カード学園サヴァイヴ ~カードで全てが決まるゲーム世界の学園で狂人で軍人のゲーム廃人は天使のために最強になる~ 作:哀原正十
入学式以来の登場となるCMA世界の特殊交通機関カードトレインでドロミテ大樹海までの移動は行い。
ドロミテ大樹海に直通すると危険なので少し手前の地点にある駅で降りて、【トラッシュタウン】を少し歩いて郊外へ。
その1歩目から。
草一つ生えぬ荒野の只中に明らかな異物として顕現したその直系を想像するのも馬鹿馬鹿しくなるくらいの超巨大な鬱蒼とし大樹林の魔力侵食圏内が見える。魔物がポップしたり、この世ならざる地形が発生したり、この世ならざる世界と融合してしまった閉じないダンジョンとでもいうべき特殊圏内の境界線は緑でできていた。ドロミテ大樹海のその周辺から緑が少しずつ増えてくる。学年・クラス順に並ぶ都合上最後列に並ぶクロウを先頭とする1年G組の集団。その中でも最後方に位置する、全校生徒で最後にその緑を踏みしめた――ドロミテ大樹海の特殊魔力磁場の影響圏に足を踏み入れたシャルナが、蟻の群れのようにゾロゾロと生徒が吸い込まれていくドロミテ大樹海を見上げて、玄咲に呟いた。
「ここが、そうなんだね」
「ああ。この馬鹿でかい、世界でも屈指の最悪の環境とされるA級魔物出現区域が」
――睥睨されるような圧迫感。富士の山をかくあろうかという迫力を前にして、肝に力を込め気を引き締めて、玄咲もまた一歩を踏みだした。鮮やかな緑の上に足を置く。まるでラグナロク学園の生徒・教師たちを歓迎するようなグリーンカーペット。しかしその果てに待ち受けるは魔物息づく深淵の如き深緑の海。
「ドロミテ大樹海だ」
魔力網に触れるものがあった。
それも、数えきれないほど多数。この大樹林は魔物が多い。脆弱な人間どもが討伐隊でも差し向けたのだろう。おそらく問題にはなるまい。しかし、万が一があるかもしれない。なに、明日まで持てばそれでいい……黒ローブを身に纏った人型の生命は即座に判断した。
「王魔種を少し放つカ。ドナテロ」
「はい」
道化の仮面を纏った人型が闇の中から浮き上がり、応えを返した。手にはパレット。そして筆を持っている。黒ローブの生命は道化の仮面をつけたドナテロという名の生命に命じた。
「このダンジョン――深淵に近づくものは全て殺セ」
「はい。では」
道化――ドナテロは筆を取り、絵の具に筆先を浸し、虚空に絵を描き始めた。
「少し、絵を描きましょうか」
ラグナロク・ペンション。
それはドロミテ大樹海から少し離れた土魔法で作った横に長く広がる小高い丘の上にあった。木造の仮設住宅。ただしそのサイズは超巨大。魔法で作られた丘を実質的な防壁として構えた、それ自体も土魔法で補強された、赤い屋根と木造の壁を持つペンションのような見た目の超ド級木造建築が丘の上に立っている。果て無く広がるその威容に圧倒されている生徒は玄咲たちだけではなかった。
「ひゃー、でけぇな。ラグナロク・ネストを横に倒したみてぇだ。ラグナロク学園らしいハッタリの効いたスケールだぜ」
「ドロミテ大樹海の樹木を切り倒して土木魔法で使ったらしい。建築担当は当然七霊王家の岩城が経営する岩城建設だ」
「うちの学校にも確かいるわよね。3年生だっけ」
「玄咲、知ってる?」
「もちろんだ。優しい先輩だぞ。特待生なだけあり実力も確かだ。何より優しい」
「優しいんだね」
「ああ。誉め言葉だ」
誉め言葉にならないケースもあるからと謎の補足をする玄咲。シャルナは小首をかしげたが特に何も言わなかった。それから、ラグナロク・ペンションと逆方向を向き、
「そして、あれがドロミテ大樹海。……広大、だね」
ドロミテ大樹海はペンションが設立された小高い丘から一望できた。果てには山脈。その前に鬱蒼とした緑の海が広がっている。延々と。
風が、吹いた。
生き物のように蠢く緑。
魔物だけでなくあの環境もまた玄咲たちの敵だ。
「ああ。巨大と言うより広大。一望できるが時折異様な高低差もある。植物型の魔物かもしれない。ああいう場所には近づかないが吉だ」
「うん。環境が敵、だね」
「ああ。一応ヴィズラビリンスで馴らしたが、実戦ではどうなることか――っと」
ペンションの前でクロウが手を打ち鳴らしている。これから入居説明を始めるらしい。1年G組は最後に到着したため最後に入居することになった。近くのカミナ不在の1年F組――神名木イツキやラズワルド・イェーガーもその中にいる――が一足先にペンションに入居していく。その様子を背景にクロウが説明を始める。
「ようやくついたな――ラグナロク・ペンション。それがあの施設の名だ」
「だっさ……」
G組の生徒の誰かが漏らした呟きが共感の念を呼ぶ。玄咲も正直ゲーム時代から大分ダサいと思っていた。クロウが少しだけ補足する。
「……岩城建築がつけた名前だ。あそこの社長はネーミングセンスがなくてな。学園側でもダサいという意見が多数だったがまぁ無難ではあるし試験用施設用の名前としては悪くないだろうという理由で採決された。俺はもう少し捻っても良かったと思うんだが……」
(あ、そういう理由だったのか。なるほど……)
ゲームでは知れない裏事情を知れた玄咲のテンションが少し上がった。
「ま、名前はともかく、中身は岩城建築製だけあって中々凄いぞ。ラグナロク・ペンションには様々な施設が詰め込まれている。寝室、温泉、食堂はもちろん、ラグマ、カードショップ、ADショップなんかもある。旅館でもあり、拠点でもある。試験の3日間、俺たちはここで過ごす。施設の利用は基本自由だ。今日はあのペンションで一泊して説明と休養。試験は明日からだ。一先ず今日は休めるぞ。明日に備えて今日はちゃんと休めるだけ休んどけよ」
「温泉だって。楽しみだね」
「キララちゃんは部屋の風呂でいいや。一人の方が落ち着くし」
「あ、風呂があるなら、私も、それでいいや」
「俺も風呂――いや。俺は温泉を利用しよう。せっかくだし」
「へー。以外、だね」
シャルナとキララと会話してると説明が進む。
「食堂は学校の食堂と似たような感じだ。食券を頼んで購入するシステム。見た目も。あえて合わせているらいし。また、一部メニューはテイクアウトや部屋からの注文も可能だ。部屋で落ち着いて食べたいときもあるだろうからな」
(まぁ、そういう心境になる時もあるよな。魔獣退治試験だし)
食堂の説明が終わり、次は各施設の簡単な利用説明。あまり重要ではない。その間に、シャルナが玄咲にうずうずと話しかける。
「ね、ね、部屋、どうする」
「え? 部屋って」
「もちろん、同じ部屋、だよね……」
「……その、シャルナ」
「ん? 何?」
「最後に」
理想の未来を疑っていないシャルナに玄咲が言い惑っているとクロウが最後の入館後の流れについての説明に入る。
「入館後は2人一組で番号を振られた部屋に泊まることになる。泊まる部屋は既に決まっている。SDで通知された番号の部屋に泊まってくれ。一応試験の項目からいつでも確認できるようになっている」
「え“っ」
ピロン♪
軽い音がなる。シャルナがSDを確認する。
【104】
「玄咲は」
【060】
サー……。
シャルナの顔が青ざめる。考えもしなかった。そんな表情だ。玄咲は顔を背けた。クロウが説明を続ける。
「試験ではパートナーと同室で過ごすことになる。部屋で落ち合ってくれ。また、入館後は自由行動。好きに過ごしてくれ。ただし、試験時間外のドロミテ大樹海の探索は絶対禁止とする。これを破ることは死と考えろ。分かったな?」
まばらな首肯や返事。それで、説明は終わりだった。1年G組の生徒たちがペンションに入っていく。
「……えっ? ちょっと待って? パートナーと同室? えっ? あの特訓、キチガイ、の人と、私生活まで? い、いや、それよりっ」
シャルナは玄咲をバッと振り向き、戦慄の表情を浮かべた。
「って、ことは――」
【060号室】
コンコン。
「失礼します」
「どうぞ」
ガチャリ。
内側から扉が開く。いつ見ても絶世という言葉すら生温く感じる、見るものを戦慄させる美貌が玄咲を出迎えた。
ルディラ・メルキュールだ。
「4日間よろしくお願いします、クロ。先に言っておきますが、私に発情したら駄目ですよ」
言われるまでもない。思いながらも玄咲は震える足でルディラと4日間同居することになる060号室に足を踏み入れた。
【104号室】
「シャルナちゃん、瞑想しましょ瞑想!」
「た、助けて玄咲ぅ……」
シャルナは明麗と共に謎の柔軟ポーズを取りながら060号室の玄咲にSOSを放った。体のポーズが、丁度Sの字を描いており、同じくSの字を描く明麗と傍にある丸テーブルと合わせてSOSが完成していた。だが、応えるものは皆無だった。シャルナは眼をくの字にして震えながら漏らす。
「助けて玄咲ぅ……!」
今日のシャルナはSOSシャルナだ。
「ふー、体がすっきりしましたね。シャルナちゃん」
「……うん」
SOSを30分続けた後、体の調子がばっちりだったことに、シャルナは複雑な思いを抱いた。