カード学園サヴァイヴ ~カードで全てが決まるゲーム世界の学園で狂人で軍人のゲーム廃人は天使のために最強になる~   作:哀原正十

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第1話 ラグナロク学園とダンジョン活動

 

 5月1日。

 

 ラグナロク学園でこれまで同じ校舎に通いながらも、新入生が校風に慣れるまで、そして最低限交流が可能なまでに実力差が埋まるまで、意図的に接点を薄くされていた上級生と下級生が今日この日から本格的に交わり始める。

 

 まずはダンジョン活動という形で。

 

 

 

「――凄い、喧騒だね」

 

「ああ。想像以上だ……」

 

 ラグナロク学園校舎前大広場。

 

 ラグナロク学園へと玄咲とシャルナはいつものように登校し、そして校門を抜けた先に広がるいつもとまるで異なる大喧騒に圧倒されていた。

 

「ダンジョン・ハンターズに加入を! 学内最大手! 卒業後も多くの生徒をハンターとして羽ばたかせるダンジョン&魔物対策の最大手です!」

 

「アルカディスターズ――俺たちのパーティーに入れ。MCムーンライトセレナーデ。これは運命だ」

 

「君、レイド&ㇻプトに入らない? 弱小パーティだけどその分手厚くするよ。君弱そうだからうちが丁度いいと思う。あ、ちょっと待って!」

 

「ガンガン・行進団に。ガンガン・行進団に是非――」

 

 ――破裂するような喧騒の嵐が1年生たちに吹き荒れていた。校舎入口への道を包囲するように並んだ上級生たちが、看板やプレートを立て、声掛けにチラシ配り、パフォーマンスや説明、はたまたカード魔法によるアピールを行っている。ポカン、とするシャルナに玄咲がいつものように解説を入れる。

 

「パーティ勧誘だよ。今日から解禁されるんだ。1年生を最低1人は加入させなきゃいけないからどのパーティーも必死だ」

 

「あ、そういえば、入学前、パンフレットで見た! ダンジョン活動限定の、部活だね。ラグナロク学園って、こういう所は、本当普通の学校っぽいよね」

 

「まぁな。意図してそういう環境を作っている。一皮剥くとクラス対抗ストラテジーウォーみたいなイベントが始まるんだが」

 

「うっ、そうだね……」

 

 2週間前のイベントを思い出し、苦々しい表情をするシャルナ。玄咲も未だに、あのイベントは素面では思い出せない。良くも悪くも詰め込み過ぎた。駆け足過ぎた。カミナとも色々あったし、シャルナとの関係も大分進んだ。同じ記憶を思い出したらしいシャルナが赤面しつつゴホンと咳払いし玄咲に向き直る。話を戻す。

 

「でもさ、玄咲」

 

「何だシャルナ」

 

 

「こういうこと、やる暇あったら、普通に魔府士としての訓練、積んだ方がよくない?」

 

 

 剃刀の切れ味の疑問。玄咲も初回プレイ時は抱いた疑問。だが、CMAに抜かりはない。玄咲は周囲の人の密度を首振り確認してから(いつも通り薄い)、シャルナの耳に近づきすぎない程度に口を近づけた

 

「ラグナロク学園はな、どちらかといえば精神の育成に重点を置いている。CMAでいえば人間レベルだな。学園長の苦手分野を補う学園なんだ」

 

「苦手分野?」

 

「人の育成だ」

 

「ああ、なるほど……」

 

「この学園の陽の部分は殆どヒロユキが考案している。健全な精神を育めるように。そんな思いが込められている。バトルセンターがその代表だな。あれがなかった頃、例えばクロウ先生の世代は死傷者が絶えなかったらしい。精神を病んだ生徒も頻出したらしい。学園長が本気で生徒たちを死ぬまで戦わせていたからだ」

 

「何度も死んだとか、言ってたね」

 

「ああ。でだ。その学園生活に時間を割いた皺寄せは最後に学園長が無理やり調整する。特別合宿だ。有望な生徒を時を引き延ばした空間に集めて超スパルタ訓練を学園長自身が課すんだ。それで戦闘レベルを無理やり上げる。精神と時の部屋――いや、学園長の本領発揮さ……」

 

「う、こ、怖い……」

 

「……そうだな」

 

 言ってて、玄咲もなんだか怖くなってきた。天下一府闘会の出場選手は絶対に受けさせられる。効果は劇的なのだろうがそれでも恐怖は拭えない。2人でちょっとの間沈黙し合いながら歩く。

 

「試験対策としてもダンジョンは有用――」

 

「コンビネーションを事前に高めて――」

 

「――そう言えばさ」

 

 先ほどから途切れ途切れに聞こえてくるワードに関してシャルナが玄咲に質問する。

 

「試験って言葉が時々聞こえるけど、何かあるの?」

 

「ああ。それか。そうだな。軽く説明しておくか」

 

 人差し指を立てて玄咲はシャルナに説明を開始する。玄咲の密かな至福の時間だ。

 

「毎年5月末は上級生下級生合同の魔物退治の試験が行われるんだ。魔物の繁殖期に合わせて行われるから多少の前後はあれど毎年5月末から6月初めにかけて行われるラグナロク学園の名物試験。ポイント大量獲得のチャンス。最大の特徴は上級生と下級生がパートナーを組んで試験を行うこと。さっきの上級生の発言の理由だな」

 

「えっ、上級生と組むの? 玄咲とじゃなくて?」

 

「あ、ああ。上級生と組むんだ。目指すべき上のレベルを強烈に意識させることで成長を喚起させる意図があるらしい。それもあって部活勧誘が盛んなんだ。よく知らない下級生よりは一緒の部活の下級生の方が組みやすいしコンビネーションも磨ける」

 

「パート―ナー組ませるの、好きだねー……」

 

 やや呆れ気味のシャルナの声。 玄咲もやや同意しながらもゲームでも語られた正当な理由を語る。

 

「……一応ちゃんとした理由があるんだよ。魔物の相手は下級生単体だとちょっと危険だし、教わる側から教える側に回るという経験は上級生の魂の成長にも繋がる。それに何より、下級生に上級生を、上のレベルを強烈に意識させられる。目指すべき目標が明確化する。この試験を経る前と後では下級生のレベルの上がり方が全然違ってくるらしい。だから、必ずラグナロク学園では必ず魔獣退治試験をパートナーで行わせるんだ。決してご都合主義じゃないんだよ」

 

「ほえー。意外と考えられてるんだ」

 

「ああ、意外とな。上級生はもちろん試験の存在を知っているし殆どの下級生も周知のはずだ。あまりにも有名だからな」

 

「え? 私、知らなかったよ?」

 

「……」

 

 玄咲は黙秘権を行使した。シャルナは話題の転換を図って無知を誤魔化しにかかった。

 

「じゃ、じゃあさ! 私たちも、パーティ、入るんだよね?」

 

「ああ。もちろんだ。既に目途もつけている」

 

「もちろん、一緒のパーティだよね!」

 

「……そのつもりでいる」

 

 少し照れつつも玄咲は頷く。シャルナも嬉しそうに頷いた。

 

「でさ、どのパーティ入るの?」

 

「ん? それはもちろん、ダンジョン――」

 

 

「我がダンジョン・ハンターズを希望か。なら、このチラシを受け取るといい」

 

 

 チラシを持った手が横合いから伸びる。玄咲は反射的にチラシを受け取った。

 

「ありがとう……放課後、部室で待っているよ」

 

 チラシを渡してきたまるでモデルのようなたくまし系の金髪イケメンが白い歯を剥いて笑う。玄咲は脳裏にアメリカの有名ハリウッド男優を思い起こした。纏うオーラがそっくりだったのだ。たくましくもどこか耽美な雰囲気までも。遠くで、1年生の女子が小さな歓声を上げた。

 

「待っているよ。君のことを……」

 

「あ、はい」

 

「じゃあね……」

 

 男はチラシを渡すとすぐに去っていった。

 

(ゲーム以上のイケメンだ。そして纏う雰囲気が独特だ)

 

「今の、誰?」

 

「ん、ああ。ダンジョン・ハンターズのリーダーのケビン・レイナードだよ」

 

「リーダー?」

 

「うん」

 

「てことはこのチラシは」

 

 シャルナが玄咲の受け取ったチラシに視線を落とす。

 

 

 

 ダンジョン・ハンターズ

 

 部長  ケビン・レイナード

 総員  500名

 

 ラグナロク学園最大のダンジョン・パーティー組合です! 学園公認! カードバトルにも生きるダンジョン探索に必要な心得を全て教えています。魔物との戦い方、ダンジョンの探索法、パーティの連携術、道具の選択、ダンジョンカードの使い方――全て手取り足取り教えます。ラグナロク・ハンターズに入って安心安全なダンジョン探索! どんな方でも歓迎! いつでも入会待っています!

 

 

 

「これって、玄咲が言いかけてたパーティーだね。うん、無難なチョイスでいいと思――」

 

「違う」

 

「え?」

 

 シャルナが目を丸くする。それからチラシのダンジョンの部分を指さして尋ねる。

 

「でも、ダンジョン、って言いかけたじゃん」

 

「ああ。でもダンジョン・ハンターズじゃないんだ」

 

「じゃあ、どのパーティーに入るの?」

 

「それはもちろんダンジョン――」

 

 

「あ、そこのカップル!」

 

 

 玄咲が言いかけたその時、声が飛んだ。声をかけられる。まんざらでもなさそうな表情のシャルナの隣で立ちすくむ玄咲に上級生が声をかけてくる。黒い髪をラフに纏めた元気の良さそうな女生徒だ。

 

「うちのパーティー――ダンジョン・サバイヴァーズに入らない!?」

 

「放課後伺います」

 

 玄咲は即答した。女生徒は驚いた。

 

「!? け、決断早すぎじゃない!?」

 

「最初からダンジョン・サバイヴァーズに入る予定だったので」

 

「あ……そっか。うーん、黙ってるのはフェアじゃないよなぁ……うん。騙すみたいで悪いし、勘違いは正しとこうかな」

 

(勘違い? 俺はまた何かを間違えているのか?)

 

「多分君が入ろうとしていたのはダンジョン・ハンターズ。パーティー通り越して学園のシステムとしての一面さえ持つこの学校最大手の歴史ある巨大パーティー。一方私が部長を務めているダンジョン・サバイヴァーズは部員2名の新興パーティー。ごめん、紛らわしかったね。ちょっと名前変えた方がいいかにゃー……」

 

「いえ、間違ってません」

 

「え?」

 

「俺はシャルと最初からあなたが部長を務めるダンジョン・サバイヴァーズに入るつもりでした。高名な真央先輩からダンジョンのいろはを教わりたいと思っていました」

 

「!? ほ、本当! やった! そこまで有名だったんだ! 嬉しい!」

 

 真央が玄咲の手を握る。体温が熱い。玄咲の心臓が跳ねた。

 

「そんじゃこれ! そっちの子にも」

 

「え? あ、はい……」

 

 真央は2人にカードを渡す。2人はカードに視線を落とす。

 

 

 

 ダンジョン・サバイヴァーズ

 

 部長  黒沢真央

 総員  2人

 部室  ラグナロク学園第3棟5-9

 

 

 

 情報はそれだけだった。そして総員が2人だけだった。ダンジョン・ハンターズと比べたら色々お粗末だった。シャルナが戸惑う。真央が笑顔で告げる。

 

「入部待ってる!」

 

「あ、はい」

 

 シャルナは笑顔に押し切られた。真央はシャっと手を立てて二人に別れを告げる

 

「そんじゃ! 私他の生徒にも声かけないといけないから! じゃね! 放課後待ってるよ~!」

 

 真央は手をぶんぶん振って去っていった。玄咲は「必ず」と心の中で答えた。シャルナが玄咲の袖を引く。

 

「入部って、聞いてないよ」

 

「大丈夫。彼女はダンジョン攻略のスペシャリストだ。ダンジョン・サバイヴァーズ以外俺たちのパーティーはありえない」

 

「美少女、だね?」

 

「え? あ、うん。可愛かった」

 

「……」

 

「……」

 

「入部の理由とは関係ないぞ」

 

「うん。そうだね」

 

 シャルナは話題を流してあげることにした。

 

「でも、なんでダンジョン・サバイヴァーズに入るの?」

 

「一つは真央先輩のいるダンジョン・サバイヴァーズの方が学びの機会としてダンジョン・ハンターズより優れている点。まだ2年だが、この学校で右に並ぶものはダンジョン・ハンターズのリーダーのケビン・レイナードも含めて3年にもそうはいない。そんな彼女に少人数故集中して色々な事を教えてもらえるんだ。学びの機会としてはこの上ないだろう。もう一つは次の魔物退治の試験対策だ」

 

「あ、そういえば、言ってたね」

 

「ああ。魔物との戦いの経験を積む。学園もその意図でダンジョンを今日から解放してる。ダンジョンで魔物との戦いに慣れて次の試験も生き残る――いや、トップを取るつもりで頑張るぞ、シャル」

 

「うん! 絶体、MVP取ろうね!」

 

「ああ!」

 

 頷き合い、2人は今日もラグナロク学園の校舎へと足を踏み入れた。だが、最後に玄咲は難しい顔をして

 

「ただ、試験のパートナーとなる上級生選びをどうするか……正直俺は人間関係の構築が苦手だ。誰がいいという当てはあるが、その誰かとどうやって組めばいいのかが分からない。そこが次の試験の最初の課題になるかな……」

 

 ぼやく。シャルナはクスリと笑った。

 

「玄咲らしいね」 

 

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