カード学園サヴァイヴ ~カードで全てが決まるゲーム世界の学園で狂人で軍人のゲーム廃人は天使のために最強になる~ 作:哀原正十
「ふふ。天之く~ん。天之くん……」
生徒会室。天之明麗はSTに写ったダンジョンアタックの録画動画をニコニコと眺めている。常にも増してニコニコしている。表情が緩んでいる。常時会長の行うべき仕事を一身に引き受けて完璧に処理している初期の巡理凛子は、決済の終えた書類の束を机の上でトントンと束ねながらため息をついて明麗に突っ込んだ。
「会長。うざいです。遊びならよそでやってください」
「いいんですか? 私が外でだらしない姿を見せても」
「やっぱりここにいてください」
「はーい。全く、凛子は私から離れたがれないんですから……」
「もう自分の仕事は自分で片付けられる年ですね? 私マターの仕事はもう全部終わってるんで今日はこれで失礼させていただきます」
「あ、待って! 私、凛子がいないとタスクが終わらないんですっ! キャパオーバーなんです! ごめんなさい私の傍にスタンドしてください~!」
「……はぁ、仕方のない人ですね。はいはい、傍にいればいいんでしょ……」
凛子は立ちかけた椅子に座り直し書類仕事を再開する。そもそも凛子もただ冗談を口にしただけで離れるつもりは元からなかった。明麗と違いもう符闘会の選手としては期待されていない己の分を弁えて、いつものように明麗のサポートに全力を尽くす。いつもの得意な喋り方は明麗には通用しないことも多いので控えめだ。ラグナロク学園3年生ともなれば、生徒の育て方も1年の頃とは色々変わってくるのだ。
明麗の生徒会長業務もその一環だ。
「すいませんね凛子。私が会長職向いてないのでいつも負担をかけて」
「いえいえ。これが私の
「そうですねー……」
そもそも明麗はそのカリスマ以外はどう考えても生徒会長向きの人間ではない。それなのに生徒会長をやっているのは学園長の意向だ。明麗の現在のレベルは99。それが1年程続いている。最後の1レベルがどうしても上がらない。その1レベルを上げるための試行錯誤の一環が生徒会長活動だ。何がレベル100の切っ掛けになるか分からない。だから試しに生徒会長でもやらせてみよう。そういう意図により明麗は生徒会長になった。そしてその試みは今の所成果を上げていない。レベル100の頂はそう簡単に手が届く程甘くはないのだ。
「中々難しいですけどねー……レベル100。必ず上げて見せます」
「レベル100に
レベル100に手が届いた後に手に入る超魔力。そして何よりギフテッド・スキル――天から授けられるカードに寄らぬ固有魔法とでも呼ぶべき超能力は、そうまでしてでも手に入れる価値がある。超魔力は文字通り多大な魔力。そしてギフテッドスキルは、天から授けられるカードに寄らぬ固有魔法とでも呼ぶべき超能力だ。本人の魂に応じたスキルを手に入れるという。あまりにも謎は多いが実在する以上目指さない理由はない。一説には創世神フェルディナに認められた証と言われている。符闘会に初大会から全大会出場している生きる伝説【マナデックの修験者】などはこの世界でレベル100に至った数少ない存在だ。それ故に、魂成期を過ぎて尚、世界最強(マギサを覗く)の一人に数えられるだけの実力がある。レベル100未満の現在でも世界トップクラスの魔符士たる明麗がレベル100に至ったらどれだけの力を得るのか――学園長はその可能性に涎を垂らさん勢いで期待している。
「ただ、
「絶対間に合わせます――と、言いたい所ですが、やはり、中々難しいですね……」
符闘会まで残り1年。残りのレベル1を上げレベル100に至るのが明麗に与えられた課題だった。戦闘技能は既に学園長が認めるレベルにまで至っている。レベル100に至るために精神の成長に繋がりそうなことを何でもやらされている。それが今の明麗の現状だった。
ただ。
「――凛子、笑わないで聞いてくださいね」
「それは聞いてから
「聞く前に約束してくださいよ」
「
「……」
ゴホンと咳払いしてから明麗は言った。
「――個人的には」
STに映る一人の男子生徒をその白い眼に写しながら。
「彼が最後のピースになる気がするのですよね」
天之玄咲を見ながら。
「ラストピース、ですか?」
「はい。最後のピースです」
「……その勘は」
凛子は真剣な表情で述べた。
「正しいかもしれませんね。魂の直観というのは案外馬鹿になりません。ひょっとしたら本当に彼が明麗の求めるラストピースかもしれませんね」
「! 本当ですか! そっか、彼が私の、
「……」
気のせいではない。明麗は明らかにかの生徒に並々ならぬ執着を抱いている。その正体は何なのか――凛子は気づけば問うていた。
「……会長は天之玄咲の何がそんなに気に入ったんですか? 私には
「彼は」
明麗は、どこまでも優しい光を灯して、STの中の狂熱を秘めた赤い瞳に慈愛の眼差しを贈った。
「私の救世主になってくれるかもしれない人なんです」
「――」
凛子は眼を見開いた。それから、口を開きかけ、何かを言いかけ、結局やめた。ただ一言、こう言った。
「良かったですね」
「はい。良かったですっ!」
それで、その話は終わりだった。ふと明麗は空の椅子を見て、
「しかし、今日は軽子がいませんね。仕事でしょうか」
「アウトドアな仕事は大体軽子が担当してますからね。この時期1年生加入の影響で慌ただしい部活棟辺りで何らかのトラブルに介入でもしているのでしょう。会長も見習ったらどうですか?」
「うっ、でも、私は私で忙しいんですよ!」
「……まぁ、会長は会長で会長にしか出来ない仕事を定期的に――っと、噂をすれば陰ですね」
足音。猛スピードで近づいてくる。そして――。
「大変です会長!」
スパ―ンと生徒会室の扉を開けて軽そうな見た目にウェットな感情と瞳を兼ね備えた生徒会副会長赤羽軽子が現れた。そしてシュタタ、と一瞬で明麗の前まで速足で歩み寄り、明麗のデスクに手をついた。
「SSSランクモンスター【ヒュドラ】がエルロード聖国の属国のジコリマス帝国との国境付近に出現! このままヒュドラが国境を超えると魔物討伐義務不履行罪により国際問題になります! 至急明麗様の手を借りたいとプレイアズ王国軍より要請が!」
「分かりました。すぐに向かいましょう」
明麗は全く動揺することなく即答した。完全に慣れた対応。この程度のこと、何十回と明麗はこの学園に入学してから経験してきた。学園長から仕事として課せられてきた。
「そうか。もう
「9時の方向! 真っすぐ行けばすぐにヒュドラの巨体が見えるので迷うことはないと思います!」
「分かりました。ありがとうございます。では早速――」
立ち上がった明麗の手には既に2枚のカードが握られている。1瞬で取り出したのだ。カードドローの速さはハイレベルな魔符士同士の戦い程重要になってくる。明麗のドロースピードに敵う者は少なくともこの国にはいない――手を、前に。カードを握る。その表面に刻まれた情報が明麗の目に移る。明麗は続けて詠唱する。
「武装解放――」
ランク10
補正値400
「
宝玉がはめ込まれた漆黒の木剣型のADが明麗の手に握られる。さらに明麗はカードを1枚取り出しADにインサートする。
ランク5
光属性
「ライト・ウィング」
明麗の双翼に白い魔力の翼が重なる。神々しいまでの眩しさ。
「会長、1年時からそのカードずっと使ってますね」
「魔力消費と性能のバランスがいいので長距離移動用には最も適しているんです。全ての局面において高ランクカードが最適という訳じゃありませんよ。さて――」
明麗が生徒会室の窓を開ける。そしてその縁に足をかけて――。
「ちょっと行って終わらせてきます」
大空へと、飛び立つ。
「――天、使だ……」
「え? どこ?」
「あそこだ」
「あ――天使だ……」
ダンジョンアタックの2日後。
玄咲とシャルナはその日、初めて天使が空を飛ぶ姿を見た。校舎裏でいつものように弁当を食べている最中の出来事だった。2人は目を細めて眩しい空を見上げる。
大空に、どこまでも白く美しい光が輝いていた。