カード学園サヴァイヴ ~カードで全てが決まるゲーム世界の学園で狂人で軍人のゲーム廃人は天使のために最強になる~   作:哀原正十

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第6話 シャルナと明麗

「ええっ!? 天之くんは私と組んでくれないんですかっ!?」

 

「は、はい。すいません……」

 

 場所は変わって人気のない空き教室。あまりにも二人が目立つので移動したのだ。口に手を当てて大仰に驚く明麗に玄咲は申し訳なさで心臓の中を埋め尽くしながら平謝りする。

 

「その、気持ちはとても嬉しいです。本当に嬉しいです。死ぬほど嬉しいです。この世で一番の幸福の一つを受けたとさえ思っています。でも、先にルディラ先輩に先に声をかけられたんです。だからルディラ先輩と組むのが筋かなと思いまして……」

 

「むー、確かにそうですね。そう言われれば仕方ありません。引き下がりましょう」

 

 明麗は一度頷いて引き下がった。その動作に付随して白い髪が揺れて、その天使の羽のような軽やかさに玄咲は密かに見惚れた。明麗はおもむろにルディラの方を向き、

 

「しかし、ルディラちゃんが天之くんを。……ふーん、なるほど。そういう訳ですかー」

 

「……」

 

 ルディラを悪戯気な表情で見る明麗。ルディラは無表情ながらどこか気まずげな様子で目を逸らす。当たり前と言えば当たり前だが、2人は過去に何らかの関りがある様子だった。その理由を知っている玄咲は2人のやり取りをドキドキしながら見ていた。単にときめいているだけだ。

 

「事情は大体分かりました。まぁルディラちゃんには天之くんが最適かもしれませんね」

 

「え?」

 

「天之くん」

 

 明麗は玄咲の方を向く。

 

 そして、ニコリと笑った。

 

「ルディラちゃんを守ってあげてくださいね。私との約束ですよ」

 

「はい。必ず」

 

「うん。いい返事です。ふふ、そこで即答できるのはこの学園広しと言えど天之くんくらいかもしれませんね」

 

(……会長)

 

 気のせいかと思ったらそうではない。明麗は最初から玄咲にどこか好意的だった。きっと明麗が優しいからだろうと玄咲は自分に言い訳していたがそれだけではなさそうだ。そもそも明麗は優しいだけの人間ではない。理由は欠片も分からないが。

 

 明麗は玄咲を好意的に見てくれている。その好意の程がどれ程かは分からないが少なくとも好印象を抱いているのは間違いないだろう。

 

(う、嬉しい。会長。やっぱいつ見ても可愛いなぁ。天使だ……)

 

「……」

 

 明麗が唇に指を当てて悩む仕草をする。

 

「しかし、天之くんが駄目となると、どうしますかねぇ……まぁ、ここはやはり予定通り」

 

「その、会長」

 

「? なんですか。天之くん」

 

 図々しいと思いながらも玄咲は明麗に腰を曲げて頭を下げてお願いした。

 

「シャルナと組んでください。お願いします」

 

「――シャルナちゃんとですか」

 

「はい。シャルとです」

 

「いいですよ」

 

「! 本当ですか!」

 

 拍子抜けするほど呆気ない明麗の言葉に玄咲は今日一日の仕事が終わったと錯覚するほどの安堵を得た。

 

 玄咲は最初から明麗に自分ではなくシャルナと組んでくれるように頼むつもりだった。明麗の胸に埋もれながら組んでくれと言われた時は肯定しかけたがそれはそれだ。明麗は単純に強い。優しい。パートナーとしてこれ以上頼りになる上級生はいない。アマルティアンという特殊な事情だって絶対に全く気にしない。それに何よりシャルナと会長は戦闘スタイルが似ている。きっと、一緒に戦う中で得るものがあるはずだと、会長と組むのがシャルナにとって最善だと感じていた。

 

「ね、ねぇ。玄咲。なんで、私この、天使の人と、組むの?」

 

「実力、性格、思想、全てにおいて生徒会長以外の相手はいない。シャルの特殊な事情だって会長なら全く気にしない。当然の人選だ。シャルもさっき納得していたじゃないか」

 

「う、で、でも、天使……」

 

(!!!)

 

 天使。そのキーワードで玄咲は全てを悟った。考えてみれば瞭然の答えだった。

 

(――そうか。シャルは天使コンプレックスだったな。少し俺の思慮が浅かったか。もう振り切ったのかと思ってた。まだ、引きずってたんだな。……でも、会長以上の人選なんて絶対に存在しない。俺はシャルに絶対会長と組んで欲しい。最初からそのつもりだった。だからここは、俺が説得するしかない)

 

「シャル」

 

「な、なに……」

 

 やや狼狽えて視線を外すシャルナを玄咲は真っすぐ見る。

 

「シャル。俺は絶対シャルに会長と組んで欲しい。実力、性格、思想、その全てにおいて会長以上の人選なんて存在しない。アマルティアンというシャルの特殊な立場を考慮すれば猶更だ。絶対会長はそんなこと気にしない。だから絶対会長がいい」

 

「そうです。私は全く気にしません!」

 

「う。そ、それは……」

 

 シャルナも内心会長と組むのが最善だと思っているのだろう。その態度には終始気おくれがある。あと一押し。玄咲はさらにシャルナを説得する。

 

「それに何より会長の戦闘スタイルとシャルの戦闘スタイルは似ている。会長と一緒に戦う経験は必ず大きな飛躍に繋がる。絶対に、今よりずっと強くなれる」

 

「――強く」

 

「ああ。強くだ。守られるだけじゃない。この試験を成長につなげる。そのために一番最適なパートナーが会長なんだ。俺はそう思っている」

 

「……うん!」

 

 シャルナの瞳に力が宿る。明麗がパン、と手を叩いた。

 

「収まる所に収まりましたね! 私、実は天之くんに断られたらシャルナちゃんに頼もうと思っていたんです。ふふ、天之くんに断られたのは天の采配だったのかもしれませんね。天之だけに!」

 

 沈黙。

 

「……ゴホン。ま、そういう訳でよろしくお願いします。シャルナちゃん」

 

「はい――ん?」

 

「どうしました?」

 

 

「なんで、私と組もうと、思ってたんですか?」

 

 

 シャルナは明麗に素朴な疑問をぶつけた。明麗は唇に指を当てて理由を並べる。

 

「んー……理由はいろいろありますね。シャルナちゃんが可愛いからとか、シャルナちゃんの立場を心配してとか、個人的に好感を持っているからとか、将を射るにはまず馬からとか、理由は色々ありますが、やはり一番の理由は――」

 

 明麗はシャルナと視線を合わせる。そして言った。

 

「シャルナちゃんの魔符士の才能を私が見込んでいるからです」

 

「私、の?」

 

「はい。シャルナちゃん。あなたには」

 

 明麗はシャルナと視線を合わせる。真っすぐ、正面から、

 

 

「私にも届き得る才能がある」

 

 

 そう告げた。

 

「――」

 

 玄咲は戦慄の眼差しで呆けたように自分を指さすシャルナを見た。そこまでか、と思った。ルディラも、目を瞬かせてシャルナを見ていた。

 

 シャルナはゲーム情報が殆どない。だが、断片的な情報からでも作中でもイレギュラー的な強者であることは伺えた。2回行動。クリティカル連打(CMAはクリティカルの威力が会心の一撃並みに大きい)。それに何より固有スキル絶対先制持ち。ゲーム中でこのスキルを持つのは明麗とシャルナだけ。その特別性を思えば、会長に匹敵し得るという言葉は俄然真実味を帯びてくる。1年生に、2年のルディラや、3年の明麗に匹敵するほどの魔符士がいないのは、あるいはプレイヤーキャラとしてのシャルナが没になった影響なのかもしれなかった。天使と堕天使。白い翼と黒い翼。安定した高火力とクリティカル特化。対比としては綺麗すぎる。それに両者とも2回行動と絶対先制を持っている。何かしらのドラマがそこにはあってしかるべきだったと考える方が自然だ。

 

 それに、ストーリー最終盤でも、エルロード聖国の人間を無差別に殺す殺人鬼がおり、討伐に当たったエルロード聖国の精鋭中の精鋭たる聖浄使徒(アポストロス)が一人殺されたため、今度使徒が複数人で討伐に当たるという会話があった。その中には世界最強クラスの魔符士の一人の第一使徒も含まれていた。エルロード聖国屈指の危険なS級魔物出演区域【アムネス郊外】を根城にして平然と生きる力があった。それを参考にすれば、少なくともS級魔物を容易く屠れる力があり、またエルロード聖国の精鋭中の精鋭たる使徒が複数人で対処する程の実力が、あの第一使徒を動かす程の実力がゲームでもあったはず。

 

 ゴミみたいな性能のエルロード・ダガーと、拾ったカードで。

 

 上がり切っていないレベルで。

 

 それにシャルナはまだ闇と相反する光属性をその身に宿していない。

 

 堕天使のもう一つの種族特性たる天昇化《アセンション》を果たしていない。

 

 もし、それを成し遂げた時、シャルナは一体どれほど化けるのか。ゲームと比べ物にならない程強力なADとカードを所持した状態で戦ったらどれほどの化け物になるのか。

 

 玄咲を踏み台にして、どこまで羽ばたいていくのか。

 

 その時、自分は隣にいられるのか――。

 

(――いや)

 

 玄咲は思いを改めた。

 

(いるんだ。未来永劫な。それだけだ。それはそれとして、シャルナは――戸惑って、いるな) 

 

「わ、私に、ですか?」

 

 シャルナが尋ねる。その瞳は泳いでいる。

 

「はい、シャルナちゃんにです」

 

 明麗が頷く。

 

「……もっと強く、なれますか」

 

 シャルナが尋ねる。その瞳は泳いでいない。

 

「はい。シャルナちゃんは有翼魔法の使い方がまだセンス任せで雑なので底を重点的に教えましょう。はっきり言って私以上に有翼魔法を使った戦闘に長けた魔符士はこの世に存在しません。シャルナちゃんに翼魔法を使った戦闘術を教えるべきはこの私を除いて他にいないでしょう。シャルナちゃんと私の戦闘スタイルは似ていますしね。有翼魔法を使った高機動戦法――鳥人などは高所からの長距離狙撃という身も蓋もない戦法を取りますが、私たちは違います。なればこそ、私が教えるべきなのです」

 

「……玄咲」

 

 シャルナは玄咲の袖を引いた。

 

「まだ私から、頼んでないよね」

 

「ん? ――ああ、そうだな」

 

「私からも、頼むべきだよね?」

 

 シャルナのどこまでも真っすぐな瞳に玄咲は微笑んで頷いた。

 

「ああ。それが礼儀ってものだろう。シャルがそう思うなら、そうすればいいさ」

 

「――うん! か、会長」

 

「? は、はい」

 

 シャルナの瞳に力が宿る。シャルナは会長を振り向く。

 

 そしてシャルナは。

 

「改めて、私からも、お願いします。私と、組んでください。私、会長がいいです。ううん、きっと、会長じゃなきゃ、駄目なんです。会長と一緒になりたいです。会長に、色々な事、教えてもらいたいです。一杯、頑張ります。無茶ぶりにも、素直に従います。いつか会長を、追い抜きます。だから、だから私を――」

 

 どこまでも真剣な強さに対する憧れを宿した瞳で、その視線で、言葉で。

 

 

「私を、強くしてください」

 

 

 明麗を射抜いた。

 

 

 ズキュゥウウウウウウウウン。

 

 と。

 

 音が聞こえそうなほどの一撃だった。完全にクリティカルだった。覚悟。明麗の大好物。それに満ちたシャルナの視線と言葉に明麗は完全に喰らったらしい。玄咲も、ルディラも、「あ、これヤバイな」と思うくらい露骨に、明麗の心身が震え、瞳孔がハート型に歪み、そして――。

 

「……分かり、ました。……シャルナちゃん」

 

「! ありがとう、ござ――」

 

「シャルナちゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーんっ!」

 

 抱きっ!

 

 捕獲の勢いで明麗はシャルナを抱きしめた。シャルナがもがく。

 

「むぐっ!? むー! むー!」

 

 明麗の胸の中でシャルナが溺れる。柔らかくて弾力に満ちた完璧なバランスの胸がもがくシャルナの動きに連動して縦横無尽に形を変える。玄咲がちょっとだけ羨ましいと思ったのは誰にも内緒だ。明麗が声を弾ませる。

 

「う~! いい子です! いい子ですっ! そして、可愛いです~~~っ!!!」

 

「むー! むー!」

 

「それにやっぱり、素晴らしい心がけですっ! 強くなる、その思いの真摯さに私は心打たれました! そうなのですっ! 強くなる。その精神が強くなるためには一番大切なのですっ! 私の見込んだ通り、やっぱりシャルナちゃんはこの学年の誰よりも覚悟が決まっていますっ!!! ガンギマリですッ!!!!」

 

「むー! むー!」

 

「安心してくださいっ! 私が絶対シャルナちゃんを強くしてあげますっ!!! 私の全てを出し尽くしてっ!!! 責任を持ってっ! 責任を持ってっ!!!!」

 

「むー! むー!」

 

(むーむーシャルナ……。いや、もっといいネーミングが……)

 

「そうと決まれば善は急げ。気が変わらないうちにパートナー申請を済ませてしまいましょうか。さ、行きましょうかシャルナちゃん!」

 

「むー! むー! じゃなかった、間違えた、行ってくる玄咲―!」

 

「あ、うん」

 

 明麗に連行されてシャルナは職員室に連れていかれた。世界最速の魔符士なだけあって早かった。

 

「……」

 

「私たちも行きましょうか」

 

「あ、はい」

 

 玄咲はルディラと空き教室を出る。

 

 道中、

 

「焦る必要なんてないのに、慌ただしい人ですね会長は。全く――」

 

 ルディラは水銀色の髪を払いながらクールに呟く。

 

「相変わらずです」

 

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