カード学園サヴァイヴ ~カードで全てが決まるゲーム世界の学園で狂人で軍人のゲーム廃人は天使のために最強になる~ 作:哀原正十
入学式でも使われた大講堂。
今日その場所にはラグナロク学園全校生徒が集っている。今日は全校生徒が大講堂に集い、次の試験――学年合同魔獣退治試験の説明を受けることになっていた。人種、容姿、性別、身長、色、学年ともに様々な人の群れを見てシャルナが呟く。
「わー……人が、一杯」
「ああ。圧倒されるな。改めて凄い生徒量だ」
「ラグナロク学園って、こんなに生徒がいるんだねー」
「退学させて選別すること前提の入学者数だからな。そりゃ分母は大きくなる。といっても、退学者数は初日のあの試験がピークでそれ以降は緩やかになるんだが」
「そうなの?」
「ああ。前回の退学試験はさ、新入生に退学を強烈に刷り込むためにあえて椅子取りゲーム式の一定数が必ず落ちるルールが採用されていたんだ。だからあれだけ退学者が出た訳で――」
「詳しいね、後輩くん」
「あ、先輩」
真央が声をかけてくる。隣には心亜もいる。大講堂集合後は自由行動だ。
「いつも思うけどさー、後輩くんラグナロク学園詳し過ぎじゃない?」
「事前リサーチの結果です」
シャルナは突っ込まない。。
「後輩くんは色んなものを事前リサーチしてるんだなー」
「当然の備えです」
「いい心がけですね。情報も大事な武器ですから。いくら調べても調べすぎってことはありません。後輩くんは見た目に反して勤勉ですね。ふふ、きっとクロウ先生みたいに悪い遊びに嵌らずにきちんと勉強して入学してきたんでしょうね」
「……恐縮です」
やや後ろめたさを覚えながらも玄咲は頷く。シャルナはそんな玄咲を見てくすりと笑った。
「にしても、みんな、真剣な顔してるね」
「そりゃそうだろう。何せ」
「この試験は1年を通して最も危険な試験だからね。いや、試験ですらないのかもしれない。試練といった方がしっくりくるか」
たくましい体に甘いマスクを乗せた今日は引き締まった顔つきの金髪の男が4人に近づいてくる。
ケビン・レイナードだった。
「……今年も来たね。この季節が」
「んにゃ。去年はちょーっと恥かいたから今年は挽回しないと」
「よく恥かいたで済みますね……私はひたすら必死で死ぬ思いでサヴァイヴでしたよ……」
「僕もまだ覚えている。1年時のあの小便を漏らした日々のことを。……僕が部長をしているのは後輩にあんな思いをさせたくないからかもしれない。なるべく、全ての1年生部員が最適なパートナーに恵まれるように手を尽くすよ
「うん、頑張れ。私はそういう所は好きだよ。素直に尊敬できる」
「そうか。……そうか。じゃあな」
ケビンはどこか明るい切ない笑みを浮かべて去っていった。真央もその背を軽く手を振って見送った。
シャルナが玄咲の袖を引く。
「ねぇねぇ、今度の試験って、やっぱヤバいの?」
「ああ。正直なところ全試験の中でもトップクラスに危険だろう。その一方で合格率は全試験最多なんだがり。何せ理論上は退学者数0人ということも――っと」
その時、講堂の証明がバン! と威圧的な音を立てて消えた。シャルナがビクッとした。玄咲はその様子に微笑ましさを覚えながら言った。
「これから学園長の説明が始まるみたいだ。一旦傾聴に集中しよう」
「うん。そだね」
2人はただ一つ残された照明具が照らす壇上に視線をやる。スポットライトを浴びるかのような壇上には一人の老婆。
マギサ・オロロージオだ。
「それではこれより学年合同魔獣退治退学試験の概要の説明を始める。よく傾聴するように」
マギサの説明が始まる。
「今世界は逢魔期に突入している。毎年必ず訪れる魔物が異常発生する時期だね」
マギサの第一声がそれだった。相変わらず抑えていてもよく通る声。マギサは今日は淡々と語っていく。
「逢魔期――かの有名な王魔戦線時代とかけてつけられた名前だ。発生時期に揺らぎはあるが、毎年5月から緩やかに始まり、5月31日をピークとしてそれからまた緩やかに収まっていく。逢魔期は世界を構成する魔力が乱れ魔物が異常発生する。先々週うちの生徒会長が討伐したヒュドラの発生も逢魔期ならではの現象だね。逢魔期は各国自国の魔物の対処に追われることとなる。ある意味世界が平和になる時期だ。魔物の対処に手一杯で他国といがみ合っている暇もなくなるからね――悪い、話が逸れたね。プレイアズ王国も当然逢魔期は国内の魔符士フル稼働で魔物の対処に追われることとなる。それは国内最強の魔符士勢力たる我がラグナロク学園も例外ではない――毎年、その年最も困難な持ち場を任されることとなる。もちろん戦うのは教師じゃない。教師以上の人材の集まりであるあんたたち生徒がだ」
「――なんか話、見えてきた」
「ああ、そういうことだ」
(プレイアズ王国が強力な魔符士不足で喘いでる時にラグナロク学園が仕方なく助力したら生徒の平均レベルと地力が大きく上がりその年の符闘会で好成績を収めた一件をきっかけに毎年恒例行事になったんだよな……学園長って割と目的のためなら手段を選ばないタイプだから。それも無自覚に)
「今回の試験はある意味試験であって試験ではない。ラグナロク学園に国から依頼された任務を試験という形であんたらに提供してるだけだ。さぁ、そろそろ――毎年恒例【学年合同魔物退治試験】の全容開示といこうか! 今年の会場はここだよ!」
マギサが壇上に勢いよく手を打ちつける。それと同時、マギサの背後の巨大な白いスクリーンに何らかのカード魔法によってデカデカと画像が映し出された。
第37回学年合同魔獣退治試験概要
・今年の会場はドロミテ大樹海
・試験は3日間。試験中は会場の近くの野営地の巨大宿舎に宿泊する。
・試験は毎日9:00から19:00の10時間行われる。多少の遅刻は認めるが試験時間外の外出は危険なため原則として禁止する。
・試験は1年生と上級生で1人ずつパートナーを組んで行う。人数合わせのため成績下位の上級生は成績下位の1年生を通常のパートナーに加えて1人までパートナーに加えることができる。
一部1年生と上級生は学園が指定した組み合わせで試験を行う。
・魔物を倒すとSSS〜Gの等級に応じたポイントをパートナー両方が獲得可能。試験後ラグナロクポイントとなる。
・合格条件は3日間の生存
・失格条件は本人、またはパートナーの未帰還
※試験中の死者は定刻に蘇生させ試験に復帰させる。ただし未帰還の場合は例外とする。
ざわ……。
「ドロミテ大樹海だって……!? A級魔物出現区域じゃないか……!」
「数ある魔物出現区域の中でも最悪の環境だ! 視界が悪く遭難・奇襲の危険性が高い。なぜ糞ば――学園長はそんな判断を……!?」
「私去年入学でよかった……!」
「へ、へへ。入学2ヶ月で人生終了。短い人生だったぜ……」
――ルールの全容、そして試験会場が発表された途端、生徒達が騒ぎ出す。他の項目までは前年と共通していた。だが、毎年変わる試験会場。そこにあってはならないとまでは言わないが、絶対あって欲しくない名前が並んでいたからだ。
ドロミテ大樹海。
S〜G級に区分される魔物出現区域の内、国内4箇所しかない上から2番目のA級の魔物出現区域だ。その中でももっとも厄介とされる区域だ。S級区域はそもそも立入禁止区域なのでA級は実質的な最高等級区域だ。出現する魔物の強さは同じくA級のグラバラス大岩山に劣るものの、とにかく環境が劣悪だ。大樹海は見通しが悪く探索に不向き。しかも植物に擬態した魔物や木や草に隠れた魔物の奇襲や、同じような景色が続き方向感覚が狂うことによる遭難の危険性が常にある。しかも出現する魔物も普通に強い。人が立ち入らないからと雷丈正人が貿易拠点としていただけあり、国内中の魔符士から嫌厭されている環境だった。
「無理ゲー――」
「サンダージョーなら――」
尚も騒ぐ生徒たちにマギサは一言。
「静まりな」
静まった。マギサは嘆息した
「――説明の途中だろうが。流石の私だって反感は予想していた。だからちゃんと理由を説明するよ。納得できるようにね。私だって流石にそこまで鬼じゃないさ」
「――」
珍しく優しさを見せ生徒たちを驚かせたマギサが説明を再開する。
「なぜドロミテ大樹海を選んだか。それは今年もっとも魔力場が乱れ魔物の大量発生が予測される区域だからだ。この困難を乗り越えればより強くなれることは間違いないだろう。以上だ。続けて野営地について」
「あ、あの」
「なんだい」
1人の眼鏡をかけた男子生徒が挙手して質問した。
「説明はそれだけですか? 僕たちには詳細を知る権利が――」
「ああ。だからちゃんと説明しただろう? 私は親切だね。他に質問はあるかい?」
「あ、ないです」
心無し誇らしげなマギサの表情に男子生徒の理解を求める心は打ち砕かれた。マギサが説明を続ける。
「次、野営地について」
シャルナが玄咲にちょっと耳打ち。
「ね、玄咲。学園長って、やっぱ基本、狂人かな?」
「……狂人だな」
「野営地はドロミテ大樹海の近くの――」
マギサが説明を続ける。