カード学園サヴァイヴ ~カードで全てが決まるゲーム世界の学園で狂人で軍人のゲーム廃人は天使のために最強になる~ 作:哀原正十
学園迷宮ヴィズラビリンス
第4層。
30~40階。
20~30階の氷雪エリアから一転して再び環境は洞窟エリア。1~10階層と似ているが、出現するモンスターが大幅に強化されている。コウモリ系のモンスターは攻撃能力が大幅に強化され、第4層からメインモンスターとして登場するゴーレム系のモンスターは防御力が高く、安定した高火力や、急所を的確に狙う技術が求められる。飛行モンスターの妨害を受けつつ硬いゴーレム系のモンスターの相手をしなければならない。第4層は正攻法の突破にはかなり時間がかかると言われている階層だ。
そんな第4層をリュート達は司を先頭として爆走していた。司がゴーレムたちに剣を振るう。
「オラァ!」
「ンゴッ!」
「死ねぇ!」
「ンゴゴ!」
ランク2の炎剣魔法レヴァン・オーラで強化された
「はははははは! リュート! リーチが足りてねぇなぁ! オォラ20匹目だァ!」
「くっ! イベント前より強くなってるな……! だがこの討伐数勝負、負ける訳にはいかない!」
2人は個人間でモンスターの討伐数勝負をしていた。司が言い出し、リュートが即座に乗った。司はその長いリーチを活かし、リュートまでモンスターが届かないように立ち回っている。このままでは負ける。そう判断したリュートは駆け足を早め前に出た。
リュートが司の間合い外のクレイ・ゴーレムを一刀両断。振り下ろしたAD【
「君の剣が届く前に全ての敵を倒せばいいだけだ! 遅れるなよ司!」
「ああ!? 上手くいくと思ってんのか!? 俺は足も速ぇんだよ! 万能の天才だからな!」
「僕に負けた癖によく言う!」
「てめぇこの勝負が終わったらぶっ殺してやるから首綺麗にして待ってろよ! 家の玄関に飾ってやるよ!」
「楽しみにしてるよ!」
「一々気持ち悪ィんだよ殺すぞ!」
2人は互いに張り合うことでいつも以上の力を発揮しダンジョンの中を練習以上の速度で爆進する。2人の後ろをマルタと並走して走り追うアカネが感嘆の息を零す。
「2人とも馬鹿強いわねー……」
「なの」
「才能の差感じるわー……」
「なの」
「負ける気しないわね!」
「……」
「なんでそこは頷かないのよ。っと」
アカネが己の愛ADたる
ランク3。花魔法。炎属性。
「スプラウト・フランマ!」
ADから豪速で放たれた花芽のような形状の魔力弾が、複雑な軌道を描いて飛ぶ口から吐く怪光線が武器の巨大な蝙蝠型モンスター【ビーム・バット】に着弾し、体内に潜り込み、爆発する。内部から千々切れになったビーム・バットの死体が血を撒き散らしながら地に落ちる。空中から来た敵の対処がアカネとマルタの役目だった。アカネが爆炎に包まれた敵を見て叫んだ。
「やったわ!」
「ちまちました敵は任せるの。マルタは細かい狙いをつけるのが苦手なの」
「分かったわ! その分敵が多い時は範囲魔法でよろしくね!」
「任されたなの」
4人は凄まじい速度でダンジョンを攻略していく。
33階層
全方位を茶色に覆われた道を走っていると司がふいに、
「あ」
「どうした司」
「罠踏んだ。やべっ、大岩が」
「フュージョン・マジック
前方から転がってきた大岩をリュートが振りぬいたADから放たれた光の剣閃が打ち砕く。
「さぁ、急ごうか」
「リュート」
「何だ司」
「あれくらい俺でもできた」
「だろうな。でも僕の方が魔力消費が少ないだろ。後のことを考えたら僕が対処した方が効率的だ」
「……ちっ、分かってればいいんだよ。オラ、先急ぐぞ」
「ああ」
4人はやがて、天井の高い鍾乳洞のような開けた空間に出た。奥には34階への階段。4人が空間に辿り着くと同時、蚊のような頭と尾のついた巨大なコウモリ【チューチュー・バット】が群れをなして天井から4人目掛けて殺到してきた。その鋭く尖った口を刺した相手に強烈な麻痺と催淫効果のある毒を注入し、その長く尖りながらも柔軟性を帯びた尾で生殖行為を仕掛ける、その強さ以上に危険性の極めて高いモンスターだ。魔物の中には激しい生殖本能を持った個体が時折存在する。
「気色悪いの」
マルタが淡々と本型のADを開く。武器としては扱いづらい本型のADは、スロットしたカードの魔法陣が転写されたページを開きながら詠唱すると魔法の威力を増幅させる。遠距離戦特化型のADだ。
「ダークデス・ウェーブ」
マルタの本型ADから迸った闇色の衝撃波がチューチュー・バットたちを全員一撃で殺した。マルタは本をパタリと畳み、無表情のまま言った。
「先に進むの。司くんにお邪魔虫は指一本触れさせないの」
「おう! 助かるぜマルタ!」
「相変わらず凄まじい魔力ね……」
「ああ。学園長の縁戚なだけはある。とはいえあそこまででたらめじゃないけどな」
4人は34階へと進む。途中ポーション補給を挟みつつ、35階、36階も同じ調子で攻略していった。
37階
この階から出現するモンスターのランクは1ランク上がる。SSS~Gまであるモンスターランク。クレイ・ゴーレムはCランクだったが、この階からクレイ・ゴーレムの代わりに出現するアイアン・ゴーレムはBランク。アイアン・ゴーレムの鋼鉄の頭部にリュートが剣を打ち付ける。頭部に罅を入れるも弾き返される。アイアン・ゴーレムが鋼鉄の拳を突き出してくる。リュートは素早く身を引き体勢を整えた。リュートと同時、アイアン・ゴーレムを仕留め損なった司が舌打ちをする。
「少し硬くなってきたなリュート……」
「ああ。たまに仕留め損なう。くっ、ゴーレムなだけあって体が固く急所に届きづら――」
「ペタロ・フランマ!」
「ングォガッ!」
ランク4・花魔法・炎属性・ペタロ・フランマ。
「私の出番ね。足りない攻撃力は私が埋めるわ!」
「アカネ! 頼りになるな!」
「よし、任せたぜ!」
「頑張れなの」
「マルタ、お前も頑張れよ」
「ま、巻き添えにされてもいいの!?」
「お、おう。無茶言って悪かった……」
アカネのお陰である程度速度を取り戻した4人は中低階層程ではないが安定してハイペースでダンジョンを爆進する。そのペースは誰の目から見ても明らかに1年の域を超えていた。2年の平均速度と比べても尚勝っていた。
学園ギルド。
観客席に集った生徒たちがざわついている。
「あれ……おかしいな……」
2年F組の山田太郎は呟いた。友人の田中勇太が尋ねる。
「何がおかしいんだよ」
「いや、俺ついこの間あの階層で死んだ覚えがあるんだけど、あいつら入学したての1年生だよな? おかしいな。おかしいんだよ……」
「そりゃ……才能の差だろ。何もおかしくないよ」
「……」
またある所では3年生がこう呟く。
「なるほど……金の世代と呼ばれるだけはあるか……1年生にしては中々……」
ラグナロク学園と言えど才能の差はピンキリだ。今年の1年生は凄い。その噂をその目で確かめた上級生、特にまだ実力の開きが少ない2年生たちは大きな衝撃を受けていた。3年生も感心している。
(……なるほど。悪くないですね。特にあの前衛2人。候補に入れときましょう)
ルディラ・メルキュールは人目を嫌って座った人混みの最後方で一人無表情にダンジョン配信の観戦を続ける。
40階。
ボス部屋。
「オラァ! 俺様のお通りだァ!」
ドガン!
司が走ってきた勢いのままにボス部屋の扉を蹴り開ける。開け放たれた扉の奥へと4人が走る。扉が自動的に閉まる。密室となった半径100メートルを超える巨大な戦闘フィールドの中で4人はボスと対峙する。見上げる。
4層のボスモンスターは超巨大な鋼鉄のゴーレムだった。全長は50メートルを超える。角張った不揃いな巨大な岩を人の形に繋ぎ合わせたような異様な見た目。名前は【ジャイアント・アイアン・ゴーレム】。その鋼鉄の巨体は生半可な攻撃を弾き、ただ振り回すだけで圧倒的な破壊力を生む。小細工が通じない、純粋な力を試される強敵だ。魔符士としての素質を問われることから関門の異名も持つ。
「ウゴォオオオオオオオオオオオオ!」
アイアン・ジャイアント・ゴーレムが吠える。風が起こり地が揺れる。だが、4人の心胆は微動だにしていない。ボス部屋に入ってすぐに、獲物を刈るべく行動を開始していた。
「まずは牽制! フュージョン・マジック――
「フュージョン・マジック
アカネのAD
「ちまちま魔力節約すんのは終わりだァ! フュージョン・マジック――!」
司が剣を真横に向けて詠唱する。
「
ファイ・ロードの先端から剣の領域を逸脱した超長大な赤い魔力の剣身が生える。ジャイアント・アイアン・ゴーレムの足元に剣の先端が届く距離で司はそれを振りぬいた。
剣の根元から炎が走る。それは遠心力に釣られるように先端に集まっていく。赤い輝きが振りぬく動作の中で先端に集約し、赫灼たる太陽の如く輝く。司はその太陽のような輝きを宿した先端をジャイアント・アイアン・ゴーレムの足、やや踵から上の部位に叩きつけた。
ジャイアント・アイアン・ゴーレムの足がまるでバターか何かのように容易く切断された。断面が赤く煮え滾っている。
「もういっちょ死ねぇえええ!」
司がそのまま反対側の足も切断した。ジャイアント・アイアン・ゴーレムが体勢を崩す。その巨大な体重を支える足を失い、派手な音を立てて倒れる。アイアン・ゴーレムの頭部の方向に向けて司が獰猛な笑みを浮かべて叫ぶ。
「殺せぇ! リュートォ!」
「流石だよ。司。倒れる方向まで完璧だ」
ジャイアント・アイアン・ゴーレムが倒れる前からリュートは走り出していた。司の強さをリュートは知っている。信頼している。そして司はリュートの信頼にいつものように軽々と応えて見せた。
ならば今度は、自分が司の信頼に応えなければならない。
(司……今度は僕が応える番だ。見せてやる司。これが今の僕の切り札――!)
リュートは星紡剣ステラを振り上げる。そしてかつて玄咲にも使った5枚のカードを素材とするフュージョン・マジックを詠唱しながら振り下ろした。
「
剣から光が溢れる。その光を余すところなくリュートはジャイアント・アイアン・ゴーレムの巨大な頭部へと振り下ろした。
瞬間、世界が光に包まれた。
「相変わらずバカげた威力ね……」
「凄まじいの」
「威力は必殺だが攻撃を当てなければ発動しないタイプ……やりようはあるか……」
ジャイアント・アイアン・ゴーレムは上体をほぼ完全に消失していた。腰から上の部位が跡形も残っていない。精々手首から先を失った両手が腰の下に残るのみ。素材カードのランクの枠組みには明らかに収まらない絶大な破壊力の代償に短時間の魔力麻痺状態に陥ったリュートは棒切れのようにその場にバタンと倒れ伏し、司へと手を伸ばした。
「なんで俺がまたお前を背負わなきゃなんないんだよ……!」
「え? だって私たちがリュートを背負ったら肌が接触して色々気まずいじゃない」
「そもそもマルタには無理なの」
「ぐっ! それは、そうだが……」
「悪いな司……でも子供の頃を思い出して懐かしいよ……落ち着くなぁ……」
「てめぇは黙ってろ! 気色悪いんだよ!」
動けなくなったリュートを誰かが運ばなければならない。その白羽の矢は当然同性の司に当たった。ぶちぶち言いながらもしっかりと役目を果たす司。人一人を抱えているとは到底思えない速度で3人の先頭を切ってボス部屋の次階層の転移魔法陣へと走るその途中、司はふと、
「そういや討伐数勝負どっちが勝ったっけ」
「あ、途中から数えてなかったな……」
「私は最初から数えてなかったわ」
「興味ないの」
「あー、じゃあ勝敗は白黒か。ま、どうでもいっか。リュート」
司は背負うリュートを振り返り、赤いサングラスと歯を光らせて笑った。
「今日は久しぶりに楽しかったぜ」
「――ああ。僕も楽しかったよ、司」
リュートもまた笑顔で答え、司にしがみつく力を少し強めた。普通に振り落とされた。その頃には麻痺も溶けかかっていたのにリュートはたどたどしくも自力で立ち上がり、司に続いて目前に迫っていた転移魔法陣の上に立つ。アカネとマルタも転移魔法陣の上に立つ。
あとは学園ギルドに帰還するだけ。4人はダンジョンアタックを締めくくる呪文を詠唱する。
「ダンジョン・エスケープ」
4人は学園ギルドへと帰還した。タイムは1時間50分。2年生の平均タイムである2時間10分よりも上のタイムだった。