カード学園サヴァイヴ ~カードで全てが決まるゲーム世界の学園で狂人で軍人のゲーム廃人は天使のために最強になる~   作:哀原正十

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第35話 コスモ、ピンチ

(限界、ですか……)

 

 闇の中、コスモは動かない手足を投げ出して地面に尻をついていた。尻だけで体重を支えている。全身ボロボロ。ラグナロク学園謹製の丈夫な学生服もいたるところ破れている。満身創痍。コスモは稼働限界を迎えていた。

 

(ときめき、パワーを、補充しないと……もう動けませんね……ケミカル女史の麻痺毒が想像以上に強力です。戦闘行動はもう不可能。次、敵に見つかったら、コスモは)

 

 コスモがそこまで思考したところで、森の奥でがさりと音がした。程なくして、4人の男子生徒が現れた。

 

「おい、てめぇら。いたぞ」

「横取りされなくてよかったなぁ」

「よくも今までやってくれたな。ここがてめぇの墓場だ。いっぺん死んで来いコノヤロー。そして地獄でタップダンスを踊りな」

「や、やっと、勝利の権利が……!」

 

 G組の生徒だった。コスモは瞑目した。

 

(……ここまで、ですか。よく戦った、と自分を褒めてもいいですよね。50人は倒しました。もう十分、ですね。投降、しますか……)

 

「コスモにはもう抵抗能力がありません。ときめきパワーを使い果たしてしまいました。もう動けません。だから、抵抗せず大人しくやられます。コスモを攻撃してください」

 

「――」

 

 4人の男子生徒が息をのむ。ADを持っているにも関わらず、カードをインサートしているにもかかわらず、コスモが無抵抗を捧げているにもかかわらず、攻撃行動に移らない。コスモが首を傾げる。

 

 リーダー格の男子生徒が舌舐めずりをする。

 

 

 

 

(こいつはたまんねぇなぁ……)

 

 G組の男子生徒のリーダー一ノ瀬大山(いちのせたいざん)はコスモを見て舌舐めずりをした。

 

 コスモはあまりにも扇情的な姿をしていた。

 

 その白くとろ柔らかそうな肌肉に纏う服がいたるところ、破けている。致命的な破け方はしていないが、体のあちこち、白い素肌が見えている。全体的にムチムチしている。体つきは全体的にムチムチしている。まるでそういう用途で作られたかのようにも見える。それほど、肉欲を誘う体だった。いやらしい造形をしていた。

 

 呼気に合わせて、上体が揺れている。その刺激だけで、ふるふると揺れる。大きい。そしてそれ以上に、柔らかそう。服の一部が、破けている。血が、漲る。顔は、よく見なくても可愛い。頭はおかしいが、顔がよければどうでもよかった。血が、滾る。

 

 最初からそのつもりで探していたが、実際に見たら思いがはち切れた。もう待ち切れなかった。無垢な態度が実にそそる。こういう人間の泣き顔が大山は大好物だった。今まで何人もの女の泣き顔を作ってきた。思わず、勇み出る。

 

 その大山の前で、コスモが信じられないことを言った。

 

「コスモにはもう抵抗能力がありません。ときめきパワーを使い果たしてしまいました。もう動けません。だから、抵抗せず大人しくやられます。コスモを攻撃してください」

 

 

 

 

「――いわれるまでもねぇよ」

 

 G組の男子生徒がコスモに近づく。ようやく攻撃行動に移るのか。コスモはなんとなく顔を上げてG組の男子生徒たちの顔を見る。

 

 ズリ。

 

「――えっ?」

 

 コスモは反射的に地面を尻でずって後ずさっていた。コスモは自分の行動に驚いた。いかなる精神作用による行為なのか、因数分解できない。混乱するコスモに、リーダー格の男がコスモを見下ろし、

 

 

「抵抗するんじゃねぇぞぉ」

 

 

 まるでモンスターのように、醜悪に顔を歪め、舌なめずりをした。

 

 

 

「――や」

 

 震えながら、後ずさりながら、男子生徒たちの接近を視界に収めるコスモの脳裏に。

 

 ――もういやぁっ!

 

 コスモの知らない女性の、苦し気な泣き顔が唐突に再生された。コスモの胸を熱い衝撃が痛ませる。

 

「――いや、です」

 

 コスモの大きな瞳から涙がツーッ、と流れた。男子生徒たちの表情が醜悪にゆがむ。コスモは首を振って、麻痺した体を必死に動かして、後ずさった。

 

「俺は嫌じゃない。むしろいい。俺たちを苦しめたお前のその表情、凄くそそる。もっと、泣かせたい。あと、戦闘中から思ってたけどさぁ」

 

 コスモの体を見下ろしながら、大山がコスモの思考回路には存在しないおぞましい言葉を吐いた。

 

 

「お前、エロイ体してんなぁ」

 

 

「――いや」

 

 コスモは泣いた。

 

「いや、です……やめて、ください……コスモを、そんな目で、見ないでください……いや、いや、いや……」

 

 コスモの言葉は無力だった。どころか、逆効果だった。男子生徒たちの表情がさらに変じる。紅潮した頬に、歪んだ口元。欲望の温度に熱した吐息。

 

 ――いや、いやぁああああああああああああああああああああああああああ!

 

 頭の中で知らないはずなのにとても身近に感じる女性が泣き叫んだ。それと同時、コスモも泣き叫んだ。

 

「いや、いやぁああああああああああああああああああああああああああ!」

 

 幼子のように無垢な表情が感情許容量を超えた哀切に破壊される。コスモは恐怖と下種な感情に汚染された表情を男子生徒たちに見せた。3人の男子生徒が犯罪者の相貌で喝采を上げた。大山が叫ぶ。

 

「いい顔だなぁ……俺はお前みたいに泣き顔とは無縁みたいな女の泣き顔が大好物なんだよっっ!!!!!!! いひ、いひひひひ! たまんねぇなぁ! こんな機会が訪れるなんて! ラグナロク学園最高だぜ! おら、もっといい顔で泣けや! 俺が手伝ってやっからよぉ! 女としての尊厳も機能も、破壊してやるよ。お? もっといい顔になったな。もっと俺好みの女にしてやるよ。もっと、もっと――泣かせてやるよっ!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 大山は恐怖を煽るために意図して作った醜悪な表情を近づけて、コスモの耳元で叫んだ。コスモはうるさいくらいに泣いた。大山を満足させた。「いひっ、いひひひっ!」大山は過去最高の体験になることを確信した。もうコスモの泣き顔しか見えない。大山は今日最大の醜悪な表情を浮かべて仲間に命令する。

 

「おいてめぁら。最初は俺だ。手足を抑えて――」

 

「や、やめましょうよ、こんなこと」

 

「――あ?」

 

 大山に煽られてむっつりスケベを発揮し、ぐちぐち自分に言い訳しながら結局大山についてきたクラス随一の馬鹿の眼鏡――確か名前はしるけん――が大山の眼光にビビッて震え視線を逸らしながら、それでも反対する。

 

「こ、こんなの人権侵害です。人間のやっていいことじゃない……」

 

「てめー怖気づいたな」

 

「ち、違います。ただ、こんなの、可哀そうで――」

 

「じゃ、もういいよテメ―は」

 

「え?」

 

「死んどけ――バスター・インパクト」

 

 一ノ瀬大山は大刀型のADを一閃した。しるけんがぶっ飛ぶ。割れた眼鏡が宙を舞った。

 

「ちっ、まだ生きてやがる。本当、防御力だけは一丁前だぜ。ん? なんだお前ら。俺に文句あるのか」

 

 G組の残り二人の生徒が青ざめた顔で何度も首を横に振った。

 

「な、なんでもないよ!」

 

「さ、さぁ、やろうか――? ッ!!!!!!!!!!」

 

「ああ。やろうぜ。お前ら手足抑えろ。ひひっ! 今日は一生記憶に残る過去最高の体験になりそ――ん? 動けよ。何俺の後ろを見て固まってんだ。つか誰だ。俺の真後ろに立ってんのは――玄咲さん……」

 

 

 

「地獄に落ちろ」

 

 

 

 大山は眼窩と鼻に指を突っ込まれて力任せに地面に叩きつけられた。肉と骨と眼球と皮膚がべりべり剥がれる。存在を知らなかった痛みが脳髄をずたずたに犯す。怪鳥のような悲鳴が痙攣する口から勝手に漏れる。その口に灼熱の感情を握り込んだ拳が振り下ろされる。地面と拳の板挟みになる。歯を全て叩き折られ、喉をぺしゃんこにされ、さらに頭へとゴリゴリ登っていって――。

 

 一生忘れられない痛みを脳と魂に刻まれた。

 

「痛みの極底で溺れ死ね」

 

 グチャ。

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