カード学園サヴァイヴ ~カードで全てが決まるゲーム世界の学園で狂人で軍人のゲーム廃人は天使のために最強になる~ 作:哀原正十
【バトルセンターからの帰路】
「ふー、有意義な時間だったね!」
夜。バトルセンターからの帰路。あまり休日まで根を詰めると疲れを引きずって全体の効率が悪くなるので今日は早めに訓練を切り上げた4人はバトルセンター全てに繋がる最初の退学試験の日に何度も通った長く広い道を談笑しながら歩いていた。玄咲が頷く。
「ああ。やっぱり、多人数のカードバトルは二人で行うバトルとは全然違ってくるな。たまにはこういう訓練もいい」
「コスモ、押し倒されてしまいました……」
「ッ!? じ、事故だ!」
「うんうん。事故だろうね。だってその後まともに私の弾丸頭にくらってKOされてたもんね」
「うっ、生半可な攻撃なら避けれる、避けれるんだ……」
「でも、私の攻撃は避けれなかったね?」
「うぅ……」
「クゥちゃんも凄かった。でも、玄咲……最近、気が緩んでるよ」
「うっ、すまない……」
「何か、気が引き締まることがあると、いいね。もうすぐ試験だし」
「そうだな。魔物退治試験だ。ダンジョン産の魔物と野良の魔物はまた違うからな。どこかで気が引き締まるような劇薬的な出来事があるといいんだが……」
「コスモ、今日は天之玄咲に何回か勝ちました」
「うぅ……」
「何回か、勝ったね」
「ううぅ…………」
「玄咲、本当、負けると、悔しがるね」
「強さが俺のアイデンティティーなんだ……やっぱ俺から強さを抜いたら世間的には何が残るのかって感じだしさ……」
「人間が残ります」
「え?」
「兵士から任務を抜いたら――人間が残る」
「コスモちゃん……ありがとう」
「どういたしまして、です」
コスモがふっと笑う。唐突感が半端ないので多分また何かの電波発言。でも、コスモの台詞は玄咲にとても刺さった。だから素直に礼を言った。コスモも、いつものように明るく笑って答えた。
(それにしても、良かった。あの出来事はもう引きずっていないようだな。……コスモちゃんの助けに俺はなれているのだろうか。だとしたら、嬉しいな。コスモちゃんの明るさにはいつもたくさん助けられてきたから。コスモちゃん……好きだ)
「あ、ゲンサック、食堂見えてきたね」
「うん。早く、行こ」
「あ、うん。そうだな」
玄咲は思考を中断する。4人は大多数の流れに沿って遠く見える灯りの下、食堂へと向かった。
【食堂】
ラグナロク学園の食堂は大食堂だ。いつ来ても圧倒される大きさ。そこに集う生徒の数もまた圧倒される。食器を持った生徒の往来も多く、やや見通しが悪い。シャルナが感嘆の息を吐く。
「いつ来ても、凄い、人だね」
「特に夕飯時だからな。人混みで視界もまばらだ」
「早速食券を買いましょう」
「そうだね。一番人の少ないのに並ぼうか」
入り口近くには食券機が3台ある。その中の一つに並び4人は食券を購入した。SDをかざしてボタンを押すと排出されるカードが食券だ。カードには数字と商品名が記載されている。玄咲、シャルナ、コスモ、クゥの順に、
66 醬油ラーメン
67 激辛シーフードラーメン
68 コスモス草の天ぷらうどん
69 焼鳥定食
と書かれている。SDに通知が届くと自分でカウンターに商品をカードと引き換えに受け取りに行く仕組み。それまでは適当な席で待つことになる。玄咲たちは4人で座れる席を探してうろつく。すぐにその席は見つかった。その席の対面には程よくしおれてしなりが生まれたリーゼントを垂れさせながらカレーライスを食べている一人の生徒がいた。さとしだった。カレーをスプーンで力なく口に運んでいる。うな垂れ無言の内に人を遠ざけるオーラを発している。玄咲もさりげなく方向転換を図った矢先、コスモが声をかけた。
「おお、そこのうんこみたいなリーゼントのあなたは」
「あぁん……」
ピチャン……。
リーゼントの先端から茶色の液体が垂れている。さとしは気づいていない。
「……」
「……」
「……」
「……」
触れたくない。いや、触れがたい雰囲気。誰の目から見ても。さとしが玄咲に気づく。
「あ、リーダー……」
「ど、どうしたさとしくん。うな垂れて。そんな姿勢をしていたらうん気が落ちるぞ」
「あ、すまねぇ!」
ひょい。
ピチャ。
「……」
カレーが頬についた玄咲が瞑目し切ない顔をした。さとしが慌ててナプキンを取って立ち上がる。
「あ、すまねぇ! 今俺が拭き取るぜ!」
ゴシゴシ、ゴシゴシ!
さとしの愛撫によって玄咲の頬は赤らんだ。力が強すぎたのだ。切ない顔をして頬を赤らませた玄咲を見てさとしがわなわなと震えて謝る。
「す、すまねぇ……」
「――武装解放、シュヴァルツ・ブリンガー」
玄咲の手中に愛銃が顕現する。震えるさとしの前で玄咲はシュヴァルツ・ブリンガーにカードを挿入し、自分の頬に撃ち当てた。
「レッド・ハイヒール」
シュイン。
玄咲の頬が肌色を取り戻す。玄咲もこの世界の常識に少しずつ慣れ始めている。ADを魔符収納しスペルカード共々カードケースに仕舞い、様子のおかしいさとしに話しかける。
「どうした。まるで本当の馬鹿になったみたいじゃないか。何かあったのか?」
言葉に棘がある。無意識が零れ出ていた。さとしは特に気にした様子はない。
だが。
「……」
顔を俯かせる。テーブルにリーゼントの先端がつくように、カレーを避けて、顔をやや横向けながら。傍目から見ると凄くバカっぽい光景だったが誰も何も言わなかった。
だが、暗い。
(……まぁ、同じクラスの誼だしな)
玄咲はため息を一つつき、さとしの対面の席を引き、座った。別に望んだ訳ではないが、何だかんだで男子生徒の中では親交のある方。それにクラス対抗ストラテジーウォーでは奮闘してもらった。キョトンとした表情とリーゼントの先端を向けてくるさとしに玄咲は机の上に片腕を乗せて告げた。
「俺で良ければ相談に乗ってやろう。人に話すだけでも悩みってのは結構楽になるもんだ」
なんだかんだで玄咲も成長している。
「実は俺よぉ……今日、カードバトルで負けちまったんだ」
シャルナ達と4人で並び座りながらの対談。そして発せられたさとしの第1声に玄咲は「あぁ」と得心し、やや安心した。非常にさとしらしい了解しやすい単純な理由だったからだ。これなら自分の手にも負えそうだと安心しながら答える。
「そんなこともあるさ。カードバトルは相性の面も大きいからな。元気を出せ。落ち込んでいる姿は君には似合わない」
「あ、ありがとうございます。リーダー。……でも、俺」
さとしはポツリと。
「今はあいつのことしか考えられないんです。何か、おかしくて……」
零す。カレーでなく、言葉を。
(……余程悔しいんだな。敗北は悔しいからな。一時的に相手のことしか考えられなくなってもおかしくない。本気で落ち込んでいるようだ。よし、ここは)
玄咲は少し本気でアドバイスした。
「そういう悩みはクロウ教官に吐くといい。」
「クロウ先生に?」
「ああ。なんだかんだであの人は生徒のことをよく見ている。的確なアドバイスをしてくれるだろう。性格以外は教師らしい教師だよ。そうだ、クラス対抗ストラテジーウォー前に活躍した生徒は個人訓練をつけるとか言っていたし、戦闘訓練でも頼んだらどうだ? なんだかんだで約束は守る人だ。本気で頼めば嫌がるだろうが無下にはしないはずだ」
「そうか……クロウ先生にか。考えたこともなかった。そうだよな。嫌がるだろうけど無下にはしないはずだ……つーかその約束完璧に忘れてたぜ」
「俺も完璧に忘れていた。ちょうど今思い出した。あれであの符闘会の優勝者だ。きっとその教えはためになる。悪い考えではないと思う」
「……」
さとしは考え込む。玄咲はさらに背を押す。
「敗北は悔しい。それは当たり前だ。だが、そこで止まっていては進歩はないぞ」
「悔しい……? ……そうか、俺、悔しいんだ。何でそんな単純なことに今まで気づかなかったんだ」
(ん?)
「よーし! そうと決まれば!」
ガツガツガツ!
「これからクロウ先生に頼んで特訓だ!」
「あ、ちょっと待て」
食べ干した食器をカウンターに持っていこうとしたさとしを玄咲は呼び止めた。首と連動してぐわんと振り向いたリーゼントに先ほどの出来事を思い出して一瞬顔をしかめながらも興味本位で尋ねてみる。
「相手は誰だ」
「水野ユキって奴だ」
玄咲の顔から表情が失われた。CMA。その知識が頭に過って。さとしが鼻の下をこすって「へへっ」と笑う。
「へへ。小っこい女なのに魔法はデカくてよォ、根性も座った奴だったぜ。俺よォ、今あいつのことしか考えられねぇんだ。これってあいつに負けたのがよっぽど悔しかったんだな。……今に見てろよ」
去り際、さとしはボソッと、
「絶対振り向かせてやるよ……カードバトルで勝ってな」
そう言い残した。カウンターに食器を持っていく。その背中を玄咲は遠い目で見つめる。
(……さとし、やっぱりお前は水野ユキに惚れてしまうのか……その道は茨の道だぞ……)
ゲームでもさとしは水野ユキに惚れていた。会話シーンでもよく水野ユキに絡んでいた。コミカルに、しかしやや露悪的な描き方をされて、大空ライトくんや神楽坂アカネや光ヶ崎リュートにユキが庇われるのが定番だった。大岩ガッツに庇われている所は一度も見たことがない。
しかし、リュートに庇われているシーンはよく見かけた。
そしてそのシーンのユキは露骨に嬉しそうな顔をしていた。赤面グラフィックが混じっていた。この世界でもユキがリュートに脈ありげな反応を見せたシーンを玄咲は目撃したことがある。ラグマの外で偶然リュートと一緒に店を出たユキがたどたどしくも積極的に話しかけていた。あのユキがだ。ラグマの中で壁ガラス超しに雑誌を読みながら盗み見た。
つまり、さとしの対抗馬は光ヶ崎リュートだ
種馬とダービーホースの差。あるいは星と野糞ほどの差が既に開いている。エンディング次第ではリュートとユキがくっつく未来もある。それでなくとも、ユキとさとしの相性を考えれば勝敗は既に絶望的。玄咲は瞑目したまま心の中で十字を切った。アーメン。胸に十字架よりも尊いものをいつも抱えているシャルナが玄咲の袖を引く。
「ねぇねぇ、あれって、どう考えても」
「言うな。……あれもまた青春だ。応援してやろうじゃないか。想いを抱くのは自由だ。人を成長させることもあるだろう。……想いは自由だ」
「うん、そうだね」
「失恋も成長に繋がることもある。それにまだ未来が確定している訳じゃない。どんな想いが未来に花開くかは、分からないものなのさ……」
「うーん……ま、そうだね、万が一ってことも、あるもんね」
シャルナが頷く。玄咲もまた頷き返した。コスモはクゥの頬を突っつく。つん。
「……なんか、コスモたち、蚊帳の外ですね」
クゥもコスモの頬を突っつき返す。むにゅり。
「そうだね。まぁ、どっちのこともよく知らないからねー――おっ」
リンゴーン。
クゥのSDから授業のチャイムを優しくしたような音の通知。もう一回。ダブルで鳴る。クゥがカウンターを指差す。
「SDに通知があったよ。焼鳥定食取りに行ってくるね。鳥だけに!」
クゥは滑った。しかし全く気にせずカウンターに料理を取りに行った。滑るのが前提のパワーに溢れた鉄板ネタ。その間に、
「おっ、後輩くん達の前の席が丁度空いてる! 座ろ詩織!」
「そうですね。座りましょうか真央」
真央と詩織が皿を手に合流した。真央の料理はローチ焼売。好物らしい。詩織の料理はキャンキャンドッグのから揚げ。好物らしい。玄咲たちのSDの通知も次々になる。取りに行く。戻ってくるとクゥがキャンキャンドッグのから揚げを鋭い目つきで見つめているという一幕があったが、その後はいつかの部室のように和やかで楽しい食事をした。とてもとても楽しい時間だった。