カード学園サヴァイヴ ~カードで全てが決まるゲーム世界の学園で狂人で軍人のゲーム廃人は天使のために最強になる~   作:哀原正十

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パチスロ話3。今回はスロットの話。内容は完全に前話の系譜の短編時空話。時系列は作者にも分からない。作劇を優先しているのでクロウの立ち回りには少し突っ込みどころがあります。



クロウとスロット 玄咲の引退式

 時系列不詳。

 

「天之、今日はスロットを打つぞ」

 

「スロット、ですか……」

 

 何故か定期的にクロウと一緒にパチスロ店にいる玄咲が訝しがる。

 

「今日はパチンコじゃないんですね」

 

「……最近のパチンコは荒いし釘が酷過ぎる。いくら高給取りの俺でも財布が持たん」

 

「はぁ」

 

「そもそも俺はスロットの方が打つ機会が多い。パチンコより稼ぎやすいからな。一時期はスロットで生計を立てていたくらいだ」

 

「そうなんですか」

 

「あぁ。たまたまパチンコを打つ姿しか見せてこなかったがな。パチンカスな側面だけ見せてもあれだからたまにはスロッカスな一面も見せてやろう。という訳で今日はスロットの並び打ちだ」

 

「興味ないのですが」

 

「そうか。今日はちゃんとイベント日を選んできた。朝の抽選には色んな都合で間に合わなかったが、まぁハイエナの方が勝ちやすいっちゃ勝ちやすいから問題ないだろう。という訳で今日はスロットコーナーにいくぞ、天之」

 

「はぁ」

 

 気のない返事をしながらも玄咲はしっかりとクロウの背についていった。

 スロットコーナーの数段やかましいパチンココーナーの騒音が後ろに流れていく。

 途中、クロウは騒音に紛れてポツリと呟いた。

 

「何がラッキートリガーだ。ファッキントリガーの間違いだろうが」

 

 

 

 

 

 

 それは2人がパチンココーナーとスロットコーナーの境目にあるバラエティコーナーに通りかかった時のことだった。

 

 玄咲がとあるパチスロ台を見つけてしまった。

 

「っ! 10000ちゃん……!」

 

 青、白金、赤、黒の4色の美少女の集合イラストがパネルにでかでかと描かれたスロット機。

 Lパチスロ10000ちゃん2。

 今流行のスマートパチスロ略してスマスロ。

 もちろん玄咲はスマスロなんて言葉は知らない。

 台スペックも知らない。

 萌えスロだからという理由だけで座ろうとしている。

 完全な養分打ちだ。

 ふらふらとバラエティコーナーに誘引されゆく玄咲の両肩をクロウが背後からガシっと掴んだ。

 

「どこへ行く、天之。あっちにはヘルしかないぞ」

 

「し、しかし、10000ちゃんが俺を呼んでるんです! 俺には分かるんです……!」

 

「冷静になれ。バラエティコーナーのマイナー台なんて設定1に決まってるだろうが。いいか。冷静になれ。L10000ちゃん2(※ LはMEDALL LESSのL)は前作と違って糞台だ。だからバラエティコーナーに1台だけポツンと置いてある。CZのCZのCZのCZ的な4大クルーンを超えた先に待つのは10GのST。継続率50%(諸説あり)。それを6連させてようやくまともに出始める糞台だ。爆発力は中々のものだがそこに至る敷居が半端じゃない。一説にはごく低確率のロングフリーズに割を取られたと言われている。せめて、CZを1,2回突破すればボーナスに入って、当たりも意外と軽いとかなら受けたかもしれないが、そうはならなかった。そうはならなかったんだ。天之。だから、昼を回っても尚履歴0Gの空席なんだよ……」

 

「……」

 

 確かにクロウの言う通り、10000ちゃんには誰も座っていない。

 あんなにも魅力的なイラストが飾ってあって尚昼過ぎにも関わらず処女状態だ。

 確かにそれは、10000ちゃんが綺麗な上辺で着飾っただけの養分搾取マシーンである証拠なのかもしれない。

 あとでタコ負けして後悔するのかもしれない。

 

「だとしてもッ!」

 

 玄咲は毅然とした態度で4人の美少女が笑顔で待ち受けるL10000ちゃん2の履歴0Gの空席を指さした。

 

「俺はあの台が打ちたい。なぜなら10000ちゃんが俺を呼んでいるから――ッ!」

 

「! 天之、お前――!」

 

 2人、しばし、無言で見つめ合う。

 周りの客が完全に不審者を見る目で2人を見る。

 特に玄咲をダメだこりゃと言わんばかりの目で見る。

 クロウは玄咲の肩をガシっと掴んだ。

 

「天之」

 

「なんですか教官」

 

「俺を信じろ」

 

「っ!?」

 

「俺にはプロとして、教官として、後々引きずるような間違った立ち回りは教えられない。安心しろ。今日必ず勝てるとは言えない。だが、トータルでは必ず勝てる立ち回りを叩き込んでやる。だから、俺を信じろ」

 

「――クロウ、教官……」

 

 ぶっちゃけあまり信じられない。

 数々の醜態を見せられてきた後なので、その言葉にはあまり説得力はない。

 だが、スロットに関して玄咲が素人なのも事実。

 なにより、クロウの教師としての本気のパッションを感じた。

 矛先を致命的に間違えている気はしたが、それでも確かに感じた。

 だから、結局玄咲はクロウに大人しく従った。

 

「……分かりました。信じます」

 

「それでいい。あんな台基本空いてるんだから帰りにちょろっと打てばいい。美味しい所で拾えるかもしれないしな。萌えスロって結構オタクが美味しい所で捨てるんだよ……っと、こういう発言は人間性を疑われるか。話を戻そう。今日俺がおすすめする台はこっちだ。無難に今一番人気の台を攻めるぞ」

 

「はい」

 

 玄咲は大人しくクロウの後についていった。去り際、一度だけ10000ちゃんを振り返った。

 

 まだ誰も、座っていない。

 

 

 

 

 

 道中。

 

「――スロットって、メダル使わないんですね。てっきり、メダルを入れて何枚賭けるか選んでレバーをガチャガチャするものだと思っていました」

 

 メダルを輩出する音が響かないスロットコーナーを見回しながらの玄咲の質問にクロウが頷いた。

 

「それは数年前の認識だな。つっても3枚賭け以外は昔から基本空気だし、今のスロットはメダルレス機――スマートパチスロ略してスマスロが主流だからな。一応まだメダル機もあるが、出玉性能の差から下火だ。スマスロはただメダルがいらないだけじゃなく、出玉性能がそれまでの台の数倍以上に跳ね上がったんだよ。台によっては嵌ればマジで10倍以上はあるかもしれない。ただ」

 

「ただ?」

 

「その分投資がきつい。引退したスロッターもそれなり以上にいる。当たり前だな。出玉の波を作るにはその分吸い込まないといけない。旧基準で爆裂機とされていた台が今の標準みたいな環境だ。投資を度外視すればそれはそれで面白いんだが、スマスロはやっぱ負けた時が悲惨すぎる。100k負け程度当たり前だからな。スマスロについていけない層もそりゃ一定数現れる」

 

「kって?」

 

「1000マニー。つまり100kは10万マニーだ」

 

「ええ……」

 

「投資を度外視すれば普通に面白いぞ。意外と低投資で当たるし、1000枚程度ならちょっと運が良ければ出てくれるし、何より爆発したときの脳汁の出方は旧基準機とは比べ物にならない。射幸性とはなんぞやって感じだ。俺がパチンコに逃げてたちょっと前の環境に比べたら随分マシだよ」

 

「はぁ」

 

「ただ、やっぱ下ブレた時がなぁ……」

 

「……」

 

 玄咲にはよく分からなかった。なんとなく怖いなと思った。

 

 

 

 

 

「今日俺が進める台はこの台だ」

 

 そういってクロウが玄咲に紹介した台は、通路2つを丸ごと埋め尽くす、明らかに他の台と次元の違う人気を誇る台だった。

 

 台の名前は次の通りだった。

 

 

 転生したら拳司だった件 ―絆地獄―

 

 

「なんで俺が拳司なんだよぉ~~~!」そんな情けない台詞が筐体から聞こえてくる。どうやら今流行の転生物らしい。それ以上のことはデモ画面からは分からなかったが、何やら非常にカオスな雰囲気だけは嫌という程伝わった。暑苦しい男による「絆……」「絆……!」「絆ァーッ!」という声がやかましい。クロウが補足を行う。

 

「この台は大人気漫画花の拳司の何かの間違いで大ヒットしてしまった異世界転生スピンオフ作品の版権台だ。中身現代人の主人公が絆を至上価値におく登場人物たちによって構成される【絆地獄】と呼ばれる世界観に翻弄されながら、それでも奮闘する話だ。いわゆる最強ものなんだが、普通に面白いんだよ悔しいことに。それでとうとう本家を差し置いてホールの主役にまでなっちまった。通称絆。今ホールで一番人気のある台さ」

 

「……」

 

 絆ァーーーッ!

 

 き、ききききき絆ラァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッシュ!

 

 絆玉獲得!×3

 

 お見事です!(野太い声)

 

 絆チャァアアアアアアアアアアアジ!!!! 絆の一撃を叩き込め! (レバー強打音)

 

 これが俺たちの――絆パワーだぁあああああああああああああああああああああ!

 

「絆はメジャーな台の中では一番スロットらしい展開が楽しめる。初心者におすすめだ。何より目押しが不要なのがいい。初心者におすすめだ。激荒機で大勝ちして脳が溶かされるのも、大負けして財布が溶かされるのも初心者には危険だからな。あばば集め、玉集めというゲーム性もやや独特だが、分かりやすくていいだろう。ATのテーブルや通常時のモードはやや知識を要するが、それは俺が狙い眼を外さない程度に教える。まずはこの絆で普通のスロットというものの楽しみを――」

 

「嫌です」

 

「なに?」

 

 ツナギを内から弾けさせた拳司のムッキムキの裸を見下しながら玄咲は断言した。

 

「このような男臭い台は打ちたくない。俺はもっと美少女が出てくる台がいい」

 

「! お前……! とうとう普通に本性を現したな……!

 

「……」

 

 クロウと玄咲は無言でにらみ合った。クロウはふっと笑い、背を翻した。

 

「まぁいい。なんとなくお前ならそういうんじゃないかと思ってたんだ。もう一つの候補を紹介するとしよう。こんなこともあろうかって奴だ。俺はこっちの方が好みだが、別にあっちの台でも悪くはない。ついてこい。お前の好きそうな台を紹介してやる。もう一つのホールの主役さ……」

 

「! はい!」

 

 紫紺の長髪が揺れる翻されたクロウの背に、玄咲はついていく。

 

 

 

 

「これは……パチンコにもありましたね」

 

「ああ。去年最優秀台に選ばれ稼働貢献が1年を超えた神台。戦乱恋姫4 暁に輝く天剣の軍師――西国剣聖編――だ」

 

「……ゴク」

 

 玄咲は喉を鳴らした。

 画面に移るのはやや画風濃いめの、しかしそれが客層の広さに繋がっていそうな、人間味のある可愛さの美少女たち。

 なんかデコを晒したゴリラみたいな女もいたが、玄咲は気にしないことにした。

 これだけ当たりがいるのだ。ハズレ枠がいるのは仕方のないことだろう。

 玄咲は美少女ものに造詣が深い。

 

「パチンコでお前はこの台打ったことあったな。そういえばどのキャラが好きなんだ」

 

「ソウリンちゃんです」

 

「鉄板だな。だがこの台ではナンバー2だ。一番人気のキャラはこの眼帯を巻いた碧眼の軍師キャラがカンスケ。この台の主人公さ……ことあるごとに披露するドヤ顔とやられ顔がたまらないんだ……」

 

 クロウがパネルを親指で指す。

 その先には緑色の戦国風装束に身を包み、黒い眼帯を巻いた、白い剣を帯びた、碧眼の軍師っぽい、そして低身長のキャラがいた。

 キリリとした表情が格好良くもあり、背伸びしてるようで微笑ましくもある。

 玄咲は喉を鳴らした。

 

「……確かに、これは、キてますね。性格と職業、そしてデザイン、全てが相乗効果を生み出している。ギャップで魅力を跳ね上げている。狙いすました犯行。これはプロの仕事ですよ……!」

 

「ふっ、流石見た目と裏腹に筋金入りの美少女オタクなだけあるな。そうだ。その通りだ。カンスケの造詣の妙をよく分かっている。だが、カンスケの真の魅力は打たないと分からない。とりあえずコウガイにご苦労さんされてやられ顔を晒すところまでたどり着こうか」

 

「はい……!」

 

 玄咲はクロウに以前もらった会員カードを台に挿入した。

 すぐに追加でクロウがカードを渡した。

 

「ラグナロク学園の教師の給料はそれなりに高いんだ。でないとあんなタコ打ちできる訳ないだろ」

 

 らしい。

 

 

 

 

 それは玄咲が30k(1k=1000マニー。つまり3万マニー)投資した時のことだった。

 

「もうやめましょう……」

 

「何?」

 

「金が溶けて行く。もの凄いスピードで。2回ボーナスに入ったがATには入らなかった。もしもスルー天井7回まで全部A天で当たったとしたら軽く10万を超える。俺には、そんなリスクを負ってまでこの台を打ち続けるなんて、とても……」

 

「天之」

 

「なんですか」

 

「諦めるな。恐怖に負けるな。それは魔符士として恥だ。恐怖を乗り越えろ。勝利はその先にしかない」

 

「ッ!?」

 

 クロウの真剣な目。さらに続ける。

 

「永遠に当たらないかもしれない。最悪の展開を迎えるかもしれない。そんな考えはただの妄想だ。偶に実現することもあるが……こういうボーナスを介したAT機ってのはなんだかんだで殆どは途中で当たるようにできてるんだ。さっきだって、一応300Gのゾーンと450Gの強チェから当たったろ」

 

「は、はい。確かに……」

 

「最悪の可能性に備えるのは大事だ。だが、恐怖に囚われて逃げ腰になるのは違う――俺はそう思う」

 

「クロウ先生……」

 

 確かにそうだった。

 玄咲は冷静な判断をしているようでただ恐怖から逃げているだけだった。

 それは、戦士の心構えじゃない――玄咲は気持ちを新たに、レバーを強打した。

 ゴミみたいなリプレイベルが、しかし確かにコイン持ちをよくする。

 

「教官」

 

「なんだ」

 

「俺が間違ってました。打ちますよ。せめてATに入るまでは」

 

「……ふっ」

 

 クロウは満足気に頷いた。

 

「やはりお前にはパチンカスの素質がある。いや、この場合はスロッカスかな。スロッカスの魔符士だ」

 

「……」

 

 急に冷静になった玄咲はATに1回入れたら帰ろうと思った。

 冷ややかな温度で色欲のレバーオン。

 

 

 その時、不思議なことが起こった。

 

 

 画面が消灯し、リールが逆回転し始めたのだ。

 

「!? こ、これは……!?」

 

「ロングフリーズだ」

 

「!?」

 

「発生確率1/16384。フリーズにしては異様に軽い、現実的に引けるフリーズだが、まさか初打ちで引くとはな……いや、初打ちだからこそか? 何故か知識のない状態って邪念がないからなのか色々引けるんだよな。スロッカスあるあるだ。ま、とにかく、天之」

 

 クロウは玄咲の肩を叩いた。

 

「おめでとう。諦めないで良かったろ。続けてればなんか引けるんだよ」

 

「はい!」

 

「それじゃ神童覚醒を消化しようか」

 

「はい!」

 

 カンスケのドヤ顔と130Gを玄咲は手に入れた!

 

「……」

 

「……」

 

「なんか、少なくないですか?」

 

「その分発生確率が高いからな。そんなもんだ」

 

「……」

 

 玄咲は頭で理解しつつも心で理解できない複雑な感情のまま初ATを消化し始めた。

 

【ご苦労さん!】

 

 ぐあっ!

 

 グ、グググ……!

 

【あぐっ……】

 

 バタン。

 

 953枚。

 

 19kの収支。

 

 トータル-11k。

 

 負け。

 

「……グググ、のとこのカンスケちゃんの堪え顔、なんか凄く艶やかですね」

 

「そうだろ」

 

「負けたのに、なんというか、変な気持ちです。悔しさが和らぎます」

 

「それがこの台の魔力だ」

 

「……」

 

 なるほどな、と思いながら、玄咲は次ゲームのレバーオンを押した。

 ATでゲーム数を稼いでいたので、すぐに天国で当たった。

 

「あ、ちょっと惜しかったな。コウガイバトルのゲーム数がもうちょっとずれてればAT継続&出撃ボーナスだったのに」

 

「そうなんですか」

 

「ああ。むっ」

 

 きゅいんきゅいんきゅいん!

 

 派手な赤いランプが点灯する。

 AT当選の合図。

 クロウは笑った。

 

「まぁAT入ったならいいか」

 

「ですね」

 

 玄咲は2回目のATを楽しんだ。

 ボーナスが3回も絡んで1000枚以上出た。

 フリーズ以上の出玉だった。

 

「この台はそういうもんだ」

 

「そうなんですか?」

 

「ああ」

 

 そうらしい。

 なんとか+収支。

 +9k。

 AT終了後の画面を見たクロウが声が弾む。

 

「お、高設定示唆じゃないか」

 

「そうなんですか?」

 

「ああ。華スタンプは456確定だ。この店乙女強いんだよ。だから選んだんだ。前任者は低設定挙動で見切りをつけて捨てたな。最近のスロットは設定が凄く分かりづらいんだ。だからこそこうして後ヅモ出来るんだが。少し前は設定が露骨過ぎて朝一掴めなかったらもう絶望ってレベルで――」

 

 玄咲は戦乱恋姫4を打ちながらクロウの話を興味深く聞いた。

 パチンコと違い意外と台選びに戦略要素があり、根気と頭脳があれば狙って勝てるようになっているらしかった。 

 玄咲はスロットに少し詳しくなった。

 

「お、こっちも華スタンプだ」

 

「やりましたね」

 

 クロウの台も挙動が良く、程なくして高設定示唆が出た。

 その後も玄咲はクロウと2人で最初に座った戦乱恋姫4を打ち続けた。

 とても楽しい時間、そして台だった。

 玄咲はスロットって楽しいなと心の底から思えた。

 

 

 

 

 閉店間際、戦乱恋姫4を終日打ち切った2人は、ほくほく顔でカードを取り出し席を立った。

 

「勝てて良かったな」

 

「はい。といっても10K程度ですが」

 

「十分さ。高設定を掴んだにしてはやや物足りないのも分かるけどな」

 

「しかし、最近のスロットって投資が激しいですね。何も起こらないと血が冷たくなってきます」

 

「……まぁな。でも、今の規制でまともな台を作るにはどうしてもコイン持ちを悪くする必要があるんだ。コイン持ちが悪いからこそ戦乱恋姫みたいな神台が作れるんだ。細かく説明すると複雑なんだが、中短期出玉規制ってのがあってな……簡単に言うと、一定期間内に300枚吸い込んで1000枚出すと落ちる所が、500枚吸い込んで1000枚出すと受かる。本当に簡単に乱暴な説明だけど、原理はそういうもんだ。だから通常時になるべく吸い込ませようとする訳だ」

 

「なるほど……よく分からないけど、一定時間内に出過ぎたらダメってことですか?」

 

「そういうことだ。糞みたいな規制だよ。昔の台の方が面白かったよ正直。まぁ、年々マシになってきてはいるけど、どうしても投資の荒さがなぁ……」

 

「そうですね……でも、面白かったです。パチンコよりもよっぽど。こういう遊戯なら、また来ても――」

 

 帰り際、そんな会話を交わしながらバラエティコーナーに差し掛かった時、玄咲はふと聞き覚えのある声がして、そちらを振り向いた。

 

 振り向いてしまった。

 

 後ろに、10000という数字の書かれた箱――10000枚出た証――を背負って、小太りで眼鏡をかけて10000ちゃんのプリントされたシャツを着たどこからどう見てもオタクな男によって爆出しされている10000ちゃんの台を、振り向いて見てしまった。

 

 NTRの絶望が玄咲を襲った。

 

「10000、ちゃん……プリエル、ちゃん……」

 

 よろ、よろと、玄咲はゾンビの足取りで10000ちゃんの下へと向かう。

 最近導入された新台がSAGAだから! と明るく叫ぶ。

 絶望が己の性なのかもしれないと玄咲はふと思った。

 10000ちゃんの下へと辿り着く玄咲。

 オタクの恰幅のいい背中の後ろから10000ちゃんのキラキラした画面を死んだ目で覗く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 100000ちゃんは万枚出していた。

 

 どころか、18000枚。

 出玉上限たる19000枚に迫り、19000枚を超えたら強制的に台が稼働を停止するコンプリート機能発動目前まで迫っていた。

 というか残りG数を見るにコンプリート確実だった。

 余談だが19000枚は20スロなので380k。38万マニー。日本円に換算すると38万円だ。

 玄咲は膝から崩れ落ちた。後から追い付いたクロウが画面を見て、顔を青くした。

 

「う、嘘だろ……? スロットで一撃10000枚は出玉バランスが壊れるため、もはや10000ちゃんす搭載の名目を保つためだけに設定された発生確率100万分の1の登場人物の一人ミリオンにちなんだ名前のミリオン(ロング)フリーズからしか入らないプレミアム10000チャンスだと……!? 普通の1000枚出る上ボーナスが絡むプレミアム1000チャンスでさえかなり強力なのに、10000枚出る10000チャンスを引いてボーナス引きまくったらそりゃコンプリートするはずだ。都市伝説じゃなかっ――はっ!」

 

 クロウは殺気を感じた。慌てて後ろを振り向く。

 クロウは玄咲を見た。

 立ち上がった玄咲が、クロウとオタクを見ていた。

 ジッと、見ていた。

 恨みがましい目で。

 完全に惜し台を奪われた萌えスロオタの目つきで。

 

「……10000ちゃん」

 

「……」

 

「……10000ちゃん」

 

「……」

 

「……俺の、10000ちゃん」

 

「少なくともお前のものではない。店のものだ」

 

「10000ちゃんは!」

 

 玄咲は吠える。

 クロウは周りの視線が痛かったこともあり針の筵の思いだった。

 10000ちゃんを打ってるオタクも肩をすくませてATを消化している。

 だが、手放さない。スロッターに一度入ったATを手放すという思考は基本ない。

 金が排出されているからだ。

 

「……10000ちゃんは、俺に打たれたがってたんだ。あんな、キモイ奴じゃなくて、この俺に」

 

「……いや、今のお前も正直、ちょっとキ」

 

「俺は、10000ちゃんのことを愛していた。10000ちゃんも俺を愛していた。だから、俺を呼んだ。それに応えなかったのは、全て俺のせい。俺のせい。俺のせいなんだ。そうだ――全て、俺が悪い」

 

「……そうか」

 

 玄咲は自虐の方向に感情のベクトルを向けたことにクロウは少し安心する。

 玄咲の悔恨は続く。

 

「……打つはずだったのに。10000ちゃんが俺を呼んで、俺が10000ちゃんを打って、その予定だったのに……! みんなで楽しい時間を、過ごすはずだったのに……!」

 

 玄咲は再び崩れ落ちた。

 100万分の1を逃したショックに、10000ちゃんの愛を裏切ったショックに、玄咲の心はべきべきにへし折れていた。

 クロウは流石に罪悪感を覚え、玄咲を励ましにかかる。

 100万分の1の確率何て予想できるかよとちょっと思いながら、

 

「……その、悪かった。そうだ、一応勝ったじゃないか。それであいつにお土産でも買っていくといい。学生の本分はカードバトルだ。それに集中しろってことだ」

 

「! ……コクン」

 

 玄咲はよろよろと立ち上がり、なんとか換金所へと向かった。

 胸に宿る人物は、愛しいただ一人。

 

 シャルナ・エルフィンの面影だけ。

 

 10000ちゃんなんて、もうどうでもいい。

 

 

 

 

 

 ラグナロクネスト。

 

 インターホーンを鳴らし玄咲が来訪を知らせるといつも亜音速で扉が開くシャルナの部屋の前。

 

「わ! これ、レッド・ホット・チリ・ペッパー味! 人気があるけど版権の関係で再販が難しいレアものだよ! よく、見つけてきたね!」

 

「ああ……シャルのためだからな。……なんてことないよ。これくらい」

 

「――玄咲。何か、嫌な事でも、あったの?」

 

「いや、その、なんでもない。なんでもないんだ……」

 

「……」

 

 ト。

 

「え――?」

 

 シャルナは玄咲を抱きしめる。そして、笑った。

 

「何か、つらいことがあったんだね。これを手に入れるために、無理したんだね」

 

「シャ、シャル……!」

 

「一人で抱え込まなくていいよ。何があったか、話して」

 

「えっ」

 

「……話せない、ことなんだ」

 

「い、いや! 話せる! 話せるぞ! なにがあったかというと」

 

 玄咲は己の恥を全て晒した。

 シャルナの瞳が鋭利な角度を描いた。

 

「……玄咲」

 

「うん」

 

「パチスロ、もうやめよっか」

 

「うん。もうやめる」

 

 その日を境に玄咲はすぱっとパチスロをやめた。

 萌えスロに現を抜かす自分が恥ずかしかったし、何よりシャルナに色々申し訳なかったからだ。

 

 

 

 それ以降玄咲がパチスロ屋にいくことはなかった。

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