カード学園サヴァイヴ ~カードで全てが決まるゲーム世界の学園で狂人で軍人のゲーム廃人は天使のために最強になる~   作:哀原正十

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2章から続く一連の話の最終話。みなさまお疲れさまでした。


エピローグ終 お友達

「2人でお弁当食べるのも、随分久しぶりに感じるね!」

 

 いつもの校舎裏の木陰の下のベンチで玄咲とシャルナはお弁当を広げていた。シャルナが両手を広げて膝の上のお弁当を自慢げに披露する。玄咲には木漏れ日を浴びる広げた両手が天使の翼のように見えた。いつまでも飽きないシャルナの瑞々しい笑顔に魅入る玄咲にシャルナが自慢げにお弁当の解説をする。

 

「今日は生ラーメン! スープを開封してかけてこの同封してる保温カードで温めて食べるんだよ!」

「シャルナはいつもラーメンなんだな」

「うん! 大好きな玄咲には、大好きなものだけ、あげたいの!」

「! あ、ありがとう!」

 

 シャルナは毎日色々な心のスパイスをラーメンに振りかけてくれる。だから単調な味のラーメンにもいつまでも心が飽きない。

 

「じゃあ、まずは温めようか!」

「ああ! どうやって温めるんだ!」

「『解凍《アイスフレーム》』って詠唱してカードを起動して、袋入りのスープと開封した麺と一緒に、弁当箱の中に入れて3分待つんだよ!」

「分かった!」

 

 解凍と唱えてカードを袋入りのスープと開封した麺と一緒に弁当箱の中に入れて3分待つ。待ってる間シャルナと朗らかに会話する。日差しが気持ちいい。シャルナと朗らかな陽気の中で、奇跡の一時を楽しんでいると、

 

 いつかのように、足音が近づいてきた。2人は振り返る。そこには予想通りの人物がいた。

 

 アルル・プレイアズがいた。

 

「や、やぁ。2人とも」

 

 その光そのもののように美しい髪を揺らして、赤白帽をしっかり被って、後ろ手を組んで、少し気まずそうに近づいてくる。その学年屈指の美貌は、気のせいか以前よりも少し大人びて見えた。

 

「きょ、今日はいい天気だね……」

 

(……アルル)

 

 アルルは少々憂いを帯びた雰囲気を纏っていた。その雰囲気が普段とのギャップでアルルの美貌を更に際立たせていた。儚さをアルルにもたらしている。少年と少女の狭間。美少年のような、美少女のような、玄妙な美しさをアルルに宿していた。玄咲は思わずドキリとした。シャルナも息を呑んだ。それ程シンプルに美しかった。そのアルルが、後ろ手に隠していたものを2人に披露する。

 

「……一緒に、食べない」

 

 布に包まれたそれはお弁当だった。長方形の箱。やや大きめ。玄咲は尋ねた。

 

「な、なぜ」

 

「ッ!?」

 

「玄咲、それはないよ。コミュ障発揮しすぎだよ……」

 

「え? でも、本当に理由が分からなくて――」

 

「っ! 単純にッ!!」

 

 アルルはちょっと涙目でお弁当を持った手を突っ張って叫んだ。ちょっと涙目で。

 

「友達と一緒にお弁当を食べてみたかったんだよっ! それが理由だよっ! 悪いかよっ!」

 

(ッ!)

 

 玄咲はアルルに萌えるとともに流石に己の非を悟った。即座に謝る。

 

「ご、ごめん。気が利かなかった」

 

「うん。本当に利かないね……そういう人間だって分かってたけどちょっとイラっとした」

 

「ごめん……」

 

「アルルちゃん。一緒に食べよ」

 

 シャルナが体を玄咲側に寄せて反対側のスペースを手で叩く。アルルは顔を輝かせて、それから少し不安げに尋ねた。

 

「……シャルナちゃん。2人きりの時間を邪魔されて、不機嫌になってない?」

 

「全然。なんで?」

 

「だって、シャルナちゃんだから」

 

(どういう意味なんだろう……漠然とし過ぎてよく分からない……)

 

「……」

 

 シャルナは難しい顔をする。それから笑顔を作って、アルルに言った。

 

「アルルちゃんのこともね、私、大好き。だからね、いいよ」

 

「っ!?」

 

 アルルは己の心臓を抑える。それから右に左に視線を泳がせた後、おずおずとシャルナが手で促したシャルナの隣に座った。

 

 かなり、距離が近い。

 

(……そういえばアルルって百合気質なんだよな。……いや、邪推はよそう。純粋な友情に俺の下種な勘繰りを挟み込むべきではない。俺を、挟み込むべきではない。しかし……アルルもシャルナも可愛いなぁ……)

 

「シャ、シャルナちゃん。今度僕の曲の作詞してくれないかな……」

 

「う、うん。いいよ。頑張ってみる……」

 

 2人は初々しく、距離を探りながら、それでも近づこうと会話を交わす。玄咲は太陽を見る目でそのやり取りを見つめた。その途中、アルルがふいに

 

「ところでさ、天之玄咲」

 

「なんだアルル」

 

「君、男の子だからたくさん食べるよね?」

 

「ああ。でも、7日間くらいは絶食できるよ」

 

「……それでさ、これ」

 

 アルルは玄咲の闇が仄かに垣間見えた発言を努めて無視して、己の弁当箱――大きめの重箱を開けた。

 

 パカ。

 

 ――色とりどりの豪奢なおかずが玄咲を出迎えた。

 

「――ゴクリ」

 

 玄咲は思わず喉をならす。シャルナのラーメン攻勢に少しずつ慣らされた舌が、欲望を取り戻す。アルルは笑顔で言った。

 

「これさ、3人で一緒に食べよ! そのラーメン、多分間に合わせのインスタントだよね? 物足りないだろうから丁度いい――よ、ね……」

 

 ――シャルナはアルルの肩を掴んでギリギリと軋ませた。何か、黒い感情が乗っていた。玄咲にも分かった。笑顔を引きつらせるアルルの瞳をシャルナがのぞき込む。

 

「――そのお弁当、私が玄咲のために作ったの。毎朝、玄咲のために、心を込めて、ラーメンを用意してるの。 “大好き”を詰め込んでるの。断じて間に合わせじゃ――ないよ?」

 

「ご、ごめん。で、でもさ、それは絶対、インスタントだよね……?」

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

 沈黙。三者三葉。図星。あえて言わなかったのに。気まずい。その後、シャルナは訥々と告白した。

 

「たまには、いいでしょ……」

 

「……」

 

「……」

 

 あ、これ将来癖になる奴だ。2人、同じことを思った。1人、慌てた。

 

「――そ、それより、お弁当食べよ! せっかく作ったのに、冷めちゃう!」

 

「! ああ! そうだな!」

 

(……なんとなく分かる。これがこの2人の日常なんだろうなぁ……本当、微笑ましいな)

 

 アルルの弁当箱から玄咲とシャルナが好きなおかずを自分の弁当箱に移す。玄咲は卵焼き、シャルナは殻の剥かれた海老を中心に。普段よりも豪華でバリエーション豊かになったお弁当を2人とも、特に玄咲が喜んだ。それから、3人で弁当を食べ始めようとしたその時、

 

「やっほ、ゲンサック」

 

 クゥの声。左手に包みをぶら下げ、右手を振って笑顔で近づいてくる。アルルがぎょっとした。シャルナもぎょっとした。それぞれ、過去の邂逅を思い出して。クゥはちらりと二人を見る。それだけ。すぐに視線を玄咲に戻し、左手の包みを顔の横に持って、笑顔で言った。

 

「一緒にお弁当食べよ。他に食べる人いなくてさ」

 

「ああ! もちろんだ! ん? クゥ、今日は眼鏡かけてないのか?」

 

「うん」

 

 コクリ。

 

「だってゲンサック、こっちの方が、好きでしょ?」

 

 ピシリ。

 

 空気が凍る。固まる玄咲とシャルナ、ついでにアルルに、笑って言う。

 

「別に目が悪い訳じゃないからかけなくても問題ないの。短時間だけならね。邪魔するね」

 

「「あっ」」

 

 玄咲の隣にクゥは腰かけた。それから首をかしげる。

 

「どうしたの?」

 

「あっ、あの、えっと、その、そこ、なんていうか――」

 

 シャルナがコミュ障を発揮する。玄咲以外の慣れない相手にはシャルナは基本こんな感じだ。クゥはそのエメラルド色の瞳でしばらくシャルナを見た後、クスリと笑って、

 

「分かった」

 

 アルルの隣に移動した。アルルがぎょっとする。クゥがシャルナに笑う。

 

「これでいい?」

 

「――いや」

 

 シャルナはコクリ、と頷きかけて、やめた。クゥに笑顔で答える。

 

「別に、いいよ。玄咲の隣でも」

 

「分かった。じゃ、ゲンサックの隣座るね」

 

 ピト。

 

「「ッ!」」

 

 ガタッ!

 

「冗談冗談。密着したのは悪かったって。席戻すね」

 

「あ、ああ……」

 

 玄咲は心臓を抑えて答える。クゥがアルルの隣に移動する。シャルナは息が荒い。

 

「……ふー、ふー」

 

「……本当、冗談だから。落ち着いて。これ、一本あげるから」

 

「? 一本?」

 

「うん」

 

 パカ。

 

「はい」

 

 クゥは焼き鳥の詰まったお弁当箱から一本取り出してシャルナに渡した。

 

「……美味しい」

 

「でしょ? 私が撃ち落としたの」

 

「えっ」

 

「どしたの?」

 

「……いや、美味しい。もぐもぐ」

 

(……可愛いなぁ。シャルナは。もぐもぐシャルナだ)

 

「……その、君さ、鳥人だよね?」

 

 もぐもぐシャルナの隣でアルルが恐る恐るクゥに尋ねる。クゥはコクンと頷いた。

 

「うん。そうだよ。でも鳥肉は全然食べるよ。だって美味しいもん。そもそも肉を食わないと食料足りないし。鳥は好きだけど食う食わないはまた別だよ。食えない鳥人もいるけど私はガンガン食うよ! クゥだけに!」

 

 クゥはガッツポーズ。渾身のギャグのつもりらしい。誰にも受けなかった。アルルは苦笑した。

 

「……あはは、本当、死生観がドライだね」

 

(……クゥは良くも悪くも自然の世界の倫理で生きてるんだよな。だから人間も平気で殺すし、よく周囲と摩擦を起こす。そこら辺の常識のギャップの解決がクゥルートのキーになるんだが……やっぱこの尖ったクゥが俺は好きだな。可愛いなぁ……)

 

 クゥが加わった昼食はまた賑やかになった。なぜかクゥに苦手意識を持っていたアルルもクゥとあっという間に打ち解けていた。流石のコミュ力だった。そしてまた弁当を食べていると、

 

「天之くん! 探したよ!」

 

 今度はキララ。大きな水色のツインテールを揺らして、星の入った瞳をキラキラさせて、やはりお弁当箱を手に駆け寄ってくる。玄咲のテンションがまた上がった。シャルナがジト目で見ていることにも気づかない。

 

「キ、キララ。どうした」

 

「うん。天之くんにお弁当作ってきたの。食べてほしいなって」

 

「!」

 

 お弁当はまさかの玄咲用だったらしい。浮かれる玄咲の隣でシャルナが、

 

「ねぇキララちゃん。自分で食べてみてよ」

 

 シャルナが鋭く尋ねる。キララはシャルナを無視して玄咲に弁当のおかずを食べさせにかかった。

 

「さ! 食べて! 特にこのゼリー入り饅頭なんて絶品――」

 

 ガッ!

 

「むぐぅううううううううううううう!?」

 

 シャルナはキララの口にゼリー入り饅頭を放り込み頭と顎を抑えて無理やり咀嚼させた。キララの眼がとろんと蕩ける。そして即座にポケットから取り出した注射器を自分に注射する。目が元に戻る。

 

 場の空気までは元に戻らない。全員引いている。特にアルルはドン引きの表情をしている。キララは場をくるりと見回した後、こともなげに言った。

 

「……さーて、ラグマでパンでも買ってくるかなー。すぐ戻ってくるね」

 

 戻ってくるらしい。その神経の図太さを玄咲は好ましく思った。また賑やかになるなとも。アルルとクゥが玄咲に言う。

 

「……キララちゃんって、もしかしてヤバい子?」

「……うん。でも根っこはいい子だよ」

「ゲンサック、あれは食べない方がいい。ヤバい匂いがする」

「……うん。それは間違いないかな」

「玄咲、キララちゃんの、食べ物と、飲み物には、今後気を付けてね」

「……うん」

 

 4人で会話しながら弁当をつつく。その姿を、2人の人影が遠くから見つめている。

 

 

 

「……とてもじゃないけど混ざれそうにないわね。楽しそう」

「そうだな。彼は凄く幸せそうだ。あの空気には混ざれないな……」

 

 リュートとアカネは玄咲と弁当を食べようと校舎裏を訪れた。そして美少女に囲まれている玄咲を見て、諦めた。玄咲が本当に幸せそうだったからだ。

 

「仕方ない。いつものように2人で食べましょうか」

「そうだな。戻って――ん?」

「む」

 

 赤髪の男――狂夜が後ろからやってきた。狂夜はリュートをじろじろ見ながらすれ違い、校舎裏を覗いて、

 

「――そういう空気じゃないか。ちっ、天之の奴……」

 

 狂夜が建物の陰から覗き舌打ちをして去っていく。アカネが呟く。

 

「え? なにあいつ。ホモ?」

「いや、単に人と付き合うのが苦手なだけだろう。混じりたかったんだろうな。そうだ。せっかくだから誘ってみるか。おーい……」

 

 リュートは狂夜に声をかける。狂夜は不機嫌そうに応じるも、結局はリュートの誘いに乗って一緒に食べることになった。

 

 

 

 その後はキララを待ちながら弁当をつつく。山育ちという共通点でシャルナとクゥがちょっと仲良くなったり、アルルとシャルナが韻踏みで遊んだり、全く話に入れない玄咲にシャルナが積極的に話しかけたりして、4人で親交を深めた。そうしていると――。

 

 

「きゅぴーーーーーーーーーーーーーん! センサー感知! センサー感知! ときめきパワー発見です! 直ちに向かいます!」

 

 

 突然、声。校舎の角から。玄咲は即座にレスポンスして立ち上がり、声を上げた。

 

「ッ! コスモちゃんっ!」

 

「玄咲?」

 

「! 天之玄咲の声ッ! コスモッ! 直ちに向かいます!」

 

 ドドドドドドッ!

 

 コスモが校舎の角から現れる。そして猛スピードで駆け寄ってくる。その顔には笑顔。心なし、いつもよりキラキラ輝いてみえる。

 

「お呼びとあらば即、参上!」

 

 コスモはベンチに座る玄咲の真後ろでズサッ! と立ち止まり、敬礼した。

 

「ぴきゅるぴ! ときめきエネルギーを感知してきました!」

 

「そ、そうか。コスモちゃんに会えて俺も嬉し」

 

「では早速」

 

 むぎゅ。

 

 コスモは玄咲に抱き着いた。シャルナが一瞬にして総毛立つ。望外の幸福感の中で玄咲は目を回してコスモに尋ねた。

 

「な、なんで、俺!?」

 

「量的にはシャルナ・エルフィンの方が上なのですが、はっきり言って10万もあればときめきパワーの充填には十分すぎるのです。なのでどっちでもいいのです」

 

「で、でも、私の方が上なんだよね? なんで、今日は、玄咲で、補充するのかな?」

 

「……コスモは」

 

 ぎゅ。

 

 コスモは更に強く玄咲を抱き締めた。そして物凄く甘ったるい声音で言った。

 

「これからは彼だけでときめきパワーを補充するのです……」

 

 ピシっ。

 

 空気が凍った。

 

「――コスモちゃん」

 

「なんです、か――」

 

 ピシっ。

 

 コスモの表情が凍った。シャルナが素早く動く。

 

 しゅたっ。

 

「えい」

 

「う、うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」

 

 シャルナは一瞬でコスモの背後へと移動し羽交い絞めにして玄咲から引きはがした。そしてときめきパワーを注ぎ込んだ。過去2回の経験で送る要領は掴んでいた。コスモは激しく痙攣した。そして――

 

 ぼふん!

 

 コスモの髪と肌が黒くなった。宇宙のような神秘的な黒だった。黒コスモだった。

 

「「!?」」

 

 コスモの肌が真っ黒になった。玄咲以外の3人が驚愕に固まる。

 

「……え?」

 

「おっと、黒コスモに変身してしまいました」

 

「アイアン、モード?」

 

「いいえ。黒い感じのときめきパワーで心が満たされるとその影響を受けてコスモの肌は黒くなるのです」

 

「……黒」

 

「全身を黒いときめきパワーが駆け巡りコスモの肌は黒くなるのです。シャルナ・エルフィンの嫉妬パワーですね」

 

「っ! うぅ~……そうだよ。嫉妬してるよ」

 

「っ!?」

 

 玄咲は心臓を抑えた。今まさに、猛烈なときめきパワーを玄咲の心臓が発していた。

 

(ま、前から思ってたけど、やっぱりシャルって、意外と嫉妬深いよな。でもそんなところもかわいい。可愛いな。ああ、シャル、可愛い……)

 

「と、とにかく!」

 

 シャルナがコスモを玄咲から引きはがす。

 

「充填完了。さ、離れて離れて」

 

「は、はい。大義名分を失っては仕方ありませんね」

 

「え? 大義名分」

 

「おっと。失言」

 

 コスモは玄咲に指を唇に添えて、片眼を閉じて、「しっ……」と言った。

 

「聞かなかったことにしてくださいね?」

 

「……う、うん。か、可愛いよコスモちゃん……」

 

「!? な、なんか胸がドキドキします。これは、よくありませんね。一端」

 

「離れようか!」

 

 シャルナが無理やり距離を取らせる。それでその一幕は終わった。だが、玄咲のドキドキは止まらない。ちゃっかり玄咲の左隣に陣取ったコスモを見ながら思う。

 

(も、もしかしてコスモちゃんは俺のことを好きなのか……? でも、だって、そうとしか思えない。今にして思えばキララ先生に預けた時のあの発言もそういう意味としか……う、うぅ。シャル、俺はどうすれば)

 

「シャル、俺はどうすれば」

 

「私を見てればいいの」

 

「え……?」

 

 思わず零れた声に仔細を聞かぬまま頬を膨らませてシャルナは即答した。さらに続ける。

 

「そしたら、少しくらい許してあげるから。前も言ったようにね、最初から、玄咲を抑制し切れるとは、想ってないの。玄咲は、本当、女の子が大好きだし、鈍感だもんね」

 

「うっ」

 

「でもね」

 

 シャルナが玄咲の心臓に手を置いて微笑む。

 

「玄咲が、私から、離れられるわけが、ないってこともね、ちゃんと分かってるよ」

 

「シャ、シャル……!」

 

「玄咲――」

 

 ギュ。

 

 シャルナは玄咲を抱き締めた。過去、もう数えきれないほどに、そうしたように。玄咲も慣れてはいる。ただ、今回は少し、事情が違った。

 

「……シャ、シャル。人目が」

 

「見せつけてるの。は、恥ずかしいけど、分からせないと、いけないから」

 

「な、なにを?」

 

「……バカ」

 

(……友達ってなんなんだろう)

 

 3人分の視線を浴びながら現実逃避気味に考える玄咲。アルルとクゥが地獄のような気まずさの中で視線を伏せる。コスモが首を捻る。

 

「……いや、分かってたけど」

 

「やっぱり、そういう関係なんだ……」

 

「? ?? なぜでしょう。突然センサーに分かり切った負け犬ヒロインという言葉が届きました。電波?」

 

「とにかくね。玄咲」

 

 シャルナが赤らんだ顔で身を離しながら、クスリと笑って、鼻頭に指を突きつけた。

 

「ずっと私の傍にいること。いいね?」

 

「ああ。当たり前だろう。今までも何度も言ったが、ずっと一緒にいるよ」

 

「……うん」

 

「でも、この場ではもう言わせないでくれ……」

 

「――うん」

 

「ただいまー。あんパン2つ買ってきた……何この雰囲気。いや、大体察するけどね。あんた何したの」

 

「な、何もしてない」

 

「……ま、いいや。はい」

 

 キララが玄咲にあんパンを投げた。

 

「え?」

 

 パシっとあんパンを受け取る玄咲。キララがベンチの背もたれに腕を乗せて玄咲の真後ろで言う。

 

「袋入り。それなら食えるでしょ。なんか弁当断られたの普通にむしゃくしゃするから受け取りなさいよ」

 

「……うん。ありがとう」

 

 玄咲は袋を開封する。あんパンらしい匂いがした。齧る。あんパンの味がした。美味しかった。

 

「ありがとう。あんパンは美味しいな」

 

「そりゃあんパンは美味しいわよ。キララちゃんの主食だからね。よいしょっと」

 

 キララはコスモを押しのけて玄咲の隣に座った。5人の視線がキララに注がれる。特にコスモが物言いたげ。キララがコスモを睨む。

 

「なに? あんたにやられた傷まだ痛むんだけど」

 

「傷は残っていないはずですが」

 

「気分の問題」

 

「……まぁいいでしょう。負け犬は去るのみです。よいしょ」

 

 コスモはベンチの背もたれに腕と顔を乗せて、玄咲の背後に陣取った。シャルナは思案する。

 

「……セーフ」

 

「何がだ、シャル」

 

「あはは。思ったより賑やかになったね。もっと作ってくればよかったね」

 

「え? そのお弁当、アルルちゃんが自作したの?」

 

「うん」

 

「……こ、今度作り方教えて」

 

「いいよ。作詞と引き換えね」

 

「う、うん!」

 

 アルルとシャルナは相性がいいようで、本当に仲がいい。2人を見て、玄咲は頬を緩めて呟いた。

 

「……しかし、本当に賑やかだ」

 

 1週間前は2人きりだった。互いにとって友人と呼べる存在が互いだけだった。それはそれで幸せだったが、やはり一抹の物寂しさはあった。それがいつの間にかこんなにも友人と呼べる存在が増えている。この場以外にも、グルグルもいる。リュートもいる。友好的に接してくれる相手という区切りでなら、クララ先生を筆頭にもっとたくさんいる。

 

 いつの間にか、2人きりと言っても過言ではなかった学園生活は、皆との学園生活に変わっていた。こんなにも豊かになっていた。シャルナも丁度同じことを思ったのだろう。玄咲に囁きかけてくる。

 

「あのさ、2人きりもいいけど、こういう賑やかなのも、いいね」

 

「……そうだな。1週間前は想像もできなかった状況だな」

 

「うん。これが、私の想像してた、学園生活だよ」

 

「俺もこういうのを想像してた」

 

「だよね。あのさ、私、この学園に入学してよかった」

 

「ああ。俺もだ」

 

「うん。玄咲」

 

「なんだシャル」

 

 ――シャルナが風に揺れる梢を見上げる。いつかのように、シャルナの天使のような顔の上で葉々の陰影がさらざらと踊る。ただでさえ美しいシャルナの顔に幻想の彩りを加える。いつものように、いつ見ても超常的に美しいシャルナに改めて魅入る玄咲にシャルナが笑みを向ける。

 

 天使そのものの笑みを。

 

「――友達って、いいね!」

 

「――ああ、本当に」

 

 玄咲もまた、梢の向こうの青い空を眩し気に見上げながら、呟いた。

 

 

 

「――友達っていいなぁ……」

 

 

 

 絆の輪の中に新たな日常が芽吹く。2人の学園生活は十人十色の彩りを加えてこれからも続いていく。

 

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