カード学園サヴァイヴ ~カードで全てが決まるゲーム世界の学園で狂人で軍人のゲーム廃人は天使のために最強になる~   作:哀原正十

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狂夜くんテコ入れ回


ラグナロク学園の休日2 ―ソウル・ミュージック―

「む、天之か」

 

「狂夜くん」

 

 最初の退学試験の時に説明をしてくれた自然なスマイル100点満点の受付嬢に入室手続きを行ってもらい、指定されたバトルルーム13番室の前まできた玄咲たちは、そこで丁度隣のバトルルーム14番室に入室しようとしている狂夜と鉢合わせた。

 

 なんと、一人じゃない。

 

 4人だ。

 

 狂夜には仲間がいた。

 

「――今日は一人じゃないのか」

 

「どういう意味だ」

 

「そのまんまの意味だ」

 

「……俺は別に単独行動に愉悦を感じるタイプの人間ではない。そもそも俺はバンドマンだ。音楽活動をする時はそりゃ集団で行動するさ」

 

「えっ」

 

「なんだシャルナ・エルフィン」

 

「い、いや、初耳、だったから」

 

「言ってないからな」

 

「……しかし」

 

 玄咲は狂夜の背後の3人を見た。全員濃い目のビジュアルをしている。さらにそれぞれ異なる形状の楽器ケースを持っている。全員楽器型ADの使い手。見るからにバンドマンといった風貌。

 

(……なるほど、やはり)

 

 玄咲はその中のリーダー格と思しき黒に青のメッシュの入った髪が斑に混じったイケメン――ただしビジュアル濃い目――をちらと見ながら呟いた。

 

「……これが、MCムーンライト・セレナーデの今の仲間か」

 

 狂夜は玄咲に頷き

 

「旧メンバーとも親交を絶った訳ではない。しかし、この学園ではただ一人の男として新たな環境に身を投じることにした。それがこの」

 

「アルカディスターズ――理想郷の星々」

 

 ――一人の男が進み出る。3人の中のリーダー格と思しき、闇色に近い暗色の青をその髪に宿した、とても女性受けする方向性で狂夜に負けず劣らずのクールで端正な顔立ちをした男だ。ただならぬ雰囲気。佇まい。そんな生徒がただのモブであるはずがない。それは玄咲のよく知る生徒だった。

 

 氷室凍介。

 

 ラグナロク学園の3年生。

 

 そして特待生だ。

 

「――フー……それが俺たちのバンド名だ。毎週日曜日はライブをしている。良ければ見に来てくれ。これは名刺だ」

 

「あ、はい」

 

 玄咲は名刺に刻まれた名詞に視線を落とす。

 

 リーダー 氷室凍介

 ギター  火撥狂夜

 ベース  影食朽葉

 ドラム  偉打川錬瓦

 

 それぞれの名前が名詞に刻まれている。玄咲は名刺を見ながらゲームの情報を思い出した。

 

(氷室凍介――90年代当時のビジュアル系ムーブの影響をもろに受けて作られたキャラ。それだけに外見の良さは相当な物。メイクがやや濃いがそれも味だ。クロウ教官と並ぶ狂夜くんのカップリング――いや、何も思い出すな。記憶は抹消したはず。準メイン級のキャラ。そして、ラグナロク学園の特待生――会長の陰に隠れている3年生。だが、しかしそれでも実力は折り紙付き。1年生のように黄金の世代と呼ばれている訳ではないが、ラグナロク学園の特待生だからな。魔符士としての風格がやはり並の上級生より数段上だ。……そういえば会長も特待生だったっけ。赤羽軽子も。やはり次の試験の中心は特待生になるのだろうか……)

 

 玄咲がいつものように思考を暴走させているとクゥが横から覗き込んで、

 

「へー、1年なのにメンバーなんだ」

 

「凄いですね」

 

「MCムーンライト・セレナーデは俺がスカウトした」

 

「は?」

 

 クゥの純粋な「は?」。凍介の横の2人の生徒が噴き出した。狂夜は無言。クールに佇んでいる。その唇がやや震えていることに玄咲は気づいてしまい指摘しかけた。手を伸ばしかけた。だが、その前に凍介が狂夜の肩を抱き、顔を近づけて語り出した。

 

「フー……失礼した。狂夜は俺がスカウトした。音楽性は丁度俺たちに足りなかったものだ。フー……俺は、クールすぎるからな。こいつはゴツ過ぎる。こいつは暗すぎる。だから……狂熱を加えたかった。そして俺の目は正しかった。俺達の音楽はさらなる遠き星となった。理想にさらに近づいた――MCム――狂夜。お前の熱は最高だ。クールな俺に冷めねぇ夢を見せてくれる。もっと魅せてくれよ……」

 

「ふん……勘違いするな。俺はただ俺の音楽をしているだけだ。……ただ、俺の居心地のいい場所でな……」

 

 狂夜は顔を頑なに背けながらの返答。凍介はフッと笑みを零して離れる。コスモが首を傾ける。

 

「? 何が勘違いなのでしょうか? 彼は物凄く素直に自分の胸の内を吐露しているようにコスモには思えるのですが。それも結構なとき」

 

「コスモちゃん。やめよう。それ以上はいけない」

 

「はい! 天之玄咲!」

 

「……お前ら、俺を煽りにきたのか……?」

 

「天之玄咲――」

 

 1人の少女が話しかける。長めの黒髪に紫色のメッシュを数房混じ、また顔にも紫が主色のかなり濃いめのメイクを施したゴシックロリータ風の衣装を羽織った、しかしどこか致命的に雰囲気が陰キャっぽい病的な目つきの美がつくかは微妙な少女――影食朽葉が玄咲に接近しどこか鼻息荒く語り掛ける。

 

「ヒ、ヒヒヒ。あんたが狂夜が言ってたブラッキーボーイかい。いい顔してるねぇ……ど、どう? お姉さんと一緒にいいことして遊ぼお?」

 

「……」

 

1 喜んで! カードゲームでもして遊ぼうぜ! 先行は俺な!

2 具体的には何するんだ? ゲームとか? お姉さん、好きそうだもんね

3 興味ない

 

 ゲームの選択肢が脳裏に浮かぶ。一応ネームドキャラ。好感度増減はないネタ会話だが流れは掴める。玄咲はもっとも無難かつ今の自分の心境にあった選択肢を選んだ。

 

「興味ない」

 

「!?」

 

「はははは! 背伸びなんかするからそうなる! それにしてもあんたァ」

 

 タンクトップのようにワイルドな制服を内からはだけさせ、その内側にパッツパツに膨らませた網シャツを着こんだ筋骨隆々の大男――偉打川錬瓦が玄咲を見下ろして笑った。

 

「い~い顔だ。硬派だな。女なんて興味ねぇって顔をしてやがる」

 

「まぁな」

 

「玄咲?」

 

「……」

 

 玄咲はニヒルに佇んだ。格好つけている。シャルナは全てを察してそれ以上何も言わず一歩下がった。できる女だ。偉打川錬瓦がふっと笑う。

 

「ふっ、狂夜が気に入る訳だ。い~い男だな。……こんな男なら、俺も熱く」

 

「フー……無駄話はもういだろう。お前ら。さっさとセッション始めるぞ」

 

「セッションって、何?」

 

「映画のことです」

 

「?? そうなんだ」

 

「違う。フー……少しだけ語ってやろう」

 

 クゥとコスモのコントを切っ掛けに、凍介は吐息を吐いて遠く夜空を見上げるような目つきで語り出した。

 

「――セッションとは全力で互いの音楽魔法を展開し、時に競い合い、時にぶつけ合い、時に披露し合い、時に演奏を共にし、それらの試行の中でより高次のメロディーを探す行為だ。セッションを行う際はまず全力で互いの音楽魔法をぶつけ合う。その過程に演奏以外の行為を挟んではならない。それから互いの長所や欠点を指摘し合い、互いを高め合っていく。その果てに符号音楽(ソウルミュージック)を産み出す――セッションはまさに互いの音楽を高め合う行為なのさ……」

 

「? 要はカードバトルするってこと?」

 

「ちょっと違うな。刺激を求めて普通にカードバトルをすることもあるがね。セッションの本質の一端に過ぎない」

 

「要は音楽魔法をぶつけ合って互いの音楽性を高め合う行為だ。カードバトルも含めた一言じゃ網羅し切らないその行為全般を指してセッションと呼ぶ」

 

「そういうことだ。フー――完璧なアンサーだ」

 

「凄い玄咲。賢い」

 

「フッ」

 

 CMAの知識を流用できて得意げな笑みを浮かべる玄咲の横で今度はコスモが首を傾げる。

 

「なぜ、そんなことを?」

 

「フー……音楽魔法の質は曲に左右される。だからこそ俺たち音楽魔法を操る魔符士にはどんな曲を奏でるかが重要になる。それもいい曲を奏でればいいって訳じゃない。本人の魂に相応しいオリジナルソング――符号音楽(ソウルミュージック)でなければ音楽魔法は真の力を発揮しない。だからこそ俺たちはセッションを通して剥き出しの魂をぶつけ合い、そのセッションの中で己の魂に最も適したメロディー――符号音楽を探し出すのさ……」

 

「フン。そういうことだ。天之」

 

 狂夜は玄咲の前に進み出てその胸を拳でドンと叩いた。

 

「俺は必ず俺の符号音楽を見つけ出し、お前に勝つ」

 

「……狂夜くん」

 

 叩きつけられた拳から熱が伝わる。ドクン、ドクンと心臓の脈が拳を内から叩き上げる。狂夜はフッと笑い背を翻した。

 

「凍介さんと一緒にな――」

 

 ピタ。

 

 狂夜が立ち止まる。シャルナが首を傾げる。

 

「凍介、さん?」

 

「――いや、その。お前ら、違う。これは違うぞ。ただ、リーダーに対する当然の礼儀であり、それ以上の意味は――」

 

 この学園に来てから謎の色物系キャラが定着しつつある狂夜の言い訳に玄咲とシャルナとクゥとコスモはそれぞれの感想を率直に言い合う。

 

「やっぱ、どっちかというと、あっち系、だよね――」

 

「プライド高いイメージあったけど、強い相手には従うんだ。自然の摂理だね」

 

「キャンキャンドッグ……言われていた通りの男ですね」

 

「狂夜くん。無理に自分を取り繕わなくても……」

 

「ぐっ!? お、俺のイメージはもう覆らないのか……!」

 

「ああ、お前初めて入部した時みたいな態度入学時も取ってたんだな。大体みんな牙折れるから安心しろ。大事なのは」

 

 凍介が狂夜の胸を叩く。いい音がなった。

 

「己の弱さを知って尚ここで立ち上がる事だろ。お前に叩き込んでやったはずだろうが」

 

「……凍介、さん」

 

「オラ、行くぞ」

 

「……はい!」

 

 狂夜は凍夜の後を勇んでついていく。もう恥など感じていないようだ。シャルナがふと疑問に思う。

 

「……ん? よく考えたら、狂夜くんの、他の人、全員、上級生だよね? ついていけるの?」

 

「ああ。それは大丈夫だ」

 

 凍介は狂夜の頭を乱雑に撫でながら告げる。狂夜の体が震える。

 

「こいつの演奏技術はもう一流だ。超一流の俺には及ばねぇがな。将来性含めりゃ十分だろ。セッションの相手としては不足ない。育てるって意味も込めてるしな。それに」

 

 凍介はフッと笑った。

 

「カードバトルの方も、もう2年の殆どが相手になんねぇ……桁外れの才能だよ。だから、本当に俺が面倒見るくらいで丁度いいのさ……」

 

 バタン。

 

 それが凍介の最後の言葉だった。シャルナが玄咲の袖を引く。

 

「ねぇねぇ、玄咲」

 

「うん」

 

「あの人、やっぱ、強いんだね」

 

「狂夜くんは強いよ。学年で一番かもしれない。だから大好き――」

 

 大好きだった。そう言いかけて、過去形での発言はおかしいと気付き、修正を試みて、

 

「……うん。大好き。大好きなんだ。うん、うん……冗談、冗談だから……」

 

 盛大に事故った。カッ! とまるで凄惨な犯行現場でも目撃したかのような視線が3人分玄咲に向けられる。だが、最終的には玄咲の普段からの男への淡白さと話下手が功を奏し、失敗した冗談だと判断され事なきを得た。玄咲はその過程で大分恥を掻いたが誤解が解けたのでそれでよしとした。

 

「よし、始めようか!」

 

「うん! 玄咲、いつでも来て!」

 

(あ、これがこの2人の)

 

(日常なんだ……)

 

 その後は普通にカードバトル中心の訓練を行った。とても有意義な時間になった。

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