カード学園サヴァイヴ ~カードで全てが決まるゲーム世界の学園で狂人で軍人のゲーム廃人は天使のために最強になる~ 作:哀原正十
「……この辺でいいか」
クララにコスモを託して玄咲は2人と別れた。その後、大勢の人間が集合できる開けたスペースを探した。森の中にぽっかり空いた円形の空間を見つけて、丁度いいかと思った。シュヴァルツ・ブリンガーのカードを1枚入れ替えて、真上に向けて詠唱。
「ファイアフラワー・ボール」
ヒューン……。
ドーン! パラララ……。
空に花丸型の花火が打ち上がる。ファイアフラワー・ボールは威力のない音と光だけの魔力の爆発を生み出す魔法だ。ランク1。花炎魔法。1000ポイント。主にパーティやイベントの賑わしに使われる魔法。それを、事前の作戦会議でG組集合の合図に決めておいた。
すぐに、反応があった。
シュタタタタタタタタタ!
「! こ、この足音は……!」
「玄咲!」
「シャル!」
森から抜け出してきたシャルナがその勢いのまま玄咲に飛びつく。玄咲はその体を抱きとめる。やっぱり、一番最初に来たのはシャルナだった。思いながら、その背を、頭を、抱き締めながら撫でる。
「シャル。ここにいるってことは」
「うん! 私、勝ったよ! アルルちゃんに、勝った! 玄咲の、お陰だよ!」
勝利の笑顔とVサイン。
「――」
むず痒い、味わったことのない歓喜が胸に広がる。他人が勝って、嬉しい。思えばそんな気持ちは初めてだった。あるいは自分の勝利よりもずっと嬉しいかもしれなかった。
「――離れていても一つ、だったよ」
感極まって涙ぐむ玄咲の胸を拳で叩いて、シャルナは笑った。
「……そうか」
その言葉がシャルナの戦闘を象徴する言葉だったらしい。どうやら玄咲は離れていてもシャルナの精神的な支えに慣れていたようだった。その事実が嬉しくて頬が緩む。シャルナはクスリと笑った。そして、玄咲の胸を拳で叩いた。
「うん。そうなの。ずっとね、玄咲のこと考えてた。戦闘中もずっと、玄咲のことを想いながら戦ってた。玄咲の考案してくれたエンジェリック・ダガーを握ってると無限に勇気が出た。玄咲が当ててくれたブラック・フェザーを背負ってると玄咲に包まれてるような気持ちになった」
「うんうん……ん?」
「玄咲が救ってくれた、守ってくれた記憶が、玄咲が引かせてくれた引き金が、玄咲とバトルルームに籠った日々が、玄咲に教わった戦闘技術が、カードショップで購入したカードが、玄咲が一つベッドの上で与えてくれた愛が、何気ない日常が、玄咲と過ごした全ての日々が私の支えになってた。一部になってた。力になってた。いいことも悪いことも含めて玄咲と過ごした全ての時が今のシャルナ・エルフィンを形作っているんだなって気づいた。強さに変わってるって気づいた。全てがね、私の一部になって、同化してるんだなって気づけた。だから、だからね――!」
シャルナが笑う。どこまでも純粋無垢な白い笑みを浮かべる。
「離れていても一つだった。声が聞こえてた。存在を感じてた。互いが互いの一部になって、互いを形成し合っている。だからもう離れられない。玄咲が言いたかったのって、そういうことだったんだね……!」
「……」
そういうことじゃない。別にそこまで深い意味は込めていない。ただ凄くロマンチックでいい言葉だと思ったからクゥから聞いた言葉をそのまんま伝えただけだ。そんな浅い本音、白い瞳を目一杯キラキラ輝かせているシャルナに言える訳がなかった。コスモの語っていた3倍のときめきパワーの差に少し気圧される。だが、シャルナの言葉自体は嬉しくて仕方がない。だから玄咲は必死にシャルナに合わせに行く。
「あ、ああ! その通りだ!」
「うん! 玄咲も、私の声が聞こえてたんだね!」
「……」
「……え?」
「聞こえてたよ。ずっと一緒に戦ってた」
「! うん! そうだよね!」
シャルナが笑顔で頷く。シャルナが自分の言葉にシャルナらしい素敵な解釈を加えて、そして喜んでくれた。自分の意図など関係なく、それだけで十分だと玄咲は思った。元々言葉とはそういうもの。シャルナが笑顔でいてくれれば万事それで良かった。一瞬過った重いという感想は努めて無視した。
「――玄咲」
シャルナが眉を勇ませ拳を突き出す。
「私、強くなったよ。少しはね」
「――ああ」
コツン。
玄咲もまた拳を突き出して打ち合わせた。そして、
「強くなったよ。少しはな」
先は長い。そんな意味を込めて、玄咲もまたシャルナに合わせてそう言った。シャルナは笑みで答えた。
(む、あれは……)
「ハァ、ハァ。天之くん。シャルナちゃん。本当に2人で敵倒して戻ってきたんだ。凄いね……」
さらにシャルナと互いの戦闘について語りながら待つこと数分。次に戻ってきたのは青髪のギリ美少女だった。まだ十分な余力を残している様子。玄咲は流石だなと思った。
(名前は思い出せないが、G組の中ではトップクラスの実力者なだけはあるな。お、他の生徒も段々と集まってきたな)
「ふぅ。やっと、味方と合流できた。ったく、釘バットが血塗れだぜ……」
「生き延びた。あたいは、ここまで生き延びたんだ……!」
「姉さん。うぅ……」
段々とG組の他の生徒も戻ってくる。そして途絶える。これで全てか。思いかけたその時。
「はぁ、はぁ、僕にも、まだ勝利の美酒を飲む権利は、あるんだ……!」
しるけんが戻ってきた。罅割れた眼鏡をかけて、肘をくねらせて、女みたいな小走りで。疲労のあまり、無意識にそういう走り方になっているらしかった。気持ち悪い。それ以上の感想が玄咲の胸中を埋め尽くす。
「……? お前、まだ生きてたのか?」
「ッ! ぼ、僕は何もしていません! 許してください!」
しるけんが即座に土下座する。玄咲はまぁまぁとなだめる。
「いや、それは見てたから分かる。だから落ち着け。というか思いっきりぶん殴られたのによく無事だったな……」
「は、はい。HPはまだ30%残ってますよ。気絶したふりして体力を回復していました。昔からなぜか傷の直りが早いんです」
「そ、そうか……」
しるけんの生態が未だに分からない。玄咲のみならず、その場にいた全ての生徒が同じ感想を抱く。
「……15人か。これで全員かな。一応、もう少しだけ待ちながら、作戦会議をしようか。まずは脱落者の確認だ」
「……そうか。狂夜くん、キララ、さとしは最大限自分の仕事を全うして脱落していったか……」
「うん。あの人が、B組の戦力、殆ど一人で削って、勝ちかけちゃった。月を見てから、凄かった。あの人の大暴れが、なかったら、多分私、勝てなかった」
「キララもさとしも凄かったぜ。あの2人がいなかったら、E組には絶対勝てなかった。キララの指示は的確で、攻撃はコスモとかいうモンスターに唯一まともにダメージを与えられる手段だった。そしてケミカルを自分に注射してからは百発百中だった。さとしもあの殺人パンチからずっとキララを守り続けてよ。男らしかったぜ。もううんこドリルと陰口は叩けないな」
シャルナと釘男が補足する。B組の撃破とE組の撃破はやはり3人がいなければなしえなかったらしい。玄咲は瞑目して、感謝を呟いた。
「……ありがとう。本当、助かった」
「うん。助けられ、ちゃったね」
「この恩は勝利で返す。シャル。まだまだ戦えるな?」
「うん。MPポーションはまだ1本残ってて、魔力はほぼ満タン。残り1戦、全力で戦えるよ」
「頼りにしてる。A組とC組。どちらと戦うとしてもシャルの活躍が鍵になる。なにせ――」
玄咲はG組の面々をぐるりと見渡す。作戦会議中にさらに一人加わって、16人。それで、全員だった。
「俺たちは小勢も小勢だ。だからこそ突出した単騎戦力――俺とシャルの力が重要になる。特にシャルは多人数戦が俺より得意だ。俺がリュートを抑えて、シャルがリュート以外を抑える。この布陣で行こう。なに、単騎で一組相手取るのに比べたら大したことない。2人で戦うんだ。さっきより楽な戦いになる。そうだろう? シャルナ」
「ん? 今、シャルナって」
「あっ……その、勢いで。ごめん」
「……いいよ。シャルナでも――」
「ねぇ、こんな状況でまでラブコメ始めるのやめてもらえないかな?」
青髪の少女が鋭いツッコミを入れた。
「……」
「……」
突き刺さるG組の生徒たちの視線。玄咲は無理やり話を元に戻した。
「ゴ、ゴホン! と、とにかく、シャル、やれるな? いわゆる後ろを任せたって奴――」
「う、うんっ! 任せてっ!」
シャルナが食い気味に身を乗り出す。玄咲と同じく気まずさを誤魔化しにかかっている感はある。だがそれ以上にやる気を感じる。怯懦の類は一切見られない。シャルナの1週間前では考えられない成長した姿に頼もしさを覚えつつ、玄咲はG組の残りのメンバーを振り返った。
「他のみんなの役割は俺とシャルナのサポートだ。戦いやすいように厄介な敵を引き付けてくれ」
「分かったわ! 任せて!」
「俺の殺人釘バット打法が火を噴くぜ!」
「……やれやれ。仕方ないですね(くいっ)」
G組の面々とも、いつの間にか随分信頼関係が築けている。この血生臭いイベントも、開いた意味は確かにあったらしい。玄咲の胸の内に温かいものが広がる。
(……こんな奴らでも信頼されると嬉しいものだな。勝利で答えてやるとするか!)
「――安心しろ。俺とシャルがいる。だから勝つ。絶対にな」
「ええ。疑ってないわ」
「負ける気がしませんね。僕もいますしね」
「ああ。あんたらの強さは誰もが認めてるよ」
シャルナもまたその強さを認められている。信頼を勝ち取っている。総無視を喰らっていた1週間前では考えられない状態。シャルナが嬉しそうに頷く。玄咲もまたその姿に喜びを覚えた。
「――さて、そろそろ行こうか」
玄咲は背を翻す。シャルナがすぐにその横に並ぶ。小勢。されど、迷いのない足取りが、その後に続いた。玄咲はもう一度、断言した。
「絶対、勝つぞ」