カード学園サヴァイヴ ~カードで全てが決まるゲーム世界の学園で狂人で軍人のゲーム廃人は天使のために最強になる~ 作:哀原正十
【下校】
「今日は、いい一日に、なったね!」
夜。真央たちと別れた食堂からの帰り道。シャルナが伸びをしていう。明るい道には人がたくさんいる。青春の輝きがたくさん灯っている。その中の一つになって歩きながら玄咲はコスモに礼を言った。
「コスモちゃん、ありがとう。君のお陰で今日はとても充実した一日になった」
「ふっ、どういたしましてです。ファナティックアドベンチャーな一日を過ごそうとしていた天之玄咲をコスモは救ってしまいましたね……」
「……なぁ、コスモちゃん。俺が中で何をしていたか知らないよな?」
「も、もちろん知りません! じっちゃんの名にかけて真実はいつも一つです!」
「だ、だよな。よかった……」
「……」
ギュッ。
コスモは玄咲の手を握った。その柔らかで弾力に満ちた手でむにゅんと。玄咲とシャルナの肩と心臓が跳ねる。
「い、いきなりどうしたんだコスモちゃん!?」
「そうだよ! それは反則だよ! 断固抗議するよ!」
「い、いえ。その……天之玄咲」
コスモは玄咲の手を握ったまま、いつもより少し大人びた、しかし少女の純真をこれでもかと宿した微笑みの弾丸で玄咲を撃ち抜いた。
「ありがとうございます」
ズキュン!
玄咲が心臓を抑えてよろめく。シャルナがコスモの手を離しにかかるが離れない。コスモは喋り続ける。
「コスモはあなたのお陰で今も笑えています」
「むー、むー!」
「こ、コスモちゃん。か、可愛、それは反則……」
「……もしあの時があなたがいなかったらコスモは今」
「か、固。バリカタ……!」
「う、うん……」
「凄い。カオスなまま淡々と状況が進行してる……」
「こうして笑えていなかったでしょう」
「う、うん。君が今笑っていてくれて俺も嬉しいよ」
「――」
コスモがくしゃっと笑みを崩す。さらに、嬉しそうな形に。そして。
「だから」
コスモは。
「天之玄咲」
「ラード! 誰かラード、持ってきて!」
その気持ちを告白した。
「月が、綺麗ですね……!」
非常に奥ゆかしい、玄咲も含めたその場の誰にも伝わらない婉曲的表現を選んで。
時が止まった。
「……? あ、ああ、綺麗だな」
「う、うん。そうだね」
「月に何を例えてるのかな……?」
「む……? コスモの口が勝手に謎表現を選びましたね? ……今はその時ではないということでしょうか。ならばやむなし、か……」
コスモは顎を捻り、難し気な顔で瞑目し頷く。そして釈然としない表情をしている3人の中央――玄咲に向けて。
「さっ」
再度、手を伸ばす。
「帰りますよ。コスモ達の今のお家に――ラグナロク・ネストに」
「――うん」
パン!
「グルルルル! わん! わん!」
コスモの手はシャルナに払いのけられた。犬のように歯を剥き唸って威嚇する初めて見るその姿にコスモも流石に手を引かざるを得なかった。物理的に叶わないと悟った途端の威嚇による気勢攻撃。玄咲仕込みの対応力。クゥが眉根を下げて、
「ねぇ……やっぱりあなたたち、付き合って」
「お友達!」
「あぁ、うん……」
「シャル、その、コスモちゃんと手を繋いで帰ってもいいか?」
「えっ」
予期せぬフレンドリーファイアにシャルナが目を剥く。玄咲は明後日の方向――この世界では明日の方向を見上げながら、
「だって、コスモちゃんがいたから今日はこんなに充実した一日になったんだ。だから、その、えっと……」
結局煮え切らない玄咲。だが、その意思は明確に伝わった。シャルナは唸って、それから「しょうがないなぁ」とでも言いたげな表情で言った。
「確かに、コスモちゃんの、お陰で、楽しくて、有意義な一日に、なったもんね! いいよ!」
「ほ、本当か!?」
「うん」
「……シャルナ・エルフィン」
「うん」
「それは恋人の台詞ですが」
ズゴン!
その後シャルナがいつかのようにコスモのアイアン・モードに返り討ちに合い手をふーふーしている間にコスモは、
「――では、天之玄咲」
手を伸ばす。今度は神妙な表情で。
「手を」
宇宙のように、神秘的な表情で。その瞳の星を揺らして。
「……うん」
ギュッ。
(……天之玄咲。あなたのお陰でコスモは今毎日幸せですよ……)
……幸せな帰り道。背後から漂う猛烈な不機嫌の気配を完全にスルーしながら、コスモは吐息と、僅かな、しかしそれ故に100万言よりも流暢な感情の乗った笑みを、口元に落とした。刹那、目を閉じる。
(ありがとうございます。コスモは今、毎日が幸せです。願わくばこんな日々が、ずっと続きますように……)
瞬きの内に、夜空を星が駆け落ちた。