カード学園サヴァイヴ ~カードで全てが決まるゲーム世界の学園で狂人で軍人のゲーム廃人は天使のために最強になる~ 作:哀原正十
G組教室。
「ん? なんだ……」
「行ってみよ」
教室後方に人が集まっている。近づくと、すぐに道を開けてくれた。人だかりの正体は一枚の張り紙だった。
クラス対抗ストラテジーウォー結果発表
優勝G組
個人MVP 天之玄咲
各クラス獲得ポイント
1位 G組 1375P
2位 C組 270P
3位 E組 256P
4位 A組 141P
5位 B組 1P
7位 D組 0P
7位 F組 0P
ポイント獲得上位11名
1位 天之玄咲 727P
2位 シャルナ・エルフィン 320P
3位 光ヶ崎リュート 152P
4位 火撥狂夜 151P
5位 コスモ・ミストレイン 123P
6位 死水綺麗々 91P
7位 神楽坂アカネ 81P
8位 神鐘マルタ 51P
9位 一ノ瀬大山 31P
10位 水名月雫 26P
11位 炎条司 21P
成績上位者11名
1位 天之玄咲 100点
2位 シャルナ・エルフィン 99点
3位 光ヶ崎リュート 98点
4位 火撥狂夜 97点
5位 コスモ・ミストレイン 96点
6位 死水綺麗々 95点
7位 アルル・プレイアズ 94点
8位 畑耕士 93点
9位 炎条司 92点
9位 神楽坂アカネ 92点
10位 クゥ・クロルウィン 91点
11位 土竜さとし 90点
「なるほど。結果発表か。人だかりが出来るはずだ。にしても、中々尖った結果だな」
「う、うん。クラス得点の差が凄いね……」
1枚の紙にぎっしり情報が詰め込まれていた。誰もが気になっていたクラス対抗ストラテジーウォーの結果発表だった。それを肴に生徒たちが感想を言い合っている。
「いや、ポイント差……」
「えげつねぇな……」
「でも、ポイントと成績が直結してる訳じゃなさそうだな」
「1ポイントのアルルが好成績だ。忖度か?」
「いや、ラグナロク学園は忖度はしねぇ。純粋な評価だろう」
「やった! 私ポイント10位だ!」
「防御や回復が得意な奴が不利になるからポイントで成績はつけないっていってただろう。まぁ、全く無意味ではなさそうが」
「まぁな。流石に一人であれだけ稼がれたらな……」
「成績は……ああ、そうか。100から90位は基本一人ずつしかいなかったな」
「で、個人MVPは当然あいつと。そりゃいくらポイントが全てではないと言ってもあの数値はな……」
G組が優勝ということもあり生徒たちの表情は弾み気味だ。その楽し気な喧騒に玄咲もちょっと浸りながら己のポイントに注目する。
天之玄咲。727P
(……ゲームの仕様上の最高得点の500ポイントを超えてしまった。コスモちゃんのポイントを自分の手柄とするのは少し心苦しいものがあるが、それを抜いても500ポイント超え。我ながら凄まじいポイントだな……にしても)
その思考の続きはシャルナが代弁してくれる。
「凄いね玄咲。1、2フィニッシュだ」
「ああ。もうシャルの強さを認めない奴はこの学年にはいないだろう。学園長も今頃驚いてるんじゃないかな」
「うん。玄咲のお陰だよ。ありがとね」
学園長室。
「……やるじゃないか」
マギサは机の上のイベント結果表を見て愉快気に笑った。それから、ため息をつく。
「にしても、私の眼は節穴だったねぇ……」
朝のHR。
「まずはクラス対抗ストラテジーウォー優勝おめでとう。俺もボーナスがもらえたよ。生徒の成績は教師と無縁じゃないんだ」
(無駄金かな……)
玄咲は反射的に思ってしまった。多分、他の生徒も。そんな目つきをしている。シャルナまでも。クロウは怯むことなく教団の机から数束に分かれたカードの束を取り出して、一束ずつ最前列の生徒に配り始めた。促されるままに最前列の生徒たちが後ろにカードを配る。玄咲、そして最後にシャルナの下にカードが届いた。シャルナがカードを凝視して呟く。
「……カップラーメン約30個分だ」
(あ、真っ先に出る感想がそれなんだ……)
【食事カード。残額5000マニー】
学内施設で使える5000マニー分の食事券だ。それをクラスの全生徒分。結構な額になるはずだった。
「……流石に俺も生徒に稼がせてもらったも同然の金で賭け事にいったりはしない。どうせだから生徒に還元しようと思った。大したものじゃないがな、だからこそいい。生徒がカード、ADの面で直接補助するのは禁止されてるからな」
(……ごめんなさい。教官。絶対賭け事に使うって思ってました)
玄咲は心の中で謝った。シャルナも申し訳なさそうな表情をしている。青髪の女生徒だけが信じていた、そんな表情をしていた。クロウは少しだけ傷ついたがいつものことなのですぐに気を取り直した。
「それではクラス給付ポイントの発表に移る。サクサク行こう。こうなった」
クロウが入室時から持っていたロール紙を広げて黒板に張り付けた。。
1位 70万ポイント
2位 60万ポイント
3~7位 50万ポイント
(ん? ゲームより給付ポイントが多い。そして、順位による差が緩やかだ。3~7位が横這いだ。1位50万ポイント。2位40万ポイントで、3位以下は5万ポイントずつ下降していく仕様だったんだが)
「先生―、G組が断トツなんだからもっとポイント給付されてもいいんじゃないですかー」
玄咲の疑問と、生徒の一人が言葉にしたおそらくクラスメイト全員が抱いていたであろう疑問に、クロウが纏めて答える。
「今年の1年生は伸びが凄い。これからはカードの購入にもADの強化にもポイントがたくさんいる。だから予定よりも多量のポイントを配布することとなった。また、このイベントはG組が突出して強すぎた。少しバランスが悪かった。その反省と、前述の理由により、上位入賞のメリットが最低限となった。すまん。許してくれ。この通りだ」
クロウが頭を下げる。当然の反発を予想して。だが、G組の生徒たちは、意外と素直に決定を受け入れた。
「まぁ、天之や狂夜がいたし、あの天之の女も信じられないくらい強かったし、個人戦力でもぎ取った感はあるよな」
「私一人も倒せずやられちゃったわ。流石に文句言う資格はないわね……」
「俺、コスモちゃんに一撃で殺された。可愛かった」
「俺も宇宙が見えたぜ。コスモちゃん。いいよな」
「分不相応な権利、ですか……」
貢献はした。だが1位は自分の手柄ではない。個人ポイント票の数字の手助けもあってか、その意識が拭い難くあるようで、大きな文句は上がらなかった。小さな文句は上がったがクロウは努めて無視した。
「だが個人成績に関してはしっかりと各生徒の能力に応じて差をつける。個人として強くなればなるほどに恩恵を受ける。その前提こそがラグナロク学園の流儀だからな。それでは個人成績の開示と同時にポイント給付に移る。100点満点換算で、成績に万を付けた数値がそのまま獲得ポイントとなる。100点なら100万ポイントだな。それじゃ、SDで同時に行うぞ」
クロウがSDを弄る。全員のSDに一斉に通知があった。玄咲はちょっとだけドキドキしながら己のSDに現れたメールアイコンをタップした。
天之玄咲 100点
「う、うん。分かっていても、改めてみると嬉しいな」
「そうだね。ねぇねぇ、見てみて」
シャルナが玄咲に己のSDを見せつける。
シャルナ・エルフィン 99点
分かっていても、嬉しい。
「一杯、稼いだよ。ラグマで好きなもの、奢ってあげるね」
「シャルが、99点、か……」
――玄咲の脳内でイベント前の短くも長過ぎた1週間の思い出が走馬灯のように駆け巡った。その全てがシャルナを育てた。いいことも、悪いことも、シャルナは全て糧にした。そして閃光の速度で強くなった。玄咲が頼もしいと思えるほどに、隣並んで戦えるほどに、学年3番目の得点を叩きだすほどに。
シャルナはもう、玄咲がいなくとも戦える、立派な魔符士へと成長していた。
「――あ」
玄咲の瞳から涙が一粒零れ落ちた。また一粒、一粒と、溢れて止まらない。シャルナがわたわたする。
「ど、どうしたの! 玄咲?」
「いや、感極まって、涙が勝手に……シャル、強くなったな。本当に、強くなれて、よかったな……」
「――」
シャルナの瞳からも涙が零れ落ちる。どうやら今更実感が湧いてきたらしい。玄咲の感情に共振してもいるのだろう。ぽろぽろぽろぽろ。次から次に涙が零れ落ちる。止めようにも止められない涙が。2人してうろたえながら涙をこぼし続ける。その間にも、生徒たちは生徒たちで雑談を交わし続ける。
「俺、45点だった。でも、納得感はあるよ。しっかり相応の評価をされたって感じ」
「俺、15点だった……なんで、なんで……コスモちゃんに見惚れてたら1発で殺されただけなのに……」
「6,69点……まぁ、マシな方ですかね……でも、69(シックスナイン)……ゴクリ」
「85点! これって高得点よね! ほぼほぼ最後まで残ったし、たくさん貢献したし、強そうな敵も倒したし、ね、ねぇ、センセ。少しくらい、褒めてくれても……」
いつの間にかHRの空気は弛緩し、生徒たちは自由に雑談を始めていた。クロウも最初は止めようとしていたが、少しくらいいいか、今はそんな表情であえて止めはしない。青髪の少女の髪を撫でながら、頬を緩めて、生徒たちの好きにせている。一気に騒々しくなった教室の中で、ようやく泣き止んだ玄咲にキララが話しかけてくる。
「みてみて! 私95点! 凄いでしょ!」
「ああ、凄いよ。やっぱりキララはすごいな」
「私99点」
「あ、うん」
「ちゃんと指揮取って相手のリーダーを実質仕留めたのが評価されたみたい。サブリーダーも倒したしね。ポイントもそれなり。でも、ポイント一辺倒の評価じゃないみたい。でないとずっと防御に専念してたさとしとかどうなるのって話だし」
「まぁ、そうだな。そこら辺の評価基準はこの学園はちゃんとしてるよな」
「名門なだけはあるねー」
それからしばらく生徒たちの興奮は収まらなかった。しばらく雑談させていたクロウが強制的に雑談を止めるまで、生徒たちの話は続いた。ようやく静まった教室の中でクロウはほっと息を吐いた。
「いつもこのイベントの後はこうなるんだよな……。さて、喧騒も収まったし次に行こうか。次は点数に応じた景品の譲渡だ。ピッ、と。……SDの画面を見てみろ」
生徒たちがSDの画面を覗き込む。そしてどよめいた。
「ん? 何だこれ――ランク5のカードの引換券!?」
「ランク4以下はいないみたいね」
「ラ、ランク5,ですと……実質25万ポイント。250万マニー……!」
「ランク6! センセ! これ実質私へのプレゼントよね!?」
「俺はランク6だぜ! おいMサイズホモドッグ! お前は――あ、お前もランク6か……」
「どうやらランク6が最高、みたいだね。ね、玄咲――え?」
「ランク、7だ……」
「天之くんランク7!? 実質1000万マニー!?」
ざわ……。
キララの大声を切欠に教室中の視線が玄咲に集まる。玄咲は気まずさの中で沈黙する。クロウが助け舟を出す。
「今説明する。全員黒板を見ろ」
カッ、カッ。
クラス対抗ストラテジーウォー追加報酬スペルカード引換券内訳
100点 ランク7
99~80点 ランク6
それ以下 ランク5
「各々の点数に応じて配布されるカードのランクも変わっている。当たり前だが上位程高ランク。そして100点――学年に一人しかいない個人MVPの生徒の報酬はランク7のカードの引換券だ。一人しかいないだけに、報酬も1ランクアップだ。パチンコではないがな。ちなみに例年に比べて全点数帯の報酬がランクアップしている。前述の通り生徒の平均レベルの高さを考慮してだな。2,3年生は飛びぬけたのが数人いるんだが本当にそれだけで――」
己の抱いた疑問に回答がもたらされ玄咲は納得した。
(なるほど。そういう事情でゲームと違ったのか。ラッキーだ)
「今後も試験やイベントでも1位は個人MVPという形で特別な報酬を用意している。是非1位を目指して励んでくれ」
「な、なるほど……」
「やっぱ、上を目指さないと蹴落とされる構図になってるんだな……」
「……この学園、恵まれてるし基本楽しいけどやっぱきちぃよ。現実を思い出さされた気分だぜ……」
「でも、残りてーよな。……何をしてでも(ボソッ)」
「ああ。もっと頑張らねーとな……俺らしく(ボソッ)」
(……楽しい学園生活を提供して未練を喚起するという学園長の策略にまんまと嵌まっているな。……一見明るそうでいてこの学園闇が深いんだよな。牢屋とかあるし。本当に人が死んだりするし。蘇りなしで)
クロウの説明を受けて納得した生徒たちが雑談を交わす。シャルナもまた玄咲に話しかけてくる。
「凄いね。最大100万ポイント――1000万マニーだ」
「ああ。俺は他の生徒よりたくさんのカードを用意しないといけないからありがたい」
「そだね。玄咲、かなり使い分けるもんね。大変だ」
「闇属性と炎属性になるべく絞っていこうとは思っているが、他属性の有用カードはなるべく確保しておきたいからな。本当ポイントがいくらあっても足りないよ。次の試験でまた稼がないとな」
「あ、やっぱまたあるんだ。当たり前だけど」
「うん。次は上級生と組んで魔物退治かな。楽しみだよ」
ざわつく教室の中、クロウが教団の上のカンペを見て頷く。
「必須伝達事項はこれで全部か。では、次はイベントの反省会を行う。まずは俺からの見解を――」
1時間後。反省感が終わり、HRの終了間際。
「――という訳で一ノ瀬大山は自主退学を申し出た。イベント中に心に重篤なトラウマを刻まれたらしい。仔細は省くが――」
「やったぜ!」
「天之に殺されたらしいぜ!」
「……」
配慮を一瞬で無に帰されたクロウは咳払いをする。玄咲はある程度そうなればいいと思ってトラウマを刻み付けたので特に何も思わなかった。
「ゴホン。まぁ、そういうことだ。さて、これで今日のHRは終わりだ。以降は自由行動となる。授業はない。イベント、試験後はカードバトルが活性化するからな。鉄は熱いうちに打て。熱が残っている内に戦わせようという配慮であり――」
ガタッ!
「よしっ!!!!!!!!! Mサイズホモドッグ!!!!!!!!!!!! 俺とカードバトルすんぞ!!!!!!!!!!!!!!!!!! 挽き肉にしてやるぜぇえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!」
C組
「挽き肉にしてやるぜぇえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!」
「……G組は相変わらずねぇ」
ため息をつくクララの顔にはしかし笑みが浮かんでいる。
「やるぜぇえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!」
(――声が、デカい。うるさい。やる気を反映しすぎている……)
「きゅー……」
(そして可愛い……)
目をグルグル眼鏡なしでグルグルにして耳を抑えるシャルナに玄咲は癒される。さとしが地面に蹲って耳を抑える狂夜にうざ絡みする。
「おっ? どうした? 戦う前からビビってんのか。蹲ってケツ向けてまるで女の仕草だぜ。尻尾が生えてりゃ完璧にキャンキャンドッグだったなぁ。俺が生やしてやろうかぁ? ギャーッハッッハ――なんか寒いな。なんでなんぐあぁああああああああああああああああああああああああああ!?」
狂夜は一瞬で身を起こしてさとしの首に延髄蹴りを叩き込む。起き上がり、前髪を抑えて血走った眼をさとしに向ける。そして犬歯を剥く。
「……俺の繊細な鼓膜をよくも貴様の糞みたいに下品な声で揺らしたな。そして度重なるホモ扱い。殺す。ぶっ殺してやる。表に出ろこのうんこドリルが!」
「じょ、上等だ! ぶっ殺してげぶっ!」
「え? あ、がふっ!」
クロウは狂夜とさとしにそれぞれ拳骨を落として顔面を地面とキスさせた。パンパンと手を払って淡々という。
「これからは問題児には少し手荒に出ることにした。喧嘩はやめろ。思う所があるのならカードバトルで発散しろ」
「! そうだな。カードバトルでこいつをぶちのめしてやればいいんだ。強くなった俺を見せてやるぜ!」
「ふん。そうだな。カードバトルは全てを解決する……さとし。増長しすぎたな。改めて格の違いを思い知らせてやる。分からせてやろう。俺が上で、お前が下だと、カードバトルでな」
「!」
カードバトル。その言葉を聞いて生徒たちがざわつく。この世界の人間は基本的にカードバトルが大好きだ。死にかけたり本当に死んでも尚の、筋金入りだ。すぐに教室中が活気づく。全員の意識が一つの方向を剥く。クロウにももうその流れは止められない。
「おい! カードバトルだ! 見に行くぞ!」
「そうね! カードバトルだもんね!」
「ああ! カードバトルは見ざるを得ないぜ! 見るのもやるのも権利なんて必要ないぜ!」
「っ! ぼ、僕の台詞が……!」
「面白そうじゃないか! 私もやらせてもらう! ランクアップしたんだ。この力を試してみたい!」
「ああ! まだイベントで血がざわついてる! 死にかけて掴んだ悟りを試してみてぇ!」
「……キララちゃん、このノリ未だによく分かんないんだよねぇ……」
「セ、センセ。また0号館、解放してくれるよね?」
「……そうだな。イベント後はカードバトルが活性化する。他にも戦いたい生徒もいるだろうし、そいつらも戦わせて見学させるか。イベント前後の変化。それを実感するいい機会になるだろう。よし。予定変更だ。これからカードバトルの実技授業とする。0号館を開放する」
「やった! センセ、大好むぎゅ」
抱き着きにきた青髪の女生徒の頭を手で遠ざけながらクロウが教室を出る。さとしと狂夜、そして他の生徒たちもその後に続く。G組全員でいつかのように0号館へと移動する。玄咲とシャルナはその最後尾を歩く。シャルナがしみじみといった。
「ちょっと荒っぽいけど、平和って、感じするね」
「ああ、平和だ。やっと戻ってきたって感じがする」
「うん。――本当、疲れた。大変な一週間だった。でもさ」
シャルナがSDに表示された99点という数字――1週間前のシャルナなら絶対取れなかった点数。成長の象徴を見せながら、嬉しそうに笑った。
「得たものも、たくさんあったね!」
「――ああ」
玄咲もまた、己の100点という点数を見て、頷き、笑った。