カード学園サヴァイヴ ~カードで全てが決まるゲーム世界の学園で狂人で軍人のゲーム廃人は天使のために最強になる~   作:哀原正十

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第20話 ダンジョンアタック ―玄咲Side―

 33階。

 

 クレイ・ゴーレム達相手にコスモが無双している。

 

「余裕です!」

 

「ンゴッ!」

 

「魔法を使うまでもありません!」

 

「ンゴゴッ!」

 

「ギャラクティカ・ファントム(ただの掛け声)!」

 

「ンゴゴォッ!?」

 

 リュートと司たちも相手をしていた31階層のメインモンスターのクレイ・ゴーレムを全員一発でなぎ倒す。打撃攻撃がメインのコスモの攻撃は、斬撃主体だったリュートと司よりも相性がいい。かち割ればいいからだ。クレイ・ゴーレムの剛体を一撃で割り砕いていく。無傷のまま前進が止まらない。

 

「チュゥゥゥゥゥウウウウウ!」

 

「むっ!」

 

 洞窟上空をビーム・バットが飛翔してくる。コスモのリーチ外。となればクゥのADが魔力光を噴く。

 

「ウィンド・スナイプ・バレット!」

 

「ヂュアッ!」

 

「ウィンド・スナイプ・バレット」

 

「ギャッ!」

 

「ウィンド・スナイプ・バレット」

 

「ゲヒッ!」

 

 空を飛ぶ敵が射程内に収まる片端からクゥが敵を屠っていく。使ってる魔法はランク1・風属性・銃魔法・ウィンド・スナイプ・バレット。空を飛ぶ敵は耐久力が低い傾向にある。クゥの魔力ならランク1の魔法で十分なのだ。クゥがその裸眼のエメラルド色の瞳でウィンクをする。

 

「ビーム・バットは任せて! 他の敵も全部撃ち落とすよ!」

 

 空を飛ぶ敵は今の所全てクゥが撃ち落としている。100発100中一撃必殺。近距離と遠距離の完璧な分担がなされている。ゲーム同様の高相性。4人は全く止まることなく進んでいく。ある時、一度に多くのビーム・バットが現れた。クゥが即座に言う。

 

「ゲンサック、加勢お願い」

 

「ああ。ダーク・エア・バレット」

 

「ウィンド・スナイプ・バレット」

 

 玄咲はクゥと2人で空から飛来してくる魔物を急所を撃ち抜き符合魔法たる銃魔法で一撃で殺す。ダーク・エア・バレットはランク2の銃魔法。対空性能に特化した性能をしている魔法だ。空を飛ぶ魔物には通常の3倍程の威力を発揮する。玄咲が厳選して選んだダンジョンアタック用のカードだ。

 

 殲滅し終わった後クゥが玄咲に礼を言った。

 

「ありがと。手間かけるね。範囲攻撃、ちょっと苦手でさ……」

 

「クゥのADは少し特殊だからな。仕方ないさ」

 

 元々狙撃銃型ADには単体攻撃に特化しているという長所と裏合わせの欠点がある。クゥのAD破風纏廻(バレル・ロール)アームズ・ウィングはその狙撃銃型ADの特性をかなり極端に出したADだ。クゥのADは範囲魔法の適性をほぼOFFに近い域までカットし、単体攻撃型の銃魔法の出力を高めている。魔法の集約力が異常に高い。だから、範囲魔法を使っても攻撃範囲が広がらず線の攻撃になってしまうのだ。ゲームでも同じ欠点を持っていた。高火力単体攻撃を放てる代わりに範囲攻撃を持たない。長所が強烈な代わりに短所も強烈なキャラだった。

 

 また、コスモにも同様の欠点がある。グローブ型のADは範囲魔法と相性が悪く、威力が出づらい。また、そもそもコスモはクレイ・ゴーレムの群れを殲滅できるような高ランクの範囲魔法カードを持っていない。「なんか範囲魔法と相性が悪いしそもそも性にも合わないので単体攻撃メインで行く方針」らしい。符合魔法を筆頭に相性がいい魔法があるのと同様に、どうしても相性の悪い魔法というのも存在する。カードと魂の相性の不思議だった。そういう訳でコスモも敵の群れの短期殲滅が苦手だった。そのコスモの前にクレイ・ゴーレムが3体と、ホイール・ゴーレムというクレイ・ゴーレムの亜種モンスターが2体現れる。ホイール・ゴーレムはタイヤのように転がって突進攻撃してくる敵だ。コスモがデストロイ・アームを構える。

 

「ちょっと数が多いですね。天之玄咲、協力してください」

 

「ああ。ダーク・ピアス・バレット!」

 

「ンゴッ!」

 

 地上でも敵の群れに当たった時はクゥの時と同じく玄咲が加勢する。ランク2・闇属性・銃魔法・ダーク・ピアス・バレット。ゴーレム系のモンスターのメタカードとされる貫通力に特化した魔法で転がるモーションに移ろうとした敵の急所たる頭部を的確に撃ち抜く。「ダーク・ピアス・バレット」。2体目も同じく仕留める。玄咲はその使い勝手と、何より燃費の良さに頷いた。

 

(うむ。全然魔力が減る感じがしない。レベルが上がる程低ランクの魔法のMP消費が下がるCMAの法則はちゃんとこの世界でも健在だな)

 

 魔符士はレベルが上がる程魔力の質が上がり、少量の魔力で低ランクの魔法の発動に必要な魔力を補えるようになる。ゆえに消費魔力が下がる。レベル60越えともなればランク2程度の魔法ならMP消費5分の1程度で使える。あくまでゲーム換算だが、この世界でも比率は大体変わらないようで、現実的に必要となる範囲ではほぼ無尽蔵みたいなものだった。燃費の良い銃魔法を玄咲は安心して乱射していた。

 

「ンゴゴ―ッ!」

 

 また、接近戦となれば。

 

「――スクラップ・フィストォ!」

 

 玄咲の新兵器が火を噴く。

 

 

 

 

 数日前。

 

「玄咲。それ、何?」

 

「グルグルの玩具。格好いいだろ」

 

 玄咲は手袋型の手甲をシャルナに見せびらかす。金属の装甲で覆われた柔軟性と強度を両立した手甲だ。

 

「確かに、格好いい。でも、何で手甲を?」

 

「俺って近距離戦をすることも多いだろ。そういう時、銃型のシュヴァルツ・ブリンガーじゃ痒いところに手が届かないことが多くてな。技術で誤魔化せる範囲ではあるんだが……そういう相談をグルグルにしたところこれを渡されたんだ」

 

「AD?」

 

「いや、違う。カードバトルの原則としてADは一人一つと決まっているからな。ラグナロク学園ではADの2つ同時装備は禁止されている。これはただの丈夫な手甲。ただ、グルグルらしく少し凝っててさ。この手甲、魔力伝導率が高いんだ。だから、効果範囲が拳に及ぶ魔法を発動すると――」

 

 

 

 

「――スクラップ・フィストォ!」

 

 シュヴァルツ・ブリンガーを右手で握りしめながら玄咲は左拳を突き出した。利き腕でもないしやや歪な体勢だが玄咲にとっては大した問題でない。装甲に魔力が伝播し薄く魔法を纏う。ランク2・土属性・機械魔法・スクラップフィスト。シンプルな拳の強化魔法が、本来の数分の1の威力であるが確かに拳に宿る。玄咲はその左拳を渾身の力を込めてクレイ・ゴーレムの頭部にぶち込む。

 

 悲鳴を上げる間もなくクレイ・ゴーレムの頭部が木っ端微塵に爆ぜた。グルグルがジャンク品から趣味で作ったジャンク上がりの品であるためグルグル印のグルグルマークが入ったシンプルな銀色の手甲を玄咲は満足げに見下ろす。十分実用に耐える威力。そもそも手甲をつけてるだけで玄咲の拳の威力はおぞましく跳ね上がる。コスモが感嘆の声を上げた。

 

「おお! 流石ですね! しかもコスモとお揃いのカード! 最初から最終盤まで活躍する多次元世界に響く拳です!」

 

「? あ、ああ。最終盤まで使えるかと言ったら微妙だと思うが、優秀なカードだよな。シンプルに威力が高い。格闘系魔法を代表するカードの一つだ」

 

 そんな会話を交わしながら2人は進んでいく。雑談をする余裕すらある。玄咲は時に魔法すら使わず敵を屠った。コスモとちょっと張り合った。だが、結局は非効率なので普通に魔法を使った。

 

「フォーメーション、ちゃんと機能してるね」

 

「ああ。いい感じだ」

 

「隊列は本当大事ですもんね。リーディング・トリオです!」

 

 4人のフォーメーションはこうだった。コスモとクゥを主攻とし、不足分を全て玄咲が補う。主に数が多いとき、現在は時短のため玄咲が出張る形だ。単体攻撃メインのメンバーが集まっているが故の欠点を補うためのフォーメーションだ。真っ先に司を誘いに行ったのはその強さは勿論、そのリーチの長さゆえの範囲攻撃が強力だからだ。リュートを長年完封していた学年No1の実力は伊達ではない。また、玄咲の役割は他にも多く、

 

「む、ダーク・ピアス・バレット」

 

「ンゴッ!」

 

 岩壁に擬態したクレイ・ゴーレムの奇襲を予め防いだり、

 

「通路の左側、罠があるな。右側を通ろう」

 

 罠があれば看破しルートを指示する。7日間一人で密林を彷徨ったこともある玄咲の本能レベルで身についた高いサバイバル能力が真央の指導を経てダンジョンの中でも発揮されていた。

 

「次の通路、曲がり角で奇襲してくるぞ! コスモ、魔法で蹴散らせ!」

 

「了解です! スクラップ・フィストォ!」

 

「ンゴーーーーーーッ!」

 

 3人のコンビネーションであっという間に4人は進んでいく。そして、

 

「む、出たね。キモイ奴」

 

 最後、鍾乳洞を思わせる開けた場所に出た。奥に階段がある。途端、天井からチューチュー・バットの群れが襲ってくる。玄咲は慌てずシュヴァルツ・ブリンガーの銃口を頭上に向けあらかじめインサートしておいたカードを詠唱した。

 

「ヘルズ・ファイア」

 

「ヂュアアアアアアアアアアアアアアア!」

 

 黒死火淵山影弾(ディアボロス・インフェルノ)の素材カードでもあるヘルズ・ファイアの地獄の獄炎がチューチューバットたちに断末魔の叫び声を上げさせた。ややオーバーキル気味だが玄咲はレベルが短期間でかなり上がり魔力に余裕があるため問題ない。ランク6の魔法ももう適性範囲内だ。皮膚が焼け爛れ炭化したチューチューバットの死体を踏み越えて4人は次階へと易々と到達する。

 

 シャルナを温存したまま。

 

「……(むず、むず)」

 

「安心しろ、シャル。必ずシャルの出番はやってくる。それまで我慢だ」

 

「うん。分かってる」

 

 34,35階層も玄咲たちは余裕で踏破した。

 

 

 

 

 

 

 

「……これは、驚いたな」

 

 ケビンが玄咲のダンジョンアタックの様子を見て驚く。

 

「真央の探索を見てるようだ。君の技術、いや、センスまでもを完全に吸収している。一体どういう指導をしたんだい?」

 

「一緒にダンジョンを探索しただけだよ。探索しながら、私の言葉で、一つ一つ、教えていった。でも、最後は言葉もいらなかったかな。何も言わずとも勝手に私を吸収して行っちゃうの。ダンジョン探索ではない。でも、相当なサバイバル経験を積んできてるね。超えてきた修羅場の数は一つや二つじゃないはず。でないとあんな目にはならないよ」

 

「そうだな。……彼も、天才って奴なのかな」

 

「でも、私が教えたからああなったんだぞ! 私の指導力の賜物だい!」

 

「分かってる。真摯に教えたんだな。伝わる、伝わるよ。君の想いが、彼の姿を通して私の胸にも、ビンビンにね……!」

 

「心亜。場所交代」

 

「はい」

 

 真央はケビンとの間に心亜を挟んだ。ケビンは切ない顔をしたが何も言わなかった。

 

「それにしても、全員強いな。凄まじく」 

 

「うん。私もすぐ抜かれちゃう。今は上にいる自信あるよ。でもねー……化け物ばっかだよ。特にあの」

 

 4人の最後尾を走る白髪の絶世の美少女を見て真央は呟く。

 

「シャルナちゃん」

 

「彼女がか。今のところ何もしてないが――む」

 

 ダンジョンを懸ける4人の前に突如全身ミスリルのゴーレムが現れる。ケビンは申し訳なさの混じった切ない顔をした。

 

「アンラッキーだ。ユニークモンスターのミスリル・ゴーレムが現れるとは。あいつは固い。苦戦を強いられるだろう」

 

「心配にゃいよ」

 

「なに?」

 

 

「さっき言ったじゃん。シャルナちゃんは化け物だって」

 

 

 

 

 

 

 第36階

 

「む! 定番の奴――いや、面倒な奴が現れましたね……!」

 

 ダンジョン攻略を進める玄咲たちの前に突如イレギュラーが立ちはだかった。ユニークモンスターミスリルゴーレム。一定確率で現れるレアモンスター。通常のモンスターの10倍は強い。ミスリルゴーレムは全身ミスリルで構成されたバカげた硬度のモンスターだ。全長は5メートル。ジャイアント・アイアン・ゴーレムの10分の1。だがその装甲はジャイアント・アイアン・ゴーレムよりも固い。ある意味ではボスにも匹敵する強敵だ。

 

「ふふ、ようやく私の本気を出せそうな相手が」

 

「ここは、私が!」

 

「あ、シャル」

 

 シャルナがコスモの脇を通り抜けて、一瞬でミスリルゴーレムの懐に入る。そしてエンジェリックダガーのギミックを起動した。

 

「クリティカル・インパクト」

 

 そして詠唱する。

 

「フュージョン・マジック――黒刺淵斬(ダーク・フラッシュ・インパクト)

 

 クリティカルの証の黒い花火のような閃光を纏ったエンジェリックダガーの切っ先がミスリル・ゴーレムの頭部に突き刺さる。そしてそのコアを破壊した。

 

「よし、次、行こ!」

 

「……あ、ああ。魔力を温存する予定だったんだが……まぁ、ポーションもあるしフュージョン・マジック一発分くらい、大丈夫か……」

 

「ふっ、コスモの本気はまた次の機会に見せるとしましょう……」

 

「あれを一撃で倒せるんだ……シャルナちゃん。凄いね」

 

「ぶいっぶいっ」

 

 シャルナが機嫌よさそうにクゥにピースする。ミスリル・ゴーレムをシャルナのお陰で一瞬で突破できたのは確かではあった。時間のロスを最小限に抑えられた。なので玄咲も素直にシャルナを褒めることにした。ミスリル・ゴーレムは10万ポイントと高額なのできっちり手早く回収しながら、

 

「シャル。よくやった」

 

「うん。火力ソース、失っちゃったし、ポーション回復含めても、攻撃に使える、魔力はこれで最後。最後は、任せたよ。玄咲」

 

「ああ。任せておけ」

 

「うん」

 

 ユニークモンスターの乱入というイレギュラーもものともせず、4人は楽々と36階を突破した。

 

 そして37階。この階から敵が1ランク強くなる。

 

 

 

 

「とりゃ!」

 

「ンゴリャァ!」

 

「むっ?」

 

 コスモの拳を受けても砕けなかったアイアン・ゴーレムが反撃の拳を突き出してくる。コスモは魔法を使った。

 

「ンゴゴッ!」

 

「クラック・シュー――じゃなかった。バーン・ナックル!!」

 

「ンゴッ!?」

 

 アイアン・ゴーレムが吹き飛ぶ。コスモは額の汗を無骨なデストロイ・アームで拭った。

 

「ふぅ。流石に敵が固くなってきましたね」

 

「そうだな。ダーク・ピアス・バレット」

 

「ンゴゴッ!」

 

「ダーク・ピアス・バレット。ちっ、直撃を防がれると2発いるか。確実に敵の急所を貫かないと苦戦するな。頭の、特に中央だ。クゥもたまに援護してくれ」

 

「分かった。中央ね。的当てだ」

 

「そろそろ1ランク上のカードに入れ替えておくか」

 

 37層ともなれば雑魚敵も強くなる。クレイ・ゴーレムの上位固体のアイアン・ゴーレムはコスモの怪力を以てしても素手では一撃で倒せない。魔法の補助が必要だった。玄咲に加えてクゥも地上の敵に当たる機会が増えた。ゴーレム相手にはランク2魔法ウィンド・ピアス・ライフルを使って急所を的確に射抜きほぼ一撃で殺していく。

 

「む、今度はちょっとレアなクリティカル・ラビットか。普通に蹴り殺すか。股間を潰そう」

 

「ギャビ!」

 

「……」

 

 玄咲が肉切包丁を持った俊敏な兎を蹴り殺す。コスモが玄咲の戦い方を見ながらポツリと呟く。

 

「天之玄咲。あなた器用ですね。敵に合わせてよくそれだけ戦い方を変えれるものです」

 

「敵の嫌がることをするのが戦いの基本だから」

 

「なるほど……コスモもちょっとやってみますか」

 

 コスモがアイアン・ゴーレムに向かっていく。そして、

 

「死に晒せやァアアアアアアアアアアア! バーン・ナックル!」

 

「ンゴゴガ!?」

 

「……」

 

「相手を思いっきり恫喝しながら殴ってみました。どうでしょうか?」

 

「コスモちゃん。そういう意味じゃない」

 

「そうですか」

 

「ゲンサック! ポイズン・ホーネット複数きてる!」

 

「分かった! ダーク・エア・バレット!」

 

 やや手こずりながら4人は37階を抜ける。

 

 

 そして第38階。

 

 

 ここからはずっとシャルナのターンだ。

 

 

白夜幻創天照白刃(ダークネス・エルフィン)

 

 

 

 

 

「あはは! 早い早い! 凄い凄い!」

 

「コスモ! 空飛んでます! スペースコスモです!」

 

「あ、ああ、コスモちゃん。コスモちゃん。コスモちゃん……あ、ああああ、ああああああああああああああ」

 

「玄咲。しっかり迎撃して?」

 

「ダーク・アサルト・バレット。ああああああああ……」

 

「凄い。狙いを外さない。戦闘行動だけは淀みなく行ってる……」

 

 4人は空を飛んでいた。シャルナがコスモを抱え、そのコスモが玄咲とクゥを抱えている。4人の作戦は単純なものだった。38階と39階を白夜幻創天照白刃(ダークネス・エルフィン)を発動したシャルナに掴まり一気に階層を抜ける。その目論見は上手くいっていた。シャルナがコスモを抱え、コスモが玄咲とクゥをその怪力でがっちりホールドすることにより、4人フライトながら抜群の安定感。シャルナもそれなりにレベルが上がっているので3人分の体重くらい短時間なら抱えられる。完璧な作戦だった。

 

 一つの問題を除いては。

 

 むにゅ、むにゅ。

 

 密着しながら激しく揺れている。

 

「コ、コスモちゃん。もう少し、離れて」

 

「? 不可能ですが? 天之玄咲はミスターインポッシブルなのですか? むしろここは体勢の安定のためより密着しましょうかね」

 

 むにゅっ!

 

 玄咲の意識が飛びかける。

 

「――クゥ」

 

「なに、ゲンサック」

 

「俺を抱えられるか」

 

「――それ、どういう意味?」

 

「い、いや、その――」

 

「キシャ―!」

 

「ふっ!」

 

 シャルナが近づいてきたチューチュー・バットを翼で一閃。一撃で屠る。さらに激しく揺れる。

 

「……シャル」

 

「なに? 玄咲?」

 

「急いで」

 

「うん」

 

「ゲンサック。あなたって意外でもないけど俗なのね」

 

「……」

 

 シャルナは過去最速で飛翔し、38、39階を駆け抜けた。

 

 

 

 

 

 

 そして40階。

 

 ボス部屋。

 

「――とうとう、ボスだね」

 

「ああ。速攻で片付ける。だが、油断するなよ。戦場では一瞬の油断が命取りだ」

 

「ゲンサック。あれだけの醜態を晒した後で普通に意識切り替えられるの素直に尊敬するよ」

 

「また、4人で飛んでもいいですね……」

 

「……よし! みんな! 行くぞ!」

 

「玄咲、今日はちょっと、自棄糞入ってるね」

 

「行こう! このダンジョンアタック、勝利するぞ!」

 

 玄咲は男らしく表情を引き締め、ボス部屋の扉を開け放った。とうとした。その瞬間、

 

「ん?」

 

 後方から何かが飛来してくる気配があった。玄咲が振り向いてそちらを見る。

 

 配信機器だった。

 

(ああ。そう言えば配信してたな。シャルナの速度についていけなかったのか――待てよ。てことは俺の醜態は配信されてなくて、真央先輩とかにも見られてなくて――)

 

「? 玄咲?」

 

「――シャル。ありがとう。君は俺の天使だ」

 

「!? う、うん。そうだよ……」

 

「よし! 行くぞ!」

 

 メンタルを完全回復させた玄咲はボス部屋の扉を開け放った。シャルナ、クゥ、コスモ、そして配信機器を引き連れて、ジャイアント・アイアン・ゴーレムの待ち受けるボス部屋へと足を踏み入れた。

 

 ボス戦が始まる。

 

 

 

 

 

 

「ウゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」

 

 ジャイアント・アイアン・ゴーレムが吠える。50メートルの巨体が玄咲たちを見下ろしている。その足が一歩を踏み出す。空気が揺れる。地が揺れる。ジャイアントゴーレムがその右拳を玄咲たち目掛けて振り下ろす。コスモが前に出る。

 

「ふふ。コスモの本気を見せる機会が早くも――っと、フュージョン・マジック!」

 

 コスモが台詞を切り上げて真剣な表情で拳を引き絞る。

 

超銀河級機甲拳(マキナテック・インパクト)!」

 

 そして、突き出した。

 

 コスモのデストロイ・アームが巨大な拳型の魔力に包まれる。コスモが渾身の力で振りぬいたその魔力の拳がジャイアント・アイアン・ゴーレムの拳と正面衝突する。一瞬の硬直。その後――。

 

 ピキ、ピキ、ピキ。

 

「ウゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」

 

 ジャイアント・アイアン・ゴーレムの拳から腕へと駆け上がった亀裂が肩へと到達。そして、腕が丸ごと砕け散った。巨人が体勢を崩しかける。クゥがそこに追撃を加える。

 

「フュージョン・マジック――鋼徹斬光風鏖弾(デスメタル・ソニック)!」

 

 クゥの魔力弾がジャイアント・アイアン・ゴーレムの頭部へと飛んでいく。ジャイアント・アイアンゴーレムが左腕でクゥの弾を防ごうとする。

 

 ジャイアント・アイアンゴーレムの左手が砕け散った。頭部に貫通したクゥの魔力弾が激突する。威力が減衰され撃ち貫くこと叶わないまでも罅を入れた。さらに、頭部に痛打を受け致命的にバランスを崩したジャイアント・アイアン・ゴーレムの体がゆっくりと倒れて行く。

 

「殺すには至らないか……ゲンサック、後は頼んだよ」

 

 ズシャアア、と大きな音を立ててジャイアント・アイアン・ゴーレムが地に倒れた。

 

「ウ、ゴ、ゴ……」

 

 何とか立ち上がろうとするジャイアント・アイアン・ゴーレム。しかし、手がないため上手くいかない。醜く地を芋虫のように醜く地を這いずるのみ。ジャイアント・アイアン・ゴーレムは慌てて手のない体で芋虫のように体を捩り何とか立ち上がろうとする。その過程で頭が上を向く。

 

 赤い瞳と目が合った。さらに、声が聞こえる。

 

 

「レインボー・ドライブ」

 

 

 グルグルが虹色の魔力を解析して作ったオリジナルギミック。玄咲にしか使用できない。その原理をグルグルが色々詳しく解説していたが玄咲には理解し切れなかった。だが、要約されたその効果だけは覚えている。

 

 複数属性を使用したフュージョン・マジックの威力の7倍化。理論的にはもっと上げれるが今はそれが限界だと謝っていたがとんでもない。現状でもその緩い使用条件からすれば十分過ぎる高倍率だった。

 

 玄咲は続けて詠唱する。

 

「フュージョン・マジック――」

 

 玄咲の知る限りランク7のカードを使用した中では最強のフュージョン・マジックを。

 

死閃混轟光(デス・アルテマ)

 

 触れるもの全てを死に至らせる死の閃光が頭から股間までジャイアント・アイアン・ゴーレムを飲み込んだ。

 

 

 

 

 

「うっわー……」

 

「凄いね。何度見ても」

 

「これ、コスモたちの助力いらなかったのでは? いや、でも見せ場を作らないといけませんし止むをえないのか……」

 

 ――ジャイアント・アイアン・ゴーレムは完全にこの世から消失していた。閃光から漏れた部位が僅かに残っているがまるで瓦礫のような有様。玄咲の魂の奥底に眠る濃密な、しかし短期貯蔵量の少ない特殊な魔力を燃焼するため長時間使用はできない赤眼モードに、グルグルのギミック、そしてこの世界でも屈指の威力であろうフュージョン・マジックを使用した結果の惨事だった。もはやカードバトルで使用していい威力ではない。

 

「うむ。リュートの極光五星刃(クインテット・ニルヴァーナ)にも負けていない。むしろ現状勝っている。中々いいな」

 

「え、ゲンサック、感想それだけ?」

 

「バエルの方が万倍凄い」

 

「あ、うん。それはそう」

 

「究極至高のパーフェクトビューティーだからな」

 

「うん。仲の良さがちょっと怖いかな」

 

「クゥもそのうち慣れるさ。バエルは強くて美しくて優しいんだ。」

 

「うん。もう何も突っ込まない」

 

「……まぁ、尖った性格ではあるけどな。さて」

 

 玄咲たちは会話しながらも移動し続け、ボス部屋を抜けて、転移魔法陣の前まで辿り着いた。そしてその上に4人で立つ。

 

「俺たちの勝利だ。学園ギルドに帰ろうか――ダンジョン・エスケープ」

 

 玄咲たちはダンジョンから学園ギルドに帰還した。タイムは1時間30分。リュート達を20分上回るタイムだった。

 

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