カード学園サヴァイヴ ~カードで全てが決まるゲーム世界の学園で狂人で軍人のゲーム廃人は天使のために最強になる~   作:哀原正十

285 / 288
第7話 全力疾走ウィーク・リポート4 ―それぞれの2週間―

【廊下】

 

「うーん……この試験、絶対どの上級生をパートナーにするかが肝要だよねー。キララちゃん、魔法の癖強いし、上級生あんま伝手ないからなー。一体誰と組むべきか……」

 

 キララは上級生の教室前の廊下を唸りながら歩いていた。この時期は教室前に別学年の生徒がうろつくのは珍しい光景ではないので特に目立ってはいない。その整った容姿が別の意味で目を引きはするが、何度か声をかけられたりはしたが、ピンとくる相手は中々見つからない。できれば彼が一瞬で組んでしまったルディラ・メルキュールのような有力な上級生と組みたいが、生憎伝手がない。ルディラといい生徒会長と言い同学年の生徒たちといい、彼は本当にどこから学園の有名生徒との縁を引っ張ってくるのだろうかとキララは訝しんだ。

 

 それはそれとして、パートナーが見つからない。

 

 キララは悩んでいた。再び唸る。

 

「うーん、誰と組むべきか。中途半端な妥協は絶対したくない。誰か、都合のいい上級生が現れないものか……」

 

「もし……そこのあなた……」

 

「ん?」

 

 廊下を唸りながら歩くキララ。その前に一人の生徒が立つ。キララが立ち止まり、その上級生を見て驚く。その視線の先にいる生徒は――。

 

 

 

【謎の部屋】

 

「ふ、ふふ。ルディラ、ルディラ、ルディラ……ああ、憎々しい。そして――」

 

 壁一面に張られた写真の一枚を手に取り、両サイドに水色のドリルヘアーを2つ揺らした女生徒は、写真に熱情の籠った視線を向ける。

 

 水姫(みずき)リサ。2年生。七霊王家が一柱水姫の天才魔符士。

 

「必ず、私が……!」

 

 写真の中のルディラはいつものように無反応。一切の反応を、返さない――。

 

 

 

【バトルセンター】

 

「ハァ、ハァ、強ぇ。こんな強かったのか。知らなかった……」

 

「はぁ……あんな約束気軽にしなきゃよかった……」

 

 荒い吐息。さとしが膝をついている。クロウは訓練用のAD――ランク1のカードをインサートした補正値30の短剣型AD――を手にさとしを悠然と見下ろしている。クロウが掌にADをパンパンと打ち鳴らして告げる。

 

「立て、さとし。試験まで残り2週間、無駄にしてる時間はないぞ」

 

「あ、当たり前だ! 何度でもやったらぁ! 俺はあいつに、あの女に絶対勝つんだ! 俺の強さ、あいつに分からせねぇと気が済まねぇ……!」

 

「……そ、そうか。その意気はよし。うん。まぁ頑張れ。きっとその経験はお前の役に立つだろう」

 

 クロウは深くは突っ込まない。ただ、さとしに訓練をつけるだけだ。クロウはさとしを諭しながら対戦申請ボタンを押す。

 

「いいかさとし。頭を使えとは言わない。だがテクニックは学べ。お前は言っても分からん馬鹿だが、運動神経は悪くない。むしろいい。だから、実戦で、諭しながら、技術を叩きこんでやる。1日中負け続けろ。その間に体で覚えさせてやるよ。嫌でもな」

 

「ハァ、ハァ。上等だ。ここまでランクと補正値下げられて舐められたまま終わってたまるか。絶対今日中に勝ってやる……!」

 

 さとしは対戦受諾ボタンを押す。2人のカードバトルが始まる。さとしが初っ端から詠唱する。

 

「ドリル・バースト・バイザー!」

 

 ドリトライから10発のドリル型の魔力弾がミサイルのように魔力煙を上げてクロウに向かう。

 

「アイアン・オーラ!」

 

 さらにさとしは防御魔法を纏う。遠距離攻撃を盾に、防御魔法を発動して一気に接近する戦法だ。クロウは笑った。

 

「少しは頭を使うようになってきたな。だが甘い。保留(ストック)、ダークエッジ、ファントム・ステップ、リベリオン・エナジー――起動(ジェネレート)!」

 

 クロウはシンクロマジックでさとしの戦法を全て破った。微弱な魔法透過効果を持つ魔法で高速で接近し、強化した魔法攻撃で急所に立て続けに4発。それで終わりだった。4発もいる辺りは流石さとしだった。そしてまた戦い、クロウが欠点を指摘し、また少し工夫した戦法をクロウが打ち破り、その循環を繰り返す。その果てに――。

 

 

 

「ハァ、ハァ、中々やるじゃないか……」

 

「くっ、倒したと思ったのに……! ちくしょぉ……!」

 

「一日やそこらで勝ちを譲ってやれる訳ないだろ。だが、十分強くなった。それは認めてやるし、分かってるだろ。自分でも」

 

「……はい!」

 

「その積み重ねだ。真面目にやりゃお前はもっと上に行ける。お前ほど固い奴は数人しか見たことないぜ……」

 

 さとしはクロウを残りHP10%まで追い詰めた。最後の方は安定して戦えていた。まぐれじゃない。だからこそクロウも認めた。勝てこそしなかったが、今日の戦いはさとしの人生における大きな転換点となり、後の試験にも大きく影響することになる。

 

 

 

【ドロミテ大樹海】

 

「よーし、建築完了!」

 

「ラグナロク学園試験用拠点【ラグナロク・ペンション】、予定通り1週間で完成しましたね、社長。そういえば若頭も今度の試験参加するんですよね?」

 

「ん? ああ、そうだな。……剛志(つよし)

 

 岩城《がんじょう》剛志(つよし)。3年生。七霊王家が一柱岩城家の跡取り息子。岩城家当主にして岩城家の経営する岩城建築の社長岩城(がんじょう)武志(たけし)は、次の試験に向けて我が子が頑張っているはずのラグナロク学園の方角を遠い目で見ながら、たった今完成したラグナロク・ペンションの外壁に背中を預けて深い息を吐く。

 

「生きて戻ってこいよ」

 

 

 

【カードショップ】

 

「シャルナちゃん、白夜幻創天照白刃(ダークネス・エルフィン)の欠点が何か分かりますか」

 

「それ自体に、決定打的な、攻撃手段が、ないこと。カードスロットを3枠使うから、他のフュージョン・マジックと、併用できないこと」

 

「よくできました。クリティカル・インパクトでシャルナちゃんはある程度その欠点を克服していますけどね。しかし、それだけではやはり不足。私が悉く防いで見せたように、攻撃動作を少し妨害するだけで不発に終わってしまうという欠点もありますしね。それらの欠点をシンプルに解決する手段。シャルナちゃん、何だか分かりますか?」

 

「高ランクの、強力な、シングルマジック」

 

 明麗はコクンと頷いた。

 

「その通りです。完全にとは言いませんがね。相当欠点を補えるでしょう。クリティカル・インパクトもさらに強力になる。さぁ、シャルナちゃん。このカードショップで私たちの運命のカードを選ぶのです! 一応私も候補を考えてきていて――」

 

「もう決めてます」

 

「えっ」

 

「以前、玄咲に勧められた、3枚のカード。悩んでたけど、やっと決まった」

 

 シャルナは迷わず1枚のカードを選び、明麗に宣言した。

 

「玄咲が、多分内心、一番勧めたがってたカード、これを買います」

 

 ランク7

 

 80万ポイント。

 

 ディープアビス・イラプション

 

「……なるほど」

 

 シャルナの選んだカードを見て、明麗は面白そうに頷く。

 

「ピーキーな性能の、しかしシャルナちゃんに合った、いいカードです。天之くんらしいというか、シャルナちゃんのことをよく理解して、信頼した、そんなカードチョイスですね」

 

 

 

【廊下】

 

「糞! 何が足りん。俺に今足りないのは言葉だと? どういう意味だ……!」

 

「ファック! ビートの解釈が甘い。ライムを鍛えた分釣り合わなくなってる。捉え直す機会が……!」

 

「ん?」

 

「ん?」

 

 アルルと狂夜は廊下で出会った。二人は直観した。今、音楽性が重なる瞬間にあると。どちらからともなく申し出る。

 

「「カードバトルだ!」」

 

 

 

「ハァ、ハァ。あはは! なんか掴めた気がする……!」

 

「もう一度だ。完全に掴み切るまで何度でもやるぞ……!」

 

 その日2人はドロドロになるまでカードバトル、そしてセッションも繰り返した。流れのままにデュエット曲も一曲完成した。たまにはアルルも勝った。互いが互いのブレイクスルーになった。大きく前進した。ついでに前よりも少しだけ仲良くなった。そして――。

 

 

 

【バトルルーム】

 

「――新生ヒプノシス・マジック。完全に使いこなせるようになりましたね。アルル様」

 

「うん。サリエル。訓練に付き合ってくれてありがとね。彼のお陰で新曲も完成した。やっぱ、ラグナロク学園は最高の環境だね。強くなるためには。見てろよ、この新生ヒプノシス・マジック。フュージョン・マジック――」

 

 バトルルーム。サリエル相手のカードバトルで試運転を終えたアルルは黄金色に光る己のAD――天歌刻韻(ライム・ドライブ)ライブ・マイクを証明に掲げ、その黄金色の瞳に決意の炎を燃やす。プライアのように美しい瞳に、シン・ピーターのように、泥臭く真っすぐな決意の炎を。

 

「オルタナティブ・ヒプノシス・マジックで、一歩遅れてる僕も彼ら特待生に本当の意味で並んでやる……! どんなに辛くても、Do many practice(ただただ練習)! さ、もう一度、いやもう何度でもカードバトルしようか!」 

 

「はい! 何度でも!」

 

 アルルの心はいつも燃え輝いている。

 

 

 

 

 同刻。

 

「……フー、完成、したな」

 

「ああ。完成した。まだ粗削りだが、これが、これが――」

 

 ギュラン!

 

 ギターをかき鳴らし、そしてそのまま演奏に移行しながら狂夜は吠えた。

 

「これが俺の符号音楽だ! オォオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」

 

「ヒヒ、いい曲じゃんか」

 

「ああ。最高だ。狂夜、次のステージではそいつをぶちかましてやんな」

 

「当然だァアアアアアアアアアアアアア! 俺は……MCムーンライト・セレナーデだァアアアアアアアアアアアアア!」

 

「フー……ギターを持つと騒々しい奴だ。嫌いじゃないがな……よし、セッションの続きだ。粗取りだ。熱が冷めないうちに行ける所までいっちまおう。全力で」

 

 ギュラン!

 

 氷介もまたギターを構え、鋭くかき鳴らした。

 

「ぶつかってこい。お前の熱、全て受け止めてやるよ。冷めない熱持って来いよ……!」

 

「はぁ、はぁ、凍介さん、凍介さん……凍介ぇえええええええええええええ! 俺はお前ぉオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」

 

「フー……やっぱお前、牙抜けてねぇな。躾けなおしてやるよ……!」

 

 ――欠け月がバトルセンターの頭上に輝く。満月まであと……。

 

 

 

【バトルルーム】

 

「ハァ、ハァ、リュートォ……その大技、どうやら相応の欠点があるようだな……! 俺の、勝ちだッ!!!」

 

「くっ! レーヴァテイン・モード、何て相性だ……くっ! 司、また完全に超えた訳ではないか……!」

 

「ってりめぇーだ! 俺がてめぇに負けるかよ! 俺は弱気になってた。俺が最強だ! 多少才能は劣るかもしれねぇ。だがなぁ、それでも俺はやってやんだ! 俺は最強になりてぇんだよ! 中途半端なんてごめんだ! レベル100の頂に絶対昇ってやる! リュートォ! 二度とてめぇにも負けねぇぞ!」

 

「ッ!」

 

 リュートは心臓を抑える。そして立ち上がり司に近づき、その肩を抱擁した。司の全身に怖気が立つ。

 

「ッ!!!!?」

 

「お帰り司、またそんな君が見れて嬉しいよ……」

 

「や、やめろ。気持ち悪い!」

 

「あっ。……また、やろうか」

 

「い、いや。今日はもういい。お前との戦いは大事にしたい。だから――」

 

 司はリュートを真っすぐ見据えた

 

「ポイント、預けておいてやる。これで1勝3敗だ。やっとお前に一矢報いれたな。……次も、勝つ」

 

「……あぁ。またやろう。いつでも待ってるよ。司……」

 

 リュートは燃え盛るマグマのような熱情を秘めた司の背の心臓の辺りに眩し気な視線を送った。

 

「次は必ず、殺す――君風に言えばね。僕ももう少し、荒っぽくいくか」

 

 

 

【996自室】

 

「フフ、もうすぐ試験だね。ハヤブサ丸」

 

「ガァ!」

 

 夜。自室でクゥがハヤブサ丸と戯れている。心配そうな目つきで見つめるハヤブサ丸の頭をクゥはポンポンと指で撫でる。

 

「大丈夫大丈夫。試験たってやることは今までやってきたことの延長戦上だよ。全力で」

 

 クゥは特に気負うことなく、ハヤブサ丸に笑った。

 

「殺しまくるよ」

 

 

 

【グルグル工房】

 

「メンテナンス終わったよ、コスモちゃん」

 

「おお! 凄く体の調子がいいです! それに」

 

 コスモは己のバスターモード状態の両手――デストロイアームを見て頷く。

 

「これで新機能も使えるんですね」

 

「うん。ジャンク改造で性能を補強しておいたよ。……あのさ、コスモちゃん」

 

「む?」

 

 コスモが首を傾けてグルグルを振り向く。グルグルはコスモのごつごつと角張った凶器としか言いようがない形状の両手を見ながら呟いた。

 

「無事に帰ってきてね。次の試験は殺し殺されの本当に危険な試験だって魔工学科でも有名だからさ。ちょっと心配」

 

 

 

【夜道】

 

「……」

 

 顔まで服まで全身黒装束の生徒が夜道を影のように歩いている。闇と一体化している。光無き道を歩くその様はまるで忍者――通りがかった生徒が顔を背けて距離を取る。別に存在感を消している訳ではないらしい。ただの変人に見える。しかし、視界まで閉ざして平気で歩けるのはただものではない。高度な訓練を受けたものの仕業だ。

 

「雲が荒れている。次の試験、荒れそうだな……」

 

 闇ヶ暮(やみがくれ)才蔵(さいぞう)。3年生。七霊王家が一柱闇ヶ暮(やみがくれ)の御曹司。

 

 

 

【天之神社】

 

「……天照さま」

 

 明麗は祭壇に飾られた一枚のカードを手に取り、お辞儀をした。

 

「私に力をお貸しください。二度と何も失わないための力を」

 

 

 

【666号室】

 

「……やはり会っておくべきだろう」

 

 夕刻。実戦前のルーティーンの一つとして自室でひたすらの睡眠を取っていた玄咲は起き上がり、玄関に向かった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。