カード学園サヴァイヴ ~カードで全てが決まるゲーム世界の学園で狂人で軍人のゲーム廃人は天使のために最強になる~ 作:哀原正十
シャルナの部屋にいる。
「……」
玄咲は今シャルナの部屋にいる。
「……」
女の子の部屋にいる。
(……ああ)
基本構造は玄咲の部屋と変わらない。だけど、いい匂いがした。ときめきが詰まっていた。幸せいっぱいの空間だった。机の上に置かれたノートとペンなどの、至る所に点在するシャルナの生活の痕跡が趣深かった。生活の痕跡は主にゴミ箱にカップ状で詰め込まれていた。カラフル。色とりどり。でも、青が多い。中には玄咲がプレゼントした地獄のような赤と黒のマーブル色も混じっている。玄咲は幸せになった。
「できたよ」
シャルナの声。テーブルにつく玄咲は即背筋を正した。壁に覆われた細長い台所からシャルナがお盆にカップを2つ載せて運んでくる。
「はい」
コポ。
例の如くカップラーメンだった。
「……」
「どしたの?」
(普通こういう場面はハーブティーみたいな洒落たお茶とかを運んでくるんだがな……)
思いながらも口には出さない。
「なんでもない。シャルらしくて趣深いなって思っただけだよ」
「そ、そう? えへへ。変に奇をてらって紅茶とかにしなくてよかった!」
「……そうか」
そこは変に気をてらって普通に紅茶とかにして欲しかった。焼肉の後のラーメンは少し重い。思うも口には出さず、当然のように玄咲に割り振られた月清のカップラーメン醤油味を食べ始める。シャルナもシーフード味を食べはじめる。
「美味しいね」
「ああ」
ずるずるずるずる。
「あー、美味しかった!」
「うん。普通に美味しかった。なんだかんだで入るな」
「うん。私ももう流石にお腹いっぱいだよ。ほら」
ポン、ポン。
相変わらず凄まじく細い。
(……細いな。本当に。そして、綺麗なラインだ……)
「ふー、腹ごしらえ、終了! あとはさ……」
シャルナが麺のなくなったカップラーメンの波紋立たぬ水面をに切なげに見つめる。それから、口を開いた。
「あ、あのさ」
「なんだ、シャル」
「えっと――カ、カードゲームでもして遊ぼうか!」
シャルナはカードゲームに嵌まったらしかった。喜んで精霊王をプレイした。途中シャルナが運んできた紅茶が程よい甘さで美味しかった。
それから玄咲はシャルナの絵を描いた。テーブルの対面に座るシャルナに今できたばかりの似顔絵を見せる。
「あはは、下手だね」
「う、うん。下手なんだ……」
「でも、大好き」
「……うん」
「ね……もっと描いて」
「ああ。何枚でも描くよ。シャルのためなら、俺は何だってするんだ」
「っ! ……うん。分かってるよ……」
シャルナが照れくさそうにはにかむ。その似顔絵を見せるとシャルナはようやく満足したらしく、全ての似顔絵を自作の木製の空き箱に宝物を扱う手つきで収納した。描いて良かったなと玄咲は思った。
それからシャルナの翼を撫でた。ベッドに移動し、白い制服に覆われた翼を押し撫でる。
くにくに。きゅむきゅむ。
「……」
むずむず。
「……」
ぴた。ぐりぐり。
「んっ!」
シャルナが小さな声を漏らす。
「気持ちいいかシャル」
「うん。気持ちいい――えっ?」
「……」
「……」
シャルナは赤面しつつも断固として言い切った。
「続けて」
「う、うん……」
シャルナが満足するまで玄咲は続けた。玄咲も男だった。
「うーん……」
「どうしたシャル」
「え? いや、なんでもない。肩揉みの続きやるね」
「うん」
もみもみ。
幸せな時間だった。
それからも色々なことをした。シャルナと甘く楽しい、そしてちょっとえっちな時間を過ごした。
「幸せ、だねー……」
「ああ、幸せだぁ……」
玄咲はシャルナは2人でベッドの上で隣り合っていた。すっかりいつもの体勢。2人はもたれかかりあって幸せを満喫していた。
シャルナが口開く。
「ね、玄咲……」
「なんだ。シャル」
「……えっと」
シャルナが言い淀む。度々、シャルナは何かを言いかけては躊躇い誤魔化し手を繰り返していた。
「あ、あのね。今度こそ言うね」
「……うん」
だが、ようやく意を決したらしい。シャルナは玄咲と目を合わせて、おずおずと、だがはっきりとその言葉を言い切った。
「シャルナって呼んで」
「――」
名前呼び。
名前呼び。
名前呼び。
親密度アップ――新たなステージの証。
「な、なんで」
ハードルが高すぎたので玄咲はまずそう尋ねた。シャルナは完璧に予想していた者のリアクションで理由を述べ始めた。
「あのさ、私たち、出会った当初とは、比べ物にならないくらい、仲良くなったよね?」
「うん」
「半分、恋人みたいな、ものだよね?」
「う、うん……」
「友達、超えちゃってるよね?」
「う、うん」
「精神的な距離感は、恋人も、多分超えてるよね?」
「……」
少し間を置いて、しかし玄咲は確かに頷いた。
「う、うん……」
「あはは。うん、しか言ってないよ。さっきから」
「あ、ああ。ごめん」
「いいの。ちょっと照れたから、誤魔化すための言葉。……それでさ、進展した2人の関係性をさ、象徴するような何かが、欲しいよね……」
「……」
玄咲はうんと口にしない。
「それが、シャルナ呼びか」
「うん。シャルって愛称も気に入ってるよ。元々さ、最初から距離縮めたくて、シャルって呼んでって言ったの。そっちの方が、より身近に、感じられるかなーって」
「そ、そうだったのか」
「うん。でもさ」
シャルナが膝の上で拳を握る。
「愛称呼びって、ちょっと、友達っぽいよね」
「そ、そうか? 人によりけりだと思うが」
「私は、そう思うの。だからね、友達だけどね、ちょっとだけ、関係進めたいの。だから、玄咲に――いや」
シャルナが玄咲の胸に手を置く。そして、
「あなたに」
その真白の瞳を玄咲に真っすぐ向けて言った。
「シャルナって呼ばれたいの」
「……分かったよ。実は俺も少しだけ、君と同じことを思っていたんだ、シャル。いや――」
玄咲もまたずっと俯けていた顔を上げて、真っすぐシャルナを見つめ返して言った。
「シャルナ」
「ぅ」
シャルナの顔がカーッと赤くなる。それから視線を外して赤らんだ頬を掻きながら、
「慣れないからさ、恋人感、凄いよね……」
「……」
そういわれると玄咲も困る。一応恋人ではないという建前は実は玄咲にとっても結構救いになっているのだ。恋人、という言葉を使われると過剰に意識してしまう。揃って俯き沈黙し合う。だがシャルナがポツリと、
「……もっかい、言って」
玄咲に求める。玄咲はシャルナに答える。
「うん。シャルナ」
「もっと言って」
「シャルナ」
「もっと」
「シャルナ」
「もっと」
「シャルナ」
「もっと」
「……シャルナ」
「もっと」