カード学園サヴァイヴ ~カードで全てが決まるゲーム世界の学園で狂人で軍人のゲーム廃人は天使のために最強になる~   作:哀原正十

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第7話 地を這う玄とクロ。天を之き黒く咲く

「天之玄咲、でしたか」

 

 廊下を2人きりで歩いていると、ルディラが突然言ってきた。

 

「はい」

 

「試験日までの過ごし方を今の内に打ち合わせておきましょう」

 

「あ、そうですね。合理的だと思います」

 

 義務的な話は感情を抜きにして話せる。緊張で一言も話せずにいた玄咲は話題が出来て安堵した。

 

「試験を一緒に受ける。あなたと私はそれだけの関係です。試験日までは別々に過ごしましょう」

 

「えっ。コンビネーションを高めるとか」

 

「必要ありません。私は強いので。これは決定事項ですので異論は認めません。いいですね? 天之玄咲」

 

「あ、はい」

 

 会話は一瞬で終わってしまった。会話というか必要事項を一方的に伝達されただけだった。

 

 再度沈黙。気まずい。玄咲は得意のカードの話でもして間を埋めようと口を開きかける。

 

「それにしても、天之玄咲って呼びづらい名前ですね」

 

 丁度そのタイミングでルディラが口を開く。玄咲は400文字原稿用紙5枚分くらいの脳内原稿を捨て去って即座に応じた。

 

「そうでしょうか」

 

「そうです。それに試験中に一々天之玄咲と呼ぶのは非効率です。詠唱も妨げられますし」

 

「まぁ、そうですね」

 

「なので別の呼び方であなたを呼びたいと思います」

 

「はい」

 

 玄咲は淡々と応じる。努めて感情を殺している。気分は戦時中。そうやって、ルディラの美貌から意識を逸らしている。

 

 そしてルディラは次々と候補を上げ始めた。

 

「天之くん。……なんだか会長と同じ呼び方は嫌ですね」

 

「俺は構いません」

 

「天之さん。……なんで私が敬称を使わなきゃいけないのでしょうか」

 

「さぁ……」

 

「天之。……なんかしっくりきませんね。スラっと言えません」

 

「まぁ、そうですね」

 

「玄咲」

 

「! そ、それは、中々」

 

「角張って呼びづらい。没です。それに呼び捨てはありえません」

 

「……いいと、思います」

 

「んー……玄咲くんや玄咲さんなどふざけた呼び方をするわけにもいきませんし、中々いい呼び方が思いつきませんね。天之玄咲。あなたの名前はどこを切り取っても口の中に一山こしらえる感じで呼びづらいですね」

 

「……まぁ、そうですね。自分でもたまに感じることがあります」

 

「そうでしょう。となると……あだ名を作る必要がありますね」

 

「あだ名、ですか」

 

「はい。自慢ではありませんがあだ名作りには自信があります」

 

(何で自身があるのかは聞かないでおこう)

 

「ゲンサックはどうですか?」

 

「……もう一人同じ呼び方をしています」

 

「なに? では……ゲン。いえ、それは安直過ぎて私が嫌です」

 

「こだわりますね」

 

「え? あ、はい。その、失礼なあだ名はつけられませんから」

 

(私が嫌だと言っていたのは突っ込まないでおこう)

 

 それからもルディラはいくつか候補を上げた。だがどれもしっくりこないらしく自分で没にした。玄咲にはルディラが名前付けを楽しんでいるように見えた。そしてとうとうルディラは玄咲にこう聞いた。

 

「天之玄咲。あなたの名前の文字を教えなさい」

 

 文字から探すらしい。玄咲は素直に答える。

 

「あ、はい。天は天使の天。之はえっと、しんにょうみたいな形の」

 

「ああ。分かりました」

 

「玄は玄武の玄。咲は花が咲くの咲です」

 

「なるほど。そこからネーミングするとしたら……玄はクロとも呼べますね?」

 

「はい。呼べます」

 

「決まりました」

 

 ルディラは顔を上げ、その銀色の瞳で玄咲を見ながら言った。

 

「ではあなたのことはクロと呼ぶことにしましょう」

 

(!!!!!? く、クロだと……!?)

 

 クロ。

 

 クロ。

 

 クロ。

 

 あだ名呼び。

 

 クロマルとクロスケに共通するクロという文字。最高の2文字。それをルディラから頂いた。玄咲のテンションが跳ね上がる。ルディラも無表情ながら心なし満足気に見えた。

 

「うん。いい名前ですね。ピンときました。これなら納得できます。という訳で、あなたのあだ名は今日からクロです。見た目も黒いし丁度いいでしょう。いいですね? クロ」

 

「はい。俺は今日からクロです!!!!!」

 

 玄咲のテンションは少しおかしい。ルディラは眉を潜めた。

 

「やけにテンションが高いですね」

 

「はい。クロという文字は」

 

 玄咲は心臓の前で拳を握りしめた。

 

「俺にとって特別な2文字なんです」

 

「――なるほど」

 

 ルディラは一つ頷いて、こういった。

 

「図らずしも私は完璧な名前をつけてしまったようですね。少し動物っぽいですが。流石私です。――そうだ、クロ。せっかくなので」

 

「はい」

 

 ルディラは無表情に言い放った。

 

「3回回ってワンと鳴きなさい」

 

「えっ」

 

 玄咲は普通に戸惑った。

 

「……」

 

「……」

 

 気まずい沈黙が流れる。ルディラが俯く。

 

(はっ! は、恥をかかせてはいけない……!)

 

 そこに至ってようやく玄咲は動いた。間違った男気を発揮した。慌てて地を這い、そして四つん這いでルディラの周りを回転し始める。1回転終わった段階で首の後ろの襟元を踏まれた。丁度そのタイミングでワン、と鳴こうとした玄咲は代わりにグエ、と呻いた。

 

「やめなさい」

 

「え、でも」

 

「ただの冗談です。分かりづらくて申し訳ありませんでした。だからやめなさい」

 

「はい」

 

 ルディラは声に威圧を込めた。玄咲は大人しく従った。無形のオーラが魔力感度の低い玄咲にまで感じられた。地を這う姿勢から立ち上がりかけ、そして――。

 

「――――」

 

(!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!)

 

 スカートの中身が。その角度が。黒。いや、クロたる玄咲が犬のような姿勢から這い上がったせいで一瞬、というには少し長い時間、少し顔を上げればベストショットできる位置にあり続けた。

 

 鼻血を流さなかったのは奇跡だと玄咲は思った。

 

「? どうしたのですか。表情が硬いですが」

 

 玄咲は常在戦場の心を引き出して無理やり精神をフラットに保った。極度に引き締め過ぎて固く、勇ましくなった顔で、ルディラに告げる。

 

「ルディラ先輩」

 

「な、なんですか」

 

 

「そういう冗談は二度と言わない方がいい。恥を掻きたくないならば」

 

 

 ビクリ、と。

 

 ルディラが肩を震わす。まるで怯えるよう。玄咲は慌ててフォローにかかる。

 

「いえ、その。言い過ぎました。ルディラ先輩のためをと思って……」

 

「――いえ」

 

 ルディラは玄咲に視線を合わせる。

 

「その、今のは私にも責任がありますから、怒られるのはもっともです」

 

「怒ってません」

 

「……気を使わなくていいですよ。少なくともこのラグナロク学園において全ての生徒の立場は平等。私が貴族だからと言って変な気を回す必要はありません。もちろん、冗談に付き合って地を這う必要も」

 

「冗談?」

 

「……」

 

 ルディラは視線を逸らして頷く。

 

「はい。分かりづらかったですね。申し訳ありません。本当は慌てるあなたに本気にしたのですか? ただの冗談ですよと決める予定だったのです。それが思ったより普通に引かれてしまったので……ゴホン。言わせないでください」

 

「言わせてません」

 

 玄咲は言葉のドッジボールを行った。ルディラは露骨に不機嫌になったが、それでも謝った。

 

「……そうですね。すいませんでした」

 

「は、はい」

 

「……無意識の傲慢が出ていましたかね……私も、血を継いでいるということでしょう。恥です。確かに恥を晒しました。忠告痛み入ります。私が二度とこのようなくだらない冗談を口にすることはないでしょう」

 

「はい」

 

「クロ」

 

「なんですか」

 

 

「あなたは私に物怖じしないんですね」

 

 

「……ルディラ先輩は」

 

 玄咲は。

 

「ルディラ先輩ですから。それ以上でもそれ以下でもない」

 

 分かるような分からないことを言った。本人にも何が言いたかったのかよく分かっていない。ルディラは胸の前でギュッと拳を握った。

 

「そう、ですか……」

 

 それだけ。再び2人で職員室への廊下を歩む。

 

「……」

 

「……」

 

「クロ」

 

「なんですか」

 

「職員室が見えてきましたね」

 

「はい」

 

 廊下の奥、職員室の前には人だかりがある。部活の先輩後輩らしきパートナーが多く見受けられる。職員室の中には明麗とシャルナが見える。2人は列の最後尾に並んだ。視線が、ルディラに集まる。ルディラはその視線を髪を掻き分ける動作で優雅に受け流しながら、いつものように淡々と。

 

「クロ」

 

「なんですか」

 

 いつものように頑なな無表情で告げた。

 

「試験日は、お願いしますね」

 

「……はい!」

 

 玄咲は力強く頷いた。ルディラも頷き返した。

 

「よろしい。いい子ですね」

 

 

 その後2人は無事職員室でパートナー登録を終えた。

 

 

 

 

 

 

 

「では、試験日はよろしくお願いしますね」

 

「あ、はい。その、やっぱり打ち合わせとか」

 

「必要ないです。私は強いので。それでは失礼いたします」

 

 ペコリと一礼してルディラが去っていく。その背を見て途中で職員室から出てきて合流したシャルナが呟く。

 

「ほえー……凄い自信だね」

 

「ああ。ルディラ先輩らしい」

 

「そうですね……ルディラちゃんらしいです」

 

 同じく途中で合流した明麗がジッと去り行くルディラの小さな背を見る。その背が見えなくなったころ、玄咲とシャルナを振り向いて言った。

 

「ところで天之くん。シャルナちゃん。このあと時間ありますか?」

 

「はい」

 

「あります」

 

「それはよかったです!」

 

 明麗がパチンと手を叩き微笑む。そして2人に、くるりと背を向けて、窓から差し込む日差しを受けながら言った。

 

「それではこれから親睦を深める意味も込めて私の実家――天之神社に行きませんか? きっと、2人にとっていい経験になるはずですっ!」

 

「――しかし、シャルナは学校から出たら条滅法で」

 

 言いかけた玄咲の言葉を明麗は途中で遮り、

 

「ああ。それなら心配いりません」

 

 明麗は胸ポケット(!)から一枚のカードを取り出した。シャルナに渡して微笑む。

 

「これはシャルナちゃんの外出許可証です。今度の試験でシャルナちゃんが郊外に出る必要に気づいた学園長がプライア王女と相談して何やら法律を少し弄ってプレイアズ王国を学園長と部分的な分譲支配とすることでマギサ法の適用化にしてシャルナちゃんも外出できるようにしたらしいです」

 

「!? そ、そうなのですか?」

 

「はい。プライア女王も今年優勝しないと本当に国がヤバいので条件を飲んだようです。相当精神的に追い込まれていますね。ほとんど学園長がプレイアズ王国を自由に作り替える権利を得たようなものなのですが……ぶっちゃけそれは学園長が興味ないからやらないだけで今更なので多分今までと何も変わらないと思います。だから実質シャルナちゃんのためだけの法律ですね」

 

「私の、ための……」

 

「クラス対抗ストラテジーウォーの活躍が余程お気に召したらしいです。その報酬とでも思っておいてください」

 

「……はい! ありがとう、ございます!」

 

 シャルナが嬉しそうに外出許可証を握りしめる。玄咲は震える指で許可証を指さした。

 

「と、ということは、これからはシャルナと国内を自由に外出できるのか?」

 

「う、うん。そうなるね」

 

「……」

 

「……」

 

「ま、まぁ当分は自重しようか」

 

「う、うん。そうだね。羽目外し過ぎちゃいそうだし」

 

「……本当、仲いいですねぇ。いい関係です。それでは出発しましょうか」

 

 明麗がその翼をバサッと羽ばたかせ、眉を勇ませ校門を指さし、元気よく天之神社への第一歩を踏み出した。

 

「いざ、天之神社!」

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