カード学園サヴァイヴ ~カードで全てが決まるゲーム世界の学園で狂人で軍人のゲーム廃人は天使のために最強になる~   作:哀原正十

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第51話 死者蘇生

 イベント日の後日。遺体安置所。全校生徒が集合する場にて。

 

逆流時廻(リンカネーション)

 

 時廻神クロノスが超常の奇跡を発動する。全死者がその制服、ADに至るまでイベント開始前と同様の状態に巻き戻され蘇った。頭を抑えたり、傷口と思しき場所を手で抑えたり、一ノ瀬大山が玄咲を見て悲鳴を上げて逃げ出したり、涙を流したり、誰かと抱き合ったり、感動的な光景が広がった。

 

「キ、キララ……!」

 

「キララちゃん!」

 

 その一角で、玄咲とシャルナは蘇ったキララを見て表情を輝かせた。真っ先に駆け寄った。死者の中で最も好感度が高い人物がキララだったからだ。キララはムクリと上体を起こして頭の一部を指で抑えた。

 

「あー、死んだなー……死ぬってこういう感覚かー……なるほど……」

 

「キ、キララ。やっぱり、痛かったりとか――」

 

「死の間際、脳のこの場所からごく大量の多幸感が発射とも呼ぶべき勢いで分泌された。臨死の恍惚とでも呼ぶべきヘブン状態。そうか。あれが天国の扉の鍵――似てる。噂に聞くトリップ感と。あの状態を化学で再現すれば――今なら作れるかもしれない。手が届くかもしれない。この私が。エンジェル・ハイローに……!」

 

「……」

 

 キララが高速でぶつぶつと呟く。星の入った瞳が怪しい光を放っている。小声、だけどばっちり聞こえてしまう。身体能力が上がったせいだ。やっぱりこの子は少しヤバい子かもしれない。玄咲も知らない薬品の名前をキララはさらに次から次へと口にする「あとはどうやって飲ますか」。そんな言葉まで聞こえてくる。そして――、

 

「そうだ、約束――」

 

 そんな言葉を発したあたりでキララはようやく玄咲の存在に気付いた。普段のキララなら絶対にありえない事態。蘇った後かつ、何らかの発見に舞い上がっていたという2重条件が重なって、不覚を犯したらしい。

 

「……」

 

「……」

 

 真顔のキララと顔を見合わせる。キララがポツリと、

 

「聞こえた?」

 

「うん」

 

「そっか。……ま、今更か。ところで」

 

「誰に飲ますの?」

 

 シャルナが唐突に尋ねる。キララが何故か一瞬玄咲を見てから言い淀む。

 

「シャル。あまり突っ込んだらいけない。プライベートは人それぞれだ。キララにもキララの事情があるんだ」

 

 キララの繊細な事情をゲームのサブストーリ―によって知っている玄咲はシャルナをやんわりと制止した。シャルナにもなにかしら伝わったらしく素直に頷いた。玄咲はキララに向き直る。途端、眼が合って動揺した。

 

「な、なんだ」

 

「……天之くんってさ、ケミカルだけじゃなくて、私にも妙に理解あるよね……」

 

「!? き、気のせいだ!」

 

「そうだよ。気のせいだよ。キララちゃんの自意識過剰だよ。気にしすぎだよ。……気にしすぎだよ?」

 

「う、うん。分かった。もう気にしない」

 

 玄咲とシャルナの言葉を受けて、キララは玄咲の後ろのシャルナだけを見ながら言った。

 

「ま、プライベートも、各々の事情もそれぞれだもんね。深く聞いてほしくないし、聞かない。そういう付き合いの方が私も好み。――ところで、イベントの結果はどうなったの?」

 

「G組が優勝したよ。アナウンスがあった。俺とシャルだけでリーダーを4人、サブリーダーを3人倒したしな、まぁ当然だな」

 

「……凄いねあんたら。でも、キララちゃんもサブリーダー一人倒したし、敵のリーダーも追い詰めたし、十分貢献はしたよね。いや、本当、文字通り死ぬほど疲れた……」

 

「……ああ。E組を実質倒してくれたのは本当に助かった。コスモの相手をしていたらリュートの分の魔力は残っていなかっただろう。キララがいなかったら優勝はできていてもリュートは倒せなかった。試合に勝って勝負に負けていた。だから本当に感謝してる。キララ」

 

 玄咲はキララの前に膝をつき、その手を握って、真っすぐ目を見つめた。

 

「本当にありがとう。君がいてくれて本当に良かった」

 

「――」

 

 顔を紅潮させるキララ。柄にもない状況。照れているのだろう。その反応が微笑ましくて、口元が緩む。キララの顔がさらに赤くなる。玄咲はなんだかドキドキしてきた。キララが、なんだか妙に可愛かった。シャルナが玄咲の肩を揺する。

 

「ちょっと、玄咲。キララちゃんに、ばかり、構い過ぎだよ」

 

「ああ。すまない。確かに言う通り」

 

「私にも、構ってよ」

 

「……」

 

 凄まじいド真ん中ストレートだった。また一つブレーキが壊れた感じだった。キララの頬が引きつる。玄咲も照れて言葉を失う。妙な空気になる。シャルナがふいに、

 

「玄咲、ちょっと」

 

「な、なんだ」

 

 シャルナがある一点を指さす。玄咲はそちらに首を向ける。

 

「あれ」

 

「――あれ、は」

 

 

 

 カミナがいた。

 

 

 真っ白い髪のカミナがマギサに連行されていた。

 

 目が、合った。

 

「……」

 

 俯き項垂れる猫背のカミナとしばし見つめ合う。その眼に殺意はもうない。カミナが一旦頭を上げる。そして、

 

 ペコリ。

 

 カミナが玄咲とシャルナに頭を下げた。

 

「――」

 

 驚く2人の視線の先、一時止まっていたカミナが再びマギサに促されて歩き始める。2人は神妙な気持になった。そして、カミナとの、サンダージョーとの因縁の終わりをなんとなく悟った。キララが置いてけぼりの表情で3者に交互に視線を移すも、空気を読んでそっとその場を離れた。

 

「……」

 

「……」

 

 2人でカミナの背を見送る。色々な思いが湧き上がる。玄咲が柄にもなくセンチメンタルな感情に浸っていると、

 

「君」

 

「うわっ!」

 

 突如、声。ふと横を見ると、クロノスがいた。荘厳かつ清廉なまさに神らしい美貌の青年。玄咲は驚き、後ずさった。

 

「なぜ、いつの間に」

 

「私は時の神だぞ。これくらい朝飯前だ。それよりバエルに合わせてくれ。簡易召喚でいいから」

 

「え? 見えるんですか?」

 

「私は精霊神だからな。それくらい朝飯前だ。だからさぁ早く! 私にバエルを見せてくれ!」

 

「……」

 

 こいつ気持ち悪いなと思いながら玄咲は簡易召喚した。

 

「簡易召喚」

 

 ブゥン。

 

「あ、私こいつ無理。玄咲送喚して」

 

「送――」

 

「待て! 待ってくれ! お願いだから!」

 

「……」

 

 玄咲は少しだけ待つことにした。他生徒たちが一人芝居をする痛い存在を見る目でクロノスを見る。クロノスはしばらく不機嫌面のバエルを凝視した後、笑顔で頷いた。

 

「おお、良心のない子に良心が芽生えている……」

 

「あっそ」

 

「感激だ……!」

 

「消えて?」

 

「分かった。そろそろ現界も限界だからな。マギサは年々生命力が弱まってしまってな、召喚可能時間がどんどん減っているんだ。あと、最後に天之くん」

 

「はい」

 

「君もまたいい男になったな。君なら、バエルを任せても」

 

 シュン。

 

 クロノスが尻切れトンボな台詞を残して消えた。だが、続きの言葉は言わずとも分かる。玄咲は顔を綻ばせた。

 

「こ、これは親公認という奴だろうか」

 

「さぁねぇ……気にしないでいいわよ。あんな奴のことなんて。私がいて、玄咲がいる。その関係に他者の認可なんて最初から必要ないでしょ」

 

「……そうだな。バエル、そういえば君は、最初から俺には凄く優しいが」

 

「玄咲玄咲」

 

「なんだシャル」

 

「独り言、続けるのは、ちょっと、人の眼が、気になるかなって」

 

「独り言……? あ」

 

 玄咲は今更気づいた。絶大な存在感のクロノスがふいに現れたからだろう。全生徒が玄咲を見ていて、その前で他人からはエアトークに見えるバエルとの会話を交わしている状況に。玄咲は流石に恥ずかしくなった。バエルに謝る。

 

「すまないバエル。一旦送喚してもいいか」

 

「OKOK。睡眠取ってたところだから続き貪らせて」

 

「え? 睡眠?」

 

「クロノスがちょっと封印緩めてくれたの。もうずっと寝てる。何もせずダラダラしてる。ダラダラ最高」

 

「……そうか。良かったな」

 

 まるでダメ人間みたいな台詞だなと一瞬思うも口には出さない。

 

「じゃ、お願い。今日もね、シーマちゃんと夢の中でイチャイチャするの」

 

「……」

 

 まるでじゃなくもしかしたらバエルは基本ダメ人間ならぬダメ精霊なんじゃないかと思うも口にしない。

 

「送喚」

 

 代わりに送喚。何となく、今のバエルにはこれ以上喋らせない方がいい気がしたのだ。

 

「そういえばさ。キララちゃん、いつの間にかいなくなってるね」

 

「ん? 本当だ。どこに――あ、いた。狂夜くんとさとしと話しているな。他にもG組の生徒が固まってるな」

 

「あ、こっちくるね」

 

 狂夜とさとしを含めたG組の生徒たちを連れたキララが玄咲達の元に戻ってきて、提案した。

 

「天之くん。シャルナちゃん。この後学内飲食店に打ち上げに行かない? 全然入るでしょ?」

 

「うん」

 

「……俺も、いいのか?」

 

「なんで?」

 

「いや、そういう会合はいつもナチュラルに省かれてきたから」

 

「ああ、なーる……いいよ、一緒に行こ」

 

「あ、ああ!」

 

「OK。ま、これくらいでいいかな。あまり人数増やすと面倒臭いし。それじゃ早速行こうか」

 

 キララを先頭とするG組の集団が出発する。その最後尾に2人はついていく。うきうきわくわくと。

 

「な、なんか凄い学園生活っぽいね。私、こういう学園生活が私送りたかったの!」

 

「あ、ああ。俺もだ。凄いCMAの学園生活っぽい。青春してるって感じだ」

 

「うきうきするね」

 

「ああ」

 

「わくわくするね」

 

「ああ。先のことは一旦忘れて、今日は素直に楽しもうか」

 

「うん!」

 

 焼肉パーティーだった。G組の打ち上げ会は荒っぽかったがそれも含めて2人は楽しんだ。イベントが本当の意味で終わった。興奮の余韻がもたらす狂騒染みた饗宴の中で2人はようやくそう思えた。最後は店から追い出されたが、笑いの絶えない打ち上げだった。

 

「楽しかったね!」

 

「ああ!」

 

 シャルナと寮への帰り道を辿る。その途中、仄かに顔の赤らんだシャルナが玄咲の袖を引いて言った。

 

「あのさ、玄咲」

 

「なんだ、シャル」

 

 

 

「このあと、私の部屋、来ない?」

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