カード学園サヴァイヴ ~カードで全てが決まるゲーム世界の学園で狂人で軍人のゲーム廃人は天使のために最強になる~   作:哀原正十

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後日談
後日談1 キララとエンジェル・ハイロー


 ラグナロク・ネスト433号室。

 

「……」

 

 ピンポーン

 

 ガチャッ!

 

「待ってたよー、天之くん。入って入ってー!」

 

 星の入った瞳、その下の逆三角形の隈、巨大な水色ツインテール、そしてラグナロク学園の制服着用。やや大きめの胸がドアからキララが手を上げて身を飛び出させるとともにたゆんと揺れた。玄咲は緊張の面持ちで一歩を踏み出す。

 

「……失礼、する!」

 

 玄咲は現在死水キララの部屋を訪れていた。

 

 ()()で。

 

 女の部屋を訪れているにも関わらず、隣にシャルナがいない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時を遡ること3時間前。

 

 ラグナロク学園魔符士科校舎の廊下にて。

 

「ふー、ふー!」

 

「キララとの約束なんだ。分かってくれシャル……」

 

「そうだよシャルナちゃん。いくらなんでも二人きりでいすぎだよ。たまには僕と二人きりになろうよ」

 

 玄咲はシャルナを宥めていた。二人きりではない。たまたま通りかかったアルルが一緒にシャルナを宥めてくれている。

 

 だが、二人懸かりの説得にもシャルナはめげない。

 

「でも、危ないよ! あの、キララちゃんだよ!? 信じて送り出した玄咲がケミカルジャンキーにされて送り返されてきたらどうするの!?」

 

「うっ」

 

「それは……」

 

 全員が薄々感じている懸念を口にする。玄咲はうろたえつつも、断固として言い切った。

 

「な、なぜそんなスラングを知って、いや、そんなことはどうでもいい。それでも俺はいくんだ」

 

「なんで!?」

 

「約束だからだ。キララは俺の無茶ぶりに答えてG組のサブリーダーとしての仕事を十全にこなしてくれた。その代わり言うことを何でも一つ聞くと言った。ここでその約束を破ったらキララは二度と俺たちを信用しないだろう。そして何より。信頼を裏切るような真似をしたくない。だってキララは俺たちの友達なんだから。約束は破れないよ」

 

「うっ! それは……」

 

 シャルナが言葉に詰まる。キララはシャルナにとっても友人であり、クラス対抗ストラテジーウォーでのその奮闘も後日クロウに見せられたビデオによりよく知るところだった。全ての中心を担った95点に相応しい大活躍と大往生だった。キララがいなければコスモは(実質)倒せなかった。そのキララとの約束――。

 

「う、うぅ……」

 

「――シャルナちゃん」

 

 嫉妬と危機感と友情の狭間で揺れるシャルナの両肩をアルルが後ろからポン、と叩く。バランスを、傾けるように。

 

「……信じて送り出そうよ。彼ならきっと大丈夫。そしてその間僕と一緒にラップをしよう!」

 

「……うん。そうだね。信じて送り出すよ」

 

「!」

 

 シャルナが折れた。アルルが喜びシャルナの手を握る。ギュッと。

 

「あっ!」

 

「OK! じゃあ早速バトルルームに行こうか! ラップバトルだ!」

 

「え? あ、うん。なんでバトルルーム……?」

 

「カードバトルもするからだよ! じゃね! 天之玄咲! シャルナちゃん借りてくよ!」

 

 アルルに手を引かれてシャルナがバトルルームへと走る。玄咲の元を離れていく。玄咲はその2人の後ろ姿を見て少し寂しそうに微笑んだ。

 

「……いいことなんだけど、なんか複雑な気持ちだ。シャルを独占したいような、色んな相手(女の子限定)と付き合って欲しいような……。ま、それはそれとして」

 

 玄咲はシャルナと反対方向に足を踏み出した。

 

 目的地は一つ。

 

「よ、よし。それじゃいくか。キララの部屋へ! げ、ゲームでも描写されてないんだよな。ちょっと怖いな……」

 

 

 

 そして現在。

 

 謎の実験器具やキラキラした液体の入った試験管塗れの部屋で玄咲はキララとテーブル越しに対面していた。膝の上に置いた手に汗が滲む。キララが切なげな瞳でテーブルの上に一つの試験管を置く。

 

 キラキラしていた。

 

「これ、私が調合したの」

 

「……うん。知ってる」

 

「エンジェル・ハイロー、の試作品だよ……」

 

「……それは、知らなかったな……」

 

 やたらと白く輝いている。こんなにケミカルが光るとは玄咲は知らなかった。

 

「でしょ。初めて作ったよ。こんなキラキラしたの。ケミカルって、こんなにキラキラするんだね」

 

「あ、ああ。驚きだ。白く光って綺麗だな……」

 

「うん。私史上最キラキラ。会心の手応えだよ。ここまでうまくいったのはこの1本だけ。でさ、この1本を誰に飲ませようかなって思ったらさ、真っ先に天之くんの顔が思い浮かんだ……」

 

「……そうか」

 

 体の良い実験体らしかった。約束のこともあるからだろう。キララが玄咲の推測を裏付けする。

 

「約束、したよね。クラス対抗ストラテジーウォーのイベント中に、何でも一つだけ言うこと聞くって。俺に出来ることなら何でもするって」

 

「ああ」

 

 

「飲んでよ。それ」

 

 

「分かった」

 

 玄咲は1秒も迷わず試験管を手に取った。驚くキララに微笑んでかける。

 

「約束、だもんな。キララにはたくさん助けられた。戦闘でもそれ以外の面でも。だから、飲むよ。それが俺からの恩返しになるのなら」

 

「い、いいの? こんなキララちゃんでも飲むの躊躇うような怪しい液体!?」

 

 あ、自分で言うんだ。あとやっぱり実験体扱いなんだ。少し哀しく思いながらも玄咲はしっかりと頷いた。

 

「ああ。キララのためなら何だってする。俺は約束は裏切らない」

 

「っ! そ、そう、なの……嬉、しいな……」

 

 キララが指をつんつんして赤らんだ顔で頷く。照れているらしかった。キララは真っすぐな善意に案外弱い。ゲーム通りだと思いながら玄咲はキララ製エンジェル・ハイローの入った試験管の蓋を開ける。キラキラした粒が舞う。玄咲はゴクリと唾を飲み込む。美味しそうだったからではない。緊張からだ。キララも、唾を吞んだ。そっちは美味しそうだと思ったからだ。

 

「の、飲むぞ!」

 

「う、うん!」

 

 そして玄咲はキララ製エンジェル・ハイローを呷った。キラキラした見た目からは想像できないほどスイートでのど越しよい飲料が喉を通る。脳の一部から謎の物質が物凄い勢いで発射される。それと同時。

 

 

 天使が、目の前に、見えて――。

 

 

 

 

「――はっ!?」

 

 玄咲は我に返った。そして目にした。

 

 切なげに瞳を潤まして少し制服を乱れさせてペタンと床に尻を突き足を八の字に伏せたキララの姿を。玄咲の頬に一筋の冷や汗が垂れた。

 

「……」

 

「……」

 

 気まずさの塊を無言でやり取りし合う。何号か目でキララが口を開いた。ポツリと、

 

「天之くんって、一皮剝くと、獣なんだね……」

 

「っ!!!!!!!!!!!!!?」

 

「えっち……」

 

「あ、いや、その、なにを、したんだ。俺は?」

 

 玄咲が動揺の極致で尋ねる。キララの顔がカーッと赤くなる。それから、ぷいっと顔ごと視線を逸らしてキララは言った。

 

「言える訳ないでしょ。えっち……」

 

「!!!!!!!!!!!? す、すまん。本当に、俺は何をしたんだ……?」

 

「……それは」

 

 キララが顔を上げるも、玄咲と目が合うと同時またカーッと顔を赤くして、眼を伏せて言った。

 

「……今は、天之くんの顔、直視できそうにない。ごめん。今日はもう帰って」

 

「ッ!? あ、ああ、うん! 分かった、帰るよ。じゃあ、さよならっ! キララ!」

 

 玄咲は殆ど逃げる勢いでキララの部屋を去った。一人部屋に残されたキララは制服を抑えながらポツンと、

 

「……天之くんとなら、一線、超えてもよかったかな……急に恥ずかしくなって、解毒剤打っちゃった……」

 

 

 

 後日、玄咲から事情を聴きだしたシャルナが登校一番キララを問い詰める一幕があったものの、約束を果たしてもらっただけとキララは言い逃れて、その後もキララの巧みな弁舌に巻かれてシャルナは納得させられた。玄咲も元々口下手な上に記憶がないので殆ど何もいうことができず黙っていた。だが、玄咲がふと、

 

「なぁキララ。結局俺は君に何をしたんだ?」

 

 そうキララに尋ねると、

 

「……」

 

 キララは顔を赤くして俯き黙った。シャルナの顔は青くなった。玄咲はキララにさらに猛然と詰め寄るシャルナを見ながらもう二度と約束だろうとケミカルはすまいと心に固く誓った。

 

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