カード学園サヴァイヴ ~カードで全てが決まるゲーム世界の学園で狂人で軍人のゲーム廃人は天使のために最強になる~   作:哀原正十

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第37話 ときめき

「……」

 

「……」

 

 コスモを背負った玄咲は無言で森の中を歩く。背中に当たる2つの感触は有事なので努めて無視する。余程大規模で激しい戦闘が行われたのか、気絶した生徒や動けなくなった生徒やHPが0になった生徒や死んだ生徒は何人も見受けられるが、HPを残してかつ動ける生徒は中々いなかった。戦跡のまだ色濃い、それ故に平和が担保された森の中を、玄咲は教員を探して歩く。だが、教師は見つからない。背中のコスモが呟く。

 

「……見つかりませんね」

 

「……そうだな」

 

「……欠陥ルール、ですね」

 

「……そうだな」

 

 他愛もない会話を交わしながらさらに森の中を歩く。数分した頃、コスモが唐突に聞いてきた。

 

「なんで、ここまでしてくれるのですか? 敵で、リーダーでもある、コスモに。敵で、男の、あなたが」

 

(……? なんでそんな当たり前のことを聞くんだろう)

 

 思いながら玄咲は答える。

 

「……そりゃ、あんな状況で、攻撃なんてできる訳――」

 

 脳裏を想像がよぎる。例えばあの場で襲われていたのがしるけんやさとしだったら自分は助けただろうかと。いや、そこまでいかなくても、リュートや狂夜くんだとしても、助けただろうかと。助けはしたかもしれない。だが、その後はとどめを刺して気絶させて、それで終わりではなかったか? 流石にここまで手を焼きはしなかったのではないか? 具体的に想像してみる。

 

 とてもドライな判断をしている自分の姿が脳裏に浮かんだ。これがシャルだったら、クララだったら――助けるに決まってるので想像から除外。アカネだったら、アルルだったら、クゥだったら、グルグルだったら、明麗だったら、あるいはルディラ――未だ邂逅してない他のヒロインたちだったらどうか?

 

(……うん。うん……)

 

 誰と仮定しても一つの結論しか出てこない。前者との違いは何か。男と女――。

 

「……笑わないで、聞いてくれ」

 

 とうとう、玄咲は己の性を認めた。ため息をつきつつ、自棄糞気味の自嘲を添えた笑みを浮かべて、笑う。

 

「俺は、女の子が大好きなんだ。だから、助けた。それだけだ」

 

 コスモの脳が高速演算を開始した。看過できぬシチュエーション、言葉が、かつてない合理思考をコスモに宿した。

 

 女の子が大好き。

   ↓

 コスモは女の子

   ↓

 そしてこの場に他の女の子はいない

   ↓

 つまり女の子=コスモ

   ↓

 コスモが大好き

   ↓

 愛してるぜベイベ★★

 

「ぴきゅるぴっ!!!」

 

 コスモは物理的に煙を吹きながら奇声を発した。玄咲には見えないが、その顔は真っ赤だ。

 

「っ!? ど、どうした! コスモ! 体に異常でも発生したのか!?」

 

 玄咲はコスモを本気で心配して振り返ろうとした。その顔をコスモががっちり前に固定する。動かせない。

 

「な、なんでも、ないです。突然宇宙電波を受信したので、口から電波を吐き出したくなっただけです。ぴ、ぴきゅるぴっ! ぴきゅるぴっ! ぴきゅるきゅるきゅるぴきゅるぴーっ!」

 

「そ、そうか……」

 

 どこかわざとらしいような気がするものの、コスモらしいと思い、玄咲はそれ以上突っ込まない。

 

 むぎゅ。

 

「っ!?」

 

 突然、背中に暴力的な柔らかさが密着する。コスモが強く玄咲にしがみついたせいだ。スカイフィッシュ張りに激しく目を泳がせる玄咲に、

 

「落ちたらいけないので、さらに密着しました。合理的思考ですね」

 

 コスモの言葉は正しかった。男女の機微という致命的な観点が抜けていることを除けば。

 

(そ、そうだった。コスモちゃんは理由なく主人公に抱き着くちょっとエッチなキャラだった。それも天然系の。なら、仕方な――そういえば主人公以外の男性キャラに抱き着いてるのは見たことないな。いや、当然か。他の糞モブにそんなことされたら、男をぶち殺したくなってポケットボーイを破壊してしまうプレイヤーが現れるものな……)

 

 現実逃避気味の思考に集中することによっておっぱいの感触を誤魔化しながら、玄咲は森の中を歩く。

 

 

 

(……? ときめきパワーが、コスモの内側から湧いて出ている? そういえば体に、力が入りますね)

 

 コスモは驚いていた。ときめきパワー。自給自足ができないのでいつも他人から摂取していたパワー。それが、内側から湧き出ている。ありえないことだった。通常人の心を持たないコスモには、ときめきパワーは発せないはず。なのに、発している。それは、つまり――。

 

(……)

 

 コスモは自分を背負い、頑ななまでに表情を引き締め、油断なく辺りを見渡しつつ進む、天之玄咲の姿を見る。その後ろから覗ける端正な横顔を、ぼーっと、見つめたあと……。

 

(まぁ、まだ、充填にあてた方がいいですよね)

 

 むぎゅ。

 

 思いっきり、抱きしめた。天之玄咲が慌てる。どうやら、コスモに性的興奮を抱いているらしいと、今のコスモには分かった。でも、全然嫌じゃなかった。触れ合う体が、心が、とても温かった。安心感に包まれる。絶対コスモが嫌がることはしない。そう確信できる何かが、天之玄咲にはあった。だからコスモはさらにむぎゅっと密着する。天之玄咲の顔がさらに引き締まった。密着していると、安心できた。暖かかった。心センサーで感じる、天之玄咲の感情はとてもピュアで、絶対コスモの嫌がることはしない。そう安心できる。

 

「天之、玄咲」

 

 コスモは絶対的な安堵の中で玄咲の背中に身を預け、自然と頬を緩ませて、言った。

 

「ありがとう、ございます」

 

「当然のことをしてるだけだ。当然なんだ。俺がコスモちゃんを助けるのは。困ったら何でも言ってくれ。できる限りのことは何でもして君の助けになる。世界が敵になる状況に陥ろうと俺は君の味方だ。グルグルもかな。もしそういう状況に陥った時は、俺を頼ってくれ」

 

「……」

 

 妙に具体的なシチュエーションを出してまで、玄咲はコスモの味方であることをアピールする。その気持ちが嬉しくて、

 

「はい」

 

 腕だけでなく足までもを絡めて抱きしめながら礼を言った。天之玄咲はよろめきこけかかった。

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