カード学園サヴァイヴ ~カードで全てが決まるゲーム世界の学園で狂人で軍人のゲーム廃人は天使のために最強になる~ 作:哀原正十
昼休み。
G組のHRが終わり訪れた自由時間。
ガラス窓が切り取る日差しの中、今日は教室でシャルナと弁当(ラーメンサラダ。シャルナは初めて自ら覚えた料理をヘビーリピートしている。ピリ辛のタレが自信作)を食べながら玄咲はシャルナと試験についての会話をしていた。
「次の試験さ――パートナー、どうする?」
話題の焦点は試験を一緒に受ける上級生のパートナーについてだ。パートナーは上級生にとっても下級生にとっても次の試験での最重要案件。それを自分で探さなければならない。必然、パートナー探しに結構な労力を割くことになる。弁当を食べ終えた玄咲は橋を弁当箱の上に置き、唸る。
「そうだなぁ……候補はいるんだよ。絶対に組みたいって候補が2人。もし自由に組めるならこの2人以外ありえないってくらい鉄板の2人だ。ただなぁ……」
渋い、あるいは自信なさげな顔をする玄咲にシャルナが箸を口に含んだまま小首を傾げて尋ねる。
「ただ、何?」
「2人とも雲の上の存在なんだ。一人は天之明麗生徒会長」
「ああ。鉄板だね。熱々の鉄板だよ」
シャルナは憮然と答える。玄咲は頷いた。
「ああ。激熱だ(パチンコ用語)。彼女と組めれば試験は何の不安もない。ただなぁ……ほら。天之明麗生徒会長は引く手数多じゃないか。自分で誰もを選ぶことができる立場じゃないか。俺なんか選ぶわけないじゃないか。それが道理じゃないか。もし頼みに言って断られたらショックじゃないか。ヒロインに自分の存在を否定されたくないじゃないか」
「全くその通りだね。うんうん。なら辞めた方がいいよ」
「いや。一度は頼みに行く。大事な試験だからな。ベストは尽くそう」
「……そだね。うん。ベストは尽くさないとね……」
シャルナも玄咲の考えに同意を示す。その表情は沈痛だ。試験に不安を感じているらしい。道理だ、と玄咲も思った。
シャルナが面を上げて、その明るいとは言い切れないが光をよく映す白い光彩に玄咲を映す。いつも綺麗な太陽の瞳だ。
玄咲を真っすぐ見て尋ねる。
「それで、もう一人は、誰なの?」
「ん? うーん……もう一人は、その、な。よく考えたら候補に挙げてもいいものか、というか俺如きが候補に挙げることそのものが失礼なんじゃないかとか、そもそも可能性が無きに等しいものは候補と呼ばないんじゃないかとか、絶無に等しい可能性に縋るのは爆死する人間の心理そのものじゃないかとか、孤高の華過ぎて言葉で触れることすら恐れ多いというか、尊すぎて胸が痛いというか、その心理が複雑すぎて俺如きには推し量れないというか、なんというか、俺にとって彼女はそんな存在なんだよ」
「誰が、玄咲にとって、どれだけ特別な、存在かって、聞いたの?」
コテン。
シャルナは首を横に傾けて聞いた。
目が据わっている。
居武士のように座っている。
玄咲の肝が冷えた。
「……シャル。すまない。俺は暴走していた」
「うんうん。そうだね。で、誰なの? 名前を教えて?」
「ん? それはもちろん、ルディ――」
玄咲の動きが止まる。
「――玄咲?」
止まっている。
視線が一点に縫い付けられている――いや。
玄咲のみならず、シャルナを覗いた教室中の視線が、教室の入口へと向けられていた。
ミス・ラグナロク。ラグナロク学園一の――いや。
プレイアズ王国一――いや、それでも足りないかもしれない。
――世界一。その頂きにすら届くかもしれない人知を超越した美貌の絶世の才女が氷のような無表情を晒して1年G組の教室の入り口に立って教室の中を無感動に――そう見える――教室の中を覗き込んでいた。
その人物こそルディラ・メルキュール――玄咲がたった今名を挙げようとしていたラグナロク学園最強の2角の一人だった。玄咲の思考が止ま――らない。むしろ加速する。本人の意思とは全く関係なく、どこまでも。CMA依存症患者の本領発揮だ。
(ルディラ・メルキュールゲーム中最強のキャラクターの一人その最たる特徴はその美貌じゃなくて魔力全キャラ中学園長に次ぐ第二位の魔力の持ち主その圧倒的な攻撃力で全てを鎧袖一触薙ぎ払う最強の矛だがやはり俺にとって最たる特徴はその可憐過ぎるキャラデザイン現実化して尚美しい可愛い美しい可愛い美しい美しい美し可愛いハァハァあぁ美しい――可愛いなぁやっぱりルディラ先輩と言えばそのランダム女王っぷりだよなハァハァ全てのイベントがランダムハァハァ攻略に必要なのはひたすら運ハァハァ攻略することすら奇跡だしハァハァ何よりレベル100に至らせるハァハァハァ縛りプレイの一つに数えられハァハァるくらいにハァハァハァハァ、ハァ――――ついたあだ名がランダムクイーン。ちょっと落ち着いた。俺でさえ5回しか攻略したことがない。全てが運任せで決して容易くプレイヤーにはなびかないまさしく設定どおりの孤高の華を地で行くキャラクターだったその憧れの本物のルディラ先輩がお、おおお俺の目の前に――)
「――いましたね。失礼――」
ルディラが入室する。それだけでその場は孤高の王城となる。足場はレッドカーペットとなる。絶世のプリンセスが教室内を闊歩する。進路上の全ての障害物が全力で脇道にヘッドスライディングを決めて己から取り除かれた。そうしてできた道をルディラは途中目にかかる長めの前髪をかき上げる一動作を優雅に挟みながら堂々と真っすぐと歩む。
玄咲の元へと、まっすぐに。
「え?」
「む?」
「あなたが天之玄咲ですね」「はい」
「玄咲?」
眼前に立つルディラに玄咲は0コンマレスポンスで応じた。ルディラは一度頷いて、その白磁のようなこの世のどんな物質よりもしなやかで流麗なラインを描く手を玄咲へと伸ばして――。
「ほら、行きますよ」
ガシ。
ガシ。
ガシ。
ガシィ……!
リフレインする刹那の脳内麻薬の感触。ルディラの手は玄咲にとってはケミカルの100倍刺激的だった。脳を蕩けさせながら玄咲はルディラに手を引かれるままに立ち上がり、立ち消えかけた、しかし僅かに一抹残った理性で考えるというプロセスを殆ど挟む間もなく魂の反射で回答した。
涼しげな顔で玄咲の手を引いて歩くルディラに玄咲は完全にパニックに陥りながら尋ねる。
どこに?
「ど、どこに!?」
「決まってるでしょう。職員室です」
なぜ?
「な、なぜ?」
「パートナーの申請にいくんですよ。ほら、早く行きますよ」
喜んで。
「は、はひ……!?」
……。
「――は!? ま、待った!?」
玄咲の心の声を本能で聞き取ったシャルナが慌てて2人の後を追う。シャルナにしては珍しい初動の遅さ。無理もなかった。シャルナは完全にフリーズしていた。凍り付かされていた。
シャルナ初動を凍り付かせるほどに、ルディラの美貌は人知を超えて魔の領域に踏み入っていた。人のものとは思えぬ美貌の天使だった。
(あ、あああぁぁあぁぁルディラ先輩可愛い美しい可愛い美しい可愛い可愛い美しい可愛い! あ、あの憧れのルディラ先輩と手を繋いでいる。しかも、向こうから手を繋いでくれた。お、俺の手を。ルディラ先輩自ら! 手、手まで、小さくて、美しくて、何より可愛くて、あ、あぁ、天使ぃ……でも、なんでルディラ先輩は突然俺の元に降り立――やってきたんだ? 分からない。分から――)
それはいつもの玄咲なら交わせる不意打ちだった。
完全に思考とルディラの手の冷たくすべすべの感触に気を取られていた。
だから、ルディラに手を引かれて教室を出た直後の、ルディラが避けた人物に、ルディラの動きにすら気づかずに直撃してしまった。
真正面からダイブしてしまった。
本物の天使に。
天之明麗に。
ふにょん。
顔から。
「あら? 天之くん。奇遇ですね」
「―――――――――」
(!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!)
――玄咲は呼吸をしていなかった。だって、できる訳がなかった。玄咲の呼吸器は完全に塞がれているのだから。
天之明麗の胸によって。完全に鼻まで埋もれている。
「――――」
天之明麗の胸は考え得る限り完璧だった。大きさ、サイズ、形、暖かさ、柔らかさ、弾力、匂い――ありとあらゆる要素が少なくとも玄咲にとっては完璧中の完璧なバランスだった。だから完全に思考が溶けていた。おっぱいの柔らかさの中で、思考まで溶けて、しかも何故か明麗に緩く抱きしめられていて完全に玄咲は昇天しかかっていた。明麗が玄咲を抱きしめたままその背中を持ち上げる動きによって玄咲の顔を強制的に胸から浮かせ(当然胸に頬を激しくずり合わせることになった)真正面から目と目を合わせて凛とした輝くような笑顔で言った。
「私とパートナーを組んでください。天之君と組もうと思ってこの教室を訪れたんです。私、天之くんがいいんです」
「ふぁ、ふぁ――」
ガシ。
「――」
玄咲の言葉が止まる。
とても慣れ親しんだ、そして。
世界で一番愛する、もっとも愛しい者の感触によって。
シャルナの背後からの腰への抱擁によって。
「――玄咲は、私のもの、なんだもん」
ギュッと体を思い切り擦りつけながらの言葉。ただ愛しいものに抱き着きたいという純粋さだけがそこにはあった。思い切り全く遠慮なく、そして必死に抱きしめながらシャルナは叫んだ。
「絶対、誰にも、渡さないんだもん!!!!!!!!!!!!」
ズガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!
……と、廊下の端から端まで響き渡るような、それはそれは大きな声だった。シャルナが我に返って、慌ててわたわたと弁明する。
「あ、あの、その、今のは、試験で一緒に組むのは私だって意味で……」
「……シャル」
「な、なにかな」
「パートナーは上級生しか選べないから誰にしようかって話をさっき2人でしていたと思うんだが……」
「……」
「……」
ボフッ。
「――きゅ、きゅー」
ガクッ。
シャルナは玄咲に抱き着いたまま目を回して顔を真っ赤にして気絶した。玄咲にもたれかかっている。依然、強く抱きしめたまま。しかも前からは相変わらず明麗から抱きしめられている。シャルナと同じく玄咲もまた完全にゆでだこになっていた。恥と羞恥と興奮が完全にオーバーフローを起こしてどうにかなっていた。気絶してこそいないものの目を回して幸福感の中で完全に思考が停止していた。いつの間にか手を放して少し離れ所に立っていたルディラがクールな無表情で告げた。
「モテモテ、ですね」
ルディラがクールに、だがどこか呆れ果てているかのような無表情で言い放った。