カード学園サヴァイヴ ~カードで全てが決まるゲーム世界の学園で狂人で軍人のゲーム廃人は天使のために最強になる~   作:哀原正十

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第11話 天之神社4 ―王魔写真館―

「……」

「……」

「……」

 

 無言で歩く3人の目の前に地獄模様が広がっている。

 

 そこは全方位を写真に囲まれた空間だった。

 

 当時の科学技術の結晶体たるカメラで命がけで撮影された戦災写真。当時のリアルを映し出す現存する貴重な資料。それらがガラスケースの中にずらりと並んでいる。それまでと様相の違う不気味な赤と黒の照明に照らされて血なまぐさい輝きを反射している。大小様々。壁にもぎっしり。壁一面を使った写真もある。それが全方位に隙間なく並べられてある。取り囲まれると、逃げ場なんてない。そう強迫されているような錯覚さえ覚える密度。それまでで最大の面積を使って、狂気さえ感じさせる使命感で。全てを克明に刻み込むんだとでも言うように。あるだけの写真をあるだけ並べてあった。血がマグマの温度まで煮え滾る、そして絶対零度の深度まで冷え込むような現実が、当時の温度がそのまま切り取られていた。全方位が王魔戦線時代に囲まれていた。まるでタイムスリップしたかのような景色の中を3人は歩く。

 

 

 

 下腹部が物理的にカットされた上半身だけの女の死体。

 積み重なった人間の部分死体で遊ぶ魔物たち。

 肉が腐り爛れて軍服の内に煮凝った死体 

 肛門から頭まで串刺され陽気な表情で鼻歌を歌うオークに担がれた死体 

 瞳から後頭部まで鋭利な何かで一突きに貫通された子供の死体。

 全身黒焦げになり性別人種身分さえ焼却された焼死体。

 体の中が汚水で充満し地上で溺死した土座衛門死体。

 玩具を取り合うように肉をずたずたに千切られたバラバラ死体。

焼け爛れた背中を無数の蠢く小さな白い生物で埋め尽くされた死体。開け放たれた眼窩や口からも白い生物が溢れている。

ドブ沼に片足突っ込んだ状態で上体が消し飛んだ死体。何か巨大なものが振り抜かれた跡が写真の端に映っている。 

 溶け落ちた人の跡。

 捻じれ皺だらけになった人だったオブジェ。

 噛み跡に蹂躙された死体。

 レイプ死体。

 口と肛門が融合した人の輪姦死体。

 シンプルに暴行されて目玉が飛び出し骨が折れ肉が千切れ脳が零れた死体。

 脳が剝き出しになり痛みが核爆発を起こした絶叫という言葉も生温い表情で死んだ男。背後で細く異様に長い針を持った悪魔が笑っている。

 頭頂から股間まで観音開きになった人間。明らかに死んでいるのだけが救いだ。

 人と人が融合し離れなくなった生体。後に自殺したらしい。

 人間に踏み殺されたウェアウルフの亜人の赤子。

 人間の玩具となったエルフの子供。

 魔物の群れにサッカーボールのように蹴り込まれたバナナモンキー顔の赤子。

 ゴブリンの玩具と化した装着型精霊の残骸

 犯されズタボロになった天使の精霊の死体。

 王魔種の群れに食い散らかされた巨大な獅子型の精霊の死体。ランク9の精霊王【聖獣王レオ】というらしい。

 巨人の王魔種の足跡に埋もれた人々の死体。前にゴミのように踏み潰された死体。

戦死者の群れ。街に幾らでも転がっている。

 魂を食われて輪廻の輪から解き放たれた人の生気無き無表情。イーター系の最上位たる魔物【ソウルイーター】に魂を食われるという最も救いなき死に方をした人間特有の表情の死体。

 

 

 

「……これを見ると、王魔戦線時代の印象がガラッと変わりますよね」

 

 展示場を扇動する明麗が瞳を細めて告げる。玄咲もシャルナも1も2もなく頷いた。

 

「は、はい。ガラッと、変わりました」

 

「私は幼いころこの資料館を見せられたのが結構トラウマでして」

 

 明麗は語る。

 

「魔物との戦いは恐ろしいものだって意識はずっとありますね。……今では王魔戦線時代って漫画とか小説やパチンコの題材になったり、戯画的に描かれるじゃないですか。面白いものとして、それはある意味では恐怖を遠ざけようとした結果なのかもしれないって偶に思うんです。あまり王魔戦線時代の名を深刻に取り扱う人も今ではいませんね。でも」

 

 明麗は語る。

 

「やっぱり戦争って怖いですよ。娯楽じゃないですよ。……でも、戦争をしたがる人が世界にはたくさんいますね。それって、よくないですよね」

 

「そう、ですね」

 

「だから」

 

 明麗は振り返る。そして、

 

「私は強くなって、そんな世界を捻じ伏せたいんです。幸い今は個人の武力が世界を左右する時代ですから。やってやれなくはない。でも、一人じゃ足りない。だから」

 

 明麗は二人に微笑みかけた。

 

「2人にも、頑張って欲しいんです。私にできることなら何でもしますから、なるべく早く強くなってくださいね」

 

 そう、伝えた。

 

 それからも鑑賞は続く。

 

 

 

 

 1000人の人を殺したとされる恐ろしい異貌の顔だけの魔物のドアップ写真。

 狂気を発症した人の壮絶な表情をデスマスク化した写真。

 美少女型の魔物に抱き着かれて干からびた男の死体。当時の英雄だったらしい。

 美少年型の魔物に抱き着かれて干からびた女の死体。当時の英雄だったらしい。

 幹に空いた口に歯の生え揃った巨大な植物から生えた美少女型の葉と抱き合って幸せそうな顔で事切れた死体。幸せそうな表情だ。

 巨大な蟻に肉団子にされた死体。

 巨大な蜘蛛に生きたまま非常食にされた人間。

 巨大なゴキブリに交尾されている死体。血が溢れている

 巨大な蛆に集られた死体。肉が見えている。

 巨大な蜂の針に性器を貫かれた死体。恐ろしい表情で事切れている。

 黒い植物の苗床となった植物人間。傍で家族が泣いている。

 ラフレシア型の魔界植物の激臭を嗅いで臭さの余り顔の穴という穴を広げて死んだ人間

 ハエトリグサ型の捕食植物に捕食され粘液塗れになりながら溶かされゆく死体

 家屋ほどのサイズの巨大植物の蔓に巻かれ圧死した人間。

 半径100メートルに渡り毒を撒き散らす斑色のヒマワリの周りに群れなした紫色の死体 

 オークに跨られた女の死体。正常位。接合部も体も見えない角度。

 オークに跨られた男の死体。後背位。オークの尻がばっちり見える。

 オークに抱えられた子供の死体。背面座位。口からはみ出ている。

 オークに群がられたシスター。背後には守るべき子供たち。隣の写真では全員が死体だ。

 オークに咥えられた魔符士。千切られた痛みでショック死したのか出血多量で死んだのかは分からない。

 悪魔――当時最も恐れられた残虐な性質の魔物――の中でももっとも弱い子悪魔の群れにそれでもなすすべもない人間たち。殺され方が残酷だ。

 大悪魔――悪魔の中では中くらいの強さ――と戦うハンター。傍には夥しい死体の群れ。

 死悪魔――出会ったら死ぬことからつけられた上から2番目の悪魔――を禁止カードの連続使用による援護とランク9の精霊王レオの貧弱なADで召喚されて尚強大な戦闘能力で倒した歴史的瞬間の写真。死体に溢れているのに喜びに溢れている。

 醜悪な死悪魔と戦う天使。どうやら人類の味方らしい。白い光を纏ったその姿は筆舌に尽くしがたい美しさ。隣の写真では跨られて犯されている。情緒も糞もなかった。

 糞悪魔――ひたすら醜悪な性質を煮詰めた大悪魔並みの強さだが全ての魔物の中で最も嫌われた悪魔――が拷問館で人間を拷問している写真。とても言葉にはできない。強いて言えば拷問具の数が多すぎる。 

 悪魔王アスモディウス――最強の悪魔。悪魔の王魔種。王魔種の中でもトップ10に入る強さ。1万人の人間を”拷問”死させたらしい。黒く巨大な悪魔が街中に石造のように佇む写真は何かの特撮染みている。現実のものとは思えない光景だった。白くギザギザの歯が剥き出しの口は喜悦の形に歪み肉片と血と骨が詰まっている。最期は勇者カーンに殺された。

 九足白鬼のアルメリウス――蜘蛛型魔物の王魔種。真っ白な体躯。人の手のような8本の手足と地に着く程長い白い髪を9本の足として見上げる程の高所に胴体と頭部を置いている。その顔は笑っている。口に出したくもないくらい醜悪な表情だ。存在の根本が違う。確信させる笑顔はカメラ目線。その後の写真は載っていない。

 災鳥ジズ――鳥形魔物の王魔種。巨大な赤目の鷲。その表情にはやはり人を甚振る嗜虐心が見える。空を飛びながら強力な風魔法を使い、地上には決して降りてこない、厄介を通り越して災害としか言いようがない、まさに鳥系魔物の頂点に立つ王魔ならではの戦い方をし、災害のような鳥という意味で神話のジズとかけて災鳥ジズとつけられたらしい。

 

 

 

「王魔種……」

「魔物には種族があります。虫種、植物種、鬼種、犬種、悪魔種――その各種族の頂点に立つ存在が王魔種。といっても必ず一体のみに絞られる訳ではなく、強大な魔物は何でもかんでも王魔種扱いされていたというアバウトな区別みたいですけどね。でも、基本はそう定義されているらしいです」

「どの王魔種も、恐ろしい、姿してるね……」

「恐ろしいですよ。生物はこんなにも醜悪な姿をするのかと驚きます。外見以上に恐ろしいのその中身ですけどね。嗜虐心に満ちた表情。王魔種の特徴ともいうべき”悪意”……それが、王魔種が恐れられた一番の要因です。強さだけでなく、悪意も魔物の頂点にある最悪の敵。それが王魔種なのです。見てください。あの写真は機械種の王魔種に高度な生命保持をされたまま生きたまま100日間生体解剖され続けた(愛され続けた)という逸話を持つ人間史上もっとも不幸な人間といわれるアナヒラという少女の写真です。傍にある写真は日は飛んでいますが現存するその経過を示す写真です。2日目、17日目、37日目、41日目、61日目、79日目、83日目、97日目――」

「ウッ」

「大丈夫かシャル」

「吐きそうになりますよね……これ、自撮りらしいです。機械種の魔物にこれらの写真を見せると発情するらしいですよ。どうやらこれがかの種族にとっての猥褻写真ということになるらしいです……魔物の精神性はそれだけ歪なんです。魔物は恐ろしいですよ……」

「……そうですね」

 3人は観覧を続ける。シャルは吐きそうになっていた。玄咲も気分が悪かった。明麗も珍しくずっと神妙な表情をしていた。

 

 

 ムンク。象徴主義的絵画魔物。額縁からはみ出したゾンビのような姿。叫び殺した人を頬に手を当て嘆きの表情で見下ろしている。

 ゲルニカ。キュピズム系絵画魔物。モノクロの生物のキメラが人を己の灰色の一部にしている。

 サトゥルヌス。恐怖系絵画魔物。子供を喰らう3メートルの異貌の巨人。子供の頭を喰らいながら股間を膨らましている。

 モザリナ。美女系絵画魔物。ただ微笑んでいる。微笑みながら殺され、犯されている。

 ヴィーナス。裸婦系絵画魔物。あまりの美しさに興奮した幾人もの魔符士によって倒され、群がれ、犯されている。重要資源として回収され後に子を孕んだらしい。

 13神。宗教系絵画魔物。王魔種。美しい13人の白い肌の絵画的画風の魔物。御大層な文句を並べ神の寛大と平和と幸福を説きながら己の協議に適さない背教者たる人間を虐殺し回った。その虐殺者数は数ある魔物中でも最多という説もある。13人の内の一人が裏切ったことで自滅した。意味が分からないが、とにかく多くの人を虐殺した魔物だった。見た目と中身のギャップの激しさがよく語られる魔物だ。

 

 キャンキャンドッグ。最弱の犬系魔物。当時から人に飼われている。

 チェーンドッグ。首輪を巻いた犬系魔物。あまり強くないので人の死体をハイエナしている。

 マッドドッグ。凶暴な顔つきの土佐犬のような犬。人に飛び掛かっている最中だ。

 ビッグドッグ。5メートル程の巨体。足元には千切れた人の手。前足でぺしゃんこにしたらしい。

 キング・ケルベロス。犬系魔物の王魔種だ。かつて神話に存在した魔物であるケルベロスから取られた。3つ首にはそれぞれ凶暴な表情。火を噴き暴れ回っている。ただ、犬系魔物自体が弱小種のためあまり強い魔物ではなかったらしい。

 

 骸骨騎士。何故か人の骨と自分の骨を嵌め変えようとしている。墓地のようなダンジョンの中の写真。

 ゾンビ。冒険者の服を着ている。同じく。潜入してバレない位置から取っているらしい。

 ゴースト。冒険者の慣れの果て。人の姿をしている。カメラの方を見ている。

 黒いローブを羽織り杖を持った謎の存在。人型。デス・ケルベロスのゾンビのような魔物を後ろに従えている。その杖がカメラを向く。

 カメラを首から下げたゾンビ。カメラを手に持って死して尚鋭い眼光で魔物にカメラを向けている。後に殺して回収したフィルムは無事だったらしい。

 

 巨大な海老。水産系魔物。浅瀬に生息する。水面は赤く濁り水上の部分しか見えない。

 巨大な蟹。鋏に人間の死体。そろそろ普通の写真に見えてくる。

 巨大なウナギ。電撃魔法で感電させたウナギを集団で引き上げている写真。

 巨大なクラゲ。近くに人が浮いている。誤って近づいたらしい。

 巨大すぎる亀。遠めに見える。誰も近づかない。

 

 巨大な人。3メートル程。裸の奇形。人と似ても似つかない気持ち悪い顔と体をしている。

 巨大な人。5メートル程。裸の奇形。手には握りつぶした死体。

 巨大な人。10メートル程。裸の奇形。弧を描いた口に咀嚼された死体。

 巨大な人。30メートル程。裸の奇形。足跡の中に人がいる。

 巨大な人。50メートル程。裸の奇形。あまりにも気持ち悪い顔と体。無邪気な子供のようで知性を剥奪された化け物のようででっぷり太った腹で不揃いの手足は右手だけ妙に太くてそれらをバタつかせて人を楽しそうに追いかけている。本当に楽しそうだ。含むところなど何もないように見える。それが醜悪だった。斜めについた少しの髪を残して禿げあがった頭に胡乱気な白い瞳に潰れた鼻に千切れた耳にだらしなく緩んだ口元に笑顔を浮かべてシャルナが口を押える。次のコーナーに向かう。ゴローという王魔種らしい。

 

 蒼い炎の人魂。妖怪種。人の体でなく魂を燃やす。写真の中の人は胸の中央だけが燃えている。

 火車。妖怪種。車輪に人が挟まっている。怒りに満ちた表情で車輪を回している。

 雪女。妖怪種。強力な氷魔法を操る他、ハニートラップをも操る絶世の美女。女の魔符士に刃物で腹を開かれて殺されている。何度もナイフで腹を刺された跡もある。悲しみの伝わる写真だった。

 牛鬼。妖怪種。牛の頭に蜘蛛の手足。先端は刃状に鋭く尖っている。100人を超える魔符士が 牛鬼と戦っている。遠隔写真だ。相当強力な魔物だったらしい。

 気難しい顔をした禿げた老人。ぬらりひょんという名前の王魔種らしい。ただ立っているだけだ。だが、それだけで全身の血が逆立つような怖気を写真超しに齎す何かがあった。何かがおかしい。ただ見た目にも強い魔物よりも余程本能に危機を訴える異常な存在感のある魔物だった。

 

 

 

 そして――。

 

「――堕天使族だ」

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