カード学園サヴァイヴ ~カードで全てが決まるゲーム世界の学園で狂人で軍人のゲーム廃人は天使のために最強になる~ 作:哀原正十
「はははっ! 大空ライト! 中々手こずらせてくれたな。だが、魔力切れのようだな!」
「くっ! 【王魔種】魔導士ヘクター! なんて強敵だよ……! ゾンビを操りやがって!」
「これで終わりだー! 死ねえええええええええええええ!」
魔導士ヘクターが禍々しい髑髏のついた杖の先端に頂く杖を大空ライトに向ける。髑髏の口が空き、紫色の光が明滅する。起死回生のフュージョン・マジックは敵の切り札と相打ちになった。もう自分に戦える力は残っていない。もう駄目なのか? 大空ライトが全てを諦めたその時――。
《諦めるな――》
ドクン……。
声。カードケースから直接脳に響く。その瞬間大空ライトは思い出した。依然数奇な偶然により手に入れたあるエレメンタルカードのことを。
さらに、声は響く。
《戦いの最中レベル65に達した今のお前なら俺を着装できる。今こそ呼べ! 俺の名を!》
「――当たり前だ。諦めるなんて言葉俺の辞書にはねぇんだよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
大空ライトは迷わずカードケースから1枚のカードを取り出した。魔導士ヘクターが笑う。
「ははは! 魔力切れを起こしたお前に今更一枚のカードで何が――その柄はエレメンタルカードッ!」
「召喚――」
《叫べ、俺の名を――!》
「天凱装ディライダー!」
カードが光を放つ。白と青の箱が現れる。その箱が発光したかと思えば一瞬で鎧に再構成され、そしてさらに――。
《――行くぞ。大空ライト。俺とお前の初めての――》
「ああ。お前と俺の初めての――」
「くっ、マキシマム・クルーエル・バースト――」
ヘクターの尖端に髑髏を頂いた杖から怨霊のような人影が纏わりついた禍々しい魔弾が発射される。大空ライトは一切怯むことなく叫んだ。
「――合体だ! 着装! 天凱装ディライダー!」
《合体の時だあああああああああああああああああああああああ!》
大空ライトと天凱装ディライダーの輪郭が重なり合う。2人は、蒼と白の光に包まれ、そして――。
「うっひょぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおお! イェス! イェス! イェス! お前の入れ心地は最高だぜぃ! ヒョオッ!」
「……どうも」
蒼白の装甲鎧に身を包んだ人物がベッドに腰掛けている。
666号室。
玄咲だ。
「はぁ、はぁ、合体、しちまったな……!」
「……そうだな」
「お前の熱、ビンビンに伝わってくる。たまんねぇ快感だぜ……!」
「……」
こうなったのには訳がある。
CMA作中で大空ライトが着装する精霊だ。
世にも珍しいパワードスーツ型の精霊。精霊自身が戦うのではなく、精霊を装着した魔符士が戦う。その外見は何かのヒーローのコスチュームのようでもあり、子供心を刺激するメカニカル強めなデザイン。蒼と白の装甲が太陽に眩しい。目元は黒い縁取りに緑色のモノアイ的な鋭角な光が左右に灯っている。格好いいデザインだと作中で大空ライト君が絶賛しただけあり、童心に響きそうなデザインとなっている。飾りなき太陽の蒼の勇姿ディライダー! が大空ライト君と
ストーリー中盤におもちゃ屋のガチャで手に入る精霊で、
「改めて考えてもガチャっておかしくない?」
「おかしくない。本当の勇気を持った子に会えそうだからという直観に従ってディライダー自ら混入したんだ」
「……そ」
ストーリー中盤の目玉となる大空ライト君の強化フォーム的な精霊なだけあり性能はかなり優遇されている。EP消費1で使え、発動したバトル中ずっと大空ライト君の全ステータスを3倍にする。しかも変身を解除することになるが一度限りの必殺技も発動可能。同ランクの他の精霊とは明らかに一線を画する、中盤の大空ライト君の切り札となる頼もしい精霊だ。ランクは6。しかしその実際の性能はランク7の精霊と比較しても劣るものではない。何より大空ライト君のウィークポイントである貧弱なステータスを補えるという点が相性が良過ぎた。ディライダーはまさに大空ライト君のためにある精霊だった。
「なんでストーリーで手に入る精霊を周回特典に選んだの?」
「そういう気分だったんだよ。周回特典の精霊はランクによる使用制限がないんだ。序盤からディライダーを使うチートして遊びたかったんだよ。何万週もしてればそういう気分になることもあるさ……」
「そ」
「こんなことになるんならメリーみたいな美少女精霊で固めておけば――あ、いや。なんでもない」
「突っ込まないわ」
性格は熱さと勇気と装着欲に溢れた一般的なヒーロー像をどこか拗らせたような性格。とにかく装着されることに強い拘りがあり、そのセリフはいつもどこかおかしい。大空ライト君が純粋なため目立たないが、大空ライトくん以外が装着者だったらどうなっていたんだろうと思わずにはいられない性格だ。ただし正義感で、決して悪い奴じゃない。
「まとめると中間強化形態のパワードスーツだ。それも装着者とコミニュケーションを取れる系のAI的な存在。ロボットアニメにたまにある設定だな」
「パワードスーツだからあれよね。なんだっけ? ラムドライダー。戦争が始まる前朝8時30分に放送されてたあの仮面つけた特撮ヒーローの系譜よね」
「……バエル。色々ごっちゃになってるぞ。大本を辿ればその系譜に行きつくんだろうがおそらくディライダーの元ネタはアニメラムドライバー。ライダーでなくドライバー。特撮ではなくアニメだ。放映時間帯は6時半。子供向けなのに妙に癖が強いと評判の一部視聴者にカルト的な人気を誇ってた俺の幼少期に放送されていたアニメでな、いかにも癖強なCMAのスタッフが好みそうなアニメだよ」
「ああ。そう言えばそんな話を聞いた覚えがあるわ。シーマちゃんも見たことがないからそもそも情報があまりないのよ」
「そうか。CMA発売前の作品だから時系列的にシーマもよく知らないのか……。結構好きな作品だったんだが。家族で見てるとたまに気まずくなったけど」
「シーマちゃんが憤っているわ。私以外の作品に夢中になるのは許せないって」
「! も、もちろんCMAが一番だ! 比べ物にならない! CMAが100だとしたらライダーもドライバーも0,0000001くらいの興味しかない! ゴミだよ! 本当だ!」
「数字の比率がおかしいという話はあえてしないでおくわね。でも、シーマちゃんは満足してるわ」
「そ、そうか……! でだ、ディライダーはそういうカードだったんだ。ゲームでは」
「うん。知ってる。語りたそうだったから止めなかったけど」
「そうか」
666号室。
いつものようにベッドの上で隣り合い。
玄咲はバエルと手に持った1枚のカードを2人で見ながら会話している。
ランク6。光属性。
【
玄咲の周回特典にして転生特典らしきカードの1枚だ。クリアブルーの人影が蒼と白の装甲を纏ったイラストが描かれている。
「さて、そろそろ本当にディライダーを呼び出そうか。いくぞ!」
玄咲は何となくカードを天高く掲げて詠唱した。
「簡易召喚!
刹那、カードが蒼く光る。頭上に、魔法陣が現れて――。
ヒューン。
ボト。
中空に表れたその魔法陣から白と青の箱が地に落ちる。かと思えば
ガチャガチャ!
バン!
ジャキーン!
「お呼びとあらば即参上! 俺がディライダーだ! うぉおおおおおおおおおおおおおお! ビンビンぜぇえええええええええええええええ!」
ビシッ!
箱から鎧へと一瞬で変形したディライダーが両手をビシっと一方向に向ける決めポーズを取りながら咆哮した。こういうところはライダーっぽいなというのが玄咲の久々に対面したディライダーに対する感想だった。
「早速だがディライダー。君の力を――」
「おっと。みなまで言うな。ちょっと待ちな」
手を突きのばして玄咲の発言を制したディライダーが玄咲の顔を覗き込む。
「うーむ――合格だッ!!!!!」
ビシッ!!!!!!!!!!!!
親指を立ててグッド笑う。
「レベル65になったみてぇだな。俺の装甲は低レベルの魂に着せるにはちょい負荷が大きいからよ。待ってたんだぜ。俺よ、最初からお前のこと認めてたんだぜ。……ずっとお前のこと、考えてたんだぜ?」
「そうか。ありがとう」
「お前と合体することばっか考えてたんだぜ?」
「そ、そうか。ありがとう」
「ハァ、ハァ。早く俺と合体してくれよ。こんだけ待ったんだぜ。もう我慢の限界って奴だよ……!」
「……そ、そうか」
「合体、しようぜ? したいだろ? お前も」
「……」
玄咲は段々気分が悪くなってきた。なんでディライダーは美少女じゃないんだろう。美少女だったらご褒美なのに。そんなことを現実逃避気味に考えながらも、以前交わした約束の通りにディライダーの要望に肯定の意を返す。精霊は約束を重んじる。純粋だからだ。首は横に触れない。
「約束、だからな。仕方あるまい」
「ヒャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアッホォ! 合意いただきましたァ! さぁ早く俺と一つになろうぜぇええええええええええええええええええええ! お前の溜めてたもの解き放てよ! 俺と一つになりたいって思いをよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
「バエル。ちょっと」
「え? 何、玄咲――」
玄咲は至近距離でバエルの顔を見た。美しかった。可愛かった。幼さくも妖艶な神域の美貌。バエルの顔が赤らむ。それで己の非常識を自覚した玄咲は、しかしばっちり萎えた精神にエネルギーを充填し、ディライダーと合体する勇気を心に用意できた。バエルに、笑む。
「ありがとう。バエル。君のお陰でディライダーと合体する勇気が振り絞れそうだ」
「う、うん。どういたしまして。……玄咲、少し変わったわね。意外な行動と発言よ」
「もうバエルとも付き合い長いからな。なんかさらっと言えたしできた」
「!? バエル!? 悪魔神バエル!? あの創世神の姉妹の!? な、なぜここに。そんなことはどうでもいいッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!! 天之玄咲ッ!!!!!!!!!!!!!!!! 俺と一つになれ!!!!!!!!!!!!!!!!!!! 合体だ
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「――ああ。ディライダー。合体しよう。まずは、送喚」
簡易召喚状態のディライダーを一旦送喚する。そして――。
「召喚――天凱装ディライダー」
今度は箱ではなく先ほどと同じ鎧姿のディライダーが召喚される。ディライダーはにやりと笑ってそうな声で言った。
「叫べ。着装と。俺とお前の初合体だ。キめてくれよ?」
「ああ。ディライダー。イくぞ――!」
玄咲はディライダーのカードを天高く掲げ、叫んだ。
「着装! 天凱装ディライダー」
ディライダーが白く光り、玄咲にフィットする形で再装甲化する――!
そして玄咲はベッドに腰掛けただ俯いていた。
「ハァ、ハァ、合体、しちまったな……!」
「……そうだな」
「伝わってんだろ。俺の熱。俺もビンビンだよ……」
「……なんていうかな。腹の底の、丹田らへんに、粘つくような熱い熱がまとわりついてる。キモ――肝の辺りだ。うん」
「魂の在処だな。俺の魂とお前の魂が一時的に合体しているんだ。熱くなるのも仕方ねぇよ。最高の気分だろ。俺もお前の熱が伝わってよ。肝の辺りが弾けそうだぜ。同じ気持ちだぜ」
「そうか」
「いい気持ち――いや。”気持ちいい”ぜ――!?」
(なんで言い直したんだろう)
玄咲はベッドに腰掛け俯いている。隣には相変わらずバエル。何とも言えない目を玄咲、というかディライダーに向けている。シンプルに気持ち悪いだけなのでシャルナのように警戒する必要はない。戦力にもなるし。でもシンプルに気持ち悪い。そんな表情。
ディライダーが言葉を発する。
「天之玄咲。合体の次は何をするか分かるな?」
「分からん」
「動いてくれ」
「そうか」
「ほら、ちょっと俺の言う通り動いてみ? こう、こう、こうやって――」
「――OK。分かった。やってみるよ」
ディライダーからまともな指示を得た玄咲は水を得たとばかりに立ち上がる。そしてディライダーの指示通り演武をした。
シュバッ。ビシッ。ギュルン。パァンッ!
拳を突き出し、勢いを殺さずハイキックに移行し、そのまま回転し後ろ回し蹴りで音速の壁を破る。それを一瞬でやった。ディライダーが感嘆の声を上げる。
「お、おおィ……やはり、見込んだ通りだ! 天之玄咲! お前なら俺のフルポテンシャルを引き出せる!」
「……凄く動きやすい。それに力が満ちている。これなら俺のフルポテンシャルを引き出せそう……だ……」
全く同時に同じ感想を抱く2人。ディライダーが含み笑いを漏らした。
「ふ、ふふ。ベストマッチって奴か。俺たち、魂の相性がいいのかもな」
「え? いや。そんなことはないと思うぞ。全く」
「照れんなよ。次は俺の剣を握りな」
「こうか」
玄咲は鎧の腰にぶらさがった剣を抜いた。剣は白い剣身をクリアブルーで覆った幅広の長大な剣だった。
(ゼアニアム・ブレードか……青くて白くてメカニカルで格好いい……)
「振ってみな」
「あ。ああ。剣ってあんま使ったことないんだよな。取り合えずリュートの握り方でも真似して――」
ピタリ。
剣を振ろうとした玄咲の体が止まる。
「どうした」
「これ。振りぬいたら衝撃波とかでないよな?」
「出るぜ。強く振ったらよ。ちゃんと魔力の流れを意識してコントロールすれば出ねぇけどな」
「……」
刹那、玄咲の脳裏に以前リュートに回し蹴りを放ったら勝手に魔力が右足に収束したときの出来事が蘇った。玄咲は魔力の流れのコントロールの意識がまだまだ甘い。玄咲はゆっくり剣を下ろした。ディライダーに告げる。
「上手くコントロールできないかもしれないから今度ダンジョンででも振ってみるよ」
「え……? お預けってことか……?」
「ああ。そうなるな。今は我慢してくれ」
「……分かった! 我慢した分、しっかり発散させてくれよな!」
「ああ。送喚していいか」
「いいぜ。でも、もっと俺と合体したまま話を」
「送喚」
装甲が一瞬にして消える。玄咲は虚空から床に着地した。足底の体積の分、宙に浮かんでいたからだ。
玄咲はベッドに深々と腰を下ろし、息を吐いた。
「なんか精神的に疲れた……俺、ああいう暑苦しいノリ苦手なんだよな……。それに、合体って言葉がどうしても、色々意識してしまう。他意はないのは分かっているんだが……」
「……そうね。他意はないんでしょうけどね」
「でも。力を貸してくれるようでよかった。合体して思ったが性格はともかく能力相性はとてもいい。きっと大きな力になるだろう」
天凱装ディライダーは良くも悪くも素直で分かりやすい精霊だ。きっとその言葉に偽りはなく、いざとなれば玄咲の頼もしい力になってくれるだろう。ディライダーの協力の取り付けに成功した玄咲はようやく肩の荷を下ろせた気分だった。カードをカードケースに直して、ベッドに背中から倒れこんだ。
「疲れた。23時と夜も遅いし今日はもう休もう」
「そうね。じゃあ、いつも通り――私とお話の時間だね」
バエルはシーマがシームレスに入れ替わる。玄咲は穏やかな表情で頷いた。
「ああ。たっぷり話をしよう」
「ね、玄咲。ラムドライバーとかライダーについて教えて。私、ほとんど知らないの」
「ああ、いいよ。いくらでも話すさ。といってもうろ覚えの知識だからな。どこまで引っ張り出せるものか……」
「いいよ。思い出せる限りで。ふふ。私程印象濃くなかったんだ」
「ああ。CMAは最高のゲームだよ。世界一だ」
「だよね! CMAは世界一素晴らしいゲームなんだよ! ふふ。私が一番面白いんだから……!」
「ああ。間違いない。っと、話が逸れてるな。どの話からしようか。そうだな。ラムドライバーのヒロインが凄くミステリアスで神秘的で天使的で可愛いって話からしようかな……」
「うん……一杯話してぇ……」
玄咲は今日はラムドライバーと仮面ライダーの話を一杯した。話してるうちにどんどん記憶が蘇ってきて玄咲も懐かしい気持ちになった。懐かしさが溢れるあまり寝る前に涙が一粒零れた。その涙もまた暖かい涙だった。そうして会話している内に玄咲は穏やかな微睡みの熱の中に溶け落ちて行き――。
チュンチュン。
カラスでなくスズメ的な生き物の鳴き声。玄咲はカーテンを開けて窓を開け放つ。
「あ、おはよ玄咲!」
丁度隣の部屋でシャルナも同じく窓を開け外を覗いたところだった。玄咲は優しい日差しの中で穏やかな笑みを浮かべた。
「おはようシャル。今日も一日頑張ろう」