戦い方を教えてくれたから、その全てをこの玄咲が名前を与えてくれたエンジェリック・ダガーに込められる! 玄咲が当ててくれたブラック・フェザーに乗せられる! 一人でも、戦える! 飛べる! ううん! 一人だけど一人じゃない。だから――一人より強い!)
「フュージョン・マジック!
B組の生徒の中でも腕の立つ男子生徒が振るった鞭型のADから無数の雷の針がシャルナに飛来する。
(その、程度!)
シャルナは翼にくるまり猛回転。雷の針の全てをその翼で弾き飛ばして一瞬で男子生徒の目の前へ。エンジェリックダガーを引き絞り、突き出す。ブザー音が鳴る。そしてまた次の生徒へ。シャルナのADが次々と生徒たちのHPを喰らっていく。止まることなく。
(離れていても心は一つ――玄咲がいるから私は前を向ける。いつも心の中に玄咲がいるから。だから――)
シャルナが最後の一人を始末する。そしてその翼を大きく羽ばたかせて、
(前に進める!)
アルルへと、飛ぶ。
シャルナが集団の只中で一瞬淀む。魔法が集中する。一瞬で天に飛び立つ。同士討ちが発生する。動揺も束の間、一瞬でまた急降下して密集地帯に現れ、1回転。ADが残光を引きながら衝撃波の渦を生み出し、直撃した生徒たちのHpを0にする。そしてまたすぐ消える。全てが遅きに失する。あっという間にB組の無事な生徒が数を減らしていく。
(糞! 常に生徒を肉壁にしてる! 攻撃が、しづらい! そもそも――動きを捉えられない!)
シャルナは早い。そして正確だ。その思考までも。常に動き回っている。1秒も淀まない。なのに、常に最適な判断を下し続ける。冷徹に。迅速に。まるで彼のようだった。きっと、鍛え上げたのだろう。明らかに彼以上の素質を持つ彼女を、戦闘センスの化け物の彼が、惜しみなくその全てを教え込んだのだろう。
シャルナ・エルフィンは天之玄咲を吸収して、とてつもない化物になっていた。
(ど、どうすれば……! あ、ああ、もう残り、最後の一人が、やられ――! 来るッ!)
シャルナが、アルルに突進してくる。一瞬で、距離を埋めてくる。アルルは即座にマイクを構える。2小節と4小節、一瞬迷って、アルルは即座に4小節を選んだ。
白黒つけようBlack or White!
ぶちまけてあげるよその黒い中身を!
点の攻撃は容易に躱される。だからこその広がる面の攻撃。2小節じゃ威力が足りない。だから、無理して4小節。超音防波壁でも凌ぎ切れるか分からない。だが、それしかなかった。強力な攻撃には長い詠唱時間が必要というヒプノシス・マジックの弱点がもろに出ていた。
「――くす」
シャルナは笑って、飛ぶ軌道を変えた。上昇する。高く、高く。空を背負うほどに。三日月に、翼の生えたシャルナの黒白のシルエットが重なる。
「いくよ」
そして、ADから迸る白い魔力光で夜空を染め上げながら、アルルへと急降下した。
「――Wild SpeedにはWide Spread! 逃げ場なんてないただRide On Beat!」
「――逃げ場なんていらない。私はもう逃げない」
アルルの詠唱が完了し、魔法の衝撃波が放たれる。シャルナがエンジェリック・ダガーを引き絞る。そして、いつかの玄咲の教えを100%再現して、急降下の勢いを乗せて突き込んだ。
「クリティカル・インパクト」
クリティカル発生時にのみ起動するギミックが当然のように起動する。通常の5倍の威力の魔法が解き放たれる。エンジェリック・ダガーの尖端から白い光が迸る。アルルのヒプノシス・マジックを容易く切り裂いていく。シャルナの背後へと後光のように伸び広がり、まるでもう一つの大翼のように天へと放射してゆく。
「ただ、前に突き進むだけ。そして──」
白と黒。2光の大翼を背負ったシャルナの突進は止まらない。エンジェリック・ダガーから溢れる光がどこまでも溢れ広がる。アルルには刹那、視界を全て白い光で埋め尽くし夜を白夜へと創り変えていくシャルナが本物の天使に見えた。あまりにも鮮烈な輝きに吐息が零れる。
(ああ、これが、本物かぁ……)
シャルナのエンジェリック・ダガーが超音防波壁に触れる。容易く貫く。そして光はアルルの体まで到達し、飲み込み――。
「絶対、2人の夢に、辿り着く!」
(――敵わない、なぁ……)
――敗北を告げるSDのブザー音が戦場に響き割った。
「――強い、ね。シャルナちゃん……」
地面に倒れるアルルが肩口の刀傷を抑えて、それでも笑う。シャルナは夜闇を背景に、微笑んだ。
「玄咲が、私を、強くして、くれるの」
「は、はは。愛の力だ。羨ましいなぁ……ぐっ!」
「だ、大丈夫?」
苦痛に顔を歪めるアルルの傍に、シャルナがしゃがむ。そして何もしない。何をしたらいいか分からないからだ。ただうろたえる。アルルは再び顔に笑みを浮かべてから、シャルナを手で制した。
「僕のことはいいから、早く次の戦場に向かいなよ。戦場じゃ1分1秒を急くべし。1秒の差で、大事な存在の命を落とす――実体験に基づく、ママの教えだよ。別に本物の死者は出ないけどね。模擬戦だろうと、そのつもりで戦うんだ。その意識が、大事なんだから――」
「……分かった。急ぐ。ありがとう。アルルちゃん」
シャルナはアルルの手を両手でギュッと包み握る。それから立ち上がり、背を翻しかけたところで、
「あ、最後に一つだけいい?」
「? なに」
スッ。
「ナイスファイト」
アルルが拳を突き出す。いつかラップバトルをした時のように、屈託のない笑みを浮かべて。
「……うん!」
シャルナもまた笑みを浮かべて、あの時よりも重みの乗った拳を突き出し、それでもあの時のように、打ち合わせた。
「ナイス、ファイト」
コツン。
(あーあ……)
シャルナがあっという間に遠のいていく。もう振り返ることはない。アルルは地面に寝そべり、そして、戦闘時のシャルナ・エルフィンのADが放つ鮮烈な白い輝きがまだ網膜に残っているからか、やたらと黒く見えるようになった夜空を見上げながら嘆息した。
(……あれが、本物って奴かぁ。ウェアウルフの彼も、絶対あっち側だよね。うん……。ああ、この学園に入学してから打ちのめされることばかりだ……)
アルルの瞳にずっと堪えていた涙が滲む。この世界は数字で管理されるゲームの世界以上に才能の差が残酷だ。その才能の差を、アルルは今まざまざと感じていた。もう一度、アルルは大きく嘆息する。
(本当、化け物ばっか。才能の差、感じちゃったな。この学校にきてから、敗北ばっか。挫折ばっかだ。魂成期だし、在学中は全力で最強の魔符士を目指す。でも、もしかしたら僕は、将来的にはママみたいに別の道を選ぶことになるかもな。あぁ……強かった。きっと、ああいう子が、符闘会に出場するんだろうな)
もう一度、短時間の間に随分遠くに行ってしまったシャルナの小さな背を見て、口元に笑みを浮かべた。
「――ファイト。シャルナちゃん。応援してる。君ならきっと、辿り着けるよ」