カード学園サヴァイヴ ~カードで全てが決まるゲーム世界の学園で狂人で軍人のゲーム廃人は天使のために最強になる~ 作:哀原正十
第22話 打ち上げ
「そういえば、ダンジョン・ハンターズで、起こした、問題って、なんですか?」
登校時。たまたま一緒になった真央にシャルナが尋ねる。それぞれの隣には玄咲、心亜がいる。真央は頬を掻いて答える。
「いやー、大したことじゃないんだけどさー、ケビンとちょっと大喧嘩しちゃってねー、それが原因」
「なぜ、喧嘩を?」
「……」
真央は瞳を曇らせて言った。
「うざかったからだよ。やれ罠にかかった仲間を笑うなだの、独断専行してパーティを危険に晒すなだの、くだらない理由で喧嘩するなだの、子供みたいにワクワク顔で宝箱を開けてミミックに食われるなだの、一々うるさかったんだ。それである日とうとうブチ切れて、部室で口げんかして、そのまま部室を出てって、それきりだよ。思ったより大した理由じゃないでしょ」
「は、はい。でも、全部、相手の言い分が、正しいんじゃ……」
「……」
真央はコクンと頷いた。
「うん。そうだよ。全部私が悪い」
「え――」
「そうだよ。私が悪かったのさ。私さ、ガキだった。青かったし、イキッてたし、なまじ才能ある方だから増長してた。あそこにいられないくらい人に嫌われてようやく気付いた。ケビンはこうならないように注意してくれてたんだって後輩を持って分かったんだ。ケビンは本当に後輩の私を思いやってくれてたんだって。……いや、それ以前から分かってたかな。でも、自分の非を認めたくないから、ケビンを悪者にして、それで精神の安定を保ってただけ。結構くだらない人間なの、私。……私、本当、色々後悔してる。……ダンジョン・サバイヴァーズを立ち上げたのは、やり直しって意味が大きいかな。今度は失敗しないようにって」
「先輩……」
玄咲もシャルナも何も言えない。シリアスな空気に差し込む言葉を持っていない。気まずい沈黙を保ったまま4人は歩く。だが、ふいに心亜がこれ見よがしに大げさなため息をついて見せて、
「……まぁ、ぶっちゃけ全部真央が悪かったですよね。マジで、全て、ことごとく」
「うっ」
「あれだけやらかしまくって愛想を尽かさなかったのは私とケビンだけでしたよ」
「うぅっ」
「ダンジョン・ハンターズでかなり嫌われてましたよ」
「うぅぅ……」
「だから」
心亜が真央の髪をかき上げ笑った。
「真央には私が必要なんです。ずっと離れませんからね……」
「こ、心亜ぁ……!」
「真央……!」
ヒシっと二人は抱き合う。真央はぐずる。心亜は鼻息が荒い。玄咲たちは虚無の面持ちで二人の抱擁が終わるのを待った。
抱擁を解いた真央が心亜に無邪気な笑みを見せる。
「ありがと。心亜は私の大事な友達だよ。一生ね」
「……一生、友達、ですか」
「い、いや?」
「そ、そんなことないです! 私と真央は一生友達ですよ!」
「本当!? 嬉しいなぁ……!」
「……真央が嬉しいなら私はそれでいいです」
心亜は真央から一歩引いた位置で頷いた。心亜の内心を知っている玄咲は思った。
(切ない……)
「あと、その、2人とも、さ」
真央が恐る恐る尋ねる。
「私に、幻滅、してない?」
「全く」
「納得」
「シャルナちゃん、さらっと毒吐くね……」
「でも、幻滅は、してないです」
「そっか、嫌わないでいてくれるんだね。……2人とも、ありがとね。入部して、私を先輩にしてくれて。お陰で色々気づけた。後輩持って、当時のケビンの気持ちが分かった。確かにこれは、好き勝手できないな。色々ね、面倒見てあげたくなるよ……」
「先輩……」
「もう一度言うよ。本当に、ありがとう」
にこりと。
いつもより少し暖かくて優しい、そしてこれまでで一番綺麗な朝焼けを写したような笑みを真央は浮かべた。
「2人にはたくさん助けられたし、色々なものをもらっちゃった。感謝してる。そしてね、大好きだよ」
「――は、はい。俺も、大好きです」
「……」
シャルナは少し迷ってから答えた。
「私も、嫌いでは、ないです」
「うん。……2人とも、今日は楽しみにしててね。腕によりをかけるからね」
そして最後に真央は放課後の予定について言及して、過去の話を打ち切った。
「じゃんじゃん食べてよー。全部君たちのお陰だからさー。何でも作っちゃうよー」
「肉! 肉! もっと食わせて!」
「おお。これは中々。まるで味の宝石箱――いや、その例えは少し古いか……?」
「す、凄いね、玄咲」
「ああ。これは、想像以上だ……レアピッグの時も思ったが、料理が上手いな」
「ふふ、真央はこれでも魔物調理の免許を持ってるんですよ。やる気がないと何もやらないけど、やる気を出すと大体のことは上手くやるんです」
ダンジョンアタックの数日後、ダンジョン・サバイヴァーズの部室でメンバー全員で軽い打ち上げをした。机の上にはダンジョン産の魔物で作った料理の皿が並んでいる。机一杯に皿が密集している。真央は魔物の調理が特技だ。美味しく魔物を食べたいという一心で習得した技能。ちょっと毒々しい色も混じって入るものの、文字通り色とりどりな料理の群れ。
(う、美味い。思わず口から光を吐いて叫び出したくなるレベルだ。やっぱりゲーム通り真央先輩は魔物の調理が得意なんだな。俺の雑な料理とは比べ物にならないぞ……)
ゲームでも、魔物の素材を渡すと真央は料理してくれた。大空ライト君が「1日1食が丁度いいぜ」などと舐めたことを言うので一日に一度しか頼めないが、たまにステータスをアップさせる特殊な料理を作ってくれる。ステータス弱者とは言わないが際立った長所のない大空ライト君にとっては中々有難い底上げになる。他の料理はちょっとHPが回復するだけの半分背景フレーバーみたいなものだが、しかしその全てにしっかり名前が設定されていた。ユニークな名前をした現実には絶対存在しない料理を玄咲はずっと食べてみたいと思っていた。そして実際に食べて、想像をはるかに超える美味さに玄咲は全身を感動に打たれていた。
「はふ、はふ、玄咲、これ美味しい! 黒い皮に、肉が包んである! 美味しい! グニグニして、噛むの楽しい!」
シャルナも夢中で料理にかぶりついている。シャルナが箸を伸ばしているのは、黒皮の小籠包みたいな見た目の料理だ。
「お! 目が高いね! それはホイールローチの皮に肉と内臓をミンチにした具を包んだローチ焼売って料理だよ。転がって突進してくるホイール・ローチの皮は弾力があって上手く身を包めるし、何より食感が面白いでしょ」
「はい――ん? ホイール・ローチ?」
「1層の転がってくる触角の生えた黒い虫だよ」
ピシャーン! とシャルナの全身に稲妻のような衝撃が落ちた。ローチ焼売を掴んだ箸がプルプル震える。シャルナが真剣な瞳でローチ焼売を見る。その喉をゴクンと鳴らす――結局シャルナは普通にローチ焼売に噛り付いた。
「もぐもぐ……美味ひい……」
(ああ、可愛い……もぐもぐシャルナ再びだ……)
「ゲンサック、これ、美味しいよ」
「ん? なんだこれ。焼き鳥……?」
「ブッブー。焼きチューチューバットだよ。見た目はキモイけど焼くと美味いね!」
(……クゥって、なんというか、所々が本当の意味で凄く
「はい。これ、ゲンサックの分」
「ああ。ありがとう」
玄咲は焼きチューチューバット串にかぶりつき、そして目を見開いた。
「こ、これは……焼き鳥の味だ」
「だよね。私好み。今度またダンジョンに刈りに行こ」
「ああ。行こうか」
「コスモも行きます! この40~50階層で取れるというワイルドコスモスの天ぷら気に入りました! 採取しに行きましょう!」
「確か40~50階層は虫や植物型モンスターがメインのエリアだったか。またカードショップにメタカードを買いに行かないといけないな」
「玄咲、私も行く」
「当たり前だ」
「……うん!」
「私が料理してあげるよ。何でも持ってきて」
「ふふ、ふふふふ……真央の手料理、美味しい、美味しい……」
その後も楽しい打ち上げは続いた。シャルナはローチ焼売がいたく気に入ったようで皿がなくなるまでバクバク食べてたし、玄咲も未知の料理を普段では考えられない量むさぼり食った。一日一食までなどと大空ライト君みたいに舐めたスタイルは貫かない。食えるだけだ。コスモもクゥも大食感だった。魔符士はよく動くので当然と言えば当然だった。とにかく、色々な料理をみんなで食べた。最後は真央がデザートを作ってくれた。ひたすら楽しい時間だった。そして、皿の料理も殆ど消えた打ち上げの終わり際、20~30階層に出現するクラゲ型モンスターのゼリー・フィッシュから作ったクラゲ水槽のような見た目の、透明な容器に入ったゼリーのデザートを食べる玄咲たちを見ながら、ふいに真央が切なげに目を細めた。どことなくケビンを思わせる目つき。
「……なんだかんだで後輩くん達のお陰でさ、全部収まる所に収まってくれた感じ。ありがとう。本当に感謝してる」
「……いえ。大したことは」
「大したことだよ。一生忘れない。君たちは私の大事な後輩だよ」
真央は玄咲、シャルナ、クゥ、コスモに順番に視線を移し、それからいつもとは少し趣の違う綺麗な笑みを浮かべた。
「ずっと籍置いててよ。特にノルマとかないし来たい時にくればいいからさ。聞きたいことがあったら何でも聞いて。何でも教えるし、何でも作るし、いつでも一緒にダンジョンに潜ってあげるよ」
――玄咲たちに、頼もしい先輩ができた。